第73話 『動き出す』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第73話
『動き出す』
テーブルの下から目の下にクマのできた生徒が這い出てくる。
「坂本のご友人ですか……?」
「え、ええ、そうだけど」
私が返事をしている中、幽霊の少女が怯えて私の後ろに隠れる。
高校生とは思えない老け顔で、お化けみたいな登場の仕方をするが、本物の幽霊が怖がるのはどうなのだろうか……。
っと、出てきた高校生は、手をだらっとさせてお辞儀する。
「俺、沼川と申します……ようこそ、イラスト部の展示へ」
覇気のない挨拶をした沼川君はスケッチブックを手に取ると、開いて私達に見せてくる。
「こちらが僕の描いた……イラストです」
沼川君の見せてきたイラストは、芸術的というかホラー的というか。かなり個性的な絵柄で、お化けのイラストが多く描かれていた。
「どうですか?」
スケッチブックを見せてきた沼川君は、首を九十度に傾けて訊ねてくる。ガクッと勢いよく曲げたため、かなりホラー的な動きだ。
「どうって聞かれても……私は絵は……」
私は頬を指で掻きながら、なんて答えようかと困っていると、沼川君は目を見開いてさらに首を傾ける。それ以上首を傾けると、首が取れちゃいそうで怖い。
「あなたじゃありません。そこの方です」
そういう沼川君の目線は私の後ろを見ている。ということは……。
「え!? 私ですか!?」
リエが驚いたように背中から顔を出す。
「イエス。……坂本から漫画を描いている幽霊がいると聞きまして……是非、お友達になりたいと……」
「え!! 私と友達ですか!? 良いんですか? 幽霊ですよ!!」
「はははははぁ〜、クラスでのあだ名がお化けの僕には関係ないですよ〜」
関係大有りだと思うが。
しかし、りえも嬉しかったのか、絵についてのトークで沼川君と盛り上がる。二人が話している間、私は黒猫と一緒に展示を見ながら待つことにした。
「楓ちゃんの他にも幽霊の見える子がいたのね」
「楓ほど霊力は強くないがな。しかし、イラスト部に行けってのは、こういうことか。霊感があってリエと話せる奴を紹介したかったんだな」
「私達じゃ、手伝えることも少ないしね」
たまに漫画を描くのを手伝ったりはするが、リエと同じように漫画を描くわけではない。楓ちゃんはリエに仲間を作ってあげようとしてくれたのだろう。
二人が話してる間、残った展示のスケッチブックを手に取って見てみる。
沼川君とは他の部員が書いたものだろう。絵柄も違うしジャンルも違う。書いてある内容は超絶マッチョなキャラクターだ。これをあの二人組が見たら喜びそうだ……。
他にも手に取って見てみる。今度は……
「ナポレオンナポレオンナポレオンナポレオンナポレオンナポレオンナポレオンナポレオンナポリタンナポレオンナポレオンナポレオンナポレオンナポレオンナポレオン……何これ怖!!」
大量のナポレオンという文字が並んでいた。ページを捲ると、緻密に描かれたナポレオンのイラストが大量に並んでいる。
「ナポレオン大好きっ子か?」
「なにそのナポレオン大好きっ子って!? てか、好きでもこんなことなる!?」
私はスケッチブックを閉じて、他のスケッチブックの下に隠す。ちょっとした封印だ。
「レイさん、そろそろ行きますか!」
沼川君と話を終えたリエが満足げに私の元に戻ってくる。
「もう良いの?」
「はい!」
イラスト部の展示を出て、次はどこへ行こうかと、廊下の端に背をつけてパンフレットを開く。
「ん〜、私は行きたいところないなぁ〜。あんた達は?」
私は肩や頭にいる幽霊と猫に訊ねる。
「私もないですね〜」
「俺もだ。だが、どうする? 楓ちゃんのライブまでまだ何時間もあるんだぞ。どこで時間潰すよ?」
暇だからと早く来すぎた。早速やることがなくなって暇だ。とはいえ、事務所に帰ってもう一度来るのも面倒だし、このままここで時間を潰したい。
もう一度、パンフレットで面白いところはないかと目を通す。そうしていると、
「暇なら私と遊ぼう……」
覇気のない声。高校生が客引きで呼びかけてきたのだろうか。それにしては男っぽくない声。
声の主に目線を向けると、そこには修道服に身を包んだ女性の姿。どこかで見た覚えがある……。しかし、誰だったか。
私がその人物にどこで会ったか訊ねようとした時。黒猫が毛を逆立たせて叫んだ。
「レイ、逃げろ!!」
「え?」
黒猫が叫んですぐ、景色が一変する。さっきまで高校の廊下にいたはずなのに……。
「え? なんで公園に!?」
そこは高校の裏門を出てすぐのところにある公園。高校に隣接している駐車場が隣にあり、すぐ側には林がある人通りの少ない公園だ。
なぜこんな場所にいるのか、私とリエが動揺してキョロキョロしている中。黒猫が尻尾で私の顔面を叩いた。
「落ち着け!! とにかくあのシスターから離れろ!!」
「痛っ!? なにするのよ!! ……って、離れろって……?」
「お前、覚えてないのか? あのシスター、ランランと一緒にいた奴だよ」
黒猫の説明を聞いてやっと思い出した。ランランの配信で鬼ごっこをさせられた時に現れたシスター、それが彼女だ。
「わ、私のことを……覚えててくれてるなんて……ホッ」
シスターは覚えられてたことが嬉しいのか。顔を赤くして身体をクネクネさせる。
「なにあの人……」
「知らん、とにかく距離を取れ…………。意味があるかはわからないがな」
ここは黒猫の言う通りにしようと、私はシスターに背を向けて離れる。敵に背を向けるなとか、黒猫にごちゃごちゃ言われるが、なにもされなかったから無視だ。
とりあえず5メートルほど離れたところで、私はシスターと向かい合った。
「ランランさんのお友達が何の用ですか!!」
私の横で浮いているリエが、拳を握りしめて聞き出す。すると、シスターはまた顔を赤くする。
「お友達だなんて……」
またしても身体をウネウネさせて喜んでいる。
「なんなのこの人?」
「知るか」
なぜこんな動きをしているのか、疑問に思っている中。スッとシスターは表情を変える。
さっきまでの砕けた感じとは違い、真面目な目線で私達のことを見つめる。
「今回はあなた達にお願いがあって来た」
突然雰囲気が変わったことに動揺したが、いち早く事態に順応した黒猫が訊ねた。
「なんだ?」
すると、シスターは手のひらを上にして差し出すように前に出した。それは私達に手を伸ばすように。
「そちらの幽霊を私達に渡して欲しい」
そんなことを言い出した。私はリエを守るように後ろに隠し、リエも大人しく身を隠す。
「リエを狙って……渡すわけないじゃない!!」
私達の対応にシスターは肩を落として、伸ばした手を戻した。
「それは残念。でも、拒否権はない」
シスターの全身から霊力のオーラのようなものが溢れ出す。
半透明なモヤが私にもはっきりと見える。あれがあのシスターの力なのだろう。
「拒否権ですって、私だって嫌ですよ、あなた達の言う通りにするなん…………て!?」
私の後ろで抗議をしていたリエだが、喋っている途中で私の後ろからシスターの隣へ移動する。
「はへぇ?」
訳がわからなそうに首を傾げるリエ。そんな顔で見られても私も分からない。というか、
「リエ!? いつの間に、今迎えに!!」
私がリエの元に駆け寄ろうとした時。黒猫が私の頭を叩いて止めた。
「行くなバカ」
「なんでよ? リエが捕まったのよ!!」
前に執事に連れ去られた時のことが脳裏をよぎる。あの時のようにリエが連れて行かれてしまう。
「どうせ、俺達が助けに入っても役に立たない」
いつもと違い、諦めたの言葉のように感じた私は、悔い気味に黒猫に掴みかかる。
「だからって見捨てるの? アンタらしくないじゃない」
頭の上から黒猫を抱き上げて、目線の先に持ってくると、黒猫があるものを咥えていた。それは私の携帯電話。いつ抜き取ったのか、騒ぎで気づかなかった。
「俺達じゃ、役に立たない。だから助っ人を呼んだ」
「あれ、レイ君じゃないか。ということはここが文化祭の学校か。まさか寝坊してしまうとは……」
駐車場の奥から声が聞こえ、現れたのは汗で萎れた赤いヒーロースーツに身を包んだヒーロー。
「どうした? 君達、事件かね?」
ヒーローのレッドだった。
レッドは状況が分からず、その場でポーズを取ってみる。しかし、レッドがポーズを決めている方向には誰もいない。
それもそのはずだ。レッドは霊感が強くはない。リエの姿が見えていないのだ。
「もしかしてこの人呼んだの?」
「違う」
即答する黒猫。呼んだの助っ人は違かったみたいだが、タイミングが良いヒーローだ。
「レッドさん、そこにいるシスターがリエを攫おうとしてるんです!!」
「なに!? 誘拐だと!! 俺には幽霊君は見えないが承知した!!」
改めてポーズを決めるヒーロー。すでにヒーロースーツが着用されているというのに、変身ぽい決めポーズまでやってくれる。
「なんでも良いから、さっさとやって!!」
「お、おう!! 俺はゴーゴーレンジャーのレッドだ!! 幽霊とはいえ、女の子を誘拐しようとするとは許せん!! 何者だ!!」
テンプレが決まっているのか、急かしてもヒーローらしい行動をやめないレッド。しかし、シスターもノリがいいらしく。リエを人質にしたまま、自撮りをする時のようなポーズをしてみる。
「私、関 フウカ(せき ふうか)…………で、す」
しかし、途中で恥ずかしくなったのか。ポーズが崩れていく。その様子を見てレッドは不服そうに腕を組む。
「なんだ、その決めポーズはやるなら最後までやれ!! ほら!!」
「え、あ!? …………私……は」
レッドに何度も自己紹介をやり直しされ、シスターは顔を真っ赤にして隠した。
自分から乗っておいて恥ずかしがる。何がしたいのか……。
レッドはポーズを決めると、シスターを指差した。
「しかし、何者であろうと誘拐は許せない!! このレッドが正義の鉄槌を下してやる!!」
助っ人とは違かったが、レッドがなんとかしてくれそうな流れ。これでシスターを逮捕すれば、ランランの逮捕にも繋がるかもしれない。
しかし、そう簡単にはいかなかった。
シスターは両手を広げると、ニヤリと頬を上げる。そしてシスターの両手から冷たい冷気が流れ出した。
「来るぞ。レイ……何かあれば、リエを連れて逃げる準備だ」
「え? でも、レッドさんが……」
「時期に助っ人も来る。間に合わなければ…………」
シスターの両端に瞬時に何かが現れる。両方とも人形だが、大きさが違う。
一つは普通の人間だ。中年の男性という感じ。もう一つはその三倍以上ある巨大。
「あれは……」
私には両方とも見覚えがあった。一つは加藤さん。ランランの中の人だ。もう一つは巨人の悪霊。片手にはナタを手にしている。
「呼び寄せやがったか……」
どうやって移動してきたのかは分からない。突如現れた加藤さんと悪霊だが、そんな二人が現れてもレッドは堂々とポーズを決めた。
「仲間を呼んだか。しかし、ヒーローが数で怖気付くと思うなよ!!」
数だけじゃなくてヤバそうな悪霊が混じっているのだが……。
悪霊はレッドにも見えているようで、三人にを順番に睨みつける。その後、
「行くぞ!! 幽霊の子供を解放しろ!!」
レッドは猪突猛進。ただひたすらに特攻した。
シスターか悪霊。そのどちらかによってレッドの突撃は止められる。そう、予測できていたが私には何もできない。
彼らの光景を見守る中、
「私に任せてください」
加藤さんが前に出た。少し予想を裏切る人物が先頭に出たことで、一瞬思考が止まる。
ランランの中身であることを除けば、彼は霊感もない普通の人物だ。
そんな人物が、勢い任せだけのヒーローだとしても勝てるとは思えない。
「ジャスティスナックル!!」
レッドが拳を構えると、スーツの特殊効果で拳が燃え上がる。赤いスーツの上に真っ赤な炎を纏い、流星の如く拳を振るう。
あんな拳を常人が、避ける、受け止める。そんなことができるはずがない。
しかし、加藤さんは片手でレッドの拳を止めてしまった。
止められた拳は勢いを失うと、炎も鎮火して通常の拳に戻る。
「なんで加藤さんがあのパンチを止められるの!?」
「レイ。アイツ、もう人間じゃない」
「え?」
黒猫は耳を畳んで尻尾を下ろす。
「あの野郎、悪霊を取り込みやがった」




