第31話 初めて・・・の相手
「・・・燐?どうしたんだ?」
1階の廊下は授業前だから誰も通らない。
授業 またサボっちゃおうかなぁ・・・
なんかもう 全部どうでもよくなってきた・・・
「あ・・・ご ごめんね 連れだしちゃって・・・えと・・・」
「別に 燐ならいいけど?」
・・・あ
忘れてた・・・
そうだ カノンに告・・・
「飛鳥と何かあったんだ?」
「!」
トンッ
後ずさりするとすぐ後ろに壁があった。
背中がぶつかって 後ろを見なくても『これ以上逃げられない』とわかった。
すぐ前にカノン。
誰も通らない廊下
『逃げろ』と脳が危険信号を送ってくる。
でも どうやって?
「飛鳥と ケンカでもした?」
「べ・・・別に・・・」
「隠すことないじゃん」
「でっでも・・・えと・・・その・・・ケンカってほどのことじゃ・・・」
「俺としては 2人がケンカしてくれたらラッキーなんだけど?」
カノンが私の首筋を指でなぞる。
「や・・・何!?」
カノンの手をつかんでどかせるとカノンはくすくすとわらった。
「ラッキーって・・・なんで?ひどい!私と飛鳥がケンカしたらうれしいの!?」
「うん 嬉しいよ?俺は。」
「なんで・・・」
「俺 言ったよね?燐のことが好きだって。」
「ぅ・・・うん・・・でも私・・・」
「だから 飛鳥はライバルだよ?俺にとっては邪魔な存在なんだよ」
邪魔?飛鳥が?
なんでそんな ひどいこというの?
「だから 俺にとって飛鳥と燐がケンカしてくれたほうが 楽なんだよ」
「楽・・・って 何が?」
「ん?決まってるじゃん 燐のこと奪えるでしょ?飛鳥がいなければ」
「な・・・ッ!?」
「・・・燐はさ そういう無知なところが可愛いけど・・・致命傷だね」
「へ?」
カノンの顔が近づいてきて 私の耳に口付ける。
「や・・・やだッ 離して!!」
離してくれることなく カノンが今度は頬に口付けてくる。
「やだ・・・ッ やめてっ カノン・・・やめて!」
逃れようとして動こうとすると足がすべって座り込む。
そんな私を覆うように後ろに手をおいてカノンはまた近づいてくる。
口から くすくすと笑い声を漏らして。
気持ち悪い
やだ こわい・・・
「や・・・本当に・・・離して!!お願い・・・離してよ!」
「・・・燐」
耳元で名前を呼んで カノンはにっこりと満足げに微笑んだ。
じんわりと視界がゆがむ。
涙が目にたまる。
「ねぇ 燐・・・飛鳥とはもうキスしたの?」
「な・・・っ!?」
かあっと顔が赤くなるのを感じる。
キス・・・って 口と口?
そんなの・・したことあるわけないじゃん!
「・・・腹立つなぁ」
カノンはそうつぶやいて私の肩を壁に押し付ける。
「や・・・痛・・・ッ」
次の瞬間 唇にやわらかいものが押し当てられる。
「ん・・・っ ・・・っ」
目の前には目をつむるカノンの顔。
されてることを自覚して 目の前が真っ白になる。
「・・・んっ」
離してと 喋りたいのに喋れない
「ゃ・・・・・ッッ」
ぱたぱたと腕を動かすけどそれは宙を仰ぐだけ。
突然 口の中に何か入ってきて・・・
「ぅ・・・・・・ッ!」
ドカッ!!! ドサ・・・
何かがぶつかった音がして その少し後に何かが落ちた音がする。
目を開けると カノンの顔はなかった。
恐る恐る顔をあげると そこにはかなり怒った飛鳥。
「あす・・・」
「テメェ燐!!何してんだよバカ!!!!」
「な・・・バカ・・・って・・・」
「なんで カノンなんかとキスしてんだよ!!つーか 俺以外の男と・・・・ッッ」
飛鳥はそこまで言うとため息をついて私のすぐ前にしゃがみこんだ。
「お前 何考えてんだよ・・・取り返しのつかないことになったら・・・」
「・・・・・」
急に足と手と腕 ううん 体全身がガクガクと震えだした。
「・・・燐?」
「こわか・・・ッッ」
涙をぽろぽろと落とす。
飛鳥が私を強く抱きしめる。
唇に残る違和感
どうして・・・
初めて・・・だったのに
さっきまであふれてた飛鳥へのもどかしさが どこかへすっ飛んでしまっていた。
「・・・飛鳥・・・飛鳥・・・ッ」
ぎゅっと飛鳥の服をつかむ。
「・・・燐 カノンに何されてたんだ?」
「そういえば・・・カノンは?」
答えられないよ
その質問には
だって 何されたか・・・言っちゃったら・・・
「・・・どっか行った」
飛鳥は私のことを抱きしめたまま 強い口調で言う。
「・・・言えよ 何されてたんだよ?」
「・・・ぃ いえない」
「は?」
「言えない・・・ッ」
だって 飛鳥以外の男の子と・・・私・・・
思い出したら また涙が流れた。