調理師
次の日からは六人でバトルだと楽しみにしていたのに、何故か素材採取を言い渡された。
何でもここには状態異常をかけてくるモンスターが出るらしく、特別な回復薬を調合する必要があるのだそうだ。その為、私たちはせっせせっせとケール草を摘んでいる。
一度素材を収穫すると、当然だけどなくなってしまう。でも一回バトルをすれば復活するという素敵な仕様。採取、バトル、採取、バトルを繰り返せば、移動なしで素材が集まる。
そう言えば行商人が「カエルの涙は買ったかい?」と訊いてきていた。あれは持ってないと状態異常で苦労するよ、というアドバイスだったんだと気付いた。親切設計だ。
「プレイヤーに対しての親切なのでござるよ」
行商人に感謝している私にむかって、モスが冷めた調子で言った。
「私達にも分け隔てなくアドバイスくれたよ?」
「そういう仕様でござる」
「そりゃそうだけど」
モスはここがゲームの中だと、すんなり理解した。私よりもずっと、この世界の有り様を冷静に受け止めている。それが不思議に思えた。
「モスはどうして、ここが作られた世界だってすぐに受け止める事が出来たの?」
「プレイヤーが別の世界から来ている事は知っていたでござるからな。もっとも、創造神とは思ってなかったでござるが。どちらかと言うと下位の存在だと思っていたでござる」
「知っていた? どうして?」
モスは樹上を指さした。
「情報収集は大事でござる。小生は木の上からプレイヤーの会話を盗み聞きしていたでござる」
本当に優秀だなモス。
「下位の存在と思ったのは?」
「彼らは自分の世界に戻る事を『オチる』と言っていたでござる。落ちると言う事は、ここに『上がって』きているという事」
「落ちる、か。ノアは知ってた?」
離れた場所で採取しているノアに向かって、チャットで質問を投げる。
「ああ。おそらく単純に物理的にこちらが上に位置しているというだけの事だろう」
「じゃあブランが穴を掘り続ければ、いずれは神の国に行けるのかな」
「昔、崖から飛び降りた奴がいたそうだ」
「結果は?」
「成功してたら、俺たちはここにいねーよ」
そりゃそうか。残念だ。創造神の世界に行けるものなら、一度行ってみたかった。
でもプレイヤーは物凄く強いから、神の国は強者だらけの恐ろしい場所に決まっている。今のレベルで行けば、秒で死ぬんだろう。
――――――――――
拠点に戻ると、すでにブランとシャモアは寛いでいた。
ブランは短い脚でてとてと歩き寄ってくると、素焼きの鍋をくれた。
鍋と言っても持ち手はなく、どちらかというと壺っぽい。
「調合鍋だぞ。モスはレベルが足りないからまた今度なー」
「調合とは、薬を作るのでござるか?」
「そうだぞー。レベル15でクラフターが解放されるからな」
「クラフター?」
また知らない言葉が出てきた。首を捻っていると、丁度ノアとリディスが帰ってきた。
「説明してたのか」
「うんにゃ。まだ調合鍋を渡しただけだぞ」
「ノア、クラフターって何?」
何となく、ノアはこのパーティの説明役だ。口数は決して多くはないが、簡潔で分かりやすい。まあ、頼れるアニキなのだ。
多分、本来のノアは脳筋の戦闘狂だと思う。でも最年長という責任感が、ノアを兄貴化させている。
「クラフターとは生産系のジョブの事だ。クラフターは調薬師、鍛治師、革職人、木工師、裁縫師、彫金師、錬金術師、調理師の全部で八つだ」
「結構あるね。どれを選んでもいいの?」
「一人二つまで選択可能だが、その内一つは調薬師を選んでもらう。回復魔法のない俺らにとって、回復薬は命綱だ。自分の薬は自分で用意するのが基本だ」
「じゃないと、人数が減った時に調薬師がいなくてゲームオーバーなんて事になっちゃうからね」
では選べるのは一つだけということだ。うーん、悩む。
「リディスは何なの?」
「木工師よ。弓も矢も木工師の仕事だからね。矢は消耗品だから、人任せには出来ないのよ」
「ブランは?」
「俺は鍛治師だぞ。剣や重装備の防具は俺の担当だ」
「俺は革職人だ。主に軽装備の防具を作れる。大事な事だから、何を選ぶかは本人の意思に任せるが、パーティの希望としては錬金術師か裁縫師を選んで貰うと有難い」
みんなバラバラだ。
今いないのは、錬金術師と裁縫師、あと彫金師と調理師だ。
「彫金師っていうのは?」
「アクセサリーよ。本当は私がしたかったんだけど、武器が弓じゃ木工師一択だったのよ」
リディスがぷうっと不満げに頬を膨らませた。
「錬金術師はスクロールというアイテムを生産する。魔法が発動するアイテムだ。魔法の使えない俺らには、かなり重要なアイテムになる。裁縫師は防具だな。後は錬金術に必要な素材を作成できる」
「質問があるでござる」
「なんだ?」
「鍛治師、革職人、裁縫師はみな防具を作るでござるが、どのように違うのでござろうか」
ノアの説明によると、大きな違いは防御力の割り振り方らしい。鍛治師が作る防具は物理防御が高く、裁縫師のは魔防が高い。革職人はどちらも満遍なく、という感じとの事だった。ちなみにリディスの説明によると、裁縫師の物は可愛くて、革職人はまあまあ、鍛治師のは絶対着たくないのだそうだ。
錬金術師は魅力的だ。魔法には回復魔法も支援魔法もあるし、攻撃に回復にととても役立ちそうだ。私がスクロールメインで戦えれば、後衛がリディス一人というバランスの悪さも解消出来るかもしれない。
でも、私はノアに憧れているので、戦闘は近接一択。後衛には興味がない。
そして何より、もっと気になるジョブがあった。
「別に今決める必要もない。ゆっくり考えておけ」
「ううん。もう決めた。私、調理師にする」
「は?」
みんながぽかんとした。
「聞き間違いかしら、彫金師って言ったのよね?」
「ううん。調理師。料理を作る人だよ」
だって、もうサンドイッチも飽きちゃったし、焼いただけの肉はもっと飽きた。他のご飯が食べたい!
「まあ、何を選ぼうが自由だが……。何故だ?」
「掟にもあるでしょ。世界を味わえって。味わおうよ。わたし毎日料理係になるからさ」
「味わうってそういう意味じゃないと思うぞ……」
「実用性がねぇ。何より、今まで調理師を選んだ仲間はいなかったから、ノウハウがないのよ」
みんなは調理師はあまりオススメ出来ないらしい。
ステータスアップの効果はあっても、せいぜい食後三十分だけ。生存率の向上を狙うなら、もっと確実に能力を底上げ出来るジョブは他にある。
「今までいなかったのなら、情報がないって事だよね。私がする事で、知識が増える。結局役立たずだったとしても、役立たずだったという知識を得るのは大事だと思う」
「気持ちは分かるけどよ。もしアオだけが生き残ったら悲惨だぞ。武器も防具も新調できないんだからな。買えば良いけど、高価だし、性能も低いぞ」
でもきっと、私だけ生き残ったら最弱の土地、ツティーシニー平原に帰ると思う。
新しい仲間が増えるまでは、平原から出る事はしない。それなら今の装備でも十分なのだし、問題ないと思う。
「まあ、良いだろう。もしかすると化けるかもしれないしな」
引く気のない私に、最後はみんなが折れてくれた。
やったね。これで明日からは美味しいごはんが食べ放題だ!




