第68話 『ゲームへようこそ!』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第68話
『ゲームへようこそ!』
「僕、参上です!!」
部活を終えた楓ちゃんが、元気よく玄関を開けて入ってくる。
「おけ〜り〜、ん? なにそれ?」
ソファーで寝っ転がり、リエと一緒に煎餅を食べていた私の視線に、楓ちゃんが持ってきた大きい段ボールが入った。
楓ちゃんは段ボールをテレビの前に置くと、箱を開ける。
「確か、レイさんってゲームやってましたよね」
「まぁ、暇つぶし程度には……」
箱を開けると、楓ちゃんは箱を斜めにして中身を見せびらかしてくる。そしてそこにあったのはヘルメットのようなものが装着されたゲーム機。
「もしかして、それって……」
見覚えのあるゲーム機に私は口元に手を当てて驚く。そんな様子を見て、楓ちゃんは頭に手を当てて照れるように、
「実はくじ引きで当たったんですけど、僕ゲームに詳しくはないので、一緒にやって欲しいんです。友人は別ゲーで忙しいって言われて」
「なら、任せなさい!!」
私は煎餅を咥えながら、跳ね上がった。
楓ちゃんが持ってきたゲーム機はVRと呼ばれるものである。これはヘルメットから特殊な電波を送り、夢の中でゲームができるというもの。
脳に直接電波を送るということから、安全面で反発する層も多く。度重なる事件から販売数の極端に少ないハードだ。
しかし、夢の中で遊べるという点で、レビュー自体は高く。現実を忘れたくなるほどだという評判だ。
そういう評判もあり、私も気になってはいたが、手に入らずに諦めていた。
「それでなんのゲームソフトなの?」
「ソフトはこれですね。アトラスソードⅢ。ファンタジー世界を探索するロールプレイングゲームみたいですね」
「あ〜、よくCMでやってるやつね!」
楓ちゃんと協力してゲーム機を設置していると、リエが興味津々に近づいてくる。
「い〜な〜、私もやりたいです〜」
「リエは無理でしょ。ヘルメットを被れても、幽霊がゲームの世界に接続できないんだから」
「む〜」
頬を膨らませて不機嫌なことをアピールしてくる。しかし、そんな顔をされても、できないものはできないんだ。
このゲームは人間用に作られている。幽霊がプレイできるようにはなっていないのだ。
「てか、楓ちゃんをゲームやろうとするなんて、ちょっと珍しい気がするよ。基本、私とリエがやってるし」
「僕もたまにはやるんですけど、部活とバイトで〜」
そのバイト中に私達はゲームをやっているのだが……。しかし、私達がゲームをやっているときは、大体猫と遊んでいるし、普段は黒猫を構うので忙しいのかもしれない。
「それにこのゲームは友達にすごい勧められてて、ちょっと気になってたんですよね……」
「楓さんの友達、このゲーム機持ってるんですか? さっきの話的に結構レアっぽかったですけど」
「持ってるよ。僕が聞いた感じだと、かなりやりこんでるみたいでランカー? とか言ってた」
「凄そうですね……」
リエ達が話している間に、私はコンセントにコードを差し終わり、起動の準備ができる。
「んで、今日は私と楓ちゃんの二人でやるのよね」
「はい! ヘルメットも二つあるので、二人で協力して遊びましょう!!」
リエからの羨ましそうな目線を感じるが、無視して話を続ける。
「じゃあ、私と楓ちゃんのパーティってことで良いのね」
「はい! ではゲームに入ったらロビーで会いましょう!!」
私と楓ちゃんは用意しておいた布団の上に寝っ転がると、ヘルメットを装着した。そしてリエに見守られる中、電源をオンにすると、意識が遠くなり…………。
「ようこそ、アトラスソードの世界へ」
目を開くと、そこは真っ白な空間。そこに青髪の美しい女性が立っていた。
「ここがゲームの中……?」
「まだですよ。ここはサーバーの入り口。ゲームの世界に行く前に、あなたの情報を記録して保存する必要があるのです」
女性はそう言った後、私の目の前に半透明の画面を出現させる。
「あなたの名前と顔を選んでください」
「顔と名前……そっか、本名でやるわけにもいかないしね!!」
とはいえ、いざ名前を決めるとなってもなんて名前をつけたら良いか……。
本気で迷い始めると、三十分は超えそうだったため、後で変更できることにだろうし適当な名前をつけることにする。
「とりあえず、これでいっか!!」
情報を打ち込み終えると、目の前の風景が切り替わる。そして真っ白な空間から、煉瓦造りの街へと切り替わった。
「これでゲームの世界に来れたみたいね」
楓ちゃんとはロビーで待ち合わせと言っていたが、目印になるようなものも知らなかったし、適当に言っただけだろう。
まずは手探りで楓ちゃんを探さないといけない。
私はスタート地点から真っ直ぐ進み、噴水のある広場へ出る。すると、
「あれ……楓ちゃんっぽ〜い」
噴水のベンチの前で立っている褐色の女性。
なぜ、この女性を楓ちゃんぽいと感じるのか。それは服だ……。あの女性の服、そこには黒猫の絵が描かれていた。
これだけじゃ判断材料として足りない? ま、間違ってたら間違ってただ。
「あの〜、私ここで待ち合わせしてるんですけど、もしかして〜」
「あ、もしかしてレイさん!?」
女性の反応からして本当に楓ちゃんらしい。しかし、楓ちゃんは私のアバターを見て固まった……。
「あ、あ〜、人違い……カモです」
「いやいや、私だよ〜楓ちゃ〜ん」
「……え!? 本当にレイさんなの!?」
なぜ、楓ちゃんがこんな反応になるのか。それは私のアバターが、
「だってレイさん、厳つすぎですよ!!」
無茶苦茶マッチョな漢の見た目をしていたからだ。
「いや〜、だってナンパされたりしたら嫌じゃ〜ん。それに歴戦の勇者感あるし!!」
「本当に歴戦の勇者の顔ですよ!! 初心者って感じじゃないですもん!!」
「そんなこと言ったら、楓ちゃんだって性別変えてるじゃん」
「僕は……まぁ、……………」
っと再会もできたことだし、私はゲーム内での名前を伝える。
「私はレンって名前で登録したから、楓ちゃんはなんて名前にしたの?」
「僕は金古 楓にしました」
「なんでフルネーム………てか、その名前って………………いや、いいや」
とりあえず、戻ってからも黒猫に言うのはやめておこう。怯えてしばらくの間、冷蔵庫の裏から出てこなくなりそうだ。
「じゃあまずはどうします?」
「そうね〜、酒場に行ってみるのはどうかな? ファンタジーゲームだし、情報収集しないと!」
私は楓ちゃんを連れて街の酒場を探す。日本とは違うファンタジー風の街並みに、目的地を探すのに苦労はしたが、どうにか酒場を見つけて入ることができた。
昼だというのに、酒場にはかなりの人が集まっており、これだけいればいろんな情報が集められそうだ。
誰に話しかけようか迷っていると、入り口に一番近いテーブルに座っているプレイヤーが話しかけてきた。
「そこの二人組〜、初心者さんニャス?」
猫耳の生えたフードを被った萌え系アバターのプレイヤー。語尾をつけていることから、成り切りプレイヤーなのだろう。
私達が頷くと、猫耳は椅子を動かして座れと合図してくる。
「遠慮はいらないニャス! 私は初心者に優しいからね」
「どうします? レンさん」
「ここは話を聞いてみましょうか」
私達は椅子に座る。すると、猫耳は何も言ってないのに注文をする。逃げられない状況を作られた気もするが、何かあるわけでもないし大人しく従う。
猫耳は三ヶ月前からやっているプレイヤーであり、自称中級プレイヤーだ。彼女はゲームの世界観や基本について教えてくれた。
まず、マップだが、舞台になっているのは小さな島であり、三つのフィールドに分けることができる。
私達がいるスタート地点。そこは人類の住む土地『ミズガルズ』。そこから東に進むと妖精や精霊、そして神々の住む『アースガルズ』。そして東には悪魔や竜の住む『ヘルヘイム』がある。
プレイヤーは好きな場所で活動して、その土地に住むNPCと交流を深めることができる。
次に教えてもらったのは、ステータスの見方だ。これは声に出したりする必要はなく、ステータスやメニュー画面を開きたいと念じれば、目の前に半透明な画面が出てくる。
さらにスキルや魔法についても教えてもらい、食事を終えたことだし、私達は礼を言って立ち去ろうとした。だが、
「待つニャスよ」
猫耳が楓ちゃんの腕を掴んで、私達が立ち去るのを止めた。
「なんですか……」
「私のように初心者に優しいプレイヤーはそういないニャス。どうニャスか? フレンド登録、しないニャスか?」
猫耳はそう言いながら、楓ちゃんに詰め寄る。
「え、僕、たまにしかゲームやりませんよ……?」
「良いって良いって……ニャス。後、私友達欲しくてニャス。女友達ってことでどうニャスか?」
勢いで乗り切ろうとする猫耳。このままだと、楓ちゃんが勢い負けしてしまいそうだ。
それに楓ちゃんばっかりで私には話しかけない。ちょっとムカついた私は、猫耳と楓ちゃんの間に割って入る。
「やめといた方がいいですよ。本当にたまにしかやらないんで……。なんなら私が……」
「おっさんは良いんだよ」
そういえば、今の私の見た目はイカついおっさんだった。
私の横を通り抜けて、再び楓ちゃんを勧誘しようとする猫耳。断るのは悪いと、楓ちゃんが少し乗り気になったとき。
「やめとけ!!」
扉が勢いよく開き、何者かが入ってきた。
「なっ!? お前は……!!」
入ってきた人物に、酒場にいる私達以外のプレイヤーが驚く。どうやらよくゲームをやっている人たちにとっては有名人らしい。
その人物の見た目は、黒い長髪のロングに、ファンタジー世界には似合わない緑のジャージ姿。装備に木刀を装備した大人っぽい女性。
「クリームソーダS!!」
酒場の全員がその女性に向けて同じ名前を口にする。クリームソーダSと呼ばれた人物は私と楓ちゃんを守るように立つ。
「悪質な勧誘はルール違反だ。banの対象になるぜ」
クリームソーダSの登場により、猫耳は諦めたのか、大人しく椅子に座る。そしてさっさとどっか行けと、手で振ってシッシとやってくる。
「行こうか、楓ちゃん」
「そうしましょうか」
この場に残っていても雰囲気が悪いし、私達はさっさと酒場を出た。酒場を出ると、クリームソーダSも後を追って出てくる。
そして私達に注意喚起をした。
「安易にはフレンド交換をしないことをお勧めしよう。たまに悪質なプレイヤーがいて、リアルで交流を図ろうとする者もいる。気をつけた方がいい」
それだけ伝えると、さっさと去ってしまおうとする。このまま行かせてもよかったが、
「待ってください!」
私は声をかけてクリームソーダSを止める。
「何かな?」
クリームソーダS。なぜ、この人物を呼び止めたのか。それはこの人物のアバターが、知り合いに似ている。
いや、似ているってレベルではない。明らかにその人物に寄せて作られている。
黒いストレートの髪に、だらしない服装。木刀を愛用していて、高身長な女性。
「クリームソーダSさん、もしかして……京子ちゃんなんじゃ……」
私の言葉にクリームソーダSは、ビクッと肩を震わせて、そっぽを向く。
「あね…………いや、誰のことか……俺は知らないな。そんな名前は……」
明らかな動揺を見せるクリームソーダS。これは怪しい……。
私が怪しみ、疑いの目を向けるが、楓ちゃんは純粋にクリームソーダSの言葉を信じる。
「いやいや〜、早乙女さんゲームやるようなタイプじゃないですよ〜、似てますけど別人ですよ〜」
確かに京子ちゃんがゲームをやるようなタイプとは思えない。この前のバーベキューの時も移動中の暇な時間は、難しそうな本を読んでいたし、コトミちゃんがゲームをやってると文句を言っていた。
しかし、似てる……。
私はさらに疑いの目でジーッと見つめる。クリームソーダSは私の目を見ないように逸らし続ける。
ずっと睨み続けていた私だが、ふと、クリームソーダSの喋り方が気になった。
一人称は俺。そして喋り口調は漢っぽい。まぁ、キャラ設定と言われてしまえば、そこまでだが……。
そしてさっきのようにピンチの時に駆けつけてくれた。登場タイミングの良い人物……。
私はある一人の人物を思い浮かべた。
京子ちゃんと繋がりがあり、今の点を抑えられる人物。
私はその人物の確認のためにトラップを出すことにした。遠くを見て私は、
「あ、楓ちゃんだ!!」
近くにいる楓ちゃんはここに居るぞとばかりに、自分のことを指さしている。しかし、クリームソーダSは、キョロキョロしてその人物を探していた。
「僕はここにいますよ〜」
「あ、いや〜、なんでもないのよ……」
私は確信できた。このクリームソーダS。首無しライダーのところのスキンヘッドだ!!
楓ちゃんに好意があって、反応してしまう。今の楓ちゃんは知らないから、気づいていないが、名前を聞いたら探して顔を赤くしている。
なんで京子ちゃんの見た目にしているのか分からないが、知り合いだったなら安心だ。
「クリームソーダSさん、一時的で良いので、パーティ入ってくれませんか?」




