ドラゴン討伐
ドラゴンはキラキラ光る鉱石に囲まれ、体を丸めるようにして鎮座していた。だが僕らを見つけると「グルル……」とうなり声を上げ首を持ち上げた。
棘だらけの尾を揺すり、フシュフシュと鼻から熱風を吹き出してこちらを警戒しているようだ。
その威圧感は流石にドラゴンだった。僕はゴクリと息をのんだ。
じっとりした緊張が場を満たす。
その均衡を崩したのは、やはり勇者様だった。
「うおおぉ!」
決して怯むことなく聖剣を手に駆け出した。その背中はまさに勇者と呼ぶにふさわしく、僕は彼の本性を忘れて一瞬見惚れた。地面をえぐって飛び上がりドラゴンを切りつけた。
「グオオオオォ!」
強烈な一撃にドラゴンが吠えた。赤茶けた鱗を砕き、血が噴き出したが、流石に硬く倒れてはくれなかった。
ドラゴンが反撃の爪をふるった。勇者様はすんでのところで身をよじって躱したが、背中が少し裂け血が滲んでいる。
勇者様が一旦引くのをアリスが魔法を飛ばしアシストする。ティアがドラゴンの注目が後方に行かないよう素早い動きでかく乱し、メルが回復魔法を唱え勇者様の傷を癒した。
僕は興奮していた。
これこれ!こういうのが勇者パーティーだよ!
僕は素晴らしい攻防を手に汗握って応援していたが、ふと視界の端で動くものを捉えた。
ベアが離れたところで一人ポツンと、剣を構えたまま立ち止まっていた。
あれ?なんもしないのかな?
いくらこの調子だったら勝てそうとはいえ、彼女がサボるのは意外だった。
と思っていると、再び勇者様に切り付けられたドラゴンが大きくよろめき、自棄になったようにブレスを吐いた。
すさまじい迫力だ。火炎ブレスの行方を僕は目で追う。ブレスは、ベアの方に迫っていた。
あ、ベアさん、そのままじゃ当たるよ。避けなきゃ。あ、あれ?当たるって。
あ、当たった。
あっさりとベアは火炎に呑み込まれた。ガシャっと音を立てて騎士は膝から崩れ落ちた。
「ベアさん!」
悲鳴を上げてメルが駆け寄った。
勇者様が
「とどめだクソトカゲ!」
と言って技名が付きそうな一撃をドラゴンに叩き込んだ。ドラゴンは倒れて動かなくなった。
僕はあまりのファンタジーさと現実感に頭が追い付かなかった。
とにかくベアの方に駆け寄るとメルがベアのヘルムを外していた。
美しかった相貌が、見る影もなく焼けただれている。呼吸が浅く、今にも死にそうだった。
僕は急にヤバい気がした。
「め、メルさん、こんなことって、よくあることなんですか?」
「ないですよ!初めてです!いつもは勇者様が一撃でどんな魔物でも倒してしまうんですから!」
メルは一生懸命回復魔法をかけている。僕は徐々に状況を理解し、足がガクガクと震えた。
血に濡れた聖剣を担いで勇者様はやってきた。この様子を見てチッと舌打ちした。
「おい!シオ!ドラゴンの首を運べ!」
僕はそれどころじゃなかった。
「おい!聞いてんのかてめぇ!……ったく……ティア、てめーが運べ」
「うん、了解」
ティアがドラゴンの遺体に小走りで近づいていった。
メルがベアの脈を確認し青ざめる。
「まずい……」
メルの目に涙がにじんだ。僕はそれを諦めの合図だと思い込みパニックになった。
メルが泣きべそをかきながら縋るように言った。
「あぁ……もし転移魔法が使えたらベアさんを運んで治療できるのに……」
無表情でのぞき込んでいたアリスが呟いた。
「ん、私出来る……」
「え?」
みんなが一斉にアリスの方を見た。
メルが「出来るんですか!?」と驚愕した。
だが僕はあまりに信じられなくて叫んだ。
「なんでパーティーメンバーの使える魔法も把握してないんですか!?」
今度は勇者様が怒鳴った。
「おいアリス!お前転移魔法使えんのかよ!じゃあ私がドラゴンの首運びますって言えよ!」
「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!?」
メルがヒステリックに叫んで、アリスに魔法を使うよう命令した。
アリスの転移魔法で僕らは全員帰還した。




