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第39話 『結末の終焉』

霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?




著者:ピラフドリア




第39話

『結末の終焉』






 廃墟の病院に私と黒猫はたどり着く。




「言われた通りに来てみたけど」




「ああ、ここは……」




 私と黒猫は建物の奥を見る。するとそこには赤い鎧を着た武士がいた。




「久しぶりだな。お主ら」




「武本さんの病院……」




 そこは武本さんが取り憑いている廃墟の病院。リエ達を探して、辿り着いたのがこの病院だった。




 私は武本さんに顔を近づかせ、顔と顔がくっつきそうなギリギリの距離で尋ねる。




「武本さん、リエと楓ちゃん知らない?」




 突然顔を近づかされて、恥ずかしがった武本さんは顔を赤くして私のことを押して少し距離を取る。




「落ち着くんだお主……。突然聞かれてもわしには答えられる」




 動揺している武本さんに、私から飛び降りた黒猫は真剣な顔で伝える。




「すまん、事情は後で説明する。それより答えてくれ。ここにリエと楓は来たか?」




「あの幽霊少女とヤンチャ少女か。わしは知らんな」




 ここに二人がいないことを聞かされて、私と黒猫は肩を落とす。やっとここまで辿り着いたのに、無駄足になってしまった。




 だが、落ち込んでいる暇はない。この瞬間も一刻一刻時間は進んでいる。

 私は黒猫に手を伸ばすと、ジャンプして抱っこされるように仕草で伝える。




「タカヒロさん、ミーちゃん。急ごう」




 黒猫も頷くと、私の懐に飛び込んでくる。そしてすぐに病院を出て、二人を探しに行こうと出口に向かう。

 そんな私達を武本さんが呼び止めた。




「待て。お主ら」




「なによ。今はあなたに構っている時間は……」




 武本さんは腕を組み、胸を張って宣言した。




「お主ら焦っているようだが、当てはあるのか? ……タカヒロ、お前らしくないぞ、周りが見えてない。急いでる時こそ、回り道。それこそが最短なり!」




 武本さんは腰にかけている刀を鞘をつけたまま取り出すと、刀の先を天高く振り上げた。




「このわしの城は丘にあり、屋上からは町を一望できる。上から探すのもまた一つの手ではないだろうか!」






 武本さんのアドバイスで、私と黒猫は屋上に向かうことにした。

 階段を登っている間、武本さんのおかげか少しだけだが焦る気持ちが楽になった。




 屋上に登り切ると、満月が夜空に浮かび、私達のことを照らしている。

 夜風が汗で濡れた服に染み込んで、身体を冷やす。




「事情は理解した。わしも力になりたいが、地縛霊であるためここから出れば、力が弱まる。出来るのはこの場所を提供するくらいだ」




 階段を登る最中に黒猫から説明を受けた武本さん。

 彼の状態を知っている黒猫は返事を知っていたように答えた。




「いや、感謝するよ。あのまま無鉄砲に走り回るよりも、ここの方が見つけられる」




 屋上からリエ達が居そうな建物を捜索する。手すりに手をつけて、夜の町を見渡すと駅の向こうにある隣町まではっきりと見える。




「本当に遠くまで見えるのね」




「わしは嘘はつかん。居そうな場所なんてどうやって見分けるんだ?」




 武本さんの疑問に黒猫が答える。




「レイ達を襲った人物は、幽霊を監禁している。それに楓が助けに行って大きな騒ぎになっていないことを考えると、人が寄り付かず、霊力が集まりやすい場所だ。そうなると絞られる」




 黒猫は灯りの付いていない建物を一軒ずつ記憶して、降りた時に周れる様にする。私も同様に建物の配置と距離を覚える。




 屋上を半周した頃。手すりの下に何かが引っかかっているのを私は発見した。

 黒くて四角い。大きさは手のひらよりも少し大きめのサイズといった感じだ。




 私が手に取ると、黒猫はそれを見て、




「トランシーバー? なんでこんなところに……」




「わしのではないぞ…………あ、そういえば」




 トランシーバー関係で何か思い出したのか。武本さんは私達にあることを伝える。




「この前お主らが連れてきたカメラボーイがまた来たぞ。きっと其奴が置いていったんじゃないか」




「石上君が? なんで?」




「その時も病院内を撮影して回っておったし、心霊資料を得るためだろうな」




 話を聞いた私は何の役に立たないと判断して、最初にあった場所に置き直す。

 しかし、置いた時の衝撃でスイッチが入り、トランシーバーのライトが付いた。




「あ、あ、付いちゃった!! ねぇ、タカヒロさん、どうしたら良いの!?」




 突然動き出して私は焦って黒猫に見せる。




「なんだ、見せてみろ……」




 地面に置いて黒猫に操作してもらう。




「きっと、この辺を押せば止まるはず」




 猫パンチでボタンを押して何かを切り替えると、突然トランシーバーから音が鳴り出した。




「…………ジ、ジジ……だ、……誰だ。誰か、そこにいるのか!」




 聞き覚えのある音声が流れる。しばらくすると音が消えて、しばらく無言の時が流れたのち。

 また声が聞こえ出した。




「……使い方は分かるか? 同じボタンをもう一度押せ。そしたら喋れる」




 私達はそれぞれ顔を合わせて、それからさっきと同じボタンを押した。

 そして話しかけてみる。




「こちら霊宮寺。聞こえますか?」




 ボタンをして切り替えると、声が返ってきた。




「霊宮寺……霊宮寺さんですか!? なんでそんなところに!?」




「その声はやっぱり石上君よね。今忙しいからまた今度ね。このトランシーバーは置いとくよ」




 声の主は石上君であった。会話を終えてトランシーバーを置こうとすると、焦る声が聞こえてくる。




「待ってください! どこから説明したら……。とにかく、今、楓君達と一緒にいるんです!!!!」




 予想外の情報が伝えられて、私達は口を大きく開けて固まった。

 私はトランシーバーに口を近づけて、大声で話す。




「今どこにいるの!!!!!」




 声が大きすぎたのか。黒猫が耳を畳んで嫌そうな顔をする。

 ボタンを押して向こうの返信を待つ。




「…………ジ、…………ここ、………ジィィィ………………」




 しかし、雑音が入り、石上君の声が聞こえなくなる。




「石上君!?」




 どれだけ呼びかけても雑音が混じり、聞き取ることができない。




「なにこれ……」




 私がトランシーバーを振って直らないか、必死で動かしていると、武本さんが何かに気づいた。




「強い力を感じます……」




 そう言って屋上を歩き、駅とは反対側へ向かう。私と黒猫も武本さんを追いかけて、武本さんの見つめる先を見る。




 すると、町の向こう。川を挟んだ先にある建物が崩れて、何かが生えてきた。

 黒くて長い何かが現れると、建物の中から何かを掴んで山のほうへと投げ飛ばす。




「レイ……まさか」




 その物体を見た黒猫が震えた声で口にした。




「あれってまさか……。なぁ、レイ、リエじゃないよな」




 タカヒロさんとミーちゃんは嫌な雰囲気を感じ取った様だった。

 武本さんは目を背け、その存在を見ない様にする。




 私は呼吸を整え、感じたことを伝えた。




「間違いない。あれはリエよ」




 なぜ分かったのか。リエに会ってから今まで取り憑かれてきたからこそ、その霊力の波動から分かる。

 あの悪霊から流れ出る霊力はリエのものである。




「俺達は間に合わなかったのか……」




 黒猫は遠くにいる悪霊を見つめ、茫然と呟く。その声は自分を責めている様にも感じられる。




 黒猫が悪霊を見守る中、私は背負っていた布を降ろす。




「レイ?」




 長い棒を布から取り出し、中身を確認する。




 そこに入っていたのは、1メートル以上ある長い銃。銃の上部にはスコープがついており、布の中には弾が一つ一緒に入れられていた。




「銃……? 夢の時みたいだが、現実なんだよな」




 銃を見て驚く黒猫。その隣では見慣れない武器に興味津々な武本さんがこちらを見つめている。

 私はそれを手に取ると、しっくりと来るような不思議な感覚がした。




「PSG1……」




 私は無意識に呟く。それを聞いた黒猫は不思議そうな顔をした。




「レイ、知ってるのか?」




 黒猫に言われて私は自分の口から無意識に出た言葉を初めて自覚した。




「いや、知らない。でも、なんでだろう……」




「実は銃マニアだったとか?」




「そんなわけないでしょ」




 私は否定しながらも、立ち上がると悪霊の見える位置に移動する。




 なぜだか分かるのだ。どうしたらこれが使えるのか。




 私が銃を持って悪霊に狙いを定める。スコープからはっきりと向こうの様子が見えた。




 瓦礫の中から細長い上半身を出し、空を見上げている。その姿にもうリエの面影はない。

 そこにいるのは友人ではなく、悪霊であった。




 悪霊に銃口が向くと、黒猫が私に飛びかかり、私のことを押し倒した。

 銃は倒れた反動で転がり、私が拾おうと手を伸ばすと黒猫が叫んだ。




「武本ォォ!! 拾え!!!!」




 武本さんは素早く銃を拾いかげて、私達から距離を取る。

 黒髪は私の腹の上に乗ったまま、私のことを睨みつけた。




「お前今、何しようとした」




 その声は強く怒鳴る様に見せているが、震えて、今にも消えそうな蝋燭の様な声であった。




「…………タカヒロさ……」




「おい。お前はそんなことする人間か。違うだろ、あいつのために夢の中まで助けに行く様な奴だろ」




 猫の手が丸められると、爪に引っかかった服が引っ張られる。

 猫の細い手の力とは思えない、力強さがそこにはあった。




「洗脳でもされたか……。俺はそんな顔のお前は知らない」




 そんなこと言われても、鏡がなければ確認することはできない。

 それに今はそんなことをしている時間はない。




「退いて……」




「退かない。答えろ、何をしようとしたのか」




 私は答えずに武本さんの方に顔を向ける。




「武本さん、コレを退かして」




 私は黒猫を退かすようにお願いするが、武本さんは首を振って嫌がった。

 武本さんに頼むのを諦め、私は黒猫と向かい合う。




「さっきあんた言ったよね。間に合わなかったって……」




「確かに言った。だが、決断するにはまだ早い。まだ助けられるかもしれない」




「無理だったら? 時間を浪費するだけで、元に戻すことができなかったら?」




「それでも俺はやる。やらなくて後悔するより、俺はやって後悔したい!!」




 私たちが睨み合っていると、悪霊のいる方向から何かが崩れる音がした。

 悪霊が動いて、悪霊がいる建物が半壊したようだ。




「それで犠牲者が増えたらどうするの……。今、楓ちゃんが狙われてるかもしれない。住宅街に出れば住民を襲うはずよ。それでリエは悲しまないはずないでしょ」




「…………それは。だが、リエを犠牲にして良いはずがないだろ!!」




 お互いに退けない言い合い、そんな光景を見守っているのが辛いのか、武本さんが仲介に入る。




「やめいやめい、仲間割れはやめろ! 戦中なら戦死しておるぞ。こういう時こそ、冷静になるべきだ」




 武本さんは黒猫を私の腹から下ろして、少し遠ざける。しかし、意見が一致するまで、銃は返す気はないようで、後ろで隠している。




「なら武本さん。悪霊を助ける方法はありますか?」




 私は止めに入った武本さんに質問をした。




「幽霊歴は長いはずです。何か知ってるんじゃないですか?」




「この流れでわしに聞くか……。正直言えばない。だが、わしはタカヒロ達の様に信じたいからな。可能性はあると思うぞ」




 答えは出しているが、武本さんはタカヒロさん達に賛同のようだ。




 方法はないと言われたが、それだけでは説得することができず、私と黒猫は向かい合って座り、膠着状態になる。




 無言のまま睨み合っていると、置きっぱなしにしていたトランシーバーから音が鳴り出した。




「ジジ…………リエちゃん!!!! ……ジィィィ……」




 そこから聞こえてきたのは、楓ちゃんの声。私達は急いでトランシーバーの下に駆け寄って、話しかける。

 だが、返事はなく、こちらの声は向こうに聞こえていないようだ。




「あいつ、まさかリエを止める気なのか……」




 楓の声から状況を察した黒猫。黒猫は必死にボタンを押してトランシーバーに叫ぶ。




「やめろ、楓!!!! その悪霊はリエなんだ、リエ、だから、……お前じゃ……………」




 前に海で悪霊に襲われた時は、楓を信頼して任せていたが、今の黒猫には当時の様子はない。

 いや、普通の悪霊ならこうはならないのだろう。相手がリエだからこそ、楓には無理だと黒猫は分かっていた。




 黒猫は必死に叫ぶ。声が枯れて、殆ど鳴けなくなるほど叫んだが、その声はトランシーバーの先に届くことはなかった。




 悪霊のいる建物から瓦礫が崩れる音が鳴り響いた。

 夜中に何度も物音がなり、川を挟んだこちら側に住む人達も騒ぎを聞きつけて、玄関から顔を出し始める。




 完全にトランシーバーから流れていた音声が途切れ、私たちは向こうの状況を知ることができなくなった。




 しばらくトランシーバーを見つめていた黒猫は、ゆっくりと動き出すと武本さんの前に立つ。

 黒猫は無言のまま、その場で俯いていると武本さんが一言尋ねた。




「……良いのか?」




 黒猫は答えることなく、私に背を向けたまま。




「あいつの言う通りだ。これ以上の犠牲はリエも望まないはずだ」




 黒猫の言葉を聞き、決断を理解した武本さんは銃を私に手渡した。




「友を撃つのは辛いぞ。無理ならわしが撃つぞ」




「いえ、私がやらないといけないから」




 私は銃を受け取ると、すぐに悪霊の方に銃口を向け、スコープで狙いを定めた。







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