第86話 『主人公抜きの霊能者の戦い』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第86話
『主人公抜きの霊能者の戦い』
「レイさん! 師匠ォォォォォ!!!!」
楓は消えたレイと黒猫のいた場所に手を伸ばして叫ぶ。
消えたのはレイと黒猫だけでなく、坊主の隣にいた先生も一緒だ。どうやら三人でどこかへ転送されたらしい。
大切な人が消え、楓は下を向きブツブツと呟いた後。顔を上げると坊主を鬼のような形相で睨みつけた。
「師匠達はどこですか?」
その楓の気迫に坊主は一瞬たじろぐが、すぐに気持ちを整えてニヤリとシワシワの頬を上げる。
「さぁ? ワシにも奴の術はよく分からん。千里眼で空間内は覗けるが、ワシの力じゃ理屈までは見抜けんからな」
坊主はクククと笑いながら、そう答えた。そんな坊主に背負っていた木刀を抜いた京子が、木刀を一振りして調子を確かめてから、木刀の先を坊主へ向ける。
「さっきのセンコーもそうだが、テメェも不思議な力を持ってるんだよな。どんな能力だ、吐け!」
低く力強い口調で怒鳴る京子。そんな京子に向けて、坊主は深いため息を吐く。
「はぁ、そう言われて教える者が何人おる?」
数珠をつけた左手と、何もつけていない右手を胸の前に持ってくると、手のひらを合わせて擦り合わせる。
そして細めた目で京子を眺めた。
「じゃが、ワシも君と同じで正々堂々と……そういう闘いに憧れるタチでな。術についてだけは伝えておこう」
坊主はそのままの体制で話を続ける。
「国木田君やフウカちゃんほど、ワシの術は先頭向きではない。ワシの力は千里眼、視界を移動させて、何万メートル先にいる標的の動向も監視することができる力じゃ」
「それで私達が侵入したことに気づいたのか」
「その通りじゃ。じゃから、戦闘中に千里眼は使えん。いや、使い所がないと言った方が正しいの」
そこまで喋った坊主の周囲に、突如として丸い球体が現れる。その形と色は数珠の玉だが、大きさはバスケットボールほどで、半透明で浮いている。
「そこまでが術についてじゃ。術はこの組織に入団したときに、ボスから与えられた力であり、霊能者の力とは別の力じゃ。じゃから説明した。霊能者として正々堂々と戦いたかったからの」
坊主の周囲を飛んでいる玉は、霊力を帯びており、それは霊力で作り上げたエネルギーの塊だと、京子と楓はすぐに気がついた。
そして千里眼は使わない。その代わり、霊力を使ったこの玉で戦おうということだとも、坊主の台詞から察した。
しかし、楓は術と霊能が違うと聞いて、頭にハテナを浮かべている。何が違うのか分からず、ポカーンと口を開けていると、
「早乙女。ワシはお主となら決勝クラスの戦いを味合わせてくれると期待しておるよ。ワシにもう一度、夢を見させてくれ!!」
坊主は合わせた両手を擦り出す。そしてブツブツと何かを唱えた後、
「佐天門式、霊砲法。霊呪珠!!」
カッと目を見開いて、叫び声を上げた。すると、周囲をついていた玉が一斉に動き出し、京子へと突撃する。
速度としては中学生のドッチボールレベル。早いが京子にとっては避けられる速度。例え数が多くても一直線に飛んでくる玉を、見切ることは容易である。
しかし、京子は木刀に力を込めると、膝を曲げてドッシリと構える。
「早乙女さん!?」
「坂本……戦いってのは根性だ。ひよるなよ」
そう楓に伝えると、京子は木刀を横なぎに振る。まだ玉は届いてきていない。玉との距離は3メートル以上、完全に無駄振り。
のように見えた。
飛んできていた玉は、木刀が振られると当たってもいないのに、その位置で爆発を起こして消滅する。無数にあった玉は一振りであっという間に、煙へと変えた。
「斬られた。……いや、撃ち落とされたか」
坊主は細めた目で状況を把握する。玉が破裂した衝撃で煙で舞い、京子達の姿を隠している。しかし、彼には見えていた。
──見える。見えるぞ。煙に隠れて奇襲を狙っているな。千里眼は戦闘中に使えないと言ったが、こういう用途でならいくらでも使える。
特定の相手の動向を第三者目線で見ることができる。特定条件はワシの力を注いだ白紙の紙を見せること。
主は弟を心配してこの街に来てから、ワシらに警戒され監視されておったんじゃよ。だから、このビルに侵入して来ることも筒抜けじゃった。
千里眼の能力で京子が煙の中で木刀を構え、タイミングを見計らって飛び出そうとしているのを知っていた坊主は、両手を擦り合わせて再び玉を生成する。
坊主の周囲にエネルギーの塊が出現し、京子がいつ、煙の中から飛び出してても、すぐに玉を撃ち出せるように準備をしておく。
しかし、千里眼で京子の姿を監視していた坊主は、違和感に気づく。
──あの褐色の少女はどこじゃ。
千里眼で京子の姿は見えているが、その隣にいたはずの楓の姿が見当たらない。
──あの少女もなかなかの霊力持ちだった。早乙女があれほどの逸材を隠していたのは、興味深いの。あやつの教え子か、それとも早乙女流の後継者か?
どちらにせよ。無警戒だったあの娘には千里眼は発動せん。一体どこに……。
「そんなに力を入れて擦ったら、手の皮が剥けちゃいますよ」
背後から声。坊主はその声に反応し、振り向こうとする。
なんじゃと、なんてスピードじゃ!? いつの間に煙を抜け出して、ワシの背後に!?
「僕、不意打ちとかは嫌なんだけど…………やれって言われたから、これだけ……………膝カックン」
「なっ…………」
振り向こうとしていた坊主の膝に楓の膝が当たり、後ろから膝を押された坊主は膝が曲がって体制が崩れる。
坊主は姿勢が崩れ、視点が落ちていく中。煙からジャージ姿の女性が突っ込んでくる姿を視界にとらえた。
事態の数秒前。煙に包まれる中、
「ひよるなよ…………だから、二体一で容赦なくボコす。まずは先に行って気を引け」
「え、僕がですか!?」
「殴っても良いし、なんなら倒しちまっても構わない。とりあえずあの坊主の気を引いとけ」
「…………は、はい」
そして時は戻り、木刀を持った京子は煙から飛び出して、膝カックンで体制を崩した坊主に奇襲を仕掛けた。
坊主は玉を動かす余裕もなく、木刀を頭に叩きつけられて、その衝撃で床に顔を激突させた。その顔がぶつかる衝撃は地面にヒビが入るほどの威力であり、周囲を浮いていた玉は坊主が地面にぶつかると同時に消滅して消える。
京子は地面に倒れた坊主の頭を踏みつけると、ベロを出して坊主を見下した。
「正々堂々だァ? そんなのクソだ。私があのクソギツネの大会に出ないのなぜだか知ってんか? あれはよ、お遊戯だからだよ」
「早乙女さん! 顔踏むのやめてください、可哀想ですよ、もう気を失ってるんですよ!!」
頭を踏んづけてグリグリと擦り付ける京子を、楓はやめるように説得する。そんな中、踏みつけられている坊主は、その状態のまま口を開く。
「小娘……ワシはまだ気絶などしておらんよ」
「まだ意識があったか。どりゃ」
意識があることに気づき、京子は坊主を踏みつける力を強める。グリグリと地面に顔を擦り付けられながらも、坊主は激情することはなく、
「一瞬、意識は飛んだが、ワシはこの程度でやられんよ。……佐天門式、霊置法。霊爆」
京子に踏みつけられていた坊主だが、自身の背中に霊力を貯めると霊力を暴発させて爆発させる。
霊力が破裂する前に気づいた京子と楓は坊主から離れて距離を取る。
「自爆……ですか!?」
「違う。油断するな、坂本」
「はい!!」
爆発で煙が立ち上る中、その煙の中から坊主が出て来る。木刀のダメージは残っている様子だが、爆発のダメージはないようだ。
「お遊戯か……言ってくれるの、早乙女……ワシはあの大会で奴に復讐するのが夢だというのに……。佐天門式、霊砲法。霊呪珠」
両手を擦り合わせて、またしても霊力の玉を作り出した坊主は、二人に向けて玉を飛ばす。
楓は跳ねたり走ったりして玉を避ける中、京子は木刀で飛んでくる玉を次々と打ち落としていく。
「芸のない爺さんだね。だから優勝できないんだよ!!」
「ワシをあまり舐めないことじゃよ。早乙女」
「ん?」
木刀で玉を全て打ち落としたと思った京子だが、京子の足ともが突如光出す。
「佐天門式、霊置法。雷霊」
地面から電気が流れてきて京子はその電撃に身体が痺れて震える。
「ぐぁぁぁぁぁっ!!」
電撃が1秒ほど流れた後、電気が止まり京子は地面に手をつく。そんな京子の姿を見て、坊主はニマニマと笑う。
「佐天門式は二つの霊法を基礎とし、霊力を飛ばす霊砲法と、霊力を設置する霊置法がある。さらにそこにワシが固有の霊力変換を使い、霊力を雷、炎、氷の三属性へ変換することで、最強の技へと昇華した。………………小娘、そこはダメじゃぞ」
説明をしていた坊主は冷静に楓に忠告する。玉を避けるために飛び回っていた楓が、ジャンプして地面に着地した時。
地面が光だし、地面が突然燃え始めた。
「熱っっっぃ!?」
「そこにはすでにワシの霊力を炎に変えて設置しておいた。どうじゃ、下手に動けないじゃろ」
坊主は笑いながら手を擦り合わせると、霊力の玉を作り出し、足元の炎に熱がって足をバタバシせている楓に向けて玉を飛ばした。
「待って、今は避けられ…………」
楓は避ける余裕がなく、霊力の爆発に巻き込まれる。
「戦場で待ってくれとは甘いな」
「クハッ…………」
爆発のダメージで楓は口から煙を吐きながら、部屋の端まで吹っ飛んで壁に背中を叩きつけた。壁にぶつかると重力に従って地面に崩れ落ちる。
やられたら楓の姿に、電撃を喰らって地面に両手をついていた京子は叫ぶ。
「坂本ォォォォ!!!! このよくも……」
京子は電撃を喰らった時に落とした木刀を拾って、立ち上がると坊主へと走り出す。当然、坊主は京子の動きを予測していた。
「佐天門式、霊砲法。霊凍螺旋樹」
坊主が向かってくる京子に向けて両手を擦り合わせると、坊主の前方の足元に氷の芽が生えて来た。そしてあっという間に成長して氷の木が育つ。
「木……?」
京子はその氷の木を警戒しながらも、足を止めたり、遠回りをすることはなく。真っ直ぐとイノシシのように突っ込む。
下手に警戒して退がれば、射程のある坊主の方が有利。ならば、突っ込むしかない。
「止まりらぬか。ならば、受けるが良い、氷柱乱」
坊主が氷の木に霊力を注ぎ込むと、氷の木に生えていた葉っぱが一斉に京子に向かって飛び始める。
氷で出来た葉っぱは、刃物のように尖っており、京子の身体を切り裂いていく。
「くっ、この程度で……」
京子は木刀を振り回して、飛んでくる葉っぱを打ち落とし始める。木刀を振る速度は、木刀が円状に見えるほどのスピードであり、殆どの葉っぱを防いで見せる。
だが、防御に徹すれば、足は止まる。
「早乙女、足が止まっておるぞ」
京子はその場で防御するのが精一杯の状況になってしまった。
「早乙女ェ、どうした? どうした? なにがお遊戯じゃ、お主はそれ以下じゃのう!!」
坊主は木に霊力を送りながらニヤニヤと笑みを浮かべて挑発する。
「このぉ」
京子は木刀に霊力を貯めると、木刀を振るのを止めた。
「ほぉ?」
防御をやめたことで氷の葉が京子の身体を切り裂いていく。皮を裂き、肉を貫通する氷の手裏剣は骨の芯まで切り付ける。
しかし、京子は痛みに悲鳴ひとつあげず、木刀を振り上げると、
「クソジジィがァァァァァァァァァァァっ!!!!」
全力で木刀を振り下ろした。木刀を振ったと同時に木刀に貯めていた霊力を放出。前方へと霊力の塊を解き放った。
半透明のエネルギーの塊は、飛んでくる氷の葉を粉々に砕きながら進み、さらには氷の木を吹き飛ばした。
氷の木とぶつかった霊力の塊は大爆発を起こし、部屋中に風を巻き起こす。氷の爆発ということもあり、爆風は冷気を纏っており、ジーンと骨まで凍りそうな風がビル内を伝わった。
骨まで冷える爆風を浴びながら、坊主は両手を擦り合わせると、
「この程度ではやられんじゃろう。佐天門式、霊砲法。霊呪珠!!」
爆発が起きた地点に霊力の玉を作り出して飛ばす。京子の位置は千里眼で確認している。爆風で前が見えなくても、位置が分かれば攻撃ができる。
飛ばされた霊力の玉だが、千里眼で京子の姿を覗くと、京子が木刀で全ての玉を叩き壊している。
霊力で作ったエネルギーの塊だが、同じように霊力の込められた木刀で殴り、爆発する寸前に木刀の霊力で玉を包み込んで、爆発の威力を落としていた。
「……なんと、そこまでの技が……………。やるようじゃが、これな…………」
坊主がさらに手のひらを合わせて攻撃をしようとした時。背後にいる人物の気配に気づいた。気づいた坊主は距離を取ろうと一歩踏み出そうとするが、そんな坊主よりも早く距離を詰めて、背後から抱きついて拘束する。
「お主、さっきやられたはずじゃ……」
「僕だって早乙女さんに鍛えてもらったんです。まだ上手くできないけど、霊力で身体を覆うバリアも少しは作れるんです」
「そうか、あの爆発の時に」
楓に後ろから抱きつかれながら、坊主は数秒前のことを思い返す。
霊力の玉の爆発で倒したと思っていた楓だが、身体を霊力のバリアでガードさせて、威力を半減させていた。
「ナイスだ。坂本!!」
楓が拘束している隙に、爆煙の中から京子が取り出す。木刀を振り上げて坊主を狙った。
「このままでは……小僧離せ、離すんじゃ!」
京子の攻撃を恐れた坊主は、暴れて楓から離れようとする。しかし、楓はガッチリと捕まり、拘束から抜けることができない。
「終わりだ、坊主!!」
ついに坊主の前まで辿り着いた京子は、振り上げていた木刀を振り下ろした。
「こうなったらワシもバリアじゃァァァァァ!!!!」
あと少しです木刀が坊主の頭に直撃するというところで、木刀が空中で止まる。木刀を止めたのは、坊主を中心に半径30メートル以内に出現した円状のバリア。半透明なガラスのようなバリアが、木刀から坊主を守った。
「ワシのバリアは鋼鉄の高度に匹敵する。そんな木刀でやぶれ……る…………じゃろかぁぁぁぁぁ!?」
バリアで木刀は一度止まった。しかし、京子は力任せに木刀をバリアに押し付ける。
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「やめろ、やめるんじゃ、それ以上やったらぁ!!!!」
ジリジリとバリアを貫通し始めた木刀。そしてついに、
「ワシのバリア……が!?」
バリアはガラスのように粉々に割れて散っていく。そして京子の振り下ろした木刀が、坊主の頭に直撃した。
「あばびればぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
鼻から血を吹き出しながら、木刀で殴られた衝撃で坊主は地面に上半身を埋まった。




