第53話 『食物連鎖』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第53話
『食物連鎖』
ネズミが口を大きく開ける。
──ああ、もうだめだ。食べられる──
「レイさん!!」
口が近づいてきてネズミの口臭で鼻が曲がりそうになる。
「面倒ごとを増やしやがる!!」
金属のぶつかる音。その音が鳴り響くと私の身体を掴んでいたネズミの手は、力を緩め私を離した。
「落ちるぅぅ!!」
「師匠、レイさん!!」
落下する私と黒猫を楓ちゃんが走ってきて、お姫様抱っこでキャッチした。
「助かった〜、ありがとう、楓ちゃん!!」
「ナイスキャッチだ。楓!!」
私達に褒められて楓ちゃんは顔を赤くして、モジモジしながら照れる。
「レイさん、無事ですか!!」
リエも浮遊しながら駆け寄ってくる。
「ええ、でも何が起きたの?」
ネズミに捕まっていた私たちの視点では何が起こったのか見えなかった。
「またあの人ですよ」
「あの人?」
私と黒猫がネズミの方に視点を動かすと、倒れたネズミの腹の上でピッケルを肩に背負った男性がいた。
「あなたは!!」
「あいつらと一緒にいるから大丈夫だと思えばこれかよ…………」
ピッケルを持った男性は気怠そうに、空いている片手で頭を掻く。
中佐はピッケルを持った男性を見上げる。
「あれが……。リュウ……」
中佐の声が聞こえたのか。リュウと呼ばれたピッケルの男性は、中佐のことを睨みつける。
睨みつけられた中佐は、臆して一歩下がってしまうが、どうにか持ち直しリュウに銃を向けた。
「リュウ!! なぜ貴様が現れる!! あのネズミの襲撃と何か関係があるのか!!」
リュウは目を半開きにしてめんどくさそうに答える。
「ねぇよ。テメーラが役立たずだから来てやったんだろ……」
「我々が役立たず……だと!?」
中佐は引き金に指をかける。いつでも撃てる様に構えた中佐だが、そんな中佐はいち早くあることに気がついた。
「ネズミ……今、一歩が動い…………!? 貴様ら離れろ! そいつ死んだふりをしているぞ!!!!」
中佐が叫ぶと倒れていたネズミが動き出し、起き上がろうと身体を動かす。
「ええぇ!? ピッケルさんが頭を砕いたのにまだ生きてるんですか!?」
リエが怯えながら楓ちゃんの肩に引っ付く。楓ちゃんは私を抱き抱えたまま、ネズミから全力で離れた。
「急げ、こっちだ!!」
中佐はネズミに向けて発砲するが、ハンドガン程度では全くダメージにならない。
だが、それでも私達を守るためにできる限りを尽くす。
「リュウ、貴様もだ。こっちに来い!!」
その守るべき対象はリュウも含まれていた。中佐がネズミの注意を引き、腹の上にいるリュウに逃げる時間を与えようとする。
しかし、リュウはネズミから逃げるどころか、腹の上から降りる気配もない。
「なぜ逃げない!!」
「せっかく弱点を晒してくれてるんだ。そいつを叩かないでどうするよォ!!」
ピッケルを振り上げ、ネズミの腹に向けて突き刺す。
ネズミは痛みで暴れ出すが、リュウは毛を掴んでネズミの腹にしがみつく。
そしてさらに腹にピッケルを刺して、穴を開けて中に入っていった。
「あいつ何してんだ!?」
リュウの行動に黒猫が声を上げる。
「余計暴れてますよ!! ……てか、こっちに来てます!!!!」
中佐と合流した私達だが、楓ちゃんに抱き抱えられながら暴れるネズミから逃げる。
「イカれやろう!! やめろ!!」
中佐はネズミの腹にいるであろうリュウに叫ぶが、聞こえてるはずもない。
喰われることはなかったが、今度は暴れるネズミに押し潰される!!
ネズミの身体が背中に擦れるくらいの近さになったところで、ネズミの動きが止まった。
「……え、なんで?」
中佐はハンドガンを向けていつ動き出しても良い様に構えておく。しかし、その心配は必要なかった。
「やっぱりマジィな、こいつの肉は……」
ネズミの腹から皮膚を突き破り、赤く染まったリュウが出てくる。
「ゲェ……。この人、ネズミ食べてますよ。病気になりますよ……」
リエが嫌そうな顔をしているが、その姿はリュウには見えていない。
「なんでまだこんなところにいるんだ。日世駅の方が地上には近いだろ」
ピッケルを振って血を振り払ったリュウは、中佐のことを睨みつけた。
睨みつけられた中佐は、身長差があるがリュウのことを見上げて睨みつける。
「ギガンズの襲撃を受けたんだ。貴様の差金じゃないのか?」
「俺はここに住んでるだけだ。ネズミもお前らも俺は興味ねぇよ」
そう言ってリュウは背を向けると、動かなくなったネズミを飛び越えて、私たちの進む方向とは別の方へと歩き出す。
「どこに行く!!」
中佐は叫んで銃口を向けるが、リュウは気に留めず歩き続ける。
このまま追って拷問しそうな勢いだったが、中佐は押し止まり、武器をしまうと私たちの元に帰ってきた。
「良いんですか?」
「今は君達を脱出させるのが優先だ……」
再び、脱出に向けて私達は歩き出した。
楓ちゃんから降りて黒猫を頭に乗せ、線路の上を歩く。
「奥に灯りが見えますね!!」
私の横でふわふわと浮いていたリエが、線路の先に光を発見する。
「本当ね! もしかして出口!!」
私とリエ、楓ちゃんは喜んでスキップする様に灯りの元へ向かう。
遅れて中佐も追いかけてくる。
「待て! まだ駅までは距離が……!!」
中佐がそう叫んだところで、明かりの向きが動きでこちらを照らした。
眩しさで私達は目を瞑る。
「イザベラ!! 無事だったか!!」
光の元から声が聞こえる。光に目が慣れ出すと光の方から近づいてきた。
「た、大佐!?」
光の正体は、ライトを持った大佐だった。
「大佐……いや、親父。無事だったの!?」
大佐はネズミの集団に襲われてやられたと思っていた。
「ああ、俺もダメだと思った。だが。あいつが来てな」
「あいつ?」
大佐は何があったのか、説明をしてくれた。
シャッターが閉まった後、残った兵士と共にネズミと戦闘を続けていたが、劣勢でありこのままでは全滅というところまで追い詰められていた。
しかし、そこに現れたのがリュウだった。
大佐はリュウと協力して突破口を作り、ネズミの集団から逃げることに成功した。
その後、リュウに私達のことを話すと、別行動をとることになったらしい。
「リュウが……」
「我々は奴を勘違いしていたのかもな。地上の世界から追い出され、地下に逃げ込んだ犯罪者と思っていたが、あいつは人間とギガンズの境界線を守る存在だったのかもしれん」
その後、大佐達に誘導され私達は駅に着き、地上に出ることができた。
無事に火の光を浴びられた私達は、身体を大の字にして外の空気を吸う。
「やっとねー!! 除霊に来たのに怪物に襲われて、大変だったけどやっと終わったのね!!」
「ですね!! 解放された感じです!!」
私達を地上に送り出した中佐は、駅の中で敬礼をする。
「では私はこれで」
「中佐さん、もう戻るんですか?」
「他の隊もギガンズの襲撃を受けてると連絡があった。これから応援に向かう」
「でも、中佐さんの隊って……」
「この駅にあった隊と合流して部隊を編成し直した。では」
中佐は地下へと戻っていった。
私達は電車に乗り事務所に帰ることにした。
依頼主には大佐が事情を変えて連絡してくれたらしい。
電車で揺られる中、リエと今日会ったことを振り返る。
「地下にあんな怪物がいたんですね」
「そうね。もうあんなところには二度と行きたくないよ」
「ですね。しかし、そんな怪物を退治しちゃうリュウって何者だったんでしょう」
「さぁね」




