第75話 『大乱闘』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第75話
『大乱闘』
炎の翼を纏い、赤いヒーローが巨人の顔面に蹴りを入れる。しかし、巨人は一歩退くがダメージは少なく、蹴りに使った足を掴むとヒーローを摘み上げ、地面に投げつけた。
「ぐっ!?」
やられるレッドの姿を目に、私とリエは全力で走っていた。
「レッドさん!?」
「おい、レイ。集中しろ!! 追いつかれるぞ!!」
「アンタは頭から降りなさいよ!!」
黒猫が後ろの様子を見て、興奮して頭をバシバシ叩いてくる。
「何が任せなさいよ!! 全然任せ切れてないじゃない!!」
京子ちゃんはシスターと戦い、レッドは巨人の悪霊と退治する。対して私達は加藤さんから逃げ回っていた。
「待てー!!!! その幽霊を置いていけ!!」
「いやー!! あの人怖いです!! 前会ったときの違って、髭も生えて髪もボサボサでほぼ不審者みたいです!! あんな人に捕まりたくないです!! どうにかしてください、レイさん!!」
「無理よ!! だって、悪霊取り込んでるんでしょ!? 私達がどうにかできる相手じゃないよ!!」
本来なら校内に逃げ込みたいところ。しかし、後門の前では京子ちゃんとシスターが戦っていて近づけない。
だからと言って、この場から離れれば、頼れる人もいなくなってしまう。
そのため私達は巨人とヒーローの周りをぐるぐる回っている。
「このままレイの体力が切れちまう。作戦を考えないと!!」
「だからアンタが降りれば、もう少し楽になるのよ!!」
もうヒーロー達の周りを走り続けて何週しただろうか。もう疲労して来て、息も切れて来た。
「もうダメ……疲れた…………ぜぇぜぇ」
私は限界が来て、膝に手を置いて呼吸を整える。汗が垂れて来て目に染み込む。もう服もびちょびちょだ。
「おい、何やってんだ。このままじゃ追いつかれ…………」
黒猫が言葉を詰まらせ、気になった私も振り返る。すると、同じように汗を流して呼吸を乱した加藤さんが休んでいた。
「あいつも体力ないなぁ」
両者共にヘトヘトだ。
さらにリエも飛ぶ力を失い、私の肩に捕まってくる。
「もう、疲れました〜」
「あんたが追われてるのよ……自力で逃げなさいよ…………」
「おい、レイ、リエ。加藤さんが動き出したぞ」
「動き出したっていうか、歩き出したね……」
私達も加藤さんも体力の限界。走ることができず、横腹を抑えて必死に鬼ごっこを続ける。
いつまで逃げ切れるか。そういう耐久の戦いが続くかと思われたが、そう長くは続かなかった。というか、体力切れになってからすぐに終わった。
私達の進行方向に巨大な壁が現れる。緑色の皮膚に皮の服を着た一つ目の巨人。
行く手を阻まれた私達は、笑顔で手を振ってみる。
「は、ハロ〜…………」
「…………」
思いっきりナタが振り下ろされた。
「何やってんだ!! さっさと逃げろ!!」
「もう逃げ場がないのよ!!」
奇跡的にナタが落ちる位置が、私達の真横であり当たらずに済んだ。しかし、こんな奇跡が何度も続くとは思えない。
「もう逃げ場がないですよ……」
リエが怯えてガッチリ背中にひっつく。首に腕を引っ掛けて捕まっているため、首が絞められて苦しい。
加藤さんと巨人に囲まれ、絶体絶命。
レッドは巨人のダメージでまだ寝ているし、京子ちゃんは戦闘中。もうダメだァァァ!!
「誰かァァァ!? 助けェェえぇええええってええええええっ!?」
私が叫ぶと、天高くから少女の声が聞こえて来た。
「今行きます!! タァァァッ!!」
そして太陽を背にし、少女が落ちながら巨人に向けて蹴りを放つ。少女の蹴りに巨人は後ろによろめき、さらに同じように新たに二人の少女が空から降りてくると今度は加藤さんを蹴り飛ばした。
私たちを囲うように現れた三人の少女。その正体は……。
「霊宮寺さん、リエちゃん、お待たせしました!!」
「後は私達に任せるんやな!」
「ウホウホ!!」
現れたのは三人の魔法少女達。変身した姿で現れた彼女達は、私達を囲う。
「学園祭に呼ばれたら、こんな事件に巻き込まれてるなんて……。でも、大丈夫!! 私達が守ります!!」
プリンセスピーチこと、詠美ちゃんが頼もしいことを言ってくれる。あそこで伸びている赤いヒーローとは違い、頼りになる。
攻撃で一時的に怯んだ巨人の悪霊と加藤さんは体制を立て直し、再び襲い掛かろうとしてくる。
魔法少女達は独特な構えを取ると、
「ピーチ。私とゴリラはこっちの悪霊に操られてる人を相手にするで。アンタはそっちのでかいの頼むわ」
「ええ!!」
魔法少女達は二手に分かれ、悪霊達の相手をする。今のうちに私は倒れているレッドを回収して、戦場から少し離れる。
とはいえ、レッドを引きずっているためあまり遠くまでは逃げられない。戦闘に巻き込まれない程度離れると、その場で立ち皆の戦況を見守る。
京子ちゃんとシスターの戦いは私では理解ができない。槍と木刀での素早い攻防戦。若干リーチのあるシスターが有利に見えるが、京子ちゃんは汗すらかかずに、本気を出していない様子だ。
プリンセスピーチと巨人の悪霊はピーチが押され気味。先程は奇襲であったため、一撃を与えられたが、もう巨人に油断はない。
ピーチを近づかせず、自分の有利な距離を保ち続ける。
残りの魔法少女の戦闘もかなり厳しい状態だ。加藤さんは身体能力は常人を遥かに超えており、ゴリラのパンチを受け止め、霊力の飛び道具を弾き飛ばす。
様子からして、京子ちゃんがシスターを倒して、魔法少女達の援軍に行ければ、状況が変わる。
「なんで京子ちゃんは早く倒さないのよ……」
私が口に出してしまうと、独り言だと思わなかったのか、黒猫が自身の考えを喋り出す。
「きっと、攻めきれないんだ」
さらに聞いていないのに、ダラダラと続ける。
「あのシスター。テレポートみたいな力を持ってる……。手元の槍の距離感を狂わせるために使ったり、近くにある小物を頭上にワープさせて攻撃してる」
「テレポート……。私があの人の近くに移動したり、悪霊が現れたのは、それが原因ですか!! でも、そんな便利な力があれば、もっと使えるはずじゃ……? 京子さんを遠くに飛ばしたりとか」
「いいや。出来ない。あの女は霊力で自分の身体を覆って、関ってやつの技を弾いてるんだ。それに制限があるらしい」
そう言うと、黒猫はリエの身体に目をやる。
「同じ対象を何度もテレポートってことはできないらしい。お前の身体にはあの関の霊力が残ってる、テレポートを使えばその対象に残った霊力が取れるまでは何度も使えないってことらしい」
「だから私は何度もテレポートさせられなかったんですね……。でも、悪霊の方達はレッドさんへの奇襲の時にしてましたよね?」
「個体差か、距離か……。俺には分からん」
雑な解説をしてくれた黒猫だが、シスターの技についてはある程度合っているだろう。
前にも突然現れたことがあったし、テレポートならばリエが移動した理由もつく。
「だとしたら、京子ちゃんが危ないんじゃ……」
そんな強力な力を持っているのなら、京子ちゃんが危険なのでは無いか。そう思って二人の戦闘を見る。しかし、
「京子さんの方が押してますね……」
「なにあれ、本当に人間?」
駐車場にある煉瓦や林の枝などを京子ちゃんの頭上にテレポートさせるが、全て木刀の一振りで弾く。さらにはシスターの攻撃が遅れれば、京子ちゃんの木刀がシスターを襲う。
シスターも槍で防御はするが、防ぎ切れずに自身のことをテレポートさせて距離を取る。そして小物をテレポートさせるが、また距離を詰められる。この繰り返しだ。
「心配なさそうね……」
「そうですね」
黒猫の言う通り、攻めきれていないのは事実だ。しかし、時間をかければ、シスターの体力切れで勝てるだろう。
っと、京子ちゃん達の戦いを見ていたら、
「きゃっ!?」
私達の視線の先で魔法少女ことプリンセスグレープとプリンセスゴリラが吹き飛んでいった。
「え!? なに!?」
二人が飛んできた方向を見ると、加藤さんが黒いオーラを纏い白目を剥いている。
「なんか嫌な予感がする……」
「奇遇だな、俺もだ……」
私と黒猫の意見が一致したところで、加藤さんは大口を開けて遠吠えをする。その声で大気は震え、周囲の砂が舞う。
「ねぇねぇ!? あれって暴走とかそんなのじゃないよね!? まずい状態じゃないの!?」
私は頭を振って黒猫を揺らす。黒猫は爪を立てて、頭にがっしりと捕まる。
「俺が知るかよ!! でも、あれは……とにかくだ、リエを連れて逃げろ!!」
暴走した加藤さんが私達の元へと走り出す。私はリエの手を引いて加藤さんとは反対側へと駆ける。
まだ疲れが取れていないのに、また走らされるのかァァァ!?
っと、
「レイ君、逃げる必要はない……。君は俺が守る」
さっきまで倒れていたレッドが、フラフラしながら立ち上がる。そして私達を守るように加藤さんの前に立ち塞がった。
「あんた、さっきまでやられてたじゃない!?」
「ヒーローはやられても立ち上がる……。守るべきものがある限り、寝ているわけにはいかんのだァ!!」
立ち上がったヒーローは自分の足を叩いて気合を入れる。すると、子ヤギのように震えていたはずが、震えを無くしポーズを決めた。
そして加藤さんを前にして、他のヒーローに指令を出す。
「プリンセスグレープ、ゴリラ!! お前達はピーチを助けてやれ、……俺は、コイツの相手をする!!」
その言葉を聞いて魔法少女達は動揺を見せる。
「レッドさん、その悪霊は強いんや!! それは無茶やで!!」
「そうですわ!! ピーチには私達のどっちかが加勢する、だからもう一人はあなたの援護を……!!」
「その必要はない。君達は三人揃ってヒーローだ。ピーチ君を助けに行くんだ。俺は負けないから!!」
頑固に言い張るレッド。説得をしている時間を勿体ないと判断し、魔法少女の二人はピーチの援軍へ向かった。
そして残ったのはレッド。そのヒーローの背中を見て、私は……。
心許ない……。
レッドには悪いがそう感じていた。
巨人の悪霊と対峙していたピーチの元へ、レッドから指示を受けた魔法少女が合流。これでメンバー全員が集結した。
「グレープ、ゴリラ!!」
「レッドさんがあんたを助けに行けって!! 早くこの悪霊を倒してみんなを助けに行くで!!」
ピーチとグレープのコンビで連続の打撃を悪霊に与える。さらに悪霊の背後にゴリラも参戦して挟み討ちで殴り続ける。
しかし、
「なんや、この悪霊!? 全く効いてない!!」
「硬いですわ!!」
打撃で押すことはできても、ダメージを与えることができていない。
「どうすれば良いの!!」
ダメージが全くなく。ピーチは焦りで汗が流れ出る。
三人とも一旦距離を取り、悪霊を囲う形で包囲する。しかし、この包囲は形だけのもの。悪霊が攻めてくれば、すぐに陣形は崩れる。
魔法少女の攻撃は効かない。しかし、巨人のナタを喰らえば、一発アウト。そんな危険な戦いだ。少女達の呼吸は焦りと恐怖で早くなる。
そんな中。
「皆んな、冷静になるですわ!!」
ゴリラは胸に手を当てて高らかに叫んだ。
「私達はいつも危険と隣り合わせ、そんな中を戦ってきたじゃありませんの!! 道は必ず開けますの、諦めてはいけませんわ!!」
その言葉に焦って早くなっていた二人の呼吸も平常時に戻っていく。
「そうやな、ゴリラの言う通りや!! 諦めなければ突破口は見つかる」
「ええ、私達ならやれる!!」
三人の魔法少女は再び、巨人への攻撃を始めた。しかし、ダメージがないのは同様だ。
だから、
「「「押し出す!!」」」
三人は同じ方向から巨人の攻撃して、巨人の押し出すことにした。ダメージはなくとも攻撃の反動で後ろには吹っ飛ぶ。
連続で攻撃して巨人の足が地面から離れる。バランスが崩れ、ナタでの攻撃も安定しなくなり、巨人の反撃の隙を与えない。
何か、倒す方法が必ずあるはず。そう信じて攻撃を続ける。やがて彼女達の攻撃により、巨人と魔法少女の戦場は移動する。
駐車場を超え、住居の頭上を通り、丘を越えた。
かなり遠くまで運ぶことには成功した。しかし、ここで新たな問題が発生する。
「前見て!! 建物の壁よ!!」
彼女達の進行方向。そこにひび割れた壁が現れる。このままだとぶつかってしまう。ゴリラが地上を確認すると、下は小さな駐車場になっており、
「一旦落とすですわ!!」
彼女達は巨人を一度、地面に下ろすことで進行方向を変えることにした。それぞれの必殺技を使い、巨人を地面に叩きつける。
巨人にダメージはないにしても、立ち上がるのが一瞬遅れればそれで良い。そうしたら着地してから、別の方向から攻撃を始められる。
三人が着地すると、彼女達は同時に気配を感じ取った。
「「「霊力!?」」」
巨人の悪霊のものとは違う。別の霊力。強大でありながら静かな霊力が、先ほどのひび割れた壁の建物から感じる。
三人がその霊力に反応して、建物を確認すると、そこは古びた廃墟の病院。まさに幽霊が居そうな場所だ。
「誰だ。拙者の城に入り込む輩は……」
ガシャリガシャリと鋼の重なり合う音を奏で、廃墟の中から赤い鎧を着た武士が姿を見せる。
頭に矢がめり込み、髭を生やした武士は駐車場に現れた侵入者を睨みつけた。
武士から流れ出る強力な霊力。それを感じ取り、魔法少女達は身震いをする。
「あれが幽霊なの……!? なんて強力な……」
「どんだけ強いんや。あの霊力やと、霊感ない人間にも姿を見せられるやろ……」
驚く少女達に、武士は顔を赤くしてはにかむ。
っと、彼女達が武士に見惚れていると、突き落とした巨人が立ち上がり、ナタを振り上げた。
大きなナタはピーチを狙う。当たればきられるどころではない。大きさからしてぺっしゃんこになる。そんなサイズのナタだ。
武士の登場で油断していたピーチは避けるのが間に合わず。叫ぶ間もなく、その場で頭を抱えた。
「拙者の城で殺生は許さん!!」
ナタが振り下ろされるよりも早く。風のような速さで武士は踏み込んだ。たった一歩の踏み込みで、ピーチと巨人の間に入り込む。
そして軽く刀を振ると、巨人の腕が吹っ飛び、ナタは消し飛んだ。
「夢を諦めた哀れな同胞よ。今、眠れ」
巨人に反応する隙も与えず。巨人がナタを振って、切られたことを認識する前に、ニ撃目を武士は放った。
巨人の身体が斜めに裂け、武士が刀を振り終えると、斬撃と共に放たれていた霊力の咆哮で、巨人の身体はチリと消えた。
それまで一呼吸の出来事。何が起きたのか、少女達には認識することすらできず。
「巨人が……消えた」
その場で武士の背中を見つめることしかできなかった。




