35.封印を解かれし厄災
「……くケケ、よク俺を封印から覚まシてクレたな、雑種どモ」
……この世のものとは思えない、怨嗟のこもった声が部屋中に響き渡る。その声は、まるで地獄の底から這い出て来たような……
「…………な、なに、これ」
「……分からん。でも、これはヤバいやつだぞ……」
封印を解いた俺達。そして、封印されていたもの。それは、ハッキリとした実態を持たない幽霊のようなもの。しかし、そのオーラは周りを威圧し、俺達の想像を遥かに上回る、災厄だった。
……封印が施されてたのって、そういう事だったのか……!何で早く気づかなかった、クソ!少し考えれば至れた可能性だっただろうに!
「あ、あれって……」
「あっ……ああっ!思い出しました!」
「思い出したって、何を!?」
「私達、あの洞窟のところで隠されていた紙を見つけたんです!そこにはこう書いてあったんです……『この洞窟の祭壇に置いてある石には、この世のものとは思えない災厄を封じ込めてある。何人たりとも、その石持ち出し封印を解くべからず。その災厄の名は……』」
「……『ドロモス・ベノム』!天界指名手配番号1456番、毒と厄災の魔獣ですっ!!」
ドロモス・ベノム……!?
「そういえば、知り合いの悪魔から聞いたことがある。憎悪を糧とし、毒を振り撒きこの世を混沌で満たす、悪魔よりも悪魔らしい魔獣……。それが確か、ドロモス・ベノムだよ!」
「おおっト、紹介しテくれてありガとう。そうダ、俺が毒ノ厄災をそノ身に体現シた魔獣、ドロモス・ベノムだ。ヒヒヒ……」
……天界指名手配番号が付いてるってことは、やはり相当にやばいやつだったらしい……ど、どうする……?って、それより今は問いたださなきゃいけないことがある!
「お前ら、何でそんなに重要な情報忘れてたんだよ!?」
「恐らく記憶干渉術です!記憶干渉術は記憶を操作出来るんですが、操作して封印した記憶は封印された記憶の中にあるものを見ることで蘇ります!こいつ見た瞬間記憶が戻ったので、多分それで間違いないです!」
なるほど、重要な情報を見てしまったあいつらの記憶は何者かによって封印されてたってことか!それもまた、七賢者か……?
「フフフ……久しブりに外に出らレるってのは、中々気分が良イものダな。感謝すルぜ。これハそのオ礼だ、クらえ!!」
「わっ!?」
「ちょっ!?」
「痛っ!?」
「なっ!?」
「やばっ!?」
しまった、不意を突かれて……!
壁に強烈に叩きつけられ、視界が歪む。感覚も遠のいていく。それでもなんとか意識を保ちながら、苦痛が癒えるのを待つ。
……何だ、この程度なら余裕で耐えられるな……。
そう思い、身体の痛みが引いたタイミングで身体を動かそうとする…………
…………!?う、動けない!?
「ど、どうしましょうレイさん!?全員拘束されちゃいましたよ!?」
……しまった、さっきの一撃はそういう意図だったのか……!
痛みが引き、身体の感覚が戻ってくるにつれて、身体を重い鎖の感触が蝕む。自力で抜け出そうともがくも、身体は一ミリも動かない。
「そんなの俺が一番聞きたいよ!みんなは拘束から抜け出せそうか!?」
「無理よこれ!生半可な力じゃビクともしないわ!」
「しかもこれ魔力阻害の効果付いてるみたいで魔法で消し飛ばすことも出来ないです!?でぃ、ディアブロさん何とかならないんです!?」
「ごめん……悪魔の私でも、この拘束を解くのはキツイ……。こんな強力な拘束術式見たことない……これが、毒と厄災の魔獣の力だって言うの……?」
「当たリ前だ。人を倒シ、モンスターを喰ラい、天使さエも屠り力を手ニしテきたのがこノ俺だかラな。ヒヒ、ヒヒヒ、ヒャハハハハハハ!!」
「くっ……」
「さぁテ、もう一つ封印ヲ解いてくレたお礼に貴様ラに死を贈っテやろウではナいか!!あァ……殺し……久しブりの殺戮ダ、昂っテ来タぁ!!ハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
こいつ……尋常じゃない。言動も、溢れ出す強さも。こんなのに俺達勝てるのか……?現に今、拘束されて身動きすら取れないわけだし……。
「……話はそれだけ?」
「る、ルミネ?」
「……ルーちゃん?」
そんな中、ルミネだけが強気に返答する。凄いな、俺なんか情けないことにビビって仕方がないというのに……
……もしかして、何か策が……!?
「ハハハハハハハハハハハハ、む?話?そうだナ、言ってオくのはそれクらいだな。じゃア、死んデ貰おウか」
「……そう。ねぇ、降参する気とかはないの?」
「降参?俺ガ、降参?…………ヒャハハハハハハハハハハ!!笑わセてくれルじゃねェか!!今まデ何体も何体モ殺しテ来たけド、そんナ啖呵を切っテ来たのハ貴様ガ初めテだ!!面白イ、面白いゾ!気に入っタ、貴様ハ最後に殺しテやる!!」
「それ絶対嘘だぞ、信じちゃダメだぞルミネ!!」
「いやそんなの流石に分かるよ!?こんな怪しいのの言葉なんて信じないよ!!」
まさか異世界に来てまで「あれは嘘だ」を聞くことになろうとは……。……でもツッコんでたらなんかちょっといつもの調子戻ってきた、いけるかも!とりあえず、身動きは取れないからシンキングタイムだ。
……ルミネが強気ってことは、何か策があることは間違いない。何も無いのに啖呵を切るのはあの二人の担当だからな。
「そう……じゃ、本当に降参する気はないんだね」
……なら、何だ?一体ルミネは、どんな策を用意しているんだ?
洞窟の時は俺がやろうとしていることを察して動いてくれた。なら、今度は俺の番だ。
「……それなら、わたしも容赦しないよ」
そう言うと、ルミネはちらっと此方に目配せをした。そして、その後鎖に目を向ける。
……鎖?どういうことだ?
……よく考えろ、そうしてきたってことは何か意図があるって事だ。その意図を汲み取れ!
……鎖……鎖……?鎖がどうした、何だ!?
……落ち着け、ここに至るまでの経緯をもう一回思い出してみよう。えっと……放たれた鎖で拘束されて、身体が一切動かせなく……
…………身体?
……………………あっ、そういう事か!!
俺はルミネに目配せを返す。すると、ルミネは頷く。間違いない、これだ!これなら、拘束から抜け出せる!
ルミネは恐らくあの手段を使うのだろう、いや、あれしかない。俺とルミネだけなら、拘束を抜け出せる!
ルミネがあれをするタイミングで俺も行動開始だ!
「ほウ……身動きガ取れなイというノに、随分と強気ダな」
「それはどうかな?」
「……何?」
「拘束してるから動けないとお前は言ったな」
「……何ガ言いタい」
「そ れ は 嘘 だ」
「……何ダと?」
「こうするんだよっ!おりゃァァァァァ!!」
そう言い放ち、ルミネは全力で拘束されている両手両足に力を込める!そして……鎖は、千切れたっ!!
「な、何ィィィィィィィィィィィィ!?」
「レイくん!」
「了解!『実体化解除』っ!!」
元々、俺はこの世界に来た時点では霊体だった。その状態から、ネクロマンスでリヴィに実体を付与されて、今に至る。
……身体が拘束されて動けないなら、身体を作っている実体化を解除すれば良いだけの事!!
「レイくん、流石。意図汲んでくれてありがとう」
「お互い様だろ、それは。洞窟の時はありがとな。それじゃあ……」
「「反撃開始だっ!!」」
今、戦いの火蓋が切って落とされた!!




