第74話 『燃え上がる正義』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第74話
『燃え上がる正義』
暗がりの中、水滴が滴る。
もうどれくらい時間が経っただろうか。日の入らないこの部屋では、時間感覚がおかしくなる。
湿った生暖かい風が、室内を循環し皮膚を当たる鎖の冷たさを強調する。
「どうかなァ、加藤ォ。そろそろ反省できたかァ?」
扉が開き、部屋に光が差し込む。慣れない光に目を瞑るが、少しずつ目が慣れてきて入ってきた人物が見えるようになった。
現れたのは二人。一人は黒いコートを着たスキンヘッドの男。コートの胸元には緑の三角に目が入ったマークが入っている。
もう一人は牙の生えた長身の女性。赤い髪が特徴的で、キリッとした目元に西洋風の顔。服は胸元を大きく開けて、かなり際どい衣装を着ている。
女性は鎖に繋がれた人物に近づくと、しゃがんで目線を合わせる。そして顎に掴んで顔を上げさせた。
「加藤ォ、お前の失態は大きい。大量の魂を集めるそれがお前の役割だった。が、幾度の失敗でお前の足跡を警察が追っている。それがどういうことかァ、分かるよなァ」
加藤は鎖で動けない状態でありながら、目線を合わせたくないのか。女性から顔を逸らす。身体を動かしたことで、鎖が肉を引っ張り痛みで叫び声を上げた。
「先日、子供探偵がこのビルに来た。お前を探してだァ。本来ならお前を切り捨ててしまいたいところだが……良い遊びを思いついた」
女性は加藤を目線を向けたまま、手を挙げてスキンヘッドに合図を出す。
すると、スキンヘッドはポケットから小さな小瓶を取り出して、女性に投げ渡す。キャッチしたその小瓶を、加藤の前に突き出す。
「コイツはあの有名な霊能力者が捕らえた悪霊。その中でも強力な一匹が封じ込まれている。それでなァ、コイツを身体に取り込んだら、どうなると思う?」
女性が不適な笑みを浮かべ、全てを察した加藤は鎖で肉が引っ張られる中、動き逃げようとする。しかし、どう足掻いても鎖が抜けることはない。
踠けば踠くほど、鎖の締め付けは強くなり、加藤の一ミリも身体を動かすことができなくなった。
「なァ、加藤ォ。俺の目を見ろ」
抵抗する加藤の両頬を掴み、挟み込む形で加藤の目線を動かす。
「お前は俺の可愛い手駒だァ。しっかりと働けよォ」
女性の目を見た加藤の意識はぼんやりと靄がかかり、争い難い衝動に駆られる。
ただ目の前にある命令を遂行しなくてはならない。周囲のことや自分のことなど見えなくなり、その命令だけが思考の中心となった。
「はい……お任せください」
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レッドの拳が加藤さんによって止められる。その光景に黒猫は口を半開きにして、
「アイツ、悪霊を取り込みやがった……」
「なによそれ!?」
黒猫から出たヤバそうな単語に、私は身構える。
「俺も詳しくは知らない。だが、技術としては有名だ。所謂、憑依って奴だ。メジャーどころだと、シャーマンなんかが知られてるか……。死者の魂を身体に宿らせる。基本は知識や知恵を借りるんだ」
「めっちゃ知ってるじゃない」
「ここまでは基本知識だ。俺は死者を呼ぶってのは知ってるが、悪霊との憑依は初めて見た。それにあんな感じに宿らせるのは異例だ。憑依で肉体を強化するなんてな」
加藤さんがパンチを受け止めた時。そのパワーの一部が霊力のオーラとして一瞬見えた。私でも目視できるほどの強力な霊力と、ドス黒い狂気の混じったオーラ。
あんな悪霊を取り込むなんて……。というか、あんな便利な強化方法があるとは……。
「お前、真似しようとしてないよな」
「してない」
私が即答をする中。拳を受け止められたレッドは、掴まれていない拳で加藤さんを殴ろうとする。
鋭いアッパーが加藤さんの腹を標的にする。片手を掴まれ自由のない状態なのに、そんな体勢でも格闘家に張り合えるような強力なパンチを見せつける。
しかし、悪霊と同化した加藤さんにとって、人間の領域は所詮足元にも及ばない。アッパーすら受け止めてしまい、レッドは両手を掴まれている状態になった。
「俺の必殺技が!?」
霊力の見えていないレッドにとって、加藤さんはひょろっとした一般男性。そんな人物に二度も攻撃を止められて、動揺がスーツに染み込んだ汗から伝わる。
レッドを捕まえた加藤さんは、身体を後ろに逸らす。仰け反る形になった加藤さんは、その姿勢からバネのように勢いよく姿勢を戻した。
その勢いで前方にいたレッドに強力な頭突きを喰らわせる。
頭突きと同時にレッドの拳を離し、頭突きを喰らったレッドは地面を四回ほど転がって止まった。
「なんて……頭突きだ。それが君の必殺技ということか、人間技じゃないな……」
しかし、これでもヒーロー。スーツが破けて金髪の髪がはみ出る中、レッドはフラフラの足で立ち上がる。
レッドのやられ具合から、加藤さんだけでも手に負えないことが伝わってくる。
「どうしよう!? タカヒロさん!!」
「…………リエを助けに行く、隙もない」
レッドが惹きつけているうちに、リエだけ救出するという作戦を考えていた黒猫も、この状態に髭を落とした。
加藤さん一人に苦戦する状況では、残りのシスターと悪霊を惹きつけることはできない。
それでもヒーローは諦めない。
ふらふらの足を叩いて喝を入れると、レッドはポーズを決めた。
爆発も音楽のない迫力もないポーズのはず、しかし、そんなポーズのはずなのにレッドは気迫だけで足りない迫力を補った。
そんなポーズを見た黒猫から唾を飲む音がする。そして
「レイ。走る準備をしておけ」
「え? なんで?」
「必ずタイミングが来るからだ」
ポーズの最中に一瞬だけ、こちらを見た気はした。しかし、ただのポーズの演出だと思っていたが、黒猫は何かに気づいたようだ。
私は黒猫を信じて、いつでも動き出せるようにしておく。
そんな私達の姿に気づいてか。ポーズを終えたレッドは、雄叫びを上げて三人に向かって走り出した。
先頭にいるのは加藤さん。先程はあっさりと返り討ちにされた相手だ。三人の気を引こうとしているらしいが、このままではまたしても加藤さんにやられる。
だが、まだヒーローには奥の手があった。走りながら加藤さんは、腰につけたベルトに手をかざす。
「ゴーゴー変身!! 燃え上がれ、フェニックス!!」
ベルトに触れると同時に、レッドのヒーロースーツが変形。光を放ちながら炎の翼の生えた新形態へと変身した。
しかし、変身したところで見た目が変化しただけ。加藤さんに勝てるとは……
「ひっさぁぁつ!! 連続パァァァンッチ!!!!」
肉眼では捕らえられない超スピード。そこから放たれる炎を纏ったパンチが、加藤さんに直撃する。
加藤さんの身体が一瞬空中に浮く。表情からしてダメージはないが、レッドにとってはこれで十分だ。これで加藤さんが一瞬だが、硬直した。
炎の翼を広げると、加藤さんの横を通り抜けてシスターと巨人の悪霊の元へ向かう。その様子に黒猫が、私の頭をポンポン叩く。
「レイ。走れ!!」
もう、なるようになる。そう思って私もリエを助けるため、シスターの元へと駆け出した。
先にシスター達の元に辿り着いたのはレッドだ。それも当然、炎の羽で飛んでいるレッドの速さは、自動車のように早い。
「……きょ……!?」
シスターが巨人に命令を出す間もなく。レッドの燃える蹴りが巨人の顔に直撃し、巨人は地面に背をつく。
さらに巨人を倒したレッドは、シスターにも攻撃を仕掛けようとする。燃える拳を振り下ろし、シスターを狙う。だが、レッドはシスターの顔の前で拳を止めた。
「俺は守るべきものは判断できるヒーローだ」
そう言うと、レッドはシスターの腕を掴み、シスターを引っ張った。殴られると思っていたシスターは、攻撃が止まり引っ張られるのは予想外であり、対応が遅れる。
「今だ、レイ君、その幽霊の子を連れて行くんだ!!」
レッドがシスターを引っ張ったのは、シスターを移動させるため。レッドが加藤さんを倒した時、シスターは横にいるリエを守るような動きをした。
そのシスターの動きを頼りに、リエのいる位置を判断してシスターを引き離した。
「レッド!! あんたは本物のヒーローだよ!!」
黒猫が叫ぶ中、私はリエの腕を掴む。
「リエ、逃げるよ!!」
「はい!!」
私が腕を取ると、さっきまで怯えていたリエの顔が明るくなる。このままシスター達から逃げる。とにかく校内だ。
学園祭をやっている最中の校内ならば、人混みに紛れて逃げることができるはずだ。
「全力で走れ!! レイ、リエ。もう一度捕まれば、もう二度と逃げられないぞ!!」
黒猫が頭を叩いて急かしてくる。だが、どれだけ焦ってもこれが全力だ。
全力疾走する私達の後ろで、シスターとヒーローの会話が聞こえてくる。
「……守るべきもの…………。ヒーローとはカッコいいですね。では、守っていただきましょうか!!」
レッドに腕を掴まれているシスターだが、そのまま巨人と加藤さんに命令を出す。
「あの子を取り……戻せ……」
倒れていた巨人と、加藤さんが一斉に動き出す。
「き、来たァァァ!?」
悪霊が追って来て、大きく口を開けて逃げる。レッドがシスターから手を離し、一時的にこちらの援軍に来ようとする。しかし、そんなことが許されるはずもなく。
「行かせない……」
レッドが手を離すと、シスターはどこから取り出したのか。いつの間にか先が三本に割れた槍を手に入れいた。
それを使い、シスターはレッドに攻撃を仕掛ける。
「うおっ!?」
槍が刺さりそうになるが、間一髪のところで身体を逸らしてレッドは避けた。奇襲である一撃目を躱せれば、レッドにとってシスターの槍を避けることは容易なことだ。
ヒーローらしい身体能力の高さを利用し、シスターの攻撃を次々と避けてみせる。隙を見つけ、レッドはシスターから距離を取ると私達の元へ駆けてくる。
シスターの服や身体付きからして、後から追って来てもレッドに追いつくことはできない。このままレッドが私達を追う悪霊達を倒してくれれば……。
「……なら…………その変人を先にやれ」
その場で槍を地面に突き刺し、追いかけるのを諦めたシスターは、レッドに手を伸ばす。
悪霊にレッドを襲わせる気なのか。しかし、それは好都合。レッドが戦っている間に、校内に逃げ込める!!
悪霊がクルッと身体の向きを変える。そして私を追うのをやめる。そのはずだった。
「っ!? あ!? 俺、なんでここに!?」
レッドが突然瞬間移動して、私達の真後ろに現れた。
「え!? レッドさん!?」
状況が分からないのか、ヒーロースーツの隙間から汗が流れ出る。
レッドが後ろにテレポートとして来たのは嬉しい。しかし、
「追いつかないっ!?」
レッドが私達の後ろに現れるのが分かっていたように、巨人の悪霊はナタを振り下ろし、加藤さんは拳を突きつける。
既に真後ろまで迫っていた悪霊達にとっては、ちょうど良い標的。
レッドを一撃で倒し、そのまま私達を襲う。これがシスターの狙いか……。
突然移動させられたレッドは、防御を間に合わせる手段もなく…………
「ぐっ!?」
レッドを攻撃しようとしていた悪霊二人の身体が浮いて、後ろに下がる。
何かの攻撃を喰らったのか、巨人の腹にはへっ込むほどのあざができて、加藤さんは後ろに倒れて頭を打つ。
「連絡があったから、何事かと思ったら…………」
校舎へと続く後門の前。そこに緑色のジャージを着た黒髪長髪の女性。
「やっと来てくれたか!!」
木刀を持ち、現れたのは京子ちゃん。黒猫の感じからして、助っ人として呼んでいたのはこの京子ちゃんなのだろう。
そしてやられそうになっていたレッドを救ったのも彼女だ。
京子ちゃんは私達の元まで歩いてくると、私の肩に手を乗せて頬を上げる。ニヤリと笑った表情を見せ、私とすれ違うと、私達を守るように前に出た。
悪霊と距離ができ、レッドも京子ちゃんと並ぶ位置に移動する。
「後は私達に任せな」
緑のジャージ女と赤いヒーローの最強タッグが完成した。




