39.約束を果たすため
「おにーちゃんとおねーちゃん達に手を出すのなら、わたしが許さない!わたしが……シフォンが、相手になるよ!!」
突如物陰から俺達の目の前に現れたシフォンちゃん。シフォンちゃんは足を震わせながらも俺をベノムから庇うように立った。
「し、シフォン?い……いつから、そこに?」
「あの化け物が出てくる前から……いや、おねーちゃん達が来る前から。かくれんぼで隠れてたの」
それを聞いて、ベノムと戦闘になる前のシーンを思い出す。
『では、早速…………む?』
『どうしたのディアブロさん?』
『いや、なんか今物音がしたような……?』
『……私は何も聞こえなかったけれど……気の所為じゃないかしら?』
『うーん……まぁ、そうか。気にしない方面で行こう。あ、ドア閉めて』
『了解したわ』
……あの時した物音って、シフォンちゃんが立てたものだったのか……。
……いや、そうじゃない、そういう思考をしている場合じゃない!これは非常にマズい、マズすぎる!動けない俺を庇ってるってことは、あいつの攻撃でシフォンちゃんが危機に晒されるってことじゃねぇか!自分が死ぬならまだしも、自分のせいで他の人が死ぬとかそんなのは絶対に嫌だ!早く逃がさないと!
「し、シフォンちゃん……俺のことはほっといていいから、早く逃げろ……!じゃないと、死ぬぞ……!」
「イヤ!わたしが逃げたら、おにーちゃんが死んじゃうもん!そんなのは……そんなのは、絶対に駄目なんだからっ!!」
「ほウ……俺ニ立ち向カうって言ウのか?戦闘能力モ何もナいガキの分際デ?」
「そう!大切な人達が痛めつけられてるのを、わたしは黙って見てられないよ!だから、わたしがおにーちゃんを……いや、みんなを守る!!」
「シフォン……!」
「シフォンちゃん……!」
俺が逃げるのを促しても、ベノムが殺意を辺りに迸らせても、シフォンは逃げない。立ち向かうことを止めない。
「シフォン……お前……」
「大丈夫おにーちゃん、大丈夫だから。だって、わたしは約束したんだもん」
「……約束……?」
「わたしの大切な、大好きなお友達と。大切な人を守るために行動するって、もしそれでわたしが危険な状態になったら必ず助けに来てくれるって」
「……………………」
「だから、怖いけど……涙も止まらないけど、わたしはやる!みんなを守るの!!」
…………シフォンは、本気だ。本気で、あの化け物に立ち向かおうとしている。
……いいのか?それを許可しても。シフォンの友達が助けに来てくれる保証は何処にもないし、そもそも助けに来ることはほぼ不可能だ。この部屋の扉は封印解除の前に固く閉ざし、ディアブロさんが術式解除しないと開かないようになっているから。それでも……それでも、俺は許可を出せるのか?
「……シフォンちゃん……」
「おにーちゃんに何と言われようと、わたしはおにーちゃんを庇うよ。だって、それが……それが、すーちゃんとの約束なんだもん!破るなんて、ありえない!!」
………………。
………………約束、か…………。
………………俺も、昔…………。
だったら……それだったら、仕方ない。シフォンちゃんの意思を尊重しよう!
「シフォンちゃん、そこまで言うなら……任せた」
「………………うん!ありがとう!……そこの化け物!わたしの大切な人達に手を出すなんか、絶対に許さないんだからねっ!!」
そう言うシフォンちゃんの顔に、もう涙はない。決意を込めた瞳でベノムを睨み、凛とした表情を見せるシフォンちゃんは、まるで勇者の様だった。
「ハハハハハハ!!笑わセてくれルな、おイ!そうカ、ならバ……諸共死ネェ!!」
「レイ!シフォン!!」
ベノムはこれまで以上の殺意を放ち、突撃してくる。生物としての勘が告げる、これは確死の一撃だと。覚悟を決め、俺は目を瞑り、攻撃をシフォンと共に一撃を受ける準備を……
「『シールド』っ!!」
「ッ!?な、何ダ!?」
…………だが、その一撃は懐に届くことは無かった。
「し、シフォンちゃん……お前、魔法使えたんだな………………は?」
それをてっきり、俺は……。俺は、シフォンちゃんが土壇場で覚醒し魔法が使えるようになったんだと思ったんだが……。そ、その……あれ…………何ですか、ありゃ!?
「………………えっ」
「く、空間に……」
「穴が……空いてます……!?」
そう、空間に穴が……穴が空いてるんですよ……!!
そっからシールドの魔法飛んできて俺達を守ったんだけど……んんん!?やっぱり意味わかんねぇ、どういうこと!?
「しーちゃん、よく言ったね!親友として、鼻が高いよ!約束通り、空間に穴をこじ開けて無理やりやって来たよ!!」
「…………!もう、来るのが遅いよ!…………すーちゃん!」
「え」
「え」
「え」
「えぇっ!?」
そうしてその穴から出てきたのは、自らを『すーちゃん』と名乗る剣を持った女の子だった。
……………………。
ま、まさか……そ、その……まさか、ねぇ?
……この穴こじ開けたの、シフォンちゃんの親友なのぉ!?う、嘘ぉ!?
「ま、まさか本当にこじ開けられるとは……世界には、私の知らないことがまだまだ沢山あるのだな……」
「……あのようじょが、とくべつなだけだと……おもう……」
「そ、その声は!!」
「ハルバさん!?フェルちゃん!?」
「あぁ、私だ!お前達が危険に晒されているような気がしてな、助けに来たぞ!」
「……そういう、ことだ。あざとようじょ、またせたな……!」
「フェルちゃんも来てくれたの!?嬉しい!ありがとう!」
その穴から、ハルバさんとフェルも飛び出してくる。え、本気でどういうこと!?どうなってんの!?
「まず、やらなきゃいけないのは……治療ですね!『状態異常治癒術』!そして『神聖治癒術』!」
そして、『すーちゃん』は俺に魔法をかける。すると、身体を支配していた重さと痛みは一瞬にして治まった。……すげぇ、完全に治ってる。身体も自由に動くぞ、これ!
「さらにさらに!『解呪』っ!」
「……くはっ!!…………はー、はー……辛かった、死ぬかと思った……。解呪、ありがとう……」
「……おねーちゃんたすけてくれて、ありがと……はいぱーようじょ」
「こんなの朝飯前ですよっ!」
そして、今までディアブロさんを苦しめ続けていた呪いまで解呪した!?本当に何者だあの幼女!?
「な、何ダ…………!?おイ、そこノガキ!!貴様、一体何者ダ!?」
敵だけどナイス質問!それは俺も凄く気になる!
「……そういえば、名乗りがまだでしたね。よろしい、名乗って差し上げましょう!」
そう言って、『すーちゃん』は決めポーズを取り、こう告げる!
「わたしの名前は……わたしの名前は、ストロンゲスト!!パパ……偉大なる勇者、ストロンガーの娘にして、勇者ですっ!!」
……………………?
……………………。
……………………娘ぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇぇ!?




