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空色の魔女見習い  作者: アル
第一章 転生の魔女見習い
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届かないもの

「少し休憩しようか」


 そう言ったところで私は背後に目を向ける。そこにはカートにティーセットを携えたリアが居た。彼女はいつの間にか居たみたいで、フィー君が唸っていた頃には既にそこに居て私たちが気が付かないうちに後ろで待機していたのだろう。

 フィー君も私につられるように後ろを見てリアの存在に気がついたようだけれどその顔には驚きに近い表情が見て取れた。


「残りはお茶でもしながらゆっくり話そうか」

「あ、ええと、いただきます」


 そんなフィー君の様子を見て可笑しくも和やかな気分になりながらリアに準備をお願いすると彼女は短く返事をしてから直ぐに準備に取り掛かってくれた。


 それにしても……朝の事といいありえない話だけれど、もしリアが暗殺者か何かであったなら私の命なんてとうに無くなっていそう。そう思えるほどにリアはなんでも手際良くこなしてくれるんだよね。手際とかそういう問題でもないような気もするけど……。


 それから程なくしてティータイムになった。ふとフィー君が「いつの間にきていたのでしょうか……」と小さく疑問を漏らしたら、その疑問に答えるようにか「従者の嗜みでございます」と軽いカーテシーをしながらそれだけを言ったのみでリアは澄まし顔で私の側で待機する姿勢になってしまった。


「それじゃどこまで話したっけ」


 そんな二人やりとりを眺めたり、リアの淹れてくれた紅茶を味わいながら少しの時間を空けて改めて私は話題を切り出す。別にどこから話していいのかを忘れたというわけではなくて途切れてしまった話題の認識をすり合わせるためだ。


「たしか、人はもともと魔法をつかえなかった……ってところからでしょうか」

「そうだったね。じゃあそこからだ」


 もともと魔法をつかえなかったこの世界の人間がなぜ魔法をつかえるようになったのか。


「結果としては理由はね、わからないんだ」


 引きつけた割には無責任とも言えそうなその言葉にフィー君の表情は見事なことに呆気にとられた表情へと変わる。

 もちろんそれで話を終わらせるわけにも行かないのでその表情を見ながらもいたずらが成功したかのような気分で話を進めることに。


「わからないっていうのはあくまで始まりの話なの。私が個人的に調べた結果の話だけど今まで使えなかった魔法をどうして使えるようになったのか、その明確な理由はわからなかったんだ」


 過去の私はそれがどうしても気になっていろいろと調べてみたんだっけ。読める範囲で歴史書やそれこそいつのものかも分からないような古い書物も読んでみたり、人から話を聞いてみたりしたけれど明確な答えを得る事はできなかった。

 ただ魔法の始まり、ルーツこそは分からなかったけれどそれに繋がる不思議な何かを見つける事はできたんだ。


「今の私たちがどうやって魔法を使えるようになるのかは知ってるかな」

「『洗礼』の魔法、でしょうか」


 自信なさげなその答えに私は「よくできました」と賛辞を贈ってから再び話を続ける。


「『洗礼』の魔法によって人は魔法をつかえるようになるんだ。なんでも魔力との親和性が上がるとか? 眉唾な話に聞こえるかもしれないけれどそういうもの、だと今は考えるしかないかな」


 魔法を使えるようになる魔法。なんとも摩訶不思議なものか。まるで哲学みたいだね。魔法が先か、魔法が使えるのが先か?


「そういうもの、ですか?」

「そういうものそういうもの。ただ才能だったり遺伝だったりしてか『洗礼』を受けても中には属性適正を得られない人もいるみたいでね、そうなると結果として魔法が使えないっていうケースも出てくるんだ」


 もともと魔法をつかえない人間が魔法を使えようと使えまいと生きる上で苦労はしても死んでしまう、なんていうことはないだろう。


 気が付けば淹れてもらった紅茶がすっかり冷えてしまうぐらいには話していたみたいで、私はそろそろと突然始まったこの勉強会をお開きにすることにした。


「……うん今回はこれくらいにしておこうか、詰め込み過ぎても覚えること自体大変だろうし。はなしきれてないことも多いけどそれはまた今度にしようね」


 その言葉にフィー君も了承してくれて、座っていた椅子から立ち上がりこちらに近づいてきては今日のお礼を言ってくる。


「ねえさま今日はありがとうございました。……その、またここにきてもいいでしょうか?」

「もちろん、いいよ。いつでもおいでよ」


 おずおずといった様子でこちらに伺ってくるかわいらしい弟にそう言って頭を優しくなでてあげればうれしそうに目を細めてくれる。そうしてフィー君は満足したのか「またきますね!」といってかわいらしくお辞儀をしてから部屋を去っていったのだった。


「ふぅ……誰かに物を教えるってのは大変なんだね」

「そうは言いつつも楽しそうでございましたね」

「楽しくはあったけど、頭で説明しようと考えてることと、実際に口で説明できることにはどんなに気を使っていても違いが出ちゃうものなんだね。言葉として誰かに伝えるのは本当に大変だ」


 リアは私の愚痴に近い誰に宛てたものでもない独り言みたいなものにもにわざわざ付き合ってくれる。その表情を盗み見れば先ほどまでの澄まし顔をやめていて、今度は穏やかな私といつもいる時の表情だった。

「お疲れさまでございます」と言いながら差し出してくれたのは熱々の紅茶。彼女は火属性の魔法は使えないから火を起こす魔道具でも使ったのだろうと考えながら紅茶を口に含んだ。


「もし、魔法使えなくても諦めずに足掻いているような人が居たらその人はどんな人なのかな」


 魔法使えないことを残念に重いつつ、少しばかり静かになったこの部屋でそんな人はそうそういる訳ないとも思いながらも、私に似た誰とも分からない人物を夢想するのだった。

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