71.本格始動、メイ探偵
「はーっはっは!名・B・探偵ことライカちゃん!華麗にカムバックです!事件を解決しにやってきましたよ!」
「確保ーっ!」
「うぇぇぇぇ!?」
…………まぁ、そうなるよね。
現在地、ギルド跡地。慌ただしく対応する職員達の中にドヤ顔で突っ込んで行ったライカは、無事に確保された。
「貴女脱走したんですか!?大人しく塀の向こうで反省してください!さぁ、警察行きますよ!」
「待ってください誤解です!私はもう釈放されてます!塀の向こうがおうちじゃないですー!!」
「え…………?」
縄で縛られたライカが、必死にコルネさんに弁解をする。
「実はかくかくしかじからいからいからいかきゃぴきゃぴで………………」
長い上に、自己主張が激しい。
「なるほど…………つまり、犯人は別にいると言いたいと?」
「そーです!不確定な状況証拠だけで逮捕されちゃたまらないですよ!ぺっ!謝ってください頭を垂れて!稲穂のように垂れて!」
唾を吐いた後、律儀に拭きながらライカは不貞腐れた顔で謝罪を要求する。そこにおいては、腐っても天使らしい行いはするんだな…………そもそも唾吐くなと言ったらまぁそうなんだけど。
「…………完全に貴女の無実が確定するまで謝罪は出来ません」
ごもっとも。
「…………ですが、そこまで言うなら一応無実だと信じてあげます」
「やったぁ!事件、完!」
「解決を放置すんな!すみませんコルネさん、こいつが迷惑かけて…………。一応、捜査だけやらせますんで。更に迷惑かけるようであれば、塀の向こうに戻ってもらうので」
「レイさんは私の親かなんかですか」
だって、ほっとくと周囲に厄介事ばらまくスプリンクラーみたいなやつなんだもんお前…………。
「…………それだったら、私もお手伝いします」
「…………へ?今、なんて?」
「実はギルドに他所からの支援がさっき入りまして…………。ある程度通常業務に余裕が出来たんですよ。ライカさんじゃない真犯人がいるなら、とっ捕まえて私がした苦労を懇々と語り倒したいですし、ライカさんが犯人ならおしおきしたいので」
「だから犯人じゃないですよ!?」
握り拳に精一杯の力を込めて、怒りと共にコルネさんは語る。そりゃ、苦労しただろうなぁ…………。
「あと、セレナちゃんが有能すぎて私の仕事がほぼ無くなったのでここいらで成果を上げてお給料アッ…………いや何でもないですよ?」
「あっ、はい…………」
そういう魂胆か…………。まぁ、協力してくれる分には有難いし、何も言わないでおこう。
「仲間が増えました!これは、私の人望がなせる技ですね!」
「んなわけあるか」
ポジティブモンスターめ。
「…………では、まずここから捜査していくとしましょう!話が聞けそうな暇な職員さん、いませんか?」
その発言に、反応した人物が一人。
「…………私です…………」
他でもない、コルネさんだった…………。
「そういえばそうでした!暇だから協力してくれるんですもんね!」
「うっ」
何気ない言葉のナイフに、コルネさんが泣きそうになる。他人から改めてバッサリ言われると傷付くよな…………。
「じゃあ、そんな暇なコルネさんにいくつか質問があります!」
「はい…………暇なコルネです、すみません…………ごめんなさい…………」
完全にメンタルをやられてしまっている…………。すみません、本当に。うちのバカが、迷惑かけて…………。
「その1!爆発したとき、怪しい人はいませんでしたか?」
「貴女です」
…………確かに、コスモ探偵だかなんだかの決めポーズをとっていたな。ジョ〇ョ立ちを過激にしたような変なポーズだった。
「えっと、その2!爆発魔法の使い手に、心当たりは」
「貴女です」
…………確かに、爆発魔法は威力は高いが、周囲にそれなりの被害を及ぼしてしまうので、使い手はそんなにいない。俺もぱっと言われて思い付くのがライカしかいない。
「…………その3、ずばり、コルネさんが一番怪しいと思う人は…………」
「貴女です」
真顔で答える。これ、絶対さっきの仕返しも含んでるな…………。お互いを言葉のナイフで傷付け合う不毛な戦いが始まってしまった…………。
「…………警察、行きますか?」
「…………無神経な事言ってごめんなさい…………」
今度は逆に、ライカが泣きそうな顔に。コルネさんって、意外と強かな人だったんだな…………。
「あれ?コルネさん、どうしたんですか?」
「ヴェ、ヴェルカーさん!?帰ってたんですか!?」
「はい。街の皆さんへの連絡作業も終わりましたよ」
突然現れたのは、イケメンというのはこう言う人を指すんだなといったような、整った容姿の男だった。声も爽やか風味だし。
「そちらの方たちは…………初対面ですね。僕はヴェルカー、コルネさんの同僚です。以後、お見知り置きを」
「レイです。はじめまして」
「ライカと言います!気軽にライカちゃんでいいですよ!」
「あはは、素敵な名前の人達ですね」
くっ、眩しい!これがイケメンスマイルのパワーか…………。陰キャだった俺なんか浄化されそう。
「ところで、二人はどのようなご用件で?見たところ、依頼受諾や討伐報酬の受け取りでもなさそうですし…………」
「それがですね、こういう事情で…………」
「なるほど…………それで、犯人を探していると?」
「はい!コルネさんも手伝ってくれるって言ってくれました!」
「ほう。優しいんですね、コルネさん」
「いや、私はそんな優しい者では…………褒められちゃった、あわわ…………」
…………おぉ?
「いやいや。コルネさんは優しくて可憐で素敵な女性ですよ」
「かれっ!?ふ、ふしゅぅ…………」
「あれ?大丈夫ですか?もしもーし?…………聞こえてないのかな」
「ぷしゅ~…………」
……………………。
コルネさん、絶対この人の事好きだろ。
「…………なんかよく分かんないですけどフリーズしちゃったコルネさんはおいといて、です」
なんかよく分かんないの!?寧ろめちゃくちゃ分かりやすくなかった!?
「ブーメランだよ」
「わぁっ!?す、ストロンガーさん!?」
その一言を残してストロンガーさんはまた異空間の中へ…………。ブーメラン?…………いやでも、そういった素振りをする人周りにいなかったような…………。
「ヴェルカーさんにも聞き込みを行いたいと思います!」
ストロンガーさんは無視か。ライカも耐性が出来たんだなぁ…………。
「お、僕にも?いいですよ、僕に答えられる事なら何でも」
こっちもスルー!?どんだけ強靭なスルー力持ってるんだ、この人は!?
「では、色々聞かせて頂きますね!そうですね~、まずは…………」
ライカはそこで、息を吐くと、告げた。
「貴方からは何故か濃い硝煙の匂いがするのですが、その理由説明してもらいましょうか?容疑者さん」
…………そこに、さっきまでのへらへらした笑顔は無く。
真剣な眼差しで、容疑者を追い詰めるライカがいた。




