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絶対時間の過ごし方

 翌日もプチブートキャンプだ。


 今日は腰にダガーを刺している。攻撃のタイミングを掴む為だ。五分間耐え抜いて、トドメを刺すまで一人でやる。


 訓練しながらなので、レベルはあんまり上がらないのが残念なところだ。


 二日もひたすらプチブーを相手にしていると、流石に傷を負う頻度は減った。そして「私はアオ、目覚めし者」という名乗りが言える程度には、余裕も出てきた。


 ポーションを使う必要がなくなった代わりに、減ったHPを回復する為に、絶対時間をフルに使う。その為、レベル上げの効率はさらに悪くなった。


「暇だなー」


 絶対時間が明けるのを待ちながら、思わず愚痴をこぼす。


 だって、何もしないでぼーっとしている七分間って意外と長いんだから。


「あまり気を抜くなよ」

「分かってるけどさあ」


 ノアが素材を回収しようと、プチブーの死体に近づいている。


「あ、そうだ。ねえノア、一匹素材取らずに残してよ」

「なんでだ?」


 昨日から気になっていたのだ。

 プチブーはあんなに大きいのに、取れる素材は一食分くらいしかない。これはシステムに頼っているからで、


「解体したら、もっと肉とれるかと思って」

「は? 自分で捌くのか?」

「やったことないけど、切り刻めば大丈夫でしょ。どうせ暇だし」


 ノアは少しフリーズしたけど、口元に笑みを浮かべて首肯した。


「ドロップは其々とれるから、俺が手に入れた後にやれよ」

「そつか。私以外は普通にゲット出来るんだね。じゃあ、解体しても迷惑かけないね」

「だな。気にせずやれ」

「おう!」


 えーっと、取り敢えず一番肉がありそうなところ。


 ロースだよねー。ロースってどこ?


 プチブーを仰向けにして、ブスッとお腹あたりにダガーを入れる。


「うわー。血が!」


 ドバッと流れ出した。グロい。


「当然だろう」

「まあまあ、やるだけやってみるよ。ぎゃー内臓が!」


 まろび出てきた!


「骨が邪魔ー。ノア後何分くらい?」

「二分ほどじゃないか?」

「わー。急げー。取れるだけとろう」


 流れる出る血で手を真っ赤に染めながら、なんとか肉を取り分けた。


 もうぐちゃぐちょだ。


 切り分けた肉も、見慣れたものと違って血が滲み出ている。


 これ、食べれるの?


ポンッ


《プチブーの肉(下)を入手しました》×5


《プチブーの皮を入手しました》×2


《プチブーの尻尾を入手しました》


「おー。やったよノア。豊作だよ」

「いや、下って付いてんぞ」

「でもいつもより多いじゃん」


 絶対時間が明けた。


 すぐに目の前に、先ほど解体したはずのプチブーがリポップした。


「わ、いきなり!」

「移動しなかったからな。ほら、気持ちを切り替えろ、次行くぞ」


 よしよし。次はもっと上手に解体してやるぞー。



――――――――――


「まずい」

「まずいな」

「なんだこりゃ」

「吐きそうだわ」


 プチブーの肉(下)は不評だった。唯一シャモアだけは気にせずに食べてくれたけど。


 確かに不味いんだよね。生臭いし。

 やっぱり血抜きが必要なんだね。


「でもでも、こっちは少しはマシじゃない?」

「だな。あんまり生臭くはない。でも不味いぞ」

「それは血抜きしながら捌いたんだ。ノアに逆さに持ってもらったんだよ」

「ノアもよく付き合うな」


 だって、ドロップじゃ損している気分になるじゃん。

 要するに私は貧乏性なのだ。


 なんちゃって血抜きはしても、やっぱり時間が足りない。なにせ絶対時間は七分間しかないのだから。


「今更かもだけど、水につけてみたらどう?」

「やってみるよ、ありがとうリディス」

「うふふ。いいのよ。代わりにこの尻尾貰っていいかしら」


 なんの代わりだよ。もう、ちゃっかりさんめ。


「いいけど、なんに使うの」

「尻尾は調薬に使えるのよ。準レアなんだからね」


 それなら、解体したら必ず手に入るから、肉はイマイチでも解体する意義はあるな。

 良かった私少しは役に立ってる。


「この皮も悪くないな。手間はかかるが、いつも取れるより大きい」


 ノアは皮についた毛をむしっているところだ。

 かなり面倒臭そうな作業だけど、黙々とむしっている。


 なんか、闇を感じる姿だ。


「そっか、じゃあこれからも暇な絶対時間は解体するよ」

「ああ、何でもやってみるに限るからな」


 ブランが短い手足で器用にお山座りをしながら、にへらっと笑った。


「そうそう。もし無駄に終わっても、無駄だったって分かることが前進だぞー」


 みんな前向きだなぁ。私も見習わなきゃ。


 戦闘ではお荷物でしかないけれど、少しでもこうやって役に立てたことが嬉しい。


……本当は、肉は余っているし、大した役にもたってはいないのだが、それは気づかない。やる気を出している後輩の気持ちを挫くほど、モンスター達は非情じゃないのだ。


 また先輩の地位の危機を感じたシャモアが


「俺も、やる」と言い出したが、

「お前手がないから無理だろ」と一蹴されていた。


 下剋上も近いかな。




 翌日からは、プチブーを卒業してウルフが相手だった。

 例によって、最初はただ避ける練習だ。


「くそっ。プチブーより大きいくせに、早いっ」

「いい練習になるだろ」

「精進します!」


 けっこう傷だらけになるので、ほぼ毎回、絶対時間にお世話になる。


 ノアにウルフを逆立ちにさせてもらい、せっせせっせと解体する。


 ウルフは肉の他に、毛皮と牙をドロップする。


 ウルフの次はイーグルだ。イーグルからは美味しい鶏肉がとれた。


 一通り動きを覚えたら、次は複数を相手にする。一匹増えるごとに、難易度も一気に上がった。


 そんなキャンプを続けて一週間ほど経ったとき


ピコンっ


《スキル解体を獲得しました》

《スキル血抜きを獲得しました》


 おおお。なんかスキルを手に入れた!


「ノア! スキルが手に入ったみたい」

「本当か。良くやった! どんなスキルだ」


 珍しくノアが全力で褒めてくれた。


 えっと、ちょっと待ってね。

 わくわくしながらステータスボードを開き、確認する。

 

スキル『解体』レベル1

 解体の腕が上がる。


スキル『血抜き』レベル1

 MPを5消費して、血抜きを行う。


「解体と血抜き。MPを消費して血抜きが出来るんだって」

「絶対時間の最中だから、いくらMPを使っても問題ないな」

「そうだね。これでノアに手伝ってもらわなくても良くなった」

「だな」


 初めてのスキルだ。嬉しい。

 いや、初期装備のやつはあるけどさ。自力でゲット出来たのはすごいことじゃない?


 ぴょんぴょん飛び上がってしまう。


「跳ねるなウサギ。ちょっとこっちも解体してみろ」

「はーい」


 えっと、どうやれば良いんだろう。取り敢えず唱えてみようかな。

 手を当てて、集中する。


「血抜き!」


 ぽわん、とプチブーが光り、プチブーの身体から血液の球体が浮き上がってきた。血の球は宙に浮いたままほわほわ漂っている。


「本当に血が抜き取られた」

「解体してみろよ」

「そうだね」


 サクッとダガーを肉に刺して、切り開く。

 いつもなら溢れ出してくる血が、ぐっと減った。


「おお。ほとんど出ない」

「だな。少し血が残っているのはレベルが低いからだろうな」

「レベルが上がれば、もっと美味しい肉になるかな」

「多分な」


 いやっほーい!


「ハムも手に入るかな?」

「解体してる限り、ハムは無理だろうな」


 しょぼーん。

 そりょそうだよね。


 解体してたらハムは入手出来ない。

 解体を続けないと、解体レベルは上がらない。


 悩ましい。

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