修道院侵入
7話分まとめて投稿します。
ヴィンス修道院は四角型にぐるっと中庭を取り込んだ思いのほか堅固な建物だった。
数少ない入り口も、夜半にはすっかり頑丈そうな扉で閉ざされている。
外壁の低くなっているところを探しティアが登り、全員引き揚げてもらって侵入した。
中庭は月光と細雪によって幻想的に照らされている。闇に潜む僕らと対照的に、冬でも咲く白い花がのびのびと花弁を広げていて息をのむほど美しかった。
僕らは一斉に走り出した。
アリスがまず最初に離脱し裏口に向かった。次にティアが二階に消え、次にメルが、次にベアが別れた。
不意な襲撃に加え、ここは修道院、逃げることも戦うこともそれほど危険ではないはずだ。バラバラに別れてもそれほど危機感は訪れなかった。
それよりも僕は、出発前のティアの様子が段々気にかかってきた。あれはただの体調不良だったのだろうか……。どうも悪い予感がする。
思考を巡らせながら見つからないよう慎重に、20分ほど探しただろうか。僕は東の棟の、恐らく来客用と思われる建物の二階のある一室から光が漏れているのを発見した。
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僕は吸い寄せられるようにその扉をそっと開けた。
部屋には、一人の体格のいい男が悠然と後ろ手を組んで立っていた。
調度品の立派な部屋で、僕は瞬時に彼がただモノではないと察した。
「……司教……ですか?」
彼は僕が恐る恐る呼びかけた声に気が動転したように素早く振り向いた。そして突如現れた侵入者に目を見開いていたが、僕を子細眺めるように確認し、にわかに落ち着きを取り戻した。
「ほう……君は確かシオくんだったかな……?如何にも、私がビゴー大聖堂司教、ロザリオだ。前勇者パーティーの村人くんがこんな夜中に私に何か用かね……?」
司教は侵入者の不意な訪問にも、動揺を一瞬に留め冷静に名乗った。ひげを撫でつけ、角張った顔に付いた二つの瞳は冷たさを感じさせるほど威厳がある。
彼は僕が何者かに気付いたようで、むしろ話が早くて好都合だった。僕は彼の堂々たる態度に内心少し気圧されたが、それを振り払うように凄みを込めて言った。もし従わなかったら承知しない、と言外に伝えた。
「話をしに来ました」
「話かね」
「第二の勇者パーティーとやら、いえ、勇者パーティーそのものについて、何もかも説明をお願いします」
彼は僕の出方にふむ、と頷いておもむろにポケットから何か取り出した。
それは僕らが侵入に際し準備したマジックアイテムと同じ、『伝達の魔石』だった。
止める間もなく彼はそれを見せつけるように指先で粉々に砕いた。
「これで私の護衛がすぐこの部屋に来る。修道院で寝泊まりしている聖堂騎士5名と兵士5名だ。彼らが来て、君を捕らえるまでの僅かな時間で良ければ、君の質問に答えてあげよう」
彼は「座り給え」と僕に椅子を勧め自らも鷹揚に座った。僕は完全に後手に回った。
有無を言わせぬ司教の笑顔に従って、僕は小卓を挟んだ彼の正面に腰を下ろした。




