101.そして世界は反転する
「テトラ…………!」
冥府に突如として現れたのは、騒ぎの元凶、氷華の七賢者のテトラだった。
「…………っ!よくもフリルをこんな状態にしてくれたわね!くらいなさい!!」
「六花!?」
不意打ちのような形でテトラに六花が剣で先制攻撃を仕掛ける!
ガキンッ!!
しかしその刃は何事も無かったように弾かれた!?
「嘘、何これ!?か、硬い!?」
「こ、氷でちか!?」
「言っておきますが、本物の私はこの場には居ません。それは通信魔法を繋いだ氷の彫像みたいなものです。いくら攻撃しても無駄ですよ」
つまりあれはただの通信端末って事かよ…………!安全圏から対話なんて、いいご身分だな…………ちくしょう!
「あなた方の推察通り、この氷は生命力を徐々に奪っていくもの。花の国と冥府は表裏一体…………近しい関係にあります。花の国が丸ごと死ねば…………ここ冥府はどうなるでしょうね?」
「…………まさかお前、花の国と冥府を入れ替えようってのか!?」
そんな衝撃的な一言がコレッタの口から飛び出した…………!?
「その通りです女神コレッタ。このまま事が進めば、花の国が元あった所には冥府が居座る事になるでしょう。それが意味する事は、分かりますね?」
「…………っ」
「ね、ねぇ、一体どうなるの?フリルは…………花の国は一体どうなっちゃうの?」
「…………枯れる」
…………え?
「今、何て?何て言ったんでち?」
「枯れる。花の国や精霊だけじゃなく、世界中の花丸ごと枯れる。花を司る花の国が全滅となれば、行き着く先はそこだ。それどころか、冥府が地上に出現した余波として他のものも死に絶えてしまうかもしれない」
「そ、そんな!嘘だろ!?」
「非常に残念でしょうがそこの女神の言う通りです。この世界から花は消え去り、人々は嘆き悲しむ事でしょう。私達に憎しみだって募らせるはず。それが、私達の目的」
七賢者の冷たい声が、心へと突き刺さる感覚がした。確か酢豚…………マハネールもそんな事言ってたよな?『憎しみを集める』って…………。その為に、花の国を滅ぼすのかよ…………くそっ!
握る拳に力が籠る。しかし、今の俺にはどうする事も出来ない。氷像より発せられるテトラの声に怒ることしか、俺には出来ない…………もどかしい!
「そうですね…………あと三日もあれば完全に花の国は枯れ果てるでしょう。私は地上にいますが、あなた達では私を倒す事は出来ない。せいぜい、事の顛末をそこで指をくわえて見ている事ですね」
そう言い残すと、氷像は溶けてしまった。
「ど、どうしよう!玲、花の国が枯れるって…………!」
「落ち着け、六花!とりあえず、落ち着いて作戦を考えないと!えっと、素数でも数えて…………1、2、3、5…………」
「1は素数じゃないわよ!あんたの方がよっぽど慌ててるじゃない!」
そうだった、1は違う!ダメだ、落ち着こうとしても思考が纏まらない!花の国が枯れる?相手は強力な七賢者?一体どうすればいいってんだよ…………?
「あわわわわ、フローラ様もいないのにこんな事になって…………花の国はもうおしまいでちー!!自分の命も…………もう終わってたでち!うわーん!!」
七賢者対策会議では冷静な一面をを見せてくれたフリルはすっかり慌てふためいて涙も零している。こんな状況で、どうやって落ち着けば…………!
「とりあえず落ち着け。みんなの命は、皆の命だけなら何とか助かるかもしれないぞ」
「長老にフローラ様ごめんなさいでち…………でち?コレッタ様、今なんておっしゃったでち?」
「命が…………助かる?」
皆の視線が一斉にコレッタに集まる。一体、どういう事なんだ?
「コレッタ、それって?」
「それはだな――――」
◆◆◆
「なるほど…………それなら、大丈夫かもしれないって事ね。でも、何でそんな回りくどい事を?七賢者と戦った事のある玲なら何か分かったりしない?」
「いやさっぱり。あいつらの目的はいまいちよく掴めないからな…………」
コレッタが話してくれた内容が確かなら、もしかしたら助かるかもしれない。だが、それでも世界の花々は枯れてしまうらしい。だったら、俺達がやるしかないよな…………。
「ほ、ホントに生き返れるかもなんでちか!?嘘じゃないでちよね!?」
「あぁ、そうだ精霊。奴の計画を止めて花の国が生命力を取り戻したのなら、お前は帰れるかもしれない。でも、それまではここに閉じ込められっぱなしだ」
「なるほどでち…………お話ありがとうございまちた、コレッタ様。少し落ち着けまちた」
また、コレッタの話によると氷によって生命力が奪われ死んだような状態になっているフリルも元凶が取り除かれれば元に戻れるかもしれない…………との事。とりあえず、希望は望み薄だが潰えてはいないと言う事だけは理解出来た。…………それがどんなに雲を掴むような事でも、やるしかないよな。
「ただ問題は、奴を倒す方法についてだな…………地上と冥府が限界まで近づく末期状態じゃないとあたしは外に出る事は出来ない。それは精霊だって同じだ。つまり、地上の奴らを何とか出来るかはそこの二人にかかってる」
コレッタは俺と六花を指さす。
「生きてるとも死んでるとも取れる異世界から来たあんた達なら、地上と冥府を行き来出来るだろう。お前らがあいつを倒す鍵だ。いいな?」
「…………うん、地上にいる皆…………きいろ…………それに、フリルの為だもの。あたしが頑張らないで誰が頑張るっていうのよ。精一杯、やってみせるわ」
「これまで色んなトラブルに巻き込まれて来たけど、何だかんだその度に切り抜けて来たからな。今回も、やってやろうじゃないのさ!」
「自分だって、色々サポート頑張りまち!レイさん、ハナさん、後方支援はおまかせでち!」
「…………生者ってのは威勢が良いこった」
「あの、コレッタ様…………自分死んでるんでちが…………」
期限は、あと三日。絶対に、花の国と冥府を救ってみせる!
「ただ、七賢者に干渉されてるから地上に戻るのにもエネルギーを使いそうなんだよな…………向こうに橋渡しをしてくれる人がいるならいいんだが」
「えっ、そうなの?」
「…………二日かかって送るのが精一杯かもしれない」
「えぇっ!?それってまずくないでちか!?」
「往復出来ないじゃない!堂々と威勢のいい事言っちゃったけど、どうするのよ!?」
ここに来てまさかの問題発覚!?え、嘘!?
「ちょ、ちょっと待て!橋渡し出来る人物がいれば、大丈夫なのか!?」
「あぁ、向こうとパスを繋いでくれる人がいればすぐにでも送れそうだが…………じゃないと、厳しい。辛い」
バスを繋げる人?そんな人、いない…………
…………いない?本当に?
「ど、どうしよう…………って、玲?どうしたの、魔法端末なんか出して」
「多分それ繋がらんぞ人間。アホか?アホだろ。アホだな」
魔法端末。日本で言うとこのスマートフォン。電話をかける事が主な機能だ。
…………それでフリル、言ってたよな。
チャンネルが合えば現世以外でも繋がるって!
ボタンを押す。かけた先は、勿論…………!
『もしもし?どこ行ったの玲、何で冥府のチャンネルから繋がってるのよ。とらっかちゃんもびっくりよ』
うちの偉大なポンコツネクロマンサー様だ!




