表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/105

第72話 『学園祭』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第72話

『学園祭』




「では僕はこれで!! お疲れ様です!!」




「気をつけて帰るのよ〜!」




 楓ちゃんを見送った私は、玄関の鍵を閉めてリビングに戻る。リビングではソファーの下に入り込んだ黒猫が丸くなって寝ている。




「あれ? リエは?」




 猫は大体いる場所がわかるため、決まった場所を探せばすぐに見つかる。しかし、もう一人。幽霊が見当たらない。




「リエ〜?」




 私はリビングを通り、台所を見るがリエはいない。トイレや洗面所も電気はついてないし……。




 後いるとしたら……




「リエ〜、あんたにも私の部屋には入らないでって言ってるでしょ〜」




 私は自身の寝室を開けて中を確認する。すると、予想通りベッドの上でリエが寝ていた。

 最近ソファーで寝たくないと文句を言い始めたリエは、度々私の部屋のベッドを狙っていたが、今日ついに取られた。




「はぁ〜、まぁ今日だけよ」




 起こして退かしてもいいのだが、完全に熟睡しているし、私も今日は疲れた。

 ベッドはリエに貸して今日はソファーで寝ることにする。しかし、その前に……。




「お風呂入ろっか」




 私はお風呂を沸かしている間に、家事を済ませてしまって、沸き終わったら早速入った。

 大体のルーティンは決まっている。そしてリエが寝ていて、誰もいない時大抵は……。




「タカヒロさ〜ん、洗面所にいるのは分かってるのよ。出てきなさい」




 私は湯船に浸かりながら、扉の向こうにいるであろう猫に話しかける。

 しかし、何も返事はない。私の勘違いで本当はいないのか……。いや、そんなことはない。




「タカヒロさ〜ん。三秒以内に戻らないと、ミーちゃんに言いつけるよ」




「分かった!! 戻る!! 戻るからそれだけはやめてくれ!!」




 黒猫が素早く駆けていく足音が聞こえる。予想通りいたか。まぁ、出て行ったから言いつけないでもいいのだが。




「後でミーちゃんに言いつけよ……」








 お風呂から出て、髪を乾かし終えた私は、リビングに戻る。すると、さっきは気づかなかったが、テーブルの上に一枚の紙が置いてあることに気がついた。




「これって楓ちゃんの……」




 それは楓ちゃんの荷物。学園祭の詳細をメモした紙だった。




「あー、そんな時期か〜、ん? これって…………」




 そしてそのメモを見て私は知った。




「もしかして、あの子……バンドやるの!?」









 翌日、バイトに来た楓ちゃんを問い詰めてみると、あっさりと教えてくれた。




「実は師匠をびっくりさせようと思って、黙ってたんですよ〜。昨日メモ忘れてたの忘れてました〜」




 頭に手を置き、恥ずかしそうに白状する。




「それで楓さんは何やるんですか?」




「僕はベースです」




 最近楓ちゃんの荷物が多いなと思ったら、そういうことか。楽器を持ち歩いていたから荷物が多かったんだ。

 というか、明らかにあれはベースの入ってるバッグだし、なんで気づかなかったんだってレベルだ。




「んで、日取りはいつなんだ?」




「来週の土です。あ、月曜日は振替になります」




「土曜日か。頑張れよ!」




 応援の言葉を伝える黒猫。それに元気よく返事をするが、楓ちゃんはその後の言葉を待っているように、黒猫を見つめてソワソワしている。




「なんだ……」




「いえ、その〜、ですね…………僕、ライブやるんですよ……だから、その…………」




 楓ちゃんが言いたいのはきて欲しいということだろう。それは私だけじゃなく、黒猫も察しているはずだ。

 しかし、わざと察しの悪いフリをして意地悪をしている。




「なんだよ、はっきり消えよ〜」




「その、ですね。師匠に……」




 楓ちゃんが覚悟を決めて言おうとした時。私の隣でチラシを見ていたリエが立ち上がった。




「私、見に行きたいです!!」




 黒猫の意地悪を知ってか、知らずか。割り込んできたリエだが、そのおかげで楓ちゃんは調子を取り戻した。




「是非、皆さんで来てください!!」










 それから数日が経ち、楓ちゃんの招待もあり、私達は楓ちゃんの通う高校へやってきた。




「前に来た時は学校の七不思議の時ですよね」




 私の肩におぶられるように引っ付いている幽霊が、前にやってきた時のことを思い出す。




「そうね。前を通ることはあるけど、中に入るのはその時以来ね」




 前に楓ちゃんの通う学校へ入ったのは、石上君の依頼で学校の七不思議を調査した時だ。あの時は校内を探索して、七不思議の有無を調査して回った。




 しかし、今回は夜ではなく、昼に校内へ入る。それに人も多い。前回来た時とはまるっきり雰囲気が違う。

 時間帯が違うだけでここまで別の場所に感じるとは。




「おい、あれ見ろ。入り口で屋台やってるぞ」




 尻尾で私の後頭部を叩き、黒猫が屋台を耳を向ける。

 そこは学校の関係者がやっている屋台であり、役員や唐揚げやフランクフルトなどの軽食を売っていた。




「パンフレットも渡してますね。まずはパンフレットを貰って、楓さんの教室を探しましょ!!」




 おぶられているリエが身体を揺らして、行きたい方へ私の身体を動かす。




「はいはい」




 幽霊や猫がパンフレットを貰うわけにもいかないので、私が受け取って人の少ない壁際でパンフレットを開く。




「え〜っと、楓ちゃんの教室は……」




 楓ちゃんから教えてもらった学年とクラスを頼りに、パンフレットの地図を開いて探す。




「あの校舎の二階ね!」




 私は正門から直線にある校舎を指差す。




「では、行きましょう!! 楓さんがいるかもしれませんし!!」






 校内へ入り、楓ちゃんのクラスを目指す。道中で多くの生徒達に声をかけられるが、適当にあしらっていく。




「そういえば、楓の通う高校男子校だったな」




 校内にいる生徒達の姿を見て、黒猫がぼそりと呟く。




「あー、だからさっきから声をかけてくる生徒達、目が怖かったのね」




 結構怪しい目線を感じたのは、それが理由か。この魅力溢れる私を狙っているようだ……。

 っと、階段を登り、廊下を進むと目的地に到着する。




「ここが楓ちゃんのクラスね」




 その教室では焼きそばを売っているようで、看板が立てかけられている。

 教室に入ると、早速楓ちゃんを見つけた。




「あ、レイさん!!」




 太った生徒と話していた楓ちゃんは、私達に気づくと早速駆け寄ってくる。




「皆さん、来てくれたんですね!!」




「まぁね。今店番中なの?」




「はい!!」




 楓ちゃんが店番をやっているのは、エプロン姿からすぐにわかった。しかし、気になるのは……。




「んで、あれはなに?」




「レンジですね」




 机を端に寄せてカウンターを作り、そこで焼きそばを販売している。その奥には調理場があるのだが、




「教室では火を使うのが禁止なので、完成しているものを温めてるんです」




「そ、そうなの……ね」




 一つくらい買って行こうと思っていたが、流石にレンチンだと、買う気が失せる。いや、高校生クオリティだとこのくらいなのか?




 今の上に乗っている黒猫が身を前に乗り出すと、




「なぁ、楓。ライブはいつからなんだ?」




「午後の二時半です!! 体育館のステージでやるので、来てくださいね!!」




 楓ちゃんが笑顔で宣伝する中、楓ちゃんと話していた太めの生徒がギターらしきものを持ってドヤ顔をする。どうやら同じバンドメンバーのようだ。




「僕はまだ店番があるので、皆さんはいろいろ探索してみてください!! 僕のおすすめは、野球部の千本ノックとイラスト部の展示です!!」




「ふ〜ん、まぁ見に行ってみるよ」




 私はパンフレットを開いて、楓ちゃんの教えてくれた場所を確認する。

 その後、楓ちゃんに見送られながら、教室を出た。




 まずは野球部のいる校庭を目指す。階段を降りて、外に出ようとしていると、




「そこの白髪の方、少し良いかな……」




 ロン毛にメガネの生徒が話しかけてきた。他の生徒達と同じ勧誘かと思い、逃げようとするが素早いステップで私の行く手を阻む。




「あなた、幽霊を連れていませんか?」




「え!? もしかして……」




「はい、薄らなのですが、僕、見えるんです……」




 メガネの生徒は私の背後に目線を向ける。




「僕、オカルト部の部長をやってます。高野と申します。是非、あなたに取り憑いている幽霊についてお話が!!」




 そう言うと、私の腕を引っ張って部室へ連れ込む。部室には新たに二人のメガネ生徒がおり、私が部屋に入ると嬉しそうにチラシを広げる。




「まずはこのオカルト部の歴史からお伝えし、その後あなたの幽霊について……。この部活は花子さんや青紙赤紙などのオカルトが大好きだった先輩の作った部活であり…………………」




 なぜか、部活の歴史について話し始めるメガネ君。そんなメガネ君を他所に、リエが服の裾を引っ張った。




「あの〜、レイさん」




「なに?」




「この方達、私のこと見えてませんよ。適当に取り憑かれてるとか言って、引き込んだだけです」




 そういえば、幽霊に取り憑かれてるとか言いながら、リエに目線を向けない。

 そうと分かれば、このまま話を聞き続けていても長そうなので、




「あー、やっぱり取り憑かれてないかも〜、それじゃー!!」




「先代の部長は今もなお赤紙青紙を信じてもらえるように、トイレに潜ん…………あ、ちょっと!?」




 引き止めようとしてくるオカルト部員達を振り切り、校庭に出ると野球部の出し物が行われていた。




「なぁ、なんか見覚えのある奴がいる気がするんだが……」




「奇遇ね、私もよく」




 次々と投げられる投球を木刀で打ち返していく。全ての球を校庭の端まで飛ばすその女性に、野球部員達は絶句する。




「ふぅ〜、良い汗かいた」




「姉さん、タオル」




「おう、気が利くなスキンヘッド」




 タオルで汗を拭く京子ちゃんとスキンヘッドがいた。

 二人は野球部の出し物を堪能し終えると、私達に気づいて駆け寄ってくる。




「おう、霊宮寺さんも来てたのか」




「あなた達も来てたのね。もしかして母校?」




 私はスキンヘッドの方を見て訊ねる。すると、違うのかスキンヘッドは首を振った。




「俺は違う。確か姉さんの母校だな」




 スキンヘッドがそんなことを口にすると、後ろから汗を拭き終えた京子ちゃんが、タオルでスキンヘッドの首を絞める。




「誰が男子校出身だ。私は女子校出身だ。誰が男みたいだってぇ!?」




「おぉっ!? く、くるじぃ!? ねげざんゆるじてぇ、今のは冗談うううっっ!?」




 スキンヘッドの意識を落とし、京子ちゃんはスキンヘッドを肩に背負った。男一人を軽々と担いでいるとはちょっと怖い。




「坂本のやつに誘われたんだよ。霊宮寺さんもそうなんだろ?」




「あー、そういうことね。私達もそうよ」




 この二人と楓ちゃんから誘われてきていたらしい。っと、そうなると一人見当たらないような……。




「コトミちゃんは?」




「コトミは受験勉強中よ。流石にサボりすぎたって、バーベキューとか遊びに行った分を取り戻すために、勉強中よ」




「大変そうね……」




 コトミちゃんは受験勉強中だとして、京子ちゃん達が来ているということは……。

 私は他にも呼ばれている人がいるのではないかと勘付く。そしてその勘はすぐに当たった。




「やぁ、レイさん!!」




 呼ばれて振り返ると、そこには巨漢の二人組が立っていた。筋肉が浮かび出るようなタンクトップを着こなし、胸元の筋肉を痙攣させる。




「やっぱりあなたたちも来てたんですね。マッチョさん達……」




 それは楓ちゃんに呼ばれたのであろう。マッチョの二人組だった。

 二人は道のど真ん中だというのに、ポーズを決めて筋肉を主張する。




「呼ばれたのでね。筋トレの合間に!!」




「筋トレの合間に学園祭ってどういうことよ……」




 ポーズを決めている二人だが、そのうちの先輩の方のマッチョがキョロキョロと周りを見渡す。




「それにしても懐かしいなぁ」




「あなた達、ここの出身なの?」




 私が訊ねると、先輩は首を縦に振り、後輩は横に振った。




「俺は違います。パイセンは出身らしいですけどね」




「そうなんだ。これから俺の恩師に挨拶に行くのだが、レイさん達も来ますか?」




「いや、私は良いよ。まだ見たいところあるし……」




 それにマッチョの恩師にあって何を話すのか……。するとちょっとしょげた様子だったが、マッチョの二人は頭を下げて、




「では、俺達は挨拶してくるので!! ごゆっくり」




「ええ、しっかりね〜」




 職員室へ向かっていくマッチョを見送った。マッチョの二人組がいなくなると、




「じゃあ、霊宮寺さん。私もこれで」




 スキンヘッドを担いだ京子ちゃんもどこかへ行くようだ。




「このバカをどっかで寝かして、私も適当に回るよ。




「坂本のライブは見にいくから、その時な!!」








 京子ちゃん達とも別れ、私達は校内を探索する。

 校舎の中に入ったところで、黒猫があることを思い出す。




「そういえば、楓がおすすめしてた展示ってなんだっけ?」




「あー、えーっと」




 私と黒猫が思い出せずにいると、リエが私の服の裾を引っ張る。そして廊下の奥にある教室を指差した。




「あそこですよ」




 そこにはイラスト部と書かれた看板が建てられており、それを見て私達はやっと思い出した。




「そういえば、イラスト部がどうのって言ってたね」




 思いました私達は早速向かってみる。

 しかし、この部活は看板で案内は書いてあるが、他の部活みたいに客引きをしていない。

 隣の教室では写真部の眼鏡君がボソボソと小声ながらも頑張って客引きをしている。だが、イラスト部はそんな雰囲気は一切ない。

 ただそこに看板があるだけ。




 私はまずは入らずに、顔だけを入れて中の様子を確認する。中では教室の真ん中に机が集められており、そこにスケッチブックが置いてある。




「誰もいないね」




 中の様子が分かり、誰もいないことを確認すると、中に入ってみる。そしてスケッチブックに近づいた。

 スケッチブックを手に取って開こうとした時。




「なぁ、アンタ……坂本の友達か?」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ