第1話
――人は言う。
『運命のいたずらだった。』
『偶然、あの人と再会した。』
『吊り橋効果で好きになったのかもしれない。』
『あの日、曲がり角でぶつかったのが始まりだった。』
だが、それらは偶然ではない。
すべて――天使の仕事だ。
◇◇◇
「第三区画、交差点イベント開始します!」
「運命演出課、了解!」
真っ白な雲の上に建てられた巨大な建物。
その名は――天界恋愛管理局。
建物の中では、白い羽を生やした天使たちが慌ただしく飛び回っていた。
「高校二年生、立花翔と一ノ瀬遥!八時十二分三十秒、通学路交差点で接触予定!」
「風向き調整!」
「信号三秒遅らせます!」
「了解!」
モニターには人間界の映像が映し出されている。
青信号。
女子高生が小走りで横断歩道を渡る。
その反対側から男子高校生が走ってくる。
「今です!」
天使が指先を鳴らした。
ふわり、と優しい風が吹く。
女子高生の髪が揺れる。
「きゃっ!」
「わっ!」
ドンッ。
二人は軽くぶつかった。
「ご、ごめんなさい!」
「いや! 俺こそ!」
顔を真っ赤にして見つめ合う二人。
その瞬間。
淡い桃色の光がふわりと空へ昇っていく。
「恋愛エネルギー発生!」
「回収班、回収完了!」
「運命演出課、成功です!」
オフィス中から拍手が起こる。
◇◇◇
「続いて、吊り橋効果課!」
別のフロア。
巨大なモニターには渓谷に架かる一本の吊り橋。
「対象二名、友達以上恋人未満。」
「あと一歩です。」
「橋を少しだけ揺らしてください。」
「了解。」
天使が杖を振る。
ギシッ……
橋がわずかに揺れた。
「きゃっ!」
「危ない!」
男子高校生がとっさに少女の手を掴む。
少女は頬を赤く染めた。
また桃色の光が天へ昇る。
「成功!」
「今日もいい仕事ですね。」
「やっぱり吊り橋効果は鉄板ですよ。」
天使たちは満足そうに頷いた。
◇◇◇
「ラブハプニング課!」
「文化祭イベントです!」
「風力、レベル1。」
「了解。」
校舎の窓から心地よい風が吹く。
プリントが舞い上がる。
「あっ!」
男子高校生と女子高生が同時に紙を拾おうとして――
コツン。
額がぶつかった。
「いてっ!」
「ご、ごめん!」
二人は思わず笑い合う。
また恋愛エネルギーが発生した。
「完璧です!」
「次の現場へ!」
天使たちは今日も忙しい。
恋は、こうして少しずつ育まれていく。
・・・一人を除いて。
◇◇◇
「新人天使アリア!」
「は、はい!」
名前を呼ばれ、金色の長い髪を揺らした少女が勢いよく立ち上がる。
透き通るような青い瞳。
雪のように白い羽。
誰もが見惚れるほど可憐な美少女。
ーただし。
「運命演出課、本日が初任務です。」
「が、頑張ります!」
「目標は高校生男女を交差点で軽くぶつけること。」
「はい!」
「風力レベル1。」
「はい!」
「レベル10じゃありませんよ?」
「わ、分かってます!」
モニターに人間界が映る。
「三、二、一……今!」
「えいっ!」
アリアが杖を振る。
その瞬間。
ゴォォォォォッ!!
「え?」
突風。
女子高生が吹き飛んだ。
「きゃああああ!」
ぶつかった相手は男子高校生ではなく、自転車に乗った体育教師だった。
「うおおおっ!?」
ドミノ倒しのように自転車が倒れ、通学中の生徒たちが大混乱になる。
恋愛エネルギー。
ゼロ。
運命演出課主任は静かに目を閉じた。
「……新人。」
「は、はい。」
「あなたは明日から吊り橋効果課へ異動です。」
「え?」
こうして、アリアの受難が始まるのだった――。




