第十七話 「レジスタンス作戦会議」
ホンブルの自然区域に最も近い街、ネイタウンから自然区域に足を運ぶと、まず待ち受けているのはゴツゴツとした赤みを帯びた岩肌の地面だ。植物はほどんど生えておらず、たまに岩の間にちらほらと雑草が見え隠れする程度だ。植物も動物もほとんどいないこの地帯は殺風景で、訪れる者達にこれから向かう自然区域がいかに危険であるかを知らしめるような雰囲気を醸し出している。しかしながら、この地帯はネイタウンに住んでいる住民にとってとても重要な存在なのだ。
自然区域には数多くの動物が生息しており、その中には人間に害を与える『モンスター』と呼ばれる類の危険な動物も当然いる。豊かな自然で生活している強者である『モンスター』が人間が生活するネイタウンまで生息範囲を拡大してこないのはこの不毛の岩肌地帯があるためである。何もない地帯をわざわざ生息範囲に含めようとする『モンスター』などいないのだ。
そんな不毛な地帯をウィル達は歩いていた。俊足の馬、フォスも凹凸のある地面で走ることは難しいため人間の歩く速度に合わせてゆっくりと歩いている。
まだ安全な地帯でこれからのサバイバル生活について、各々話をし始める。
「確かに治安維持兵はいないけどさ、それより危険な動物がいるならこの計画破綻してない? ウィル?」
エマはホンブルに来る道中、ウィルと一通りの話は済ませていたがサバイバル生活の詳細についてはあまり聞いていなかったため、ウィルに尋ねる。突然レジスタンス活動を始める彼の話を数日で全て詳しく聞くことなど容易ではないからだろう。
「大丈夫だ。しかも予想以上に住みやすそうじゃないか!」
「おい!ウィル それは反対だな さすがに何もないところで生活できないぞ それにサバイバル生活できたとしても肝心のレジスタンス活動ができないではないか」
ロルトもエマ同様に、まだウィルの考えの全容を解明できていなかったので、エマに重ねて質問をした。
「宿屋では一応情報漏れを防ぐためにあえて詳しい話はしなかったが、ここでは大丈夫そうだから今説明するか 着いてからにしようと思ったんだが、流れも流れだしな。もし 疑問点があったら聞いてくれ」
ロルト、エマ、ジーン、ノックが各々頷いたのを確認したウィルは話を続ける。
「まず俺たちが生活するための場所の確保だが、それはこの先にある森に近いこの不毛の地帯にしようと思う。森には色々な材料や食料があるが、危険な動植物がいるからな、安全な不毛地帯に拠点を置きつつ森から調達するという方式だ。異論は?」
その場にいる全員が首を横に振った。
「異論が無ければこのまま話を進めよう。 俺たちの拠点ができた後の話だが、まずエマにはマジックアイテム製作に取り掛かって欲しい。もし必要な道具がいるのであれば先に揃えるのが優先だ。確かソウルポリスから逃げるときに幾つか持って来たと思うが足りるか?」
「必要最低限の道具はあるわよ。ない道具は作るだけだし、道具に依存し過ぎる職人は真の職人ではないわ!」
「最高だ! ではマジックアイテムとして製作して欲しいものはまず、顔を隠すためのマスクと通信系魔法アイテムだな 作れるか?」
「やってみせる!」
エマは目を輝かせて返答した。
「次にノックの旦那! まずはフォスの餌の確保だ。食料調達は全員でやるがフォスの管理はノックの旦那に任せた方がいいだろう。よろしくお願いしたい」
「任せろ!」
「後、ノックの旦那にはエマのマジックアイテムが完成したら一度、馬車交通に戻って欲しい。」
「!? 早速俺達を首にするのか!?」
「そう急がないでください! 確か馬車交通は巨大なネットワークを都市ごとに完成させていて『ラン』と呼ばれる非常に効率の良い方式を採用していましたね?」
「おう そうだな! 各都市で連携している」
「ノックの旦那には馬車交通に使われる馬車にエマが製作する通信系魔法アイテムを取り付けてもらいたい。なるべく多くの馬車にだ。」
「それはどのくらいの数だ?」
「できるなら全てと言いたいが、マジックアイテムを大量生産できるようになるまではとりあえず、主要都市の馬車休憩所と稼働率の高い馬車分くらいだな。 仲間を増やしながらだが、かなりの長期任務になるけど大丈夫そうか?」
「ああ 大丈夫だ。 馬関連なら任せておけ! しかしなんのためにそんなことやるんだ?」
「先日俺たちを襲った<クリーンブラック>だが、かなりの連帯が取れていた。遠くにいる仲間ともすぐに動けるようになっていたんだ。おそらく彼らは政府でも少数しか利用できない通信系魔法を使っていたのだろう。ただ彼らは情報漏洩を防ぐために限られた者達にしか通信系魔法の使用を許可していない。実際俺とロルトが治安維持兵をやっていたときは上官ですら通信系魔法なんか使っていなかったからな。であるならば、今後レジスタンス活動をしていく上で情報の管理と仲間との連帯は非常に重要になってくるのだ。しかし、レジスタンスのメンバーは固まっていると一網打尽にされる可能性があるから各都市に散らばっているとその心配はないんだが、その離れたメンバーと連絡を取り合うための技術はこの世界にまだ存在していない。通信系魔法の通信可能範囲は限られているからな。でも馬車交通の巨大なネットワークに沿うように通信系魔法を設置すれば、互いに通信可能範囲をカバーし合うことで大規模通信が可能になるんだよ! 理解できたか?」
「おお.... そこまで考えていたとは! なんか先が俺にも見えて来た気がするぜ!」
「まあ上手く利用できれば、デヴォルカス中の情報を掌握できるぞ ノックの旦那一人に全てはきついだろうから仲間を集めながらやって欲しい。 そして、ロルト!」
「おう やっとか」
「ロルトには仲間集めを各都市でやってもらいたい 主に貴族社会にいる連中だな。 定期的にイベントを起こしてレジスタンス活動の宣伝をするが、住民ならまだしも貴族にはあまり届かないからな。直接の交渉を任せたい。もちろんマジックアイテムで変装しても構わない」
「了解!」
「ッフ! 治安維持兵らしいな」
ウィルとロルトは治安維持兵時代の挨拶を思い出し、苦笑いをする。
「そして最後にジーン! 基本として君には君の思うがままに作品を製作して欲しい。俺たちに害がない程度という制限を課してしまうがいいか?」
「そんな こと 聞かなくても しないから 平気だよ」
「聞くまでもなかったか! あともう一つ頼みたいんだが、この自然区域にいる『モンスター』を不毛地帯側に徐々に追いやって欲しい 『モンスター』が強大すぎる場合は無視してもいいけどな」
ウィルの話を聞いていたジーン以外のロルト、エマ、ノックが目を見開いてウィルを見つめて来る。何を血迷ったことを言い出すのかと
「ウィル!! 何を馬鹿な事を!! 俺たちが殺されるぞ! モンスターのことは心配するなとか言っておいて一番心配するわ!!!」
ロルトが勢いよく反論してきた内容を全て聞いたウィルは冷静に返答する。
「待て 待て! 最後まで話を聞け! 今我々レジスタンスに必要なのは人材とお金だ。サバイバル生活だけではお金は生まれないからな。そのうちエマのマジックアイテムが大量生産できればお金は入ってくるとは思うが、今その方式はここにはない。故に、冒険者ギルドをホンブルに設立する!!」
「なんだそれ?」
「まあ平たく言えばモンスター狩りをする狩人だよ。」
「そんなことする奴いないだろうし どうお金に結びつくんだ?」
「ホンブルはデヴォルカスの中でも指折りの主要都市の一つでそれなりにお金もある。しかし、人間が暮らせる地域はホンブルの約四割ほどしかない。これは、ホンブル市側も嘆いていることだろう。自然区域には『モンスター』がいるから下手に治安維持兵を送りこんでも成果はない。そこでだ!」
ウィルは声のトーンを上げ興奮気味に説明を続ける。
「ホンブル市側と共同で冒険者ギルドたるものを設立し、モンスター退治をした者に報酬を出すという方式を取れば、モンスターも減りホンブル市側は居住地区の拡大ができるし、我々としては優秀な冒険者を仲間に取り入れるチャンスが来るだろう?」
ウィルの提案に疑問に思ったロルトが尋ねた。
「ホンブル市と共同で設立するんだろ? であればお金を受け取れるのは冒険者であって、我々は払うだけでないか?」
「冒険者ギルドを設立するのは我々ではない。ホンブルの住民の誰かだよ。俺たちは冒険者の一員としてお金を頂く。ジーンがいるしな!」
「ホンブルの住民だと!? 今まで誰もそんなようなことをする人などホンブルにはいなかったぞ!」
ホンブルで生活していたノックがウィルに注意をしたが、ウィルは笑みを浮かべながら答えた。
「だから自然区域に生息する『モンスター』をジーンに人間の居住区まで生息を拡大させるように追いやってもらうんだよ そうなれば自ずと対策を練る必要性に迫られるだろ?」
話を聞いたエマが息を荒げながらウィルに迫ってきた。
「ねえ!ウィル!それって住民に被害がでるやり方よね。それは認められないわ!」
「被害が出る前に俺たちが全力で食い止めるんだよ! 変装してな。 最終的にはボンブル側も、新たな未開の地を探す屈強な戦士である冒険者も、そしてレジスタンスの俺たちにもメリットがあるんだよ! 綺麗事だけで国をひっくり返すことなどできない! 一見国と同じような事をしているように見えるかもしれないが、国民の自由のためという目的は大きく異なるんだ! そのための資金収入方法で他にいい案があるなら聞くが」
エマは何か言いたげであったが、ウィルに反論はしてこなかった。一度乗った船だ。エマも安易に正義論を語って沈没することを恐れたのだろう。いかに素晴らしい夢でも実現するための過程までもが素晴らしいといえるものなどそう多くはないのだ。もし全てが素晴らしいと言えるものがあるのなら、『人間』は既にその方法を取っていたはずだ。そこまで『人間』も愚かではない。
険悪なムードになりつつある雰囲気を壊すためにノックが口火を切った。
「まあ 色々大変だが 頑張らなくてはな! そろそろ森が近づいて来るぞ!」




