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第62話 『約束の遊園地』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第62話

『約束の遊園地』





 塩の匂いが漂う遊園地。私達、三人と一匹は海の近くにある遊園地にやって来ていた。




「レイさん、レイさん!! 遊園地楽しいですね!!」




 私の顔の周りをクルクル飛び回り、リエが嬉しそうにしている。私は覇気のない返事で適当に返す。




「そーねー」




 前に遊園地に連れて行くことを約束していたため、私はみんなを連れてこうして外に出たのだ。




「どうした? 元気ないな」




 私の頭の上で黒猫が心配してくれる。私は大きくため息を吐くと、




「アンタ。ここはいつもよりも人目につきやすいのよ。そんなところ本当は行きたくなかったのよ」




 遊園地なんて幽霊や猫を連れてくるような場所じゃない。それに休日ということもあり、人も平日の倍以上だ。

 そんな中で幽霊や猫と話していたら、変に思われる。




 理由を聞いた黒猫は気を遣ってか。答えずに無言で大人しくした。

 まぁ、大人しくしてくれるのは良いが、




「レイさん!! あそこでポップコーン売ってますよ!! いつものお菓子のじゃないです!! 本物ですよ!!」




 この幽霊を説得してから大人しくして欲しい……。




 私はリエの手を引っ張り、人通りの少ない路地に入る。路地に入ると自販機が人に反応して音声が流れ出す。




「なんですか?」




「なんですかじゃないよ。アンタ、今朝も言ったでしょ。大人しくしててって、大人しくしないと帰っちゃうよ」




「え〜、嫌です」




「じゃあ、大人しくする?」




「はい!!」




 本当にこの幽霊がいちばんの最年長なのだろうか。見た目の影響もあるだろうが、すっごく子供っぽい。




 猫もリエも大人しくなったため、一息つけると自販機で何かないか探す。




「アンタ達も何か…………」




 そんな中で、一人足りていないことに気づいた。




「ねぇ、楓ちゃんはどこ行ったの?」




「あれ? さっきまでは居ましたけど」




 周囲を見渡すがこの路地には居ない様子。外に出て探してみると、すぐに見つかった。




 船の形をして、前方と後方に回転して、一周するアトラクションにすでに乗車していた。




「あの子も完全に楽しんでる……」




「いーなー!! 私も乗りたいです!!」




「幽霊がどうやって乗れば良いのよ!!」







 楓ちゃんが戻って来てからも、リエは駄々をこねるが、幽霊に安全装置がつけてもらえるはずもないし、リエを乗せることはできなかった。




「も〜、これじゃ遊園地来た意味ないじゃないですか〜」




「安全装置つけられないんだから、落ちたらどうするのよ」




 アトラクションに乗れずに頬を膨らませていた。

 このまま不機嫌でいられても困るし、リエでも楽しめそうなものはないかと周りを探してみる。すると、私はある建物があることに気づいた。




「リエ、あれなんてどうよ?」




 私はその建物を指で指してリエに伝える。その建物を見た黒猫は、尻尾を振って私の頭を叩く。




「お前……あれって……」




 その建物の看板には『幽霊道』と書かれており、壁や床には不気味な雰囲気を演出する模様が描かれている。




「お化け屋敷ですか!! 楽しそうですね!!」




 提案した場所はお化け屋敷である。リエは嬉しそうに飛び回り、機嫌を直したことが一目でわかる。

 それとは違い、黒猫は尻尾で私の頭を叩いて突っかかって来た。




「幽霊をお化け屋敷に連れてってどうすんだよ!!」




「良いでしょ。ここなら本物のお化けが見えたとしても、わー本物だ〜っで済むじゃない」




「そんな軽いリアクションで済むか!! 大事件だろ!!」




 文句を述べるたびに黒猫の尻尾を振るリズムが早くなっていく。尻尾の振り加減から興奮して来ているのがわかる。




「じゃあどうするのよ、あの子達行く気よ」




 私は首を回して黒猫の視点を、リエと楓ちゃんに向けさせる。二人はすでにチケットを買って受付に居た。




「早すぎだろ……あいつら……」









 チケットを購入して私達はお化け屋敷に入る。薄暗い通路に不気味な音が鳴り響く。




「い、今、奥から笑い声聞こえました……」




「リエちゃん怖いの? 手繋ぐ?」




 戦闘を歩いている楓ちゃんが、リエに手を伸ばす。怯えて身体を縮めていたリエは、素直に楓ちゃんの手を取ってエスコートしてもらう。

 私はそんなリエの姿に呆れる。幽霊がお化け屋敷でビビっているのはどうなのだろうか。




「幽霊がビビるんじゃないよ……それと」




 私は爪を立てて毛穴に食い込ませている黒猫を、抱き上げて目の前に持ってくる。




「もしかしてアンタ、怖がってる?」




 尻尾をタワシのように膨らませて、毛を逆立たせてる黒猫。




「馬鹿か!! 俺が怯えるか、よ!! 幽霊は年中見てるんだぞ!!」




 黒猫はそう言って強がっているが、どう見ても怯えている。

 リエをリードして先頭を歩いている楓ちゃんが振り返ると、現状の黒猫について考察する。




「幽霊は見慣れてても、驚かせにくることはないですからね。それに幽霊の皆さん、結構生き生きしてますし」




 確かに漫画家を目指してるちびっ子幽霊や、田舎のスポーツマン幽霊。病院に住み着いた武士なんかの変わった幽霊ばかりだ。




 頭に猫を戻すと、爪が食い込んで痛いため、そのまま抱っこしたまま先に進む。




 暗がりを歩き、直角になった通路を曲がったとき。壁で死角になっていた場所に、ろくろ首の人形があり、私達に反応して動いた。

 女性の笑い声が再生され、首が左右に揺れるチープな仕掛け。こんなものに驚くのは子供くらいだろう……。




「キャァァッ!!」




 ろくろ首に驚いたリエが楓ちゃんに飛びつく。両手で楓ちゃんに抱きついて、動きを封じる。可愛らしい怖がり方だ。

 これで終われば、平和だった。




「うわぁぁぁぁ!!」




 黒猫は私の顔面に張り付いた。両手両足で爪を引っ掛けて、全力で私の視界を塞ぐ。

 痛いし、見えないし、息苦しい!!




「師匠!? レイさん!?」







 その後も何度も黒猫に視界を塞がれながらも、お化け屋敷を出た。




「リエちゃん、怖がってたね〜」




「幽霊でも怖いものは怖いです……。レイさんはどうでした?」




 お化け屋敷を出て、恐怖から解放されたリエは満面の笑みで訊ねてくる。




 私はというと……。




「殆ど猫の腹しか見えなかった……」




 何かあるたびに黒猫が飛びついて来て、展示の殆どを楽しむことができなかった。怖かったというより、爪が引っかかって痛かったの方が印象深い。




「すまん、レイ……」




 流石に黒猫も責任を感じているのか。頭の上でしょげて大人しくしている。

 しかし、本当に反省する気があるなら、頭から降りてほしいところだが。




 私が黒猫が降りてくれないか。頭を振ってみるが、頑固に降りる気配がない。

 黒猫と格闘していると、周囲を見渡していたリエが何か発見する。




「次はどうしましょうか〜、あ!! あれとかどうですか!!」




 楓ちゃんから離れて浮遊してどこかへ飛んでいく。




「ちょっと、待ってよ!!」




 私達はリエを追いかけて階段を駆け降りる。段数は多くなく15段程度の小さな階段。

 そんな階段を降りていると、背後から声が聞こえた。




「アナタ、転ぶよ」




 それは女性の声。その声が聞こえてすぐに、私は足を滑らせて、大きく前に倒れた。




「レイさん!?」




 階段からジャンプする形で落下する。このままでは顔で着地してしまう。




「あぁぁぁぁぁっ!? …………お!」




「キャッチ。間に合いました……」




 階段から落ちた私を楓ちゃんが先回りして、キャッチしてくれた。落ちた時には隣にいたはずだが、あの一瞬で降りたのか。

 楓ちゃんの超スピードに救われた。




「ありがとう、楓ちゃん」




 私は楓ちゃんに礼を言った後、両手で頭の上を確認する。しかし、そこにはなにもいない。




「レイ。大丈夫だ、俺はここだ」




 タカヒロさんの声がし、声の方を向くと、黒猫は地面に座っていた。

 どうやら転んだ時にそそくさと飛び降りたらしい。




「まぁ、無事で良かった……」




 黒猫の無事も確認できてホッとしていると、階段の上から先ほどの声の主が降りてくる。




「無事か……」




 それはスーツ姿の褐色肌の女性。身長は低めだが、大人っぽい顔立ちをした人だ。




「ありがとうございます。注意してくれたのに……」




 私は礼を言うと、女性はそっぽを向いて不機嫌そうな顔をする。




「……注意ではない…………あれは……」




 女性が何か言いかけた時、




「ここにいたのか。ジェシカ」




 今度はスーツ姿の男性がやって来た。両手にストローの刺さった紙コップを持った、ボサボサ頭の特徴的な人物。

 女性はスーツをキチッと着こなしているが、この男性はネクタイはくたびれてるし、シャツもはみ出している。




「……リョー。やっと来た」




「お前が迷子になってたんだろ……」




 リョーと呼ばれた男性は女性の元へ駆け寄ると、紙コップを渡した。




「目を離した隙にこんなとこまで来やがって……んで、なんかあったのか?」




 男性はコップを渡すと、空いた片手でボサボサの髪を掻きながら、私達の方を向く。真剣な顔で聞いてくるため、私は咄嗟に首を振った。




「そうか、なら良かった……」




 私の反応を見て、ホッとした様子の男性は、持っていたコップのストローに口をつけて喉を潤す。




「リョー、それ私の……」




「ブッーーーーッ!!!! もっと早く言え!!」




 男性が飲んだジュースがシャワーのように吹き出して、私の顔を直撃する。

 ジュースの甘さが顔を覆い、目に染み込む。




「……す、すみません」




 ジュースをぶちまけられて、私が立ち尽くしていると、焦った様子で男性がハンカチを取り出して顔を拭いてくる。




「自分でやります」




 私はハンカチを奪い取ると、自分で顔を拭き直す。




「本当にごめんなさい……」




「まぁ、許さないとは言わないけど、許さない」




「それは許さないってことでは!?」




 私が怒っているのは明らかで、男性はとにかくあなたを下げる。だが、そんなに謝られたって人の顔にジュースを噴いたんだ。

 簡単に許せるはずはない。




 私は拭き終わると、ハンカチを畳んで返す。そして男性の目を見て微笑んだ。




「本当に申し訳ない!!」








 誤りまくられて、これ以上謝罪のしようもないため、私も時間の経過で許すことにした。




「さっさと許せばいいのに……。大人気ないな……」




 楓ちゃんに抱き上げられた黒猫は、呆れた目で私を見てくる。




「アンタもやられたら分かるよ」




「分かりたくねーよ」




 私から解放された男性はといえば、疲れ切った様子でベンチに座り込んでいる。ボサボサだった髪が、更なるストレスで増えている気がする。




 私達は今いるところから移動して、別のアトラクションのある場所に行こうとする。周囲を見渡してどこに移動しようかと考えていると、




「……アナタ達。なぜ、幽霊と仲良くしてる?」




 背後からヌッと先ほどの女性が近づいてきて、話しかけてきた。




「わっ!? いつの間に……って、アナタ、もしかして幽霊見えるの?」




 私はリエの頬っぺたを両側から挟み、揉み揉みしてみせる。リエはやめてください〜っと言っているが、気持ちのいい感触だから続ける。




「見えてる……」




 女性は指を伸ばしてリエの鼻をつんと触る。確かに見えている。それにリエに触ることができている。

 幽霊が見えていることが伝わると、女性は一歩下がって口元に指を当ててニコッとする。表情の固い人だと思っていたが、こういう可愛いポーズを取ろうとする一面はあるようだ。




「私、ジェシカ……」




「ジェシカさんって言うんですか! 私はリエです!!」




 私に頬っぺたを揉まれながら、リエも真似してポーズを取ってみる。




「私は霊宮寺よ。それでこの猫が……」




「ミーちゃんとタカヒロだ」




「僕は坂本 楓です!!」




 一通り自己紹介を終えると、ジェシカはベンチで休んでいる男性に目線を向ける。そして腕を動かして彼を指すと、




「あれはリョー!」




 男性のことを紹介しているのだろう。




「あの人って彼氏なの?」




 私は気になっていたことを訊ねると、ジェシカは首を振った。




「違う。上司……」




「上司と遊園地に?」




「仕事」




「仕事?」




 上司と一緒に遊園地に来る。一体どんな仕事なのだろうか。

 ジェシカは私が質問する前に答えた。




「事件を追ってここにきた。犯人がいる……」




「事件……犯人…………もしかして、刑事さん!?」




 ジェシカは恥ずかしそうにしながら、コクリと頷いた。




「じゃあ、あのジュース掛け男も、刑事なの?」




「そう、リョーも刑事」




 ジェシカは証明するようにポケットから、警察手帳を取り出して見せてくれる。

 そこには巡査と書かれた下にジェシカ・ウィリアムと文字の入った警察手帳と、警部補と書かれた大塚(おおつか) (りょう)の二つ二つの警察手帳があった。




「本物の刑事さんなのね……でも、なんであなたが彼の警察手帳を持ってるの?」




「リョー。ダラシない。だから私が持ってる」




 確かにベンチで寝始めた男が持っているよりも、この人が持ってた方が良い気もする。だが、それで良いのか……。




「ジェシカさん。どんな事件を追ってるんですか!!」




 リエはフワフワ飛びながらジェシカに近づくと、顔と顔がぶつかりそうなほど近くに飛んで質問をする。




「それは言えない」




「え〜。気になります〜」




 リエはジェシカの両肩を掴み譲る。しかし、ジェシカは口をへの字にさせて頑固に開かない。




「リエ、それくらいにしなさい。お仕事の邪魔しちゃダメでしょ」




「え〜」




 私はジェシカからリエを引き剥がす。相手は警察だ。仕事の邪魔をして問題になったら大変だ。




「ほら、ジェシカさん達はお仕事できてるんだから、無理に聞いちゃダメでしょ」




「はーい」




 リエに言い聞かせて大人しくさせる。

 本当は言いたそうな顔をしているジェシカだが、聞かないほうがいいだろう。刑事であることをバラし、手帳まで見せてくる人だ。

 このまま問い詰めていたら、本当に口を滑らせてしまいそうだ。私達みたいな一般人はなるべく首を突っ込まないほうがいいだろう。

 しかし、




「爆弾魔を追ってるんだ」




 突然、ヌッと寝ていたはずの男性が背後に現れて、口を滑らせた。




「うわっ!? いつの間に!!」




 この二人組はひっそり近づくスペシャリストなのか。二人して静かに近づいてくるのはやめてほしい。

 というか、




「言って良いの?」




 思いっきり事件について情報を漏らした。大塚さんは頭を掻くと、フケを飛ばしながらアホズラで、




「言って良いんじゃね〜。俺は気にしないけど」




「気にしろ!!」







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