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怪談ピアノの掃除当番  作者: 愛原ひかな
Ⅲ 噂の大怪盗
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アリスのお城へ


 月明かりに照らされる、アリスのお城。


 空船の着陸をいまにも待ち望んでいるゾンビの群れが、手を伸ばしていた。


「これ以上、高度を下げれません」


 アリスからの通達である。予め身構えていた私は、教会の扉から飛び降りる。


「一応言っておくけど、朝比奈と僕以外はお留守だよ〜」


 花音が横で囁いてくる。


 アリスは空船の操縦、ゾンビの位置を観測して動きを探っていて、手が離せない。


 夏実は……何してるんだっけ?


「噂をつくってくるとか言って美術館に引き籠もってるんだったかなー」


 そうなんだ……。


 夏実らしいかなと思えばそれまでだけど、せめてゾンビの群れを抑え込んでくれたほうが戦闘は楽になりそうで。


 予定通り、お城の扉を目指します。


 私は目標地点を見つめる。


「まずは、あそこに……」


 天使の羽をひろげて、一直線に飛んでいった。


 建物の傍には、ゾンビ達が寄ってこない。


 これなら探索が出来そうかな。


 ひと安心も束の間。


「貴方は敵? それとも味方、なのかしら……」


 扉が開いて、白い獣耳を生やした者が表に出てくる。


「えっと……」


「とりあえず、入って」


 手を差し出されたので、ここは流れに逆らわないでおく。


「お、お邪魔しますー」


 誰かいるなんて聞いていなかったので内心少し驚いている。


 アリスの事前情報だと、アリスがゾンビをエネルギー源に変換したことによって、お城の中は無人状態である。だったのだが、空き家となっている以上……誰かが拠点として利用してもおかしくないかもしれない。


 アリスがここから離れて、おおよそ一年の月日が経っているわけだし。


「ここ……広いですね……」


 お城の中を歩いているのだが、薄暗い通路が永遠に続いているように思えた。


「貴方は人間? 雰囲気は天使っぽくはあるけど、あやかしと行動を共にしていて、悪魔の匂いまで感じる……。不思議な来客者です」


「雰囲気な来客者ね……」


 空船に乗っているメンバーを考えると、たしかに人種はバラバラなようにもみえるか。


 私自身、あまり気にならないけど。


「ここ、アリスのお城のことなんだけど……」


「この城は現在、レジスタンスの拠点地のひとつとなっております。そして私、玉藻と申します。レジスタンスを率いる、あやかし将軍といったところでしょうか」


 あやかし将軍……。


 聞いたことのない言葉だ。


 あやかしのトップに君臨する存在の総称なのかな。


 私はゴクリと息を呑む。


「空飛ぶ船から降りてくるのは目視してますが……。貴方達の目的、聞かせてください」


「目的、かぁ……」


 出来るだけ具体性のある返事くらいはしたいところ。


 そこでパッと思いつくのはやはり、あれしかない。


「この世界にある噂を集めて、展示しようっていうのが今の目的ですかね」


「なるほど……噂を寄せ集めた美術館ですか……」


「はい、そうです。目的を実行する為に、笹倉さんという男のゾンビを探しておりまして」


「ふむふむぅ……」


「心当たりとかありませんか?」


「残念ながら。ただひとつ言えるのが……。ワーウルフの化身と笛の音」


「何かあるのですか?」


「リコーダーを持った、一匹狼の噂というのがこの近辺で情報が出回っていて。その者のかつての名はたしか笹倉だったはず……」


 玉藻は狐の耳をびくっと動かして、何かを感じ取ろうとしている。


「どうしたの?」


「一匹狼の噂はたまに感知を試しているのだけど、正確な距離が掴めなくて」


 玉藻は深く悩み果てている。


 あやかし将軍は、遠くから観測することが出来るのか。


 それでも、噂を完璧に掴めるわけではない。


「おおよその場所、せめて方角だけでも教えて頂けませんか?」


 私は玉藻の両肩を掴んでいた。


 白い獣の髪の毛が、手先にふさふさ当たる。


「……危険を被る気ですか?」


「危ない噂だろうと、いまの私には関係ありません。強い噂なんてむしろウェルカムです!」


「ほほぅ……」


「あっ、少し大げさに言い過ぎたかな……」


 手の力を抜いて間隔を取ると、玉藻がクスッと笑った。


「いえいえ、そうでもありませんよ。自分のことをもう少し信じてみるのは如何でしょうか」


「私自身を信じる……」


 いま出来ることなんて、まだまだ限られている気がする。


 けど、一歩ずつ進んでいきたい。


 その思いが……伝わったのかな……?


「場所を把握したら、早速向かいたいと思います!」


「その前に、ちょっと教えておきたいことがあってね……」


 玉藻は扉の前で立ち止まった。


「ざっくり言うと、あやかしでルーチンを組んでいてね」


 玉藻がノックして扉を開かれると、そこには。


 ベルトコンベアらしき物体に群がる黒い狐たち。


 その足元で、ネズミが走り続けている。


 これはいったい……。


『しょうぐんさまっ、さまっ』


『エサ、くれっ』


「はーい。――今日はお客様がいるから、ちょっと後でね」


 なれなれしく喋る玉藻が、黒い狐の頭をなでる。



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