表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/175

おひかえなすって

「大変お見苦しいところをお見せしました。小生はしがないゲコゲターでござる。以後お見知り置きを」


 泣き止んだカエルは、正座で両手をつき、深く頭を下げてそう言った。なんというか、言葉遣いも立ち振る舞いも、武士っぽい? 第一声の「ケロ」からは、かなりのギャップだ。


「私はアオ、暴れウサギです。ここヤーミカッタの森の一つ手前の平原から来ました」

「道理で。見かけない方々だと思ったでござる。それでは皆さんは旅をなさってるんですかい?」

「ええっとね」


 チラリとノアを見る。説明を丸投げしてもいいですか?

 ノアは無言で頷くと、カエルにむかって凄んだ。


「お前は一人なのか?」

「は、はい。一人でござる」

「ずっとか」

「気がついたら、一人でこの森にいたのでござる。かれこれ二十日ほどでござろうか」


 なんの知識もない中、二十日も一人で生き抜いてきたのか。単純にすごい。


「ここは何処なのが。自分は何者か。俺たちは何者なのか」

「全て分かりませぬ」

「説明してもいいか?」

「是非」


 ノアは私にしたのと同じ説明をした。ここがゲームの中の世界だという事。目覚めし者の事。そして掟の事。


 私が聞かされた内容と、ただ一つ違う箇所があった。新しく掟が変わった部分だ。


「ブラン殿とアオ殿を命がけで守る、でござるか」

「そうだ」


 カエルは考え込んでしまった。

 そりゃそうだろう。いきなり知らない相手を命がけで守れなんて言われて、はいそうですかと言えるはずもない。


 私だって、最初からブランよりも軽い命だと言われていたら、すんなり仲間になれたか分からない。


 これは仲間を増やすには、不向きな掟じゃないかな、とモヤモヤしていると、カエルが顔を上げた。


「一つ聞いても良いでござろうか」

「何だ?」

「ブラン殿とアオ殿、どちらか一方しか助けられない場合は、どちらを優先すれば良いのでござろうか」


 あっさり受け入れてた!


「俺はアオだと思うが、お前の好きな方を選べば良い」

「承知したでござる」


 いや、承知までの距離短すぎない?!


「そんなに簡単に決めていいの?」

「? それが掟でござろう。小生は今まで一人で戦ってきたでござる。戦闘離脱の重要度は、骨身に染みているでござるよ。他に変えがたい素晴らしきスキルと思いまする」


 聞けばカエルは既にレベル14なのだそうだ。この森のモンスターレベルは8から13。つまり一人でバトルを繰り返して、自力でレベルを上げたという事になる。


 よく今まで生き残ったものだと感心する。移動や睡眠は樹上で行い、相性の良い相手を厳選してバトルしてきたのだという。


 これは物凄く、有能なカエルなんじゃないか。大型ルーキーの登場だ。


「シャモア」


 ノアが意味ありげな視線をシャモアに投げた。


「嘘、言ってない」

「そうか」


 ノアは満足したように微笑むと、カエルに向かって手を差し伸べた。


「歓迎する」


 ん? 今のやりとりは何だろう?


 私の視線を受けて、ノアが肩をすくめた。


「シャモアは嘘が分かる。掟が追加になったからな。念のためシャモアに確認するように言っておいた」


 嘘が分かる! そんなスキルがあるなんて!


「いや、ただのカンだそうだ」


 適当かい!


「悪かったな。気分を害したか?」


 ノアがカエルに詫びた。カエルは気にした風もなく


「当然の対策でござろう。何とも思わないでござるよ」


 と首を傾げた。

 どうやら器の大きなカエルさんのようだ。



――――――――――



 正式に仲間になる事が決まったので、場所を拠点に移した。

 ブランの作った拠点を見て、カエルは感心しきりだった。


「まずは名前を決めないとな」

「カエルさんは緑だね。リディスと一緒だ」

「あら、一緒にしないでくれる? 私は爽やかなグリーンだけど、カエルちゃんは淀んでるわ」


 カエルは青蛙のような黄緑ではなく、茶色のまざったようなな、くすんだ緑色をしている。


「要望がなければグリーンにするが」

「安易!」


 言葉遣いから、武士っぽいのが良いと思うのだけど、生憎私には知識がなかった。

 結局一番センスのありそうなリディスが名付け親になった。


「モス」

「そう。モスグリーンのモス。苔って意味よ。ヤーミカッタの森も苔むしてるし、お似合いだと思うわ」


 苔って……。でも確かに響きも良いし呼びやすそうだ。やっぱりリディスはセンスがある。


「素晴らしい名、謹んで頂戴するでござる」


 カエルが深々と頭を下げた。


 その後は、誓いの儀式だった。ノアの紡ぐ誓いの言葉を、モスが復唱する。


「仲間を守り、信じ、決して裏切らない。プレイヤーを恨まず、生を諦めず、世界を味わい、この知識を紡ぐことを誓う」


 ついこの前、わたしも通った道だ。

 あの時は、よく訳もわからずに宣誓した。だがみんなと過ごし、赤目と遭遇した今聞くと、言葉の重みがまるで違った。


 この誓いの言葉を作った人はどんな人だったのだろう。


 ともすれば、現状を嘆き、生を憎み、荒んだ一生になってもおかしくなかった。でも最初にこの掟を聞いたから、そんな負の感情を抱かずにここまで来れたのだ。


 この言葉には感謝と希望の匂いがした。


 宣誓を終えたモスは、急に立ち上がった。


 中腰で斜めに構え、手のひらを上にして右手を前に伸ばした。


「おひかえなすって」


 おおう?


 訳もわからずに、私も釣られて同じポーズをとる。


「改めまして手前、生国と発しまするはヤーミカッタの森にござんす。寄る辺もなき一匹蛙にございます。この度縁持ちまして、向かいましたる兄さん、姐さん方の末席に加えさせて頂きんした。名はモス。面体お見知りおきのうえ、向後万端(きょうこうばんたん)よろしくおたの申します」


 堂々たる仁義を切った。

 武士じゃなかったみたい。……任侠?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ