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プチブーハム

 一日中戦って、ブランたちの待つ拠点に戻る頃には、日が傾き始めていた。

 戦って、といっても私は何もしていない。

「私はアオ!」を繰り返し叫んでいただけだ。


 一日叫び続けたおかげ?で、レベルは4まで上げることができた。

 裸の状態で


NAME アオ(暴れウサギ)

HP  120   MP  15

STR 31   DEF 18

VIT 26   INT 11

AGI 16


 防具を入れるとDEFは35、HPは205になった。

 課題のHP300越えも数日中には達成しそうだ。

 ちなみにシャモアはレベル10に、ブランは19になっていた。リディスとノアは変化なしだ。


 レベル4になったことを伝えると、何故かシャモアは激しくショックを受けていた。

 聞けばシャモアは、仲間になってから一月ほど経つらしいが、怖がって全然バトルに参加しなかったらしい。やっと最近少しづつ戦いに前向きになってきたところなのだそうだ。


「いや、何もしなくてもバトル終わるでしょ?」

「普通は最初は怖がるものよ。目覚める前の記憶みたいなものが、潜在意識となってバトルへの恐怖心を煽るんでしょうね。目覚めた仲間の初バトルは、結構気を使うのよ」


 そうなんだ。

 その割には、ノアは「行くぞ」の一言で突撃していったけど。


「アオ、子分」


 シャモアが言い聞かせるように、羽を広げながら訴えてきた。

 どうやら先輩としての矜持が揺らいでいるらしい。

 うん。子分じゃないけど、下剋上を起こす気はないから安心して。


「そいでさ、シャモアもレベル10超えたろ? 明日から俺らは北側に行こうと思うんだけど」


 北側とはモンスターレベルの上がる川の向こう側の事だろう。

 確かレベルは5から8だっけ。一番レベルの低いシャモアでさえ11なのだから余裕だろう。と思ったら、シャモアが飛び上がって首を振った。


「まだ、いい。南好き」

「シャモアー。俺らはお前のために言ってるんだぜ? 正直そろそろレベル上げないとやばいって」

「まだ、いい」

「……私にその気がなくても、すぐに追い抜いちゃいそう」

「北、行く」


 プライドが恐怖に勝利したようだ。


「後輩ができるとしっかりするんだな。これからシャモアの説得はアオに任せよーぜ」


 ブランが嬉しそうに笑った。本当にシャモアを心配していたのだろう。

 いいチームだなぁ、と私も嬉しくなる。


「あら、私はどうせなら下僕(しもべ)が欲しいわ。アオ立候補してみない?」

「ノーです」

「あら残念」


 軽く笑いあう。ふと思いついてシャモアに声をかけた。


「ねえ。それならシャモア、明日は私と一緒に行かない? 私も一緒だとやる気が出るんでしょ?」

「それは、無理だなぁ」


 とブラン。


「お前ら弱いもん同士じゃん。弱いのは分けないと、守れないだろ」

「じゃあ皆で行こうよ。六人まではパーティー組めるよね?」


 昨夜ステータスボードで確認していた。パーティーは最大六人まで組める。

 何気なく提案したのだが、みんなが少しだけ固まった。


 少しの沈黙の後、代表するように、ノアが口を開いた。


「俺たちは全員でパーティーを組むことはない」


 やけに有無を言わさない響きだった。


「どうして?」

「全滅を避けるためだ」

「二人で戦う方が危険度高そうだけど」

「全員でいると、手も足も出ないような強敵に出会ったら、全滅だ」


 全滅って……ノア無双状態だったじゃん。


「平原のモンスター相手なら、ノアは負けなしでしょ」

「残念ながら、ここでも俺は狩られる側だ。普通の奴はなんてことないが、いくつか強力な個体がいる。賞金首や赤目と呼ばれる奴らだ」

「賞金首って、あの赤いでかい奴?」


 今日何度か見かけた大型のモンスターを思い出す。池のそばに棍棒を持った赤鬼みたいなやつが佇んでいた。


「ああ。賞金首は目立つのが多いからな、避けるのは簡単だ。たが赤目……リスキーモンスターというやつだが、あいつらは普通の野良と見分けがつかない。戦闘に入ると目が赤くなるのが特徴なんだが、戦ってみないと分からないんだ。そしてべらぼうに強い」

「ノアより?」

「強さはランダムだが、大体は手も足も出ないな。運よく勝てたとしても、パーティ全員が生き残る可能性は低い」


 死んでいったかつての仲間を思い出したのだろう。リディスもブランも視線を下げていた。


「もし出会ったら?」

「被ダメを回避しつつ状態異常にハメる。後は最大火力で攻撃。うまく行けば何人かは生き残れる」


 麻痺にして行動させなかったり、毒でHPを削ったり、とにかく状態異常がかかれば活路が見いだせるらしい。それでもこちらのダメージが通ればの話だそうだ。今の私やシャモアでは、どんなに攻撃してもダメージ1とかが関の山らしい。


「赤目にエンカウントする、寝ているときにプレイヤーに襲われる。仲間が死ぬ時は大体この二つのパターンのどちらかだったのよ。でもブランが仲間に入って、夜の心配がなくなったの。野宿を経験しなくていいアオは本当にラッキーなのよ」

「そうだぞ! 敬え~」

「生意気言っていると、守ってやらないわよ、ばか!」

「それは困る! 全力で俺を守れ!」


 ブランとリディスがワザとおどけてみせた。

 空気が軽くなったことに、安心して食事に戻る。


 なんでもリディスの武器は弓で、弓は状態異常をかけやすい武器なのだそうだ。

 だから貴重な能力持ちのブランと、一番赤目対策に向いているリディスはセットなのだという。


 いいな。私も武器使いたい。ノアの大剣もカッコよかった。もぐもぐ。

 それにしても赤目か。今朝ノアに持たされた「毒玉」と「しびれ玉」というアイテムは赤目対策だったんだな。どのくらいの頻度で出会うんだろう。

 早く強くならなきゃ。もぐもぐ。

 

 昨夜と同じ、肉だ。

 美味しくない。

 今朝のサンドイッチは美味しかったのに。


「今朝のサンドイッチもノアが作ってくれたの?」


 肉を焼いているノアに問いかける。


「あれは私よ。美味しかったでしょ」

「うん! 美味しかった。リディスは料理上手なんだね」

「いやいや。あれは誰が作っても美味いんだよ」


 間髪入れずブランが突っ込む。


「ブランも作れるの?」


 当然、と言わんばかりにブランが頷いて、見透かすようにニッと笑った。


「この肉は不味いだろ?」

「う……、えーと」


 ちらっとノアを見ると、面倒くさそうな目で見られた。


「肉焼いただけだからな。文句言わずに食え」

「文句なんて言ってないよ! ごめん」

「サンドイッチは『料理』だから、美味くて当然だ。残念ながらサンドイッチは朝だけだぞ。材料も減ってきているしな」

「料理?」


 この焼いた肉は料理とは呼ばないらしい。確かに調理されているとは言い難い。


「料理というのはレシピ通りに作った食べ物よ。ちゃんと美味しいし、ステキな効果付きなのよ。ちなみにサンドイッチは『食後三十分間HP+5%UP』。だからバトル前に食べるようにしているの」

「納得! 今朝HPが72だったんだ。昨夜見たときは69だったから、見間違いかなって思ってたんだけど、サンドイッチ様のおかげだったんだね。他にはどんな『料理』があるの?」

「サンドイッチだけよ」

「え……?」

「サンドイッチだけよ」

「……え?」

「もう! 何度も言わせないで! サンドイッチしか作れないの! そのサンドイッチも後一月もしたら材料不足で食べれなくなるんだからね!」


 リディスがノアの肩の上で、プイっと顔を反らした。

 しまった、何やら乙女心を傷つけてしまったらしい。ごめんなさい。

 そんなことより、大事なことがある。


「材料、なくなりそうなの?」

「そうよ。パンとレタスはまだあるけど、プチブーハムが足りないわ」

「プチブーのレアドロップだよ」


 ブランが説明してくれる。

 確かに、今日は何度かプチブーと戦ったけど、肉は出たけどハムはない。

 サンドイッチにしなくても、焼いた肉より焼いたハムの方が絶対に美味しいはずだ。

 私は握りこぶしを突き上げて決意する。


「私、たくさんプチブーを倒します!」

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