第二十九話 「『冒険者ギルド』設立会議」
ホンブル市ネイタウン市民会館。
今この建物内にはネイタウン代表者であるリン・フォール。そして、戦士のビル、魔法創作連盟のローズとその部下であるキール、ホンブル市役員としてナリス市長に派遣されたトム・フィアットが『冒険者ギルド』を設立するための現状報告会議を行っていた。
「我々ホンブル市は自然区域からの原料調達をすることはできません。」
市の役員の中でも住民に対して割と理解のある役員のトムがローズが以前市長と交わした約束の訂正を言った途端、今まで大人しかったローズが反論する。
「それは約束と違うでしょう! 市長さんは最初の会議で合意したはずです!」
「ええ そうですが、市の役員会議でその案は却下されました。自然区域が危険である故にこの『冒険者ギルド』が設立されるのに自然区域で原料を調達するのでは本末転倒だと....」
「...まあ確かにそうですね。では、どうしてもマジックアイテム制作で自然区域内の原料が必要になる際は『冒険者ギルド』の冒険者達に依頼をするという方針でいきましょう。設立前までは当分はお預けですね。しかし、自然区域内の原料調達は無理かもしれませんが、最低限の原料が無くては作成出来ません。他の調達ルートは確保して頂けるのでしょうか?」
「当分は市が保有している在庫を提供致します。初期投資としてですがね。設立以降冒険者の数が増え次第、供給はストップすると思っておいてください。ただ冒険者への報酬とギルド運営資金の調達は続行します。」
「わかりました。魔法創作連盟として異論はありません。が、今後の訂正は受け付けないのでよろしくお願いします。」
「よろしい。ではマジックアイテムの件はひとまず今の方針で決定ということですが、『冒険者ギルド』の運営と宣伝の方はどうでしょうか?」
「それについては私の部下のキールがこの街の代表者のリンさんと話し合ったので、キールに報告を任します。」
ローズの部下のキールが替ってトムに説明を始めた。ローズは見た目として若い女性の印象を与えるが部下のキールという男はローズよりも年配の男性という印象を与えてくる。雰囲気も賢そうなキールであるが何故ローズの部下であるのか、若干トムは話を聞きながらも頭の片隅で気になり続けていた。この国で女性の社会進出は珍しい事例であるので好奇心を消し切れない。
「『冒険者ギルド』の運営ですが当分はリンさんと街の住民の方々がスタッフとして働いてくれることになりました。ホンブル市の人材を派遣するコストはかかりません。」
キールはホンブル市に譲歩しましたというスタンスをとっているが、トムは腹芸を見抜いた。市が監視として役員を『冒険者ギルド』に派遣する事を前以て防いできたのだ。やはり賢いという印象は間違いではないようだ。
「人材の件はこれで解決です。次に宣伝ですが、これは現段階で最も難しい案件です。確かに冒険者という職業の存在を知れば、十分集まってくるでしょう。このご時世、自由に仕事ができる職場なんて一般住民には到底巡り会える機会が少ないですからね。危険を承知でも冒険者になりたい者は少なからずいます。ですが、多くの人々の耳に届くにはそれなりに時間がかかるでしょう。それ故『冒険者ギルド』がきちんと運営できるようになるには最低でも年単位はかかります。」
「市としても前例のない職業が認知されるまでの時間がかかることは承知しているが、あまり時間がかかりすぎるとコストがな.... 政府に申請した後、治安維持兵を総動員して自然区域を占領するコストを上回るようでは援助は打ち切ることになりますよ」
「それは『冒険者ギルド』も魔法創作連盟としても困るので、できる限り早急に人を集める必要があります。チラシや掲示板などの正攻法は今回使いません。最も早く伝わる宣伝方法を使うことにしました。」
「....それはなんです? あまり法に触れそうな方法は市として認めるわけにはいきませんよ」
「噂ですよ」
「噂? それこそ言伝など最も原始的で遅い宣伝方法ではないですかな?」
「不確かなゴシップや近所の夫婦仲などでさえ、数日の内に小さい街であれば広まるのですよ? 侮ってはいけません人の噂を。ただ『冒険者ギルド』があるから来ないかという内容を人の噂で広めることは正直言って無理です。人が好むのは不幸か目新しい話ですからね。それに主婦が『冒険者ギルド』に来られても困りますし」
「それで?」
「ですので話題性のあるイベントを催して関節的に『冒険者ギルド』を宣伝します。」
「話題性のあるイベント? 祭りとかか? しかし、この街には祭りも大勢の人もいないぞ」
「新たにこのネイタウンで、闘技大会を開催します。『冒険者ギルド』という聞いたこともない組織を宣伝するのは難しいが、闘技大会であれば市の催しものという名目で他の市に対してもある程度は正式に宣伝できますし、集まってくる参加者も強者が揃うでしょう。冒険者の職業に適しています。闘技場は不毛地帯に土系魔法で簡単に作ることも可能です」
「不毛地帯だと!? ネイタウンを襲いにくる『モンスター』に遭遇するリスクがあります。それでは参加者はまだしも観客の安全が保障されない!」
「現段階で政府が五年に一度開催する『ソルジャーゲーム』がありますが、それ以外は大きな催しものは最近開催されていない。それならば好奇心で闘技大会を見にくる者達の数は少なくないでしょう。一般市民の観客にはマジックアイテムで身を守ってもらい、貴族にはホンブル市に護衛を雇わせれば問題ない。生ぬるい試合よりも双方に適度の緊張が生まれて盛り上がることでしょう。それにホンブル市に落とす金も増えますしな。さらに、もし『モンスター』が現れればホンブル市における冒険者という存在がいかに重要な存在であるのかを身をもって実感してもらうことができる。未知の職業の募集には最適な条件だ」
「....なるほど 理解した。 ただこの件は市長に確認をして頂く必要がありますな。 個人的に闘技大会の案は賛成ですよ。付加価値が付く」
「宣伝の件は市長にお願いして下さい。 ... あ! そういえば戦士のビルさんの話が出て来なかったですね」
「.....」
ビルはキールとトムの会話をリンの隣で黙って聞いていただけで、この会議が始まってから特に活躍していなかった。
「ビルさんには『冒険者ギルド』の最初の冒険者として活躍してもらいます。設立して冒険者の数が0人という状況は設立直後でもあまり良い印象は無いですからね。ちなみに闘技大会にも参加してもらいますよ」
「了解した」
「あの.....」
ビルの返答を聞き終わったリンがビルに恐る恐る質問した。
「ソンさんも参加されますか? 危険な仕事ですけど....参加してもらいたいなあ...って あの 変な意味じゃなくて...この街を救って頂いたソンさんのお力は強大でしたので.... あっ!もちろんビルさんもですよ!」
リンの質問にローズが溜息をついていた気がするがビルは即答した。
「ソンも参加させますよ。さすがに俺一人では荷が重い。」
「...それでは今回の会議はこの辺でお開きですかな?」
微妙な空気から逃れるためにトムが声をかけるとすぐに、
「終わりにしましょう!」
元気なローズの返事と共に『冒険者ギルド』会議は終了した。




