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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅲ 噂の大怪盗
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噂の怪盗、現る


「あの……。ここでは、どういったことをされてるのですか?」


「降ってきた星くずを加工する作業……」


 玉藻が不機嫌そうな顔つきになる。


 もしや……気に掛けてしまうなことを聞いちゃったのかな?


 それなら申し訳ない。


「変な質問してごめんなさい」


「いえ、ただの工場ですので面白みに欠けるかなと思いまして」


 白い狐耳が敏感に動く。


 玉藻が抱えていた、悩みの種がみえみえだ。


 この作業場所には芸がない、とでも言いたいのか。


「加工は……ゾンビの為ですか?」


 そんなことないと言いたいところだけど。


 実際、甘い言葉なんて言ってられない。


「半分そうとも言えるかもですが、実際はもっとアバウトなのですよ。ここで黒狐が生産している加工品は、この地球上で生物が活動するのに欠かせませんから」


「魔界から降り注ぐ流星群は、命と同等クラスの価値を生み出す、実感しました……」


「あら、知っていたのね。魔界のこと」


「はい……。天界とか詳しく知らないけど……」


 この身に天使の羽はあっても、やっぱりよくわかっていない。


 いずれ目にする機会は訪れれるのかな。


 とにかく今は、ここで得た情報を整頓したい。


「ふむ、やはり敵意が感じられないし話しておくか。一匹狼の噂が観測された位置を」


「……本当ですか?」


「はい。その前に地形の把握くらいはしておいたほうがよろしいでしょう」


 玉藻は、部屋に一つだけあった小さな窓の外に目線を向ける。


「この都市部――オオヤマトでは、街が三段構造になっております。平民が暮らすエリアと、上級国民がいるエリア、貴族が住んでいた城を中心とした居住区に分けることが出来ます」


「三つの身分と、異なる暮らし……」


「いまとなっては、身分は殆ど飾りのようなものです。重要なのは、一匹狼の噂がどこに存在しているのか、ですね」


「一匹狼に、リコーダーですよね……。噂が存在するのは、演奏が出来る場所という意味でなのしょうか?」


「そうそう、それで演奏出来るとしたら――」


「学校とかですか?」


「流石ですね……。一匹狼の噂は、音楽室で目撃情報がありました。都市部で学校があるのは、平民が暮らすエリアのみ、あとは分かりますね?」


「つまり、平民が暮らすエリアにある学校に行きなさいということですか……」


「一匹狼の噂を追いかけるというのであれば、そうなるでしょう」


「わかりました。ありがとうございます!」


 次の目標値が決まった。空船に一旦戻って、皆に報告しなくちゃ。


「それでは一旦引き上げるとします」


 私は玉藻に背中を向けようとした時――。


「そうそう、あやかし将軍とお会いした記念ということで、ここからすぐ近くにある倉庫にしまってある噂をひとつ持って帰っても良いですよ」


「噂のお持ち帰り……?」


「はい。ここで保管しておいても、何にも役立たずなものなので、どうぞお好きにしたらと思いまして」


「ありがとうございます……!」


 一礼する私は少し気が緩んだ気がする。


 早速、隣の部屋へと向かった。


「ここです。今のところ三十数点ほどありますので、お好きにひとつ……」


 玉藻が扉を開けると、何か異変を感じたのか、目つきが警戒モードに入っていた。


「……誰ですかね」


「玉藻さん、入ってもよろしいですか?」


「ふむ、わりと急いでそうだし……まぁ、いっか……」


 私が先行して、小部屋に足を踏み入れる。


 パッと見た感じ、誰もいない気がする。


 それにしても、噂を集めた部屋ということがあって、不思議なオブジェクトが目に映っていた。


 ふわふわと浮かんでいるバッテンマークの紙切れに、丸い地球の模型、黒いトランペットなどが見受けられた。


「この黒いトランペット……。持って帰っても大丈夫ですか?」


「うん、いいよ」


「やったー。ありがとうございます」


 ひと目見て決めてしまったけど、後悔はしないと思う。


 見た瞬間、これは天使にしか吹くことが出来ないとわかってしまったから。


 噂の内容は、後で調べたいところだが……。


「絶対いますよね」


「うん、やっぱり……?」


「トランペットが吹きたいのだけど、噂を調べずに実行するのは流石に怖いし」


 少々手荒な真似かもしれない。


 でも、これが一番最適解かもしれない。


「天使の斧を、投てき!」


 私自身が出すことの出来る黒い斧を、怪しい部屋の隅に向かって投げてみた。


 すると、ガサッと音がした。


「ほう。――ワタシの位置を見破るとは、なかなやりおるわね」


 小さな窓の淵に、青いマントを揺らす銀髪の女性が座っていた。


 美しくて長い髪に、蝶の形をした紫の仮面。


 目の部分を隠していて、動きやすいタイツを履いているので、この方は盗みに働く者で間違いないだろう。


「ワタシの名は噂の大怪盗ネプチューンよ。全国の噂を聞きつけて盗みまくるのが仕事なのよ」


 うわ出た、関わると面倒そうな奴だ。早く退散したほうが……。


「乾電池みたいな小道具と、そこいた坊やを頂いておくわ」


 鼻で笑うネプチューンの片手に注目すると、花音が片手で摘ままれていたのである。


「朝比奈ー。ここは天国だよー」


「花音君が寝取られ? というか、どうなってるの?」



「アタシの魔法は幻惑を生み出すの。だからこうやって――」


 ネプチューンは窓ガラスをすり抜けるような形で、外に飛び降りた。


 えっ――。


 ちょっと待て。


 私は慌てて窓辺に向かい、覗きこむもなにも見えなかった。


「あの、花音君が誘拐された……」


 私はこの場で崩れ落ちる。


 あまりにも、信じられない。


 花音君は普通の人間には見えなくて、接触することも出来ない噂なのに。


 けど、起きてしまった。


「怪盗ネプチューン……。近く、都市部オオヤマトを荒らしているという良くない噂を聞いたことがありましたが……」


 黙って見るだけしか出来なかった玉藻も、どこか悔やむ気持ちがあるのだろう。


 悔しい気持ちの表れとして、歯でしっかりと噛みしめていた。



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