第68話 無理難問4 夢乃
今でも 覚えてるんだ
鮮明に すべてを。
泣き叫ぶ母親 幼い私 困った顔をする父親
2人の間には1枚の紙が置かれていて
あの頃の私には理解できなかった物。
それは離婚届だった。
そんな夜を私は何度も見た。
だけど 男は女の涙に弱い それは本当のことだった。
父親は 離婚の話を持ち出しはするがハンコは押さなかった。
それでも あの日は訪れた。
あのままで続くはずがなかったんだ。
父親も 母親も。
あの家庭が あんなぐちゃぐちゃのまま 外見だけしっかりして 続くわけが。
偶然じゃない 必然。
父親は荷物を持って家を出て行く。
泣き叫ぶ母親
父親はそれにはもう 振り向かない。
泣き落としなどもうきかない。
あの時 言ってやればよかった。
なんでもいいから 私から何か。
子供の私が 何か言えばよかったんだ。
小学生だった私は ただ静かに涙を流すしかなかったけど。
無力なひきとめの言葉でもいい
ただ傷つけるだけの言葉でもいい
子供なら子供らしく 偽善を並べた言葉でもいい
子供なら子供らしく 大声で泣き叫んだってよかったんだ。
だけど 私にはできなかった。
もちろん父親の幸せを願ったりはしていない。
私みたいな子供1人を幸せにする方法すらわからなかった大人の幸せなど 願うわけがない。
母親の不幸を願ったわけでもない。
だって 母親を不幸にして 何になる?
わからない
今でも私にはわからない。
私の心はまだ あの頃のまま 止まってる
だから 男なんて信じない
信じて あの頃みたいになるのは嫌だ
きっと 私は裏切られる
捨てられる
逃げられる
だから 信じないの
克哉のことは信じてもいいかな って思う。
昔から一緒にいて
女好きだけど 男の中では1番まともに信用できたかもしれない。
だけどね 信じられないの。
ガッカリさせられるのは ごめんなの。
またあの頃みたいになるのはもっとごめん。
信じることを あの頃の私が拒否する
これを世の中で トラウマというのだろうか?




