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霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?  作者: ピラフドリア


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第71話 『柿の妖怪』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第71話

『柿の妖怪』





 ゲームの世界から出れなくなるという、事件に巻き込まれてから数日。テレビをつければ、ランランのことばかり、何が目的なのか、正体は誰なのか。答えのない論争を続ける。




 正体は知っているが、私が警察に電話しても証拠がないため、悪戯だと判断されるのは目に見えている。だから、通報することはやめて、お兄様か大塚さんのような警察関係者に会った時に、相談してみようと思う。




「おいレイ。話聞いてるのか?」




 テーブルの上に座り、黒猫が偉そうに見下ろしてくる。




「聞いてるよ。ランランがランランでランランなんでしょ」




「ランランさせすぎだ!! 話を聞けよ!!」




 ため息を吐いた黒猫はもう一度話を整理する。




「つまりだ。加藤は悪霊を操り何かを企んでる。本来なら俺達から首を突っ込みたくはないが、二回も巻き込まれてるんだ。また同じことがあったら堪らん」




「なら、ランランを捕まえて警察に突き出すの? 警察でも捕まえられない人を私達が捕まえられる?」




「それに居場所も分からないんですよ。探し出すのは無理ですよ」




 私も同様にリエも無理だと考えている。




 黒猫の言う通り、また同じことに巻き込まれないためにも、こちらから手を出すのは一つの手段だろう。しかし、そのための情報が足りない。

 加藤さんの居場所がわからないし、証拠だって掴めない。




「だから俺達で探すんだよ。良いか、これ以上俺はミーちゃんを危ない目に合わせたくないんだ。平穏な生活に戻るためには、やるしかないんだよ!!」




 やる気のある黒猫とは対照的に、私とリエは諦め気味だ。

 っと、そんな中、事務所の玄関が開かれると、




「ヤッホー!! ただいまでーす!!」




 楓ちゃんが帰ってきた。朝練を終えた楓ちゃんは、バックを事務所の棚にしまい、水着を洗面所にある洗濯機に放り込む。

 黒猫はリビングから洗濯をしている楓ちゃんに賛同を求める。




「楓、お前も探したほうがいいと思うよな」




 だが、話の途中で帰ってきた楓ちゃんが、話の内容を理解しているはずもない。

 それでも同意を求めようとするのは、楓ちゃんを仲間に引き入れようとしているからだ。適当に返事をすれば、黒猫の計画通り……




「え、何のことだかわかりませんが、僕は師匠が正しいと思います」




 計画通りとはいかなかったが、どっちにしろ彼ならば、黒猫に賛同していたかも。




 結局、黒猫の押しに負けて私達は加藤さんを探すために、事務所を開けて聞き込みをすることにした。

 とはいえ、加藤さんの関係者を知ってるわけじゃないし、ランランの所属していた事務所はすでに倒産している。




 楓ちゃんが加藤さんを連れてきた時は、私達の住む地区内で声をかけられたということだったので、とりあえずは周囲を探してみることにした。




「んで、手がかりがないけど、どうするのよ?」




 私は頭の上にいる黒猫に訊ねる。外に出て住宅街を無作為に探しても、なんの手がかりもない。提案者なのだから、何か考えているだろうと思ったが、




「とにかく突き進め」




「何も考えてなかったのね……」




 まぁ、この人は考えるよりも行動をしろというタイプだ。まずは動いて、そこから手段を探していく。

 こういうタイプに付き合わされると、時間がどんどん消費される……。




 適当に歩き続け、橋を渡って川を越えると、街の景色が少し変わる。住宅の並んでいた地域から、畑の並ぶ農業地帯になる。




「師匠〜、ここまで来るともう手がかりはないんじゃないですか? 一旦駅のほうに戻ります?」




 私の後ろでリエと談笑していた楓ちゃんが、辺りの景色が畑になったことで、流石にと話を切り出した。




「そうだなぁ……。そうするか。よし、レイ!! 駅に戻るぞ!!」




「え〜」




 黒猫があっただこっちだと指示をして、その通りに進んだのだが、来た道を戻れと言われ、私は微妙な反応をする。




「なんだよ」




 ほぼ散歩みたいな感じになってしまっていたし、このまま同じ道で帰ってもつまらない。

 情報を求めるついでに、飽きないためにも変化が欲しい。




「戻るのは別の道からにしましょ、同じ道じゃ何も成果がないし」




「それもそうだな。よし、出発進行だ!!」




「私は乗り物か!?」




 黒猫にツッコミをしながらも、大人しく頭に乗せたまま別の道で畑を戻る。

 このままどうせ、何も起きずにただの散歩で終わるだろう。そう思っていた。しかし、




「あれ? 前に何かいますね?」




 リエが道の先に何かを発見する。私達はリエの言葉に、前方に目をやるとリエの言う通りに丸い物体がいた。




「大きいね。何かしら……」




 よーく見てみると、それは半径2メートル近い球体。しかし、綺麗な丸というわけではなく、楕円体になっており凸凹がある。そしてそれはまるで人の顔のように……




「れ、レイさんレイさん、あれが近づいて来てる気がするんですけど」




「奇遇ね、リエ。私も同じよ……」




 球体がコロコロと転がり、こちらに近づいてきているような。




「逃げろ!! 転がってきてるぞ!!」




 黒猫が叫び、私達は身体の向きをくるっと変えると、一心不乱に走り出した。




「急げ!! もう後ろまで来てるぞ!!」




 人の頭に猫パンチしながら、状況を説明してくる。




「あんたも降りて走りなさいよ!!」




「ミーちゃんを走らせるだと!? そんなことさせられるか!!」




「あんたが走りたくないだけでしょ!!」




 最近こんなことばかりだ。何かに追いかけられて逃げ回る。




 背後まで近づいてきていた球体だが、身体を縮めて弾ませる。高く飛び上がった後、私達の頭上を通り抜けて、前方に着地した。




 行き先を塞がれた私達だが、Uターンして逃げようとする。だが、




「待てぇい、お前ら!!」




 球体から男の声。足を止めて振り返ると、そこには巨大な柿に顔の付いた化け物がいた。




「人のこと見るや、すぐに逃げやがって。失礼だとは思わないのか……」




「人っていうか、化け物じゃない」




「誰が化け物だ!! 俺は歴とした幽霊だ」




 手も足もない顔だけの化け物が自身のことを、幽霊だと言い張る。私はそんな球体に疑いの目線を向けるが、隣で球体を観察していたリエが頷く。




「確かに幽霊ですね。悪霊はないみたいです」




「だからそう言ってるだろ……っと、あんさんも幽霊か」




「はい! リエと言います!」




「俺は丹二郎ってんだ。んで、俺が見えるあんたらに願いがあるんだが……」




 丹二郎と名乗った球体は、顔を傾けて前のめりになる。恐らくは頭を下げているつもりなのだろうが、顔しかないので倒れそうなダルマにしか見えない。




「俺を成仏させてくれないか!!」







 丹二郎は私達に除霊の依頼をしてきた。

 幽霊になって数十年。ずっと未練を断ち切りたかったが、なかなか上手くいかずに天国に行くことができなかったという。

 そして今日初めて、私達のような霊感のある人間に出会えた。




「それであなたの未練ってなんなの?」




 川の土手に登る階段。そこに座りながら私は丹二郎を見下ろす。身体の関係で階段に登れず、寄りかかる形で斜めになった丹二郎は懐かしむように過去のことを思い出した。




「俺が幽霊になる前のことだ。当時、貧乏だった俺は腹を空かせてな。学童の帰り道にある柿を食べてみたいと思ってたんだ」







 ──その柿の木は高い高い塀の上から覗かせて、その鍵を一度で良いから齧ってみたかった。




 そんな時だ。




 俺は学童の帰りに真っ赤な顔をした大男と出会った。

 その男は腹を空かせた俺をみて、あることを耳打ちしてくれた。




「今夜の月が雲に隠れた時。この塀の下に来ると良い。私が柿を落としてみせよう」




 それだけ言い残して、大男は姿を消した。その時俺は、柿の家の主人が家族に見つからないように、ひっそりと柿を恵んでくれたのかと考えていた。




 その日の夜。月が雲に隠れたのを見計らって、俺は家を抜け出した。暗闇で何も見えないが、行きなれた道だ。目を頼らなくても塀の下まで辿り着くことができた。




 辿り着いた俺は、手探りで塀の下を触ると二つ。何かを発見することができた。俺は暗闇の中で喜び、跳ね上がるような思いで、まず一つの柿を齧った。




 これが柿の味かと噛み締めていると、月が雲から逃れて光が血を照らした。その時俺はやっと分かったんだ。

 あの大男が落としてくれた柿は、一つであり、それはまだ俺の手に残っていた。そして俺が食べていたもの、それは……。




 犬のフンだった──








「闇が晴れたことで俺に気づいた家主が出てきて、俺は口に含んだそれを吐き出して、急いで逃げた。大男は家主じゃなくて、俺は必死に逃げた。結局逃げ切った時には柿はどこかに落としてしまっていて、食べることはできなかった……」




 話を聞いていた私達は口を手で覆い、吐き出したくなる気持ちを我慢する。

 こんな話を聞いてしまい、しばらく柿が食えなくなりそうだ。




「その数年後。俺は体調を崩して若くして幽霊になった。あれから俺は柿の本来の味を知りたいが、食えずにそれが未練となってしまっているんだ!!」




「つまり柿を食べるのがあなたの目的ってことね」




 丹二郎の話が長かったが、結論はそういうことだ。

 っと、目的が分かるとリエが畑に目線を向ける。




「確かこの辺って柿も育ててましたよね。それを食べれば良いんじゃないですか?」




「まぁ、確かにそうなんだが……こうなんというか、トラウマが……」




 犬のブツを食べてしまったことを思い出して、柿の味を知りたいが食べられないと……。

 話を聞き、私は腕を組んで悩む。




「そうね〜、こんな味だよって私が教えればそれで満足?」




「いや、幽霊仲間にはそういう手も試してもらったが、ダメだった……。俺は自分で知りたいんだろうな」




「なら、食べなさいよ」




「……むっ」




 口をへの字にして嫌そうな顔をする。

 トラウマなのは分かったが、天国に行くためには柿を食うしかないだろうに。




「分かった。じゃあこうしましょう」







 私は楓ちゃんにお使いを頼み、柿をスーパーで買ってきてもらう。




「どうする気なんだ?」




 心配そうに訊ねてくる丹二郎に、私はエプロンを付けると自慢げに、




「柿を料理するのよ。見た目が変われば、トラウマも突破できるはずよ」




 そう言い、土手に用意された厨房で調理を始める。

 厨房に関しては楓ちゃんが買い出しに行ってる間、マッチョの二人に連絡を取って用意してもらった。




 そして調理を終えて完成。私は作った柿料理を丹二郎に渡す。後は丹二郎が食えるかどうか……。




 私達が見守る中、丹二郎は顔を近づける。後少し角度を変えるだけで食べられる……。そこまで来たのだが、




「む、無理だ!! やっぱり思い出してしまう!!」




 丹二郎はトラウマが蘇り、柿から目を逸らした。




「ダメか……」




 丹二郎は完全に口を閉じてしまい、食べようとしない。このままでは丹二郎は成仏できない。




「ここは僕が!!」




 そんな時、楓ちゃんが立ち上がった。楓ちゃんは私が作った料理を手に取ると、丹二郎に近づく。そして丹二郎を捕まえると、




「一度食べてしまえば、トラウマなんて忘れます!!」




 そう言って無理やり口を開けさせて、口の中に押し込んだ。丹二郎は涙目になりながらも押し込まれる。




「ぐわぁぁぁぁ!?」




 丹二郎の悲痛な叫びが響く中、食事は終わった。







 柿を食べ終えると、丹二郎の身体は薄くなる。




「天国に行けますね!!」




 その姿にリエはガッツポーズを取る。

 一応天国に行けるみたいで、ひとまず安心だ。




 っと、丹二郎と別れる前に私は聞いておきたいことを聞く。




「それで柿は美味しかった?」




「…………普通だった。幽霊になってほど、求めるものじゃねーわ」




 丹二郎は光に包まれて消えていった。

 丹二郎を見送り、私達も帰路に着く。




「そういえば、今日の目的ってなんでしたっけ?」




「あー、忘れた」






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