第64話 『爆弾は冷静に対処しろ』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第64話
『爆弾は冷静に対処しろ』
あんな高いところまで、たった3分で登り切ることは不可能だ。
しかし、
「ジェシカ、これを持ってろ」
大塚さんはネクタイとコートを脱ぐと、ジェシカに渡す。
「俺がボムを止める。ジェシカと、霊宮寺さん達は避難誘導を頼む……」
そう言い残り、観覧車へ向かって走り出す。
「無茶よ!!」
絶対に無理だ。動いている観覧車に乗ったって間に合わない。
大塚さんは観覧車の乗り場に近づくと、受付に警察手帳を見せて、階段から登ろうとする。だが、警察手帳が見当たらず、大塚さんは不審者として通報されそうになる。
このままでは時間のロス。大塚さんは受付の横を通り抜けて、ボムのいる場所を目指して階段を登り始める。
「間に合うの……」
「とにかく大塚さんに任せるしかないですよ。私達はお客さんの避難です」
リエは今やるべきことを伝えてくる。しかし、
「避難誘導なんてどうやったら良いのよ!!」
私達は一般人。避難させようとしてもみんなが信じてくれるかわからない。
「私が指揮を取る……」
私が動揺する中、ジェシカは警察手帳を自慢げに取り出して宣言した。それを聞き、私達は少し下を向いていた気持ちから前を向くことができた。
「そうよね、ジェシカがいるのよね。任せるよ!!」
「……はい!」
警察であるジェシカが指揮を取れば、信頼度が上がりお客さんや遊園地の関係者も避難誘導に従ってくれるだろう。
だが、この短い時間では人数が足りない。この人数ではできること限られる。そんな時だった。
「お困りのようだな。君達!!」
「あなた達は!!」
見覚えのあるカラフルな集団。前にもこのような避難誘導に参加してくれたその道のプロ達。
「ゴーゴーレンジャー参上!!」
「三人揃って、プリンセスエンジェル!!」
ヒーローと魔法少女達が現れた。
「事情は聞こえていたぜ。ヒーローショーに来たらこんな大事件に巻き込まれるとはな! 避難誘導は俺達、ヒーローに任せろ!」
「私達がみんなを守ってみせます!!」
こんなところでヒーロー達と再会するとは……。しかし、この再会は嬉しい。
なんやかんやで海の時もヒーローの避難誘導は効果があった。
「じゃあ、手分けして避難を進めるよ」
私達はバラバラに散って避難誘導をすることにした。
避難誘導をして人を観覧車から遠ざけるが、一番良いのは爆破を阻止すること。それが出来るのはいち早く行動に移した大塚さんのみ。
私達は彼を信じ、出来る限りの行動をすることしかできない。
「レイさん、上見てください!!」
私の背中に捕まってふわふわ飛んでいたリエが上を見上げるように指示してくる。
私は首を傾けて上を見上げると、観覧車の時刻は17時30分になっていた。
「残り1分!? 二人はどこに!!」
残り時間の少なさに焦り、私は観覧車にいるはずの大塚さんとボムを探す。
「いました!!」
リエがいち早く見つけて、私もそのすぐ後に発見する。ボムはさっきの場所から移動しておらず観覧車の中央にある。
大塚さんはというと、階段を登り終え、ボムのいる場所を目指して、柱を登っていた。
「あのままじゃ間に合いませんよ!」
リエの言う通り、大塚さんは後少しのところまで来てはいるが、間に合わない。
どうしたら良いのか。
「おい、楓」
そんな中、黒猫は楓ちゃんを呼ぶ。そして楓ちゃんの肩に飛び移ると、楓ちゃんにあることを頼んだ。
「俺をあそこまで投げろ」
「え!?」
突然の言葉に私達は言葉を詰まらせる。
「な、なんで師匠を投げる必要があるんですか!?」
「お前が俺を投げれば、数秒でボムまで辿り着ける。俺が大塚が来るまで時間を稼ぐ」
「無茶ですよ、師匠!!」
楓ちゃんは黒猫の無茶な作戦に反対する。それは楓ちゃんだけではない。
「危ないですよ!! 落ちたらどうするんですか!!」
「そうよ、それにあんた猫なのよ、どうやって時間を稼ぐのよ」
反対する私たちに黒猫は尻尾をぶんぶん振り回しながら答えた。
「なら、このままボムのやりたいようにさせるか? 俺もお前達もタダじゃ済まないぞ」
確かに観覧車の近くにいる私達も危ない。
それに観覧車や他にアトラクションにもまだ多くの人が残っているし、ヒーローが避難を手伝ってくれているが、数分で間に合うわけもない。
「絶対に爆破させちゃいけないんだ。それが出来るのは、登ってる大塚と俺だけだ」
黒猫の言葉に反論することもできず、私は口を閉じる。
そして楓ちゃんの腹を括ると、
「分かりました。師匠……。絶対に帰ってきてくださいよ」
「当たり前だ」
黒猫を片手で持ち、鉄球投げのように投げ飛ばした。まっすぐ飛んでいく黒猫。理想的な軌道で飛行すると、観覧車の中央に着地した。
「師匠……」
楓ちゃんが祈るように指を重ねて見守る中、黒猫はボムに近づくと引っ掻き攻撃をする。
私達のところからは遠くでどうなっているのか分からない。
だが、黒猫の作戦は効果があったようだ。突然現れた猫に驚いたボムは、ダイナマイトを落としてしまう。それを黒猫が咥えて、柱の上を飛び回ったのだ。
時間稼ぎはそれで十分でき、黒猫が逃げ回っている間に、大塚さんがボムのいる中央にたどり着く。
そして接近戦の攻防で大塚さんはボムを拘束し、無事にボムを逮捕することに成功した。
ここからでも手錠をかけたことが確認できて、私達はホッとする。
だが、手錠をかけ終えた後、大塚さんと黒猫はボムに何かを言われて焦っていた。
「あの二人、何を騒いでるんでしょうか?」
「大塚さんが何か持ってるね……」
大塚さんの持っている何かをよ〜く凝視してみる。
「だ、ダイナマイト!?」
「えええぇぇぇぇ!?」
火のついたダイナマイトを大塚さんは持って、黒猫と一緒にどうしようと困っている様子だ。そんな様子を見ていた私達もソワソワしてきて、汗で大量に流れる。
「何してるのよ!! あの二人は!!」
「分かりませんよ!! きっとボムは捕まえたけど、もう火がついてた的な展開じゃないですか!!」
漫画化志望の幽霊がこういう状況でありそうな展開を口ずさむ。状況からしてその状況が正解な感じがする。
「あの二人どうする気なのよ!!」
「完全にテンパってますよ!!」
二人はダイナマイトを手に、キョロキョロして動き回っている。火を消すだの、ダイナマイトを投げるだのすれば良いのに、そういう判断能力が焦ってできないのか……。
あのままだと観覧車ごと爆発してしまう。
「皆さん叫んで指示しましょう!! このままだと師匠も大塚さんも爆発に巻き込まれます!!」
楓ちゃんは大声を出して、二人に指示を出すように促す。そうだ。二人に私達が行動を促せば、冷静さを失った二人でも爆弾処理ができるはず。
「そうね。ナイス判断よ! 楓ちゃん!!」
私は楓ちゃんに称賛の言葉を贈る。
そしてこの場にいるメンバーは大きく口を開けて、二人に……
「捨ててーー!!!!」
「火を消してください!!」
「投げるんです!! 投げてください!!」
みんな揃ってバラバラな指示をした。
私達の声が聞こえたのか、二人はさらに混乱し始める。
「なんでバラバラのこと言うのよ!!」
「レイさんが何言うか決めないからですよ!!」
「私のせい!? そんなこと言ったら、提案しといて決めなかった楓ちゃんでしょ!!」
リエに怒られて私は矛先を、さっき褒めたばっかりの楓ちゃんに向けようとする。
しかし、楓ちゃんはそっぽを向き、
「僕は知りません……。それよりも早く師匠達をどうにかしないと!!」
話を変えてしまう。だが、楓ちゃんのおっしゃる通り、喧嘩なんてしてる場合じゃない。
他に手段はないのか……。
そんな時だった。ふと、黒猫の様子が変わった。
普通なら分からない違いだろう。黒猫の態度というか、動き方の癖が変わったのだ。
あの歩き方、尻尾の振り方は…………。
「ミーちゃんです!! ミーちゃんが起きました!!」
私だけでなく。楓ちゃんもその変化に気づいた。そう、楓ちゃんの言う通り、あの動き方はミーちゃんだ。
「今起きたの!? あの騒ぎの中!!」
「ミーちゃんさんらしいと言いますか……。なんというか……」
私達が見守る中、黒猫の人格がミーちゃんに切り替わる。すると、黒猫は周囲を見渡して状況を瞬時に理解する。
そしてダイナマイトを持つ大塚さんの腕に飛び乗ると、尻尾でダイナマイトを弾き飛ばした。
「え…………」
ダイナマイトは大塚さんの手から離れ、観覧車から落ちていく。風に流されて観覧車から離れたダイナマイトは何もない空中で大爆発を起こした。
火花が散り、爆発の熱風が周囲を包む。
「霊宮寺さん、今の爆発は!!」
避難誘導を進めていたレッドが爆発に反応して駆けつけてくる。
「犯人を逮捕した……。んで、爆弾を猫が対処した!!」
事件が解決して何台かのパトカーが遊園地に駆けつける。
「犯人逮捕の協力。感謝する……」
犯人を逮捕した大塚さんは、やる気のなさそうなだるーい顔で敬礼してくる。そんな顔で敬礼されると、逆に達成感が無くなる。
「……いえ、市民として当然のことよ」
「では俺はコイツを連行しないといけないんで、これで…………。おい、ジェシカ、行くぞー!!」
ボムをパトカーに詰め込んで、大塚さんはリエ、楓ちゃんの二人と話していたジェシカを呼んだ。
ジェシカは二人に手を振ると、パトカーに駆け寄る。
「霊宮寺さん、私も、これで……」
「ジェシカも元気でね」
「……はい」
パトカーを見送り、野次馬も少なくなるとやっと黒猫が帰ってきた。
どこに隠れていたのか、埃まみれで出てきた黒猫は、私の頭によじ登る。
「あんたにも礼を言いたかったって言ってたよ」
「やったのは俺じゃない。ミーちゃんだ」
「そうだけど……」
そう黒猫は言っているものの、声のトーンから少し格好をつけている感じだ。しかし、タカヒロさんの勇気があったから、阻止できたのも事実……。
人間の人格ではなく猫の方に礼を言いたいと言われたとは言えない。
「そんなことより早く帰ろうぜ。腹が減った」
「そうね。そろそろ帰りましょうか」




