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第九話 「伝説の馬 フォス・ヴェロシティ」

「また今日もロバのような仕事をさせてすまぬな フォス。 お前の速さをもう一度皆んなに見せてやりたいんだが、中々上手くいかんのだ」


 今日も通常業務通り、デヴォルカス連邦共和国の主要都市の一つであるホンブルから首都のソウルポリスまでお客を馬車に乗せ終えて、メインストリート沿いに設置された馬車休憩所で一服しながら不満をこぼしていた男の姿があった。


 彼の名はノック・シール。高身長で恰幅のある体系をした初老の男性で、現在の職業は御者だ。そして先ほどノックが語りかけていたいた相手は人間ーーーではなく、ノックの愛馬であるフォス・ヴェロシティだ。


 ノックとフォスが初めてあったのは、数年前のソウルポリス内で開催された貴族御用達の娯楽、競馬場だ。その頃ノックは騎手をしており、そこそこの勝率を誇っていたため競馬好き界隈では有名な人物だった。ノックは試合の数日前に不幸な事に愛馬が怪我で走行不能状態になっていた。馬にとって走行不能の怪我とは死を意味する。そんな状況に落ち込んでいたノックだったが、ふと気分を一新させるために立ち寄った馬小屋で自分を見つめてくる馬が一頭いた。

 その馬は今まで試合に出たことはなく、親の馬も期待できる馬ではなかったため予備として飼育されていた。だがノックは馬の目には早く自分が観客の前で走りたい。そして一位になりたいと騎手であったノックに訴えかけているように思えた。

 そんな馬の様子を自分に重ねてしまったノックは数日後の試合の仮の相方としてその馬と組む事にした。結果よりもまずは馬に乗るという事がノックにとっては今重要な事であると判断したからだ。


「とりあえずはこの馬に乗って、試合が終わったら新たな相方を探さないとな」


 心の中で己の今後の試合の予測をし、その後予定まで立てたノックは数日後の負け試合に挑んだ。




 ーーー結果はノックの予想をことごとく裏切ってしまった。これでは当初の予定が崩れる。これはノックにとって嬉しい悲鳴だった。


 というのも、ノックと組んだ馬は良くて最下位から三番目くらいだと踏んでいたが、実際は見事トップの一位を奪取したのだ。


 この結果は騎手である当の本人を含め、その場にいたライバル騎手、観客が予想だにしない驚きの結果であった。しかし、この出来事はその年の一番印象のある出来事とはならなかった。なぜならば、その馬はこの次の試合もそのまた次の試合も一位を勝ち取り、無敗のダークホースとして競馬界に君臨したためだ。つまりは自分で自分の栄光を上書きしたのだ。


 そしてその馬の名はフォス・ヴェロシティ。俊足の馬として知れ渡るレジェント級の馬である。



 それから数年後、競馬業界から引退したノックとフォスはソウルポリスから離れ、主要都市の一つであるホンブルでのどかに生活する事を選んだ。


 しかし、そんな生活に満足していたはノックだけであったようで、フォスは引退した後も人前で走りたそうにいつも庭先でウロウロしていた。


 ノックはフォスのことを思い、馬車交通の仕事に就く事を決めた。馬車交通はデヴォルカス連邦共和国の主要都市五十を結ぶ大規模な交通システムだ。各都市を結ぶローカルな交通ネットワークは『ラン』と呼ばれ、非常に効率の良いシステムを可能にしている。


 この馬車交通にノックはフォスと共に応募すると、すぐさま採用され、大きな反響を呼んだ。かつてのレジェント級の馬に乗って移動できるというステータスが人気を迫したのだ。ただこれには問題があった。乗ってくるお客は貴族ばかりでフォスの良さを活かすスピードを出すことができない。しかし、この仕事以外に馬が活躍する場所は限られているので仕方がなかった。


 それでもノックは思う。いつかフォスが全速力で走れる日が再び来る日のことを。




 愛馬フォスと休憩所で労をねぎらっていたノックであったが、ふと遠くの方が何やら騒がしくなっているのに気づいた。


「なんだ?この都市では珍しいことも起こるんだな」





 数時間後フォスがソウルポリス内を全速疾走している姿を見かけた者達がいた。



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