第63話 『未来を予知しろ』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第63話
『未来を予知しろ』
「え、ジェシカさん。未来予知ができるんですか!?」
「できる」
ドヤ顔で特殊能力を自慢するジェシカ。リエと楓ちゃんはジェシカの話に興味津々で、三人で話し込んでいる。
私は先頭を歩き、三人がしっかりついてきているのを確認しながら、遊園地の中を進む。
なぜ、私たちがジェシカ達と一緒に行動しているのか。それは事件について聞いてしまったからだ。
本来は私たちが首を突っ込むべき問題ではないのだが、あんな話を聞かされては遊園地で安心して遊ぶことはできない。かと言って、そんな大事件が起きようとしているのに、私達だけ帰るのもできない。
そのため、私達はジェシカ達と一緒に遊園地の中を捜索していたのだ。
まぁ、一緒に行動することを反対する人……いや、猫もいるが。
「おい。俺たちはさっさと帰ろうぜ。犯人探しはアイツら警察の仕事だろ。首突っ込む必要ないだろ!!」
私の頭を連続猫パンチして意見を主張する黒猫。多数決で協力するということになったのだが、この猫はずっと反対している。
「まだ文句言ってるの? 大塚さんだって協力して良いって言ってたし、このまま帰っても後味悪いでしょ」
大塚警部補に協力したいと嘆願したら、軽いノリで許可がもらえた。
正直こんな大事件に、こんな警官を調査に向かわせて、いいのか心配になる。というか、この人だからこそ、心配で私は協力を願い出た。
「相手は爆弾魔なんだろ……なんでそんな危険な場所に突っ込んでいくんだよ……」
黒猫は文句を言い続ける。もう何度も同じことを口にしている。こう繰り返し同じことを聞いていると飽きてくる。文句を言うにしてももっとバリエーションは何ものなのか……。
「しかし、喋る猫とは面白い奴を連れてるなァ〜」
気怠そうに私の後ろをついてくる大塚さんは、頭の上に乗る猫に興味を持つ。
ジェシカだけではなく、この大塚という人物も霊感持ちらしい。
ジェシカは特殊能力を見込まれて、刑事課へと呼ばれた。そして刑事課へやってきたジェシカの面倒係として、同じように力を持つ大塚さんが選ばれたらしい。
そして今回は二人で爆弾魔を追っている。
「おーい、猫や〜、こっち向けや〜」
大塚さんは後ろから猫を呼ぶが、猫は振り返ることなく尻尾を振る。
なんやかんやでこの猫、人見知りだったりする。機嫌が良かったり、状況によっては我慢するのだが、このように徹底して目すら合わせないこともある。
「霊宮寺さん、猫さんに無視されるんだが……」
「この猫は放っておいてあげてください……っというか、真面目に犯人探してるんですか!! なんで私が先頭歩いてるんですか!!」
そう、気がつけば、私が先頭を歩いて犯人探しをしていた。本来それをすべきはこの大塚さんだろう。
しかし、大塚さんはそっぽを向いて知らんぷりをする。
「ちょっと!? 仕事なんですよね、もっと真面目にやってくださいよ!!」
「やってるやってる〜。そーカリカリしてても犯人は出てこないから……」
「なんで……そんなに適当なんですか……。相手はあのボムですよ」
二人が追っている爆弾魔。それはボムと言われる人物だ。
犯行動機は目立つこと。名前を知らしめるためだけに、多くの事件を起こしてきた指名手配犯だ。
すでに二度。捕まったことがあり、一度目は爆破予告をしたツルツルスリータワーで現行犯逮捕。その後脱走し、怪盗オリガミに決闘を申し込んだが敗北。その後、また逮捕された。
しかし、一週間前に起きた刑務所の大脱走事件で、多くの脱獄囚の一人として世に解き放たれた。
多くな優秀な警官がいる中、彼がこの事件を担当することになったのは、脱獄事件による人員不足も原因の一つだろう。
「でも、なんでボムがこの遊園地に現れるってわかったんですか? 予告状でも来たんですか?」
私は先頭を歩いているため、大塚さんの顔を見ることはできないが、振り向きはせず質問する。
「いや、そうではない。未来予知だ」
そういえば、そんな話をリエ達がしていたような……。さらに質問をしようと私が振り返った時、リエ達三人が駆け寄ってくる。
「レイさん、ジェシカさんが未来予知やってくれるそうですよ!! ちょっとお願いしましょうよ!!」
タイミングを見計らっていたのかというレベルで、リエ達がその話題について触れてきた。
「歩いていると集中できないみたいなので、あのベンチに行きましょう!!」
リエと楓ちゃんに片腕ずつ引っ張られて、私はベンチへ移動させられる。大塚さんもやれやれと言った様子だが、止める様子はない。
ベンチの前に集まると、ジェシカは椅子に腰をかけて、両手を重ねて祈るようなポーズを取る。
ジェシカが力を貯める中、黒猫は私の頭からベンチに飛び移り、ベンチの下に潜り込んで休む。人の多い場所に疲れたのだろう。狭い空間でホッとしている様子だ。
「大塚さん、未来予知ってどんなことなんですか?」
ジェシカが集中している間に、私は大塚さんに訊ねる。すると、説明がめんどーくせーって顔をしながらも、大塚さんは説明を始めてくれた。
「ジェシカは集中すると、その場にいる人間の数秒後のことを知ることができる。俺の詳しいことはわからないが、未来の光景が映像になって頭の中に流れ込んでくるらしい。まぁ、未来視ってやつだ。たまに集中なしでも未来予知をするが、その場合は数分後の未来だったりしたな」
「それで犯人を捕まえたりは?」
「数秒や数分。その程度の時間じゃ、犯人を捕まえるのには使えない。それに近くにいないと効果のない力だからな。役に立ったことは全然ないぜ」
すっごく便利そうな力だし、ダラダラな景観よりは役に立つと思いたい。
と、私たちが話している間に未来予知を終えたようで、ジェシカは口を開けた。
「霊宮寺さん、あなたの頭に──」
ジェシカが何か言いかけた時。私の頭に何かが落ちてきた。冷たくねっとりした液体……。髪の毛の隙間を通って、私の額を垂れる。
「アイスが落ちてきます」
「アイスッ!?」
完全に落ちてきてからジェシカは言い終えた。
近くにある建物の屋上で、アイスの無くなったコーンの部分を持った人が、必死に謝ってくる。
「当たりましたね……避けられませんでしたが……」
「当たったな。俺、降りてて良かった……」
皆が苦笑いする中、大塚さんはハンカチを取り出して私に渡した。
「予知の対象になった感想は?」
私は息を吸うと、そのままの感想をはっきりと伝えた。
「使えない!!」
数秒後。ちょっと先の未来を見る能力。そのため五秒後に起こることが予測できたとしても、対処ができない。
しかも集中しなければ能力が使えない。とても使いずらい。
頭を洗い流し、化粧室から外に出ると、黒猫と大塚さんが並んで待っていた。
「やっと来たレイ」
「霊宮寺さん。ジェシカ達は、あれだ、あれに乗りに行ったぞ」
大塚さんは目線でジェットコースターのある場所を示す。どうやら残りの三人はジェットコースターに乗りに行ってしまったのだろう。
それで大塚さんが黒猫を任されて待っていた。
そこまでは分かった。だが、一つ気になることがある。
「あなた達、もう少し仲良くしてみれば?」
大塚さんと黒猫の間には人が一人入れそうなスペースが空いており、二人の距離感を表していた。
大塚さんは頭を掻きむしりながら困り顔でボソボソと答えた。
「近づくと逃げるんだ……」
まぁ、距離を取るとしたら黒猫の方だろう。ミーちゃんはそれなりに人懐っこい方。そうなるともう一人、中にいる人間が理由だろう。
「俺、猫に嫌われやすいのか……」
ちょっとショックを受けている様子。猫というより、その中の人間が人見知りなだけだが……。
私は黒猫を抱き上げ、その間にひっそり聞く。
「あんたのせいでショック受けてるじゃない。なんで距離取ってるのよ」
「これが俺の全力だ」
これで精一杯だったらしい。
私は前で黒猫を抱っこしていくつもりだったが、黒猫は嫌がって肩を伝って頭の上に乗る。
「霊宮寺さんは好かれてるな……」
「これは好かれてるっていうのかどうか…………」
羨ましそうな目線を送られるが、説得もできないし、どうしようもない。というか、この人、やけに猫に注目している。
ジェシカは黒猫には興味なさそうで、リエ達と仲良くしているが、この人はずっと猫の後ろを追っている。もしかしたらモフモフ好きなのかもしれない。
「それじゃあ、私達もジェシカ達を追いかけますか」
ジェットコースター乗り場に着くと、乗り終えた楓ちゃん達が降りてきた。
「あ、レイさん!!」
降りてきた楓ちゃんは満足そうに手を振って駆け寄ってくる。
「あれ、リエが見当たらないんだけど、どこに行ったの?」
そして私は早速違和感に気づいた。リエがいない。
三人がジェットコースターに乗りに行ったと聞いてから、ずっと心配だった。幽霊であるリエをどうやってジェットコースターに乗せるのか。
もしかしたら、先頭の出っ張ったところに座ってて、動き出した途端、飛ばされちゃったのではないだろうか。
しかし、私の心配を知らずに、楓ちゃんは報告する。
「リエちゃんなら飛んでますよ」
「え!?」
まさか、本当に飛んでいってしまったのだろうか。あの風船のように軽い身体だ。飛ばされてしまったなら、どこまで行ってしまったかわからない。
「ほら、あそこです」
「……あそこ」
楓ちゃんとジェシカが同時に指である場所を指す。そこはジェットコースターのコース。その道中を……。
「リエェェェェっ!?」
リエが飛んでいた。空飛ぶスーパーマンのように浮遊して、ジェットコースターに成り切っていた。
「リエちゃんは乗れないから、自分でやってみるのはどうかって、ジェシカさんが」
「……ナイス、アイディアだろ………」
アンタの提案かい!!
しかし、これなら振り落とされることはないだろう。ホッとした私だったが次の瞬間。
「あ、轢かれる」
ジェシカが集中なしで予知を見て、それが現実になった。
「リエがジェットコースターに轢かれた!!」
ジェットコースターに後ろから追突されて、リエがコースから外れて落下した。
私達は落ちたリエの元に駆け寄ると、リエは怪我なく無事だった。
「あんた、よくあの状況で無事だったね……」
「よく考えれば私幽霊ですから。ジェットコースターに当たらないんですよね、当たると思って避けちゃいました!!」
避けるつもりで落下したらしい。びっくりするからやめてほしい。
「もぉ〜、ハラハラするからやめてよね」
「はーい……」
リエも無事で安心していると、ジェシカが突然震えて膝をつく。
「どうしたんですか? 今更、ジェットコースターが怖くて震えたとか?」
リエが訊ねるがジェシカは首を振る。ジェシカの様子を見て、察した大塚さんはジェシカに近づいてしゃがむと、
「見たんだな。未来を……。犯人に関する未来か?」
今までの気だるそうな大塚さんと違い、真剣な様子。
今までの予知からは想像できない怯え方だが、大塚さんは確認を持っているようだ。
「どんな未来を見た。簡単で良い、言ってみろ」
「観覧車が爆破される…………時間は17時31分」
「爆発!? 爆弾魔か!!」
私達は一斉に顔を上げて、観覧車についている時計を見た。そこには17時28分と書かれている。
「残り、3分……」
観覧車に表示された時間と予知の時間から、残った時間が短いことを知り、私達は絶望する。
そんな中、リエは観覧車の上に何かを発見した。
「あそこ、観覧車の真ん中のところ。あそこに誰かいますよ」
確かにそこには誰かいた。赤いトサカのような髪を生やしたその男性は、本来登ることはできないであろう、観覧車にある時計の上に登っていた。
「あれは、ボム!!」
「え!! じゃあ、あそこにいるのが例の爆弾魔ですか!!」
「ああ、あの顔は手配書の通りだ……」
「でも、後3分で爆破するのよ。あんなところにいたら、巻き込まれる……」
「ボムの動機は目立つことだ。そしてこだわりで時限爆弾なんて使わない。使うのは手元にある小型のダイナマイトのみ……。爆発させ、観覧車が崩れる前に脱出する気なんだ」
本当にそんなことが可能なのか。しかし、可能だからこそ、大塚さんはそう言っているのだ。
過去のボムの犯罪履歴。そこから予測できるボムの行動。
ボムの情報が分かった黒猫は、ボムのことを見上げると、
「じゃあ、まだ点火はしてないってことだよな。今なら止められる」
そう、タカヒロさんの言う通り、止められる可能性はある。だが、それはできない。
なぜなら、
「あんな高いところまで、3分で……」
観覧車の上。そこまで短期間で登る必要があるからだ。




