第40話 『さよなら』
霊能力者のレイちゃんは、ダメ、無能、役に立たない?
著者:ピラフドリア
第40話
『さよなら』
決断をした黒猫は自身を武本さんに抱っこしてもらい、私と悪霊の最後を見届ける。
「武本、一つ良いか」
「なんだ?」
「あれを拾ってくれるか?」
黒猫はトランシーバーを拾うことを武本さんに頼む。武本さんはトランシーバーを拾い、黒猫の目線を邪魔しない程度に前に持ってくる。
「楓、聞こえるか……」
そして優しい口調でトランシーバーの先にいるであろう人物に語りかける。
「俺だ。……お前のことだ。まだ無茶する気なんだろ、すまなかったな、お前一人に任せちまって……。だが、もう良いんだ」
私はスコープを覗いているため、黒猫がどんな顔で喋っているのかは分からない。
だが、想像することはできた。
「お前は十分頑張った。休め……。後は俺達に任せろ」
そう言うと黒猫は武本さんなら顔を見て、トランシーバーを退けるように指示を出した。
武本さんは素直に従ってトランシーバーを適当なところに置く。
そして黒猫は私に告げる。
「やれそうか?」
「…………う、ん……」
「そうか。リエの最後、見守っててやろうぜ」
私が引き金を引くと、銃から飛び出したのは弾丸ではなく黄色い閃光。
いや、これこそが一緒に入っていた弾丸の本来の姿。
お兄様が渡した銃だ。だから普通の銃ではないとは思っていた。
光の光線は暗がりを照らし、真っ直ぐと悪霊へと移動する。
そして悪霊の頭部を貫通すると、大きな風穴を開けて光線は塵となって消えた。
頭部に穴が空いた悪霊は、俯きになるが倒れかけた身体を両手で押さえる。
だが、もう力が残っていないのか、身体は薄くなり小さな粒子になって消滅していく。
悪霊が消えゆく姿を、私達はただ見つめる。これが最善であったのだと、信じて……。
「これから迎えに行くのか?」
私が布に銃を包めていると、黒猫が近づいてくる。
武本さんと何かを話していたようだが、相談事は終わったようだ。
「ええ、リエをあのままにしておくわけにはいかないし、楓ちゃんも心配だからね」
「……そうだな。早く行こうか……。そういうことだ、武本。今回はありがとな」
廃墟の病院を離れることにした私達。黒猫が武本さんにお礼を言うと、武本さんは申し訳なさそうに首を振る。
「わしは何もできとらんよ……。また来い、その時は酒でも飲み交わそう」
武本さんに見送られて、廃墟の病院を出る。黒猫は塀の上を乗って私の先頭を歩く。
「だいぶ騒ぎになってるんじゃないかな。大丈夫かな……」
私が呟くと黒猫は振り向かずに歩きながら答える。
「騒ぎか……。きっと今回もこの事は忘れられるぞ」
「え?」
「幽霊が悪霊になる。なら、幽霊の数だけ悪霊がいることになる、なのに悪霊の存在は表立って出てこない、誰かが……。そうだな、お前の兄貴とかが何かやってるんじゃないか」
「お兄様を疑ってるの?」
「…………」
住宅街を抜けて橋を渡ると、不思議なことに騒ぎは治っており、一般人の野次馬は一人もいなかった。
そう、一般人は……。
コインを弾く音がする。私達が崩壊した廃墟にたどり着くと、その入り口の前にコインを飛ばして遊んでいる男性が立っていた。
「また会ったな。麗しの美女」
男性は笑顔を向けてくる。見覚えはあるが、この男性が誰なのか、私は知らない。
「あなたは……」
「名乗るほどのものではないよ。しかし、君の友達は無茶をするね」
男性はコインを飛ばしながら建物の中に視線を送る。私と黒猫が男性の視線の先を見ると、そこには包帯でグルグル巻きにされた楓ちゃんが地面に寝そべっていた。
「楓ちゃん!!」
私は楓ちゃんの元に駆け寄り、状態を確認する。大怪我はしているが、完璧に治療がされていた。
黒猫は入り口で男性を睨みつける。
「お前がやったのか?」
「違う違う。俺達は国木田を捕まえにきたんだ」
男性は弁解をするが、黒猫の疑いは晴れない。それが分かってか、建物の中から赤いバンダナを巻いた青少年が出てきた。
彼は黒猫に向けて男性のことを伝える。
「喋る猫……。その人は楓君を治療してくれたんです」
「石上……か。本当か」
頷く石上君。私も楓ちゃんの状況を黒猫に伝える。
「完璧に治療されてる。本当よ」
楓ちゃんの状況から黒猫も疑うことをやめ、素直に男性に謝った。
「すまん、疑って……」
「いや、本来俺達が君らを守るべきだったんだ。俺達の捜査が遅れたあまり、君達に辛い思いをさせた……」
男性はコインをキャッチして飛ばすのをやめると、ポケットに手を突っ込む。
そして建物から離れるように歩き出した。
「俺は国木田を追う。手は尽くしたが、これだけの事態だ。騒ぎになる前に早めにこの場を離れておくようにな」
そう言い残して男性は夜道に姿を消した。しばらくして、赤髪の青年が車を運転して、建物にたどり着いた。
「寒霧さん、皆さん無事ですか!?」
やってきたのは赤崎君だけでお兄様はいないようだった。
黒猫と石上君は楓ちゃんを車に乗せる。急いで楓ちゃんを病院に連れて行かないといけない。
だが、私は夜の瓦礫の上を歩き、彷徨うように探す。
黒猫は途中で私と目が合うが、目線を逸らした。
楓ちゃんを車に乗せ終わり、石上君は私に叫ぶ。
「行きますよ、霊宮寺さん!!」
私は気づくが、それでもすぐに行かず瓦礫の上を彷徨っていると、何を探しているのか石上君が気づいたのか。
ある物を持って私の元まで駆け寄ってきた。
「これは返しておきます」
そう言って渡されたのは、折られたペンと破られたノート。
私はそれを見てすぐにリエの物だと分かった。
私はペンとノートを受け取り、リエの代わりに抱きしめた。
それから数日。まだ暑い時期は続くが、もうすぐ夏の終わりが近づいてくる。
「ミーちゃん、ご飯だよ」
私は黒猫に夜ご飯をあげる。
リエがいなくなって、事務所は静かになった。いつもと変わらない部屋もソファーもなんだか広くなった感じだ。
しかし、静かなのはリエがいなくなったからだけではないのだろう。
楓ちゃんもあれから数週間の入院することになり、しばらくの間、会えていない。
それに……。
私は立ち上がり、ソファーに座ると黒猫がご飯を食べる様子を見守る。
キャットフードをしっかり噛んで飲み込む。食べる姿から、どちらの意思で動いているのか、すぐに分かる。
それに……タカヒロさんも声を出す回数がめっきり減った。
全く喋らないというわけではない。
楓ちゃんの見舞いに行く時や依頼の時など、必要に応じて声を出すことはある。
しかし、最低限しか顔を出さない。
「さてと、私のご飯も作らないと」
私は台所に行き、自分のご飯を作り始める。冷蔵庫には昨日の残りご飯が余っており、その他にも適当な食材があった。
調理をチャチャっと済ませて、私はテーブルにご飯を並べた。
作る量が減り、おかずの数も減った。
私はテレビをつけて黙々と炒飯を食べ進める。
「あ、またやってる……」
テレビではある建物の老朽化による崩壊が取り上げられていた。
それはこの事務所から川を挟んだ向こうにある、とても近い建物のニュース。
「やっぱりあの人が何かやったのかしら」
私は炒飯を食べながらある人物のことを思い浮かべた。
それは楓ちゃん達も元に駆けつけた時に、楓ちゃんを治療して待っていた男性。
その男性のことを考えながら食事を終え、私は食器を洗う。
夜も静まり返り、私が寝ているとインターホンが鳴らされた。
こんな夜中に誰がやってきたのか。
私は寝たまま時計を確認して、ため息を吐くとベッドから起き上がる。
パジャマを隠すため、クローゼットの中から適当に羽織るものを取り出して、廊下に出た。
廊下には同じようにうとうとしている黒猫がいた。
「夜行性でしょ?」
「俺は人間なんだよ……」
眠たそうに文句を言う黒猫。だが、文句を言いながらも起きて一緒に来てくれた。
「はーい」
私が扉を開けると、そこには……。




