転生仔竜は長老竜の笑顔がわからない
モフモフだ、モガモガだ……やっぱりよくわからない。
相変わらずの神殿生活だが、最近黒い絞りの作務衣姿のニンゲンらしい生き物が来るようになった。
「ぐちゃりすむす」
「ギャーギャー」
ひざまずいたニンゲンと黒親竜がなんか言ってるが……全然わかんない、われはこのまま意思の疎通ができないまま暮らすんだろうか?と思って数日……
しばらく姿を見なかった黄親竜が帰ってきた……ついでに鈍色のモフモフした親竜より少し小さい竜っぽいものも神殿に来た。
「ぎゅああ」
「キュルル」
「キューキュー」
黄親竜に黒親竜が気がつくと同時に兄弟竜たちが駆け出した、ついでに抱き上げられてたわれも勢いよく揺さぶられた。
うーん、目が回る〜
気がつくとモフモフした竜っぽい生き物にのぞきこまれていた。
「ぎゃギャラリザゼぐりゅりあすあ」
なんか言われたがさっぱりわからない、ついでに口も目も見えない、モップ竜と呼んでみたい。
モップ竜はじーっとわれを見た後、離れようとしてよろけた。
黒親竜があわてて支えた。
がらしあなぁとか言ってさらに動こうとして今度は柱に激突しそうになってる。
えーと……モップ竜大丈夫かな?
黄親竜と黒親竜にモップ竜がなんか言ってるなぁと思ってたらいつも通りネズミが差し出された。
横を見ると案の定、翡翠兄弟姉妹竜がいた。
あわてて赤兄弟姉妹竜が止めてくれようとしている。
いつもすまん、赤兄弟姉妹竜と思ったところでドスンと音がして振り向くとモップ竜が勢いよく前に転倒していた。
親竜たちがあわてて起こすと床に出た岩で切ったのか額からの出血で血まみれだった。
親竜たちはあわててニンゲンが差し入れに使ってる風呂敷で押さえた。
額だし……止血まで時間かかるよね……なんかこの振り向けば転んでるって経験ある気がする……ああ、前世の記憶か?
振り向けばなんかいるじゃなくて振り向けばお年寄りが転んでる、音したら大騒ぎ……ってモップ竜、お年寄り?
高齢竜かな? 大丈夫?
心配でよいしょと近づこうとすると翡翠兄弟姉妹竜が抱えて行ってくれた。
赤兄弟姉妹竜もついてきた。
本当なら縫合デープとかして圧迫して医療用テープで固定してってできればいいのに……と思ってたら黄親竜が不思議な声で歌い出した。
何かの光がモップ竜の額をおおった。
そして声が途切れた時……風呂敷が額から血まみれのまま落ちて……傷口は消えていた。
血液はモップな毛に残ってるけど……魔法? 回復魔法なの? すごいと黄親竜を見るとすごく疲れてる様子だ。
やっぱ、他竜を回復させるのって大変だよね。
黄親竜はそっとしとこうと思ったのに〜
黒親竜とモップ竜もグッタリしてるよ、何で?
翡翠兄弟姉妹竜はわれごと黄親竜に突進して赤兄弟姉妹竜に止められてた。
やっぱり赤兄弟姉妹はよいお姉さん?お兄さん?だよ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ギュラオス、ビーヌエリアの若夫婦に呼ばれてしさしぶりにこの大神殿にきたぞい、相変わらず、竜押しグッズ満載だぞい。
そして待望の子竜……問題の子竜ちゃん、キューヌちゃんはあの子かぞい。
赤ちゃん竜特有のピンクの皮膚が透けて見える半透明な鱗に赤ちゃん竜らしい青い目はいずれどのように染まってもどちらの性別を選ぼうとも両親によく似た美しい竜になるのがみとれるぞい……まあ、ここんちのこは、うちの一族の子たちはみんな可愛くて綺麗だぞい。
しかし……ちょっと小さすぎないかぞい、そろそろ属性の色づきがあっても良い頃だなんじゃが……
「長老、キューヌはどんな感じですか?」
「発育不良かぞい?」
ギュラオスの問に答えながら小さい竜が好奇心満々で観察してる知的遅れはなさそうか?と思いながら下がった……おお、足が……
「長老〜」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だぞい、ちっこいぞい」
ギュラオスが支えてくれたが年寄り扱いはノーサンキューだぞい。
兄弟姉妹竜にかまわれてる様子は普通だが……ちっこいぞい。
もう少し良く見ようか……あ、ああ〜
石の床が近づいて……痛いぞい、なんか赤いぞい。
立ち上がれないぞい。
「長老大丈夫ですか?」
「布よ、押さえないと〜、止血〜」
なんか虹色白菜臭い布を顔に押し付けられたぞい
「止まんないわ、仕方ない、歌うわ」
「うん、背に腹は代えられないよね」
ビーヌエリアの声とギュラオスの声が虹色白菜臭い布越しに聞こえたぞい。
よすぞい、あの歌は……
治れーなおれーなおれー治るのよー
すべての傷は治るのよー
キズキズキズキズキズズキズキキズキズキズキズズキズキズキズキキズキズキズキズー
治るのよーなおれーなおれー治るのよー
ヤバい歌が終わった……血が止まったが頭痛がする……相変わらずド音痴な回復歌じゃぞい。
「お母さんすごいのー」
「お、お母さんはつかれてるからダメだよ」
兄弟姉妹竜たちのやり取りもちっこいのはわかってないみたい……まずいか?ぞい。
まあ、まだ赤子だぞい、あと100年もすれば……ほんとに大きくなるかぞい……うむむ……うちに帰ったら古代の竜の記憶を岩から掘り起こしてみるぞい。
うーん、本当に回復魔法みたいなのがあるんだな。
われも使えるようになるとよいのだが……
それにしても竜は年を取るとモップになるんだな。
それにしてもあの頭からの出血はとか医療用テープとかの記憶は……?
ま、まあ、明日から使えない無駄知識だからいいか。
それよりほんとにそのネズミいらないからね。