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空色の魔女見習い  作者: アル
第一章 転生の魔女見習い
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いざ、魔導都市へ その三

「到着する前にウィアラクタについてお話ししておきましょう」

「どんなお話でしょうか」


 欠伸を噛み殺しながらの退屈だと思っていたこの会話の中、突然気になる単語が飛び出して来る。私の琴線に触れたのが嬉しいのか、「そうでございますね、先ずは……」と前置きを入れつつ公爵は嬉しそうにその続きを話し始めた。


「ウィアラクタやその周辺は他の貴族が治める領地などとは違い、三つの貴族によって治められています。そのうちの一家が私たちアルステラ公爵家でございます」


 その話は聞いたことがある、というより三つの貴族達によってというのは有名な話だった。どうして魔都だけがその様な体制なのか、それはとても単純な話で一つの貴族てはその貴族が力を持ちすぎてしまうから、ということだ。ときどき『魔都はもう一つの王都』なんて形容されるほどに力を持っている。だからこそその力を分散させるためにこのような形になったのだろう。


「残り二家は侯爵家でしたね。よくよく考えれば一家だけ公爵ともなれば力関係が崩れてしまうのではないですか?」

「殿下は勉強家でございますね。王都では中々手に入らない我が領地の情報を抑えているとは」

「買い被りですよ。この程度であれば簡単に手に入ります」


「なるほど」と感心したように公爵が言ったあとに、彼は私の質問に答えるように話をしてくれる。


「ならばこちらも既にご存じかもしれませんが……ウィアラクタは魔法を何よりも重要視します。彼の地に住まう者にとっては我ら三家を除いた貴族の階級などはとっくに形骸化しており、外部の貴族の顕示欲を満たすためだけの仮初のような形でしか残っていません。尤も、その様な貴族は肩身の狭い思いをしてそそくさと故郷にでも逃げ出すでしょうけれどね」


 それは初耳なことだった。そもそも王都と魔都間ではその物理的な距離と魔都の特殊性のために情報を交換する機会が極端に少ない。まともな情報を持っているとすれば……実際に魔都を訪れた事のある貴族やその情報をひとえに受け取っているお父様、そしてその人物らから情報を得ようとする者くらいだろう。公爵の言う情報が手に入らないというのも誇張ではない話だ。


「殿下の場合はどちらになるのでしょうか」

「どちらとは?」

「簡単なことでございますよ。ウィアラクタに殿下が受け入れられるのか、られないか。そして殿下自身が彼の地有り様に適応出来るか、出来ないかでございます」


 それは大層愉快そうに公爵は言うのだ。さて、どう返事をするかなとそんな彼に私が悩んでいると今度は至って真面目な表情で言葉を続ける。


「私は殿下が何を成し遂げたいのか、非常に興味がございます」

「興味を持って貰えてるのは嬉しいですけど、ならもう少し挑戦的な発言は控えたほうがいいかと……」

「おや、これは失敬いたしました」


 今度はまた愉快そうに笑うのだ。見事な百面相というか、呆れるというか……。


「ですが、私と致しましては殿下が受け入れられないのでは? という懸念がありまして」

「それはどういう意味ですか? 私は権力などに執着した覚えなんて無いのですけど」

「いえ、そちらの心配はしておりません」

「では何の?」

「殿下の体質といいますか、何といいましょう。その特殊性でしょうか」


 その言葉にどきりとした。そこまで言われれば公爵の言いたいことは十分に伝わってくる。同時に一体どこまで知っているのだろうという考えに至った。


「この様な噂を聞いたことがございます。『殿下は魔法が使えないのでは?』と。それが事実であれば実力主義なウィアラクタで過ごしていけるでしょうか」

「そんな噂、私もリアも聞いたこと無いのですけど」

「それはそうでしょう、本人に聞こえる所で噂など流す勇者など何処に居りましょう」

「ではその噂を流した人物は勇者というよりはよっぽど狡猾なのでしょう」


 ばれない様に噂をというのはごもっともではあるけど、隠しておくにも限度というものがあるだろう。そもそも私が魔法を使えないのを知っているのはほんの一握りの人物だけだ。そしてその人物たちに噂を流して得をするような人はいないだろう。……ならば一体誰が?


「ふむ、何方かが謂れのない罪を被る前に自白しておきましょう」

「はい?」

「誰もうわさなど流して居りませんよ、ただ私の方で殿下を好き勝手に調べさせていただいたのみでございます」


 はい? あれですか、ブラフってやつなのですか?


「……へえ? それはそれはご苦労様なことですね?」


 私は何とか怒りを踏みとどめては返事を返す。怒りに身を任せるのは簡単だけど、そうしていいことなど何もないのだから。出来るだけ冷静でないといけない。


「おやおや……これは怒らせてしまいましたかね」

「お父様が出立前に『信頼はするな、出来るだけ信用もするな』なんていった理由がよくわかります」


 ならこんな人護衛に付けないでよ! それに魔都でも関わらないといけないってどういうことなのお父様!


「当然の評価でございますね」

「あっさり認めるのですね」

「仕事柄、仕様がないことでございますから」

「護衛対象の信用を損なうことがあなたの仕事なのですか」

「いいえいいえ。本来なら殿下にはばれない様にしたかったのですが、直ぐにばれることになるでしょうからせめて信用して貰うためにもこちらから白状したまでございます」


 話が見えないのだけれど……この人は何を企んでいるのかな。それにこの状態で信用だけでもって、到底無理な話じゃないだろうか。


「殿下、私は全力を以って殿下の援助をさせていただく所存でございます。その為には殿下やそちらのお嬢様のことをよく調べなくてはならなかったのでございます、そして貴女方の為人を知っておきたかったのです」


 そうして最後に公爵は真摯な態度でそんなことを言うのだ。一方の私はここにきて、私はこの話の対象が私だけではなく、リアにまで及んでいたと気が付くのだった。


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