第78話 『野菜星人』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第78話
『野菜星人』
学園祭も終わり、季節は冬となる。凍えるような風が窓の隙間から事務所の中へと入り込んでくる。
「はぁ〜、今年も寒くなりそうですね」
「そうね。そろそろコタツでも出そうかしら?」
「コタツあるんですか?」
リエがソファーで寝転んでいる私の側に駆け寄ると、顔を近づけて尋ねてくる。
「あるよ。でも、小さいよ」
「それでも嬉しいです!! 去年の冬は凍るかと思うくらいでしたから〜!! あの屋敷、隙間風でものすごく冷えるんです!!」
そういえば、リエはあの屋敷で過ごしていたのか。漫画家が住んでいた時は暖房とかついてたろうが、人が住みつかなくなってから大変だったろう……。
「暖房もつけてあげるから、今年は凍えることはないよ!!」
「本当ですか!! やったー!!!!」
リエが喜んで跳ねている中。テーブルに飛び乗った黒猫は、テレビのリモコンに猫パンチをして電源を入れる。
「何見るの?」
「ニュースだ。この前のシスターの件、幸助にも強力を頼んで探ってもらってるんだ。俺と早乙女じゃ限界があるからな。だけど一応、情報があるかもしれないから、こういうのは確認しといたほうがいい」
だから今朝も新聞をいつも以上に真剣に読んでいたのか。
しかし、シスター達の情報はあれ以降全くない。このまま何事もなければ良いが。そう上手くはいかないだろう。
タカヒロさん的にはこちらからの先手を狙っているのだろう。だから京子ちゃんと最近よく密会をして、情報収集をしている。
その密会で楓ちゃんが嫉妬しているとも知らずに……。
「殆ど朝と同じ……ん、これは新しいな」
同じニュースばかりで、飽きてきていた黒猫だが、新しいニュースが報道される。
その内容は今日の朝方に起きたもので、私達の住んでいる近くの駅前での事件だ。
「どんなニュースですか?」
私とリエも気になってテレビ画面を覗き込む。
「駅前にあるアパートで強盗事件だってよ」
「怖いですね……」
ニュースの内容は駅前のアパートに強盗が侵入して、住民に危害を加えて逃亡したというものだ。アパートの住民の男二人と女一人が重傷を負い、今は意識不明の状態。
「あれでもお金は盗んでないんですね。家宝? を盗んだって書いてありますね」
番組内で盗まれたものは家宝と紹介されており、筒状の紙が盗まれたと紹介されていた。
「よっぽど高価なものだったんじゃないか。そんなゴミより、俺なら金だがな」
「アンタ、その身体なら簡単に侵入できそうよね。もしかしてすでに……」
「やっとらんわ!! ……しかし、情報になりそうなニュースはないか〜」
強盗事件の報道が終わると、今度は政治関連のニュース。朝の内容と同じニュースに黒猫はテレビを消した。
「そういえば昼過ぎから雨降るから買い物行くって言ってなかったか? 行かなくていいのか?」
黒猫はテーブルの上で丸くなると、目を閉じて眠る体制になった。
黒猫に言われて思い出した私は、早速出かける準備を始めた。
「リエも準備しなさいよ〜」
「はーい」
30分ほど時間が経過して、私とリエは事務所を出る。黒猫はすでに寝ており、行ってらっしゃいすら言ってくれなかった。
階段を降りてスーパーを目指して住宅街を進む。駅の方面にあるスーパーでよく使っている場所だ。
事務所を出てすぐ、道中で後ろから声が聞こえてくる。
「レイさ〜ん、リエちゃ〜ん!!」
聞き覚えのある声。振り向くと学校帰りの楓ちゃんがいた。
「あれ? 今日早くない?」
「テスト期間なんですよ〜。レイさん達はどこに行くんですか?」
「買い物よ。これから雨降るみたいだし、早めにね」
「そうなんですね! じゃあ、僕も同行します!!」
バッグをブンブン振り回しながら、楓ちゃんがガッツポーズをして荷物を持つとアピールする。
荷物を持ってくれるのは嬉しいが、
「あんた、テスト期間なんじゃないの?」
私が尋ねると、楓ちゃんは頭を掻きながら目を泳がせる。
「い、いや〜、ずっと勉強してたら疲れるじゃないですか〜、息抜きですよ、息抜き!」
「うちのバイトを休みもせず、ずっと猫と遊んでた学生がよく言うよ」
とはいえ、荷物持ち係は欲しい。リエは幽霊だから持てないし、私だけでは買えるものに限界がある。
楓ちゃんがいれば、ペットボトルを箱ごと買って帰ることも可能だ。
「事務所に持って帰ったら勉強するのよ」
「はーい」
楓ちゃんも加わって三人でスーパーを目指して進む。
この角を曲がればスーパーというところで、事件が起きた。
「なんでしょう、あのデカいの?」
リエが交差点にある巨大な物体に注目する。遠くから見た時は車でも止まっているのかと思ったが、近づくとそれが車ではないことに気づいた。
それは車のような大きさの丸い物体。赤い見た目をしており、先端には枝のようなものが生えている。
「大きなリンゴ、みたいですね」
その物体を見た楓ちゃんが呟く。
私から見てもリンゴだ。しかし、こんな大きなリンゴは見たことがない。
一体なんなんだろうと、疑問に思い近づいていく。巨大リンゴまであと五メートルという距離まで来た時。
「い、今動きましたよ」
「ま、まさか……動くわけ……」
ピクッとリンゴがひとりでに揺れた気がした。しかし、そんなことは……。
「また、また動きましたよ!!」
「なんなのよ、あのリンゴは!?」
今度は大きく左右に揺れ出すリンゴ。そしてそのリンゴは揺れながら回転して向こうを向いていた正面がこちらを向いた。
「……な、なにあれ……」
リンゴの正面にはギザギザの歯に白目を剥いた怪物の顔があった。その顔は私達を見ると、高音の悲鳴を上げる。そしてりんごの左右前後から腕を生やして、四足歩行で立ち上がった。
「なにあれ……幽霊なの!?」
「霊力を感じません!! 怪物ですよ!!」
四つの手を使い、這うようにして近づいてくる。まるでエイリアンのような気持ち悪い動きに、私達は背を向けると全力疾走した。
「いぃぃっやぁぁぁぁぁっ!?」
半べそをかきながら逃げる。恐ろしい生物が追ってきているのか気になって、振り返ってみると予想通りというべきか。
今だに奇声を発せながら、怪物は追いかけてきていた。
「楓ちゃん、なんとかして!!」
私は隣を並走している楓ちゃんに助けを求める。
「pursue、roll、threaten、warn…………」
楓ちゃんは走りながら、プリントされた英単語を読んで勉強していた。
「なんで逃げながら勉強!?」
「いや〜、そういえば英語やばかったなぁって……」
「だからって今やらないでよ!? てか、勉強は後にしてなんとかしてよ!!」
私は汗を流しながら楓ちゃんを説得する。その説得に応じて楓ちゃんは、手に持っていたプリントを真ん中で折りたたむと、プリントを脇に挟んだ。
「分かりました。やってやりましょう!!」
足を止めるとクルッと身体を回転させて怪物の方へ向き直る。怪物は大口を開けて、果汁たっぷりの牙で楓ちゃんを噛み砕こうとする。
「トッウ!!」
楓ちゃんは踏み込むと、脇にプリントを挟みながらリンゴの怪物を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた怪物はサッカーボールのように吹き飛び、住宅を囲む塀をバウンドしながら転がっていく。
「ふ〜、楓ちゃんがいて良かったですね」
「そうね。しかし、あのリンゴはなんなのよ……」
リンゴの怪物は電柱にぶつかると、回転が止まって動かなくなる。この怪物がなんなのかを確認するため、警戒しながらリンゴへ近づいてみる。
「リエ、ちょっと様子見てきてよ。あんた幽霊だから食われないでしょ」
「嫌ですよ。幽霊でも霊力持ちには食われるかもしれないんですから……それに怖いですし」
私とリエが怖がって近づかない中、楓ちゃんは英単語を詠唱しながら無警戒に怪物へ這い寄る。
「ちょ!? 楓ちゃん!!」
「手応えは十分ありましたから、大丈夫ですよ」
怪物に近づいた楓ちゃんが、手を伸ばして触れようとした時。リンゴの怪物は素早く身体を回転させ、反対にあった顔を楓ちゃんに向ける。
そして大きく口を開けて食いつこうとしてきた。
「楓ちゃぁぁぁっん!?」
楓ちゃんが喰われそうになった時。頭上からリンゴの怪物に向けて雷が落ちる。空は快晴、この天気で雷が落ちてくるはずもない。
黒焦げになった怪物を背に、楓ちゃんは塀の上に目線を向けた。
「だれ!?」
楓ちゃんの目線を追って私達も塀の上を見る。そこには宇宙服を着た頭がニンジンの不思議な生命体がいた。
身体は普通の人間と変わらない。しかし、顔だけがおかしい。首の根本からすり替わるようにオレンジ色の野菜が生えていた。
「君達危なかったね。あれはフルーツ星人、擬態を得意とするエイリアンだ」
野菜の生えた人間は私達を見下ろしてくる。私達がその奇抜な見た目に驚いていると、その目線で私達の気持ちに気付いたのか。
野菜の生えた人間は高くジャンプすると、空中で回転してから華麗に着地する。そして
「申し遅れた。私は野菜星人のキャロット。何光年も遠い銀河から地球を守りにやってきた、銀河戦士だ」
「野菜星人……もしかして宇宙人!?」
私は口元に手を当ててキャロットの身体を見る。まぁ、人間でないのは確かだ。
首から上がニンジンなのだから……。まぁ、驚きはするが、幽霊に怪人、ネズミの化け物にも出会っている。腰を抜かすほどは驚かない。
しかし、宇宙人の見た目にしては……
「頭がニンジンって本当に宇宙人なんですか?」
楓ちゃんが気になっている点について突っ込んだ。
こんな見た目のため宇宙人と言われれば、納得はするが。もっと宇宙人らしい見た目はあっただろう。
目が丸くて背が低く、ガリガリな姿とか。この宇宙人は身長は180くらいで体格も人間と大差ない。顔がニンジンだが……。
「私達はこういう種族なのだ。っと、君達、怪我はないかい?」
キャロットは顔を近づけて私達が無事なのかを確認する。身体が近づいてくると土臭い。
「怪我はないみたいだね。良かったよ、地球人が怪我したとなっては私の責任が問われるからね」
「はは〜、大変そうですね」
私は乾いた笑顔を見せて返事をする。キャロットは目を細めてフンフントと首を縦に振った。
「大変ですとも……。フルーツ星人は凶悪なエイリアン。そんなものに狙われているというのに、私と部隊だけで地球を守れと。上司のキャビッヂはどうかしている」
キャロットが文句を垂れている中、私は楓ちゃんの側に駆け寄ると、そしてもしもの時は楓ちゃんに守ってもらえる体制になってから、リエに耳打ちする。
「なんか地球を守りにきたとか言ってるけど、本気なのかな?」
「どうでしょう? でもあのエイリアンを倒しましたよ」
「でもね〜、そういう要素は飽き飽きなのよ。知り合いには幽霊にヒーロー、怪人がいるし、これ以上変人はいらないよ」
「幽霊をその変人達と同列にしないでください。私も彼らと同じ枠は嫌ですから」
そんなことを話していると、キャロットは不思議そうに首を傾げる。
「そこの銀髪の地球人、何を一人でブツブツ言っているのだ?」
「あ、独り言です〜」
どうやらこの宇宙人には霊感はないようだ。
というか、宇宙人に霊感があるものなのか?
私が疑問に思っていると、キャロットの腰にかけたモニターからベルの音が鳴り出す。
「ん、連絡だな」
腰のベルトから取り外して、モニターをタップすると映像が浮き出してくる。
流石は宇宙人だ。技術は地球よりも進んでいる様子。
流れてきた映像にはピーマン頭の宇宙人が映っている。
「キャロット。大変だ。フルーツ星人の戦艦が地球に来ている!! 今すぐに出動するのだ!!」
「はい!!」
キャロットは映像に向かって敬礼をする。そして敬礼を終えた後、モニターをもう一度タップすると映像が消えた。
「というわけだ。私はこれで失礼するよ!」
キャロットは連絡を終えると、私達に敬意を払うポーズなのか。両手でピースを作ってへそのあたりで構える。
「フルーツ星人は危険だ。何かあったらいつでも我々を呼んでくれ!!」
そう言うと一回のジャンプで二階建ての屋根まで飛んで、そこから屋根を伝ってどこかへと跳ねて消えていった。
「なんだったんだか……」




