47.伝説の真相
翌日早朝。アダム達、古の魔法使いの五家の面々は、封印の場所へと向かった。念のため、アダムの使い魔達も同行する。
「やっぱり朝は冷えるわね……シュティレ、大丈夫?」
「うん。なんとか…」
言いながらシュティレはズズッと鼻を啜った。
「大丈夫じゃなさそうだね……あ、そうだ!ボクが元の姿に戻って、シュティレを抱えてあげるよ!そしたら、あったかいよ♪……良いですか?ご主人様」
「ああ。そうしてやれ」
「はーい!」
シロはいつものイタチの姿に戻ると、シュティレを横抱きにした。
「ありがとう。シロ。ごめんね…」
「いいの、いいの!ボクがしたかっただけだから」
「アダムくんの使い魔達って、仲良いんだね〜!かわいい」
ハルモニアが、そんな様子を見て微笑んだ。
「まあな」
アダムは素っ気なく返しながら、黙々と山を登る。
「…使い魔達に仕事をさせて、自分は高みの見物か……いい身分だな」
アーバインはそんなアダムの背を見ながら、小声で毒づいた。
封印から溢れ出る気配は更に濃くなっており、封印に近づくにつれ、一行の顔に緊張が走った。
「……なんかこれ……魔力っぽくない?」
ハルモニアが苦笑いを浮かべる。
「確かに、言われてみれば……しかし、私の家に遺されている記録によると、ドラゴンは五家の魔力を合わせた封印術式で封印したとありましたが…」
ラウレンスが言うと、カイルは首を傾げた。
「しかし、魔力を魔力で封印など、出来るのでしょうか?」
「並みの魔力では難しいだろう。だから、五家の力が必要だったのではないのか?」と、アーバイン。
(何か、引っかかる……)
アダムは、改めて封印を眺める。
魔力は更に格上の魔力で抑えるしかないのは、使役魔法の特性と同じと考えれば理解出来る。しかし、先日にも思ったが、なぜ、倒さずに封印したのか……。
「暁の女神と弟子の、ドラゴンの封印伝説には、一般人には知られていない、別の側面があるのです。他人に語るには憚られる、実に人間らしい物語が」
ふと、クロが静かな声で話し始め、皆がクロに注目した。
クロはそんな中、アダムを見つめる。
「一番関係があるのはご主人様ですが、他の方にもお聞かせしても、構いませんか?」
「良いぞ。封印に関係あるんだろ?」
「ええ。但し、直接関係あるというよりは、封印の背景をより理解する話というだけのことです。この話を聞こうが聞くまいが、やることは変わりません。……初代には出来なかった、討伐を果たすのです」
「なに!?討伐?再封印ではないのか?」
ラウレンスが声を上げ、他の者も一様に驚いていた。
「再封印しても、またいつか、再封印が必要になります。そうなるくらいなら、倒してしまったほうが良いではありませんか。それに、その時まで五家が残っている保証はありませんし」
既にテトが滅んでいる事実を思い出したのか、皆の顔が曇る。
「し、しかし……暁の女神のような魔力の持ち主もなく、五家の我々も、代を経るごとに魔力が落ちている……そんな状況で、初代にすら出来なかった討伐が叶うのか?」
「同感だ。クロ。勝算はあるのか?」
カイルが狼狽え、アダムはクロの瞳を覗き込む。
クロは相変わらず余裕の笑みを浮かべていた。それは勝算があると確信しているようでもあり、他人事だと割り切っているようにも見えた。
「勝算ならありますよ。……なにせ、あなたがたには、関係のない昔の話ですからね。容赦なく、『ドラゴン』を叩けば良いだけです。案外『ドラゴン』も、倒されたがっているのではないかと思いますし」
どこか含みのある言い方に、皆の表情が複雑化するのを、クロは面白そうに眺めた。
「では、お話しましょう。愉しい愉しい……昔話を」
※
今から五百年余り昔。当時はルベール帝国のような大国はなく、細々とした国が領土争いをしながら存在していた。
しかし現代と違うのは、人間を襲う魔物の数が、桁違いに多かったということ。人間同士の争い事より、町や村を襲う魔物の対応に追われていた。
そんな中、生まれつき人には見えない妖精や精霊を見て会話出来ていた双子の少女が居た。それが、マグノリア・ハーネットとフリージア・ハーネットで、二人は精霊から力の扱いを学び、その力を『魔法』として昇華し、他者に教えた。
※
「え?暁の女神って、一人じゃなかったの?」
ハルモニアが言って、クロは微笑む。
「ええ。そして、このフリージアこそが、この物語のポイントです」
※
彼女達のお陰で、魔物は徐々に後退し、彼女達の魔力を分けることが出来た五人の弟子達によって、魔法は広範囲に広まった。中にはマグノリア達と同じく、魔力を生まれ持つ人間も居て、そういう人間に魔法を教えたことにより、人間は魔物に怯えなくてもよい暮らしを手に入れた。
そんな中、密かにある問題が起きる。
マグノリアとフリージアの力を見込んで、真っ先に弟子になり、他者に広めることを提案した立役者、初代ウェスペルのキアンに、二人が恋をしたのだ。
キアンの心はフリージアにあったが、控えめなフリージアとキアンの関係は、穏やかではあったが、なかなか進展しなかった。そんな中マグノリアは、キアンを諦められず、キアンを酒で酔わせて判断能力を鈍らせると、フリージアを装って近づき、キアンと一夜を共にした。
それがきっかけでマグノリアは妊娠。それを知ったフリージアが、ショックから魔力を暴走させてしまった。
暴走したフリージアの魔力は辺り一帯を破壊し、魔物を呼び寄せた。魔物達はフリージアの眷属のように町々を破壊する。フリージア自身も自我を失い、無制限に魔法を放っていた。誰の言葉にも耳を貸さず、その姿は異形に歪んでいた。
五人の弟子が力を合わせてフリージアを追い込んだものの、フリージアを正気に戻すことを諦めきれずに封印することにしたのだった。
※
「と、いうのが、私がキアンから引き出した伝説の真相です。頑張っていたみたいですけど、結局フリージアを元に戻す方法は見つからず、また暴れられるのを恐れて、封印を解こうとする者がなかったので、これまで封印されていたわけです」
「……」
クロが口を閉じても、しばらくは誰も口を開かなかった。
「――あれ?ドラゴンは?」
放心状態の魔法使い達を差し置いて、シロがそう言って首を傾げた。
「……居ないわよ。フリージアの変わり果てた姿を、『ドラゴン』に例えて、英雄譚のように広めただけみたいね」
「……かわいそう…」
シュティレがぽつりと呟き、クロはシュティレに目を向けた。
「本当ね。人間はいつも自分勝手よ。……ちなみに、マグノリアはこのことをかなり後悔してたみたいよ。ストレスが掛かって、キアンとの子どもも流れたらしいし、結局キアンとも結ばれなかったらしいわね。私がキアンに使役された時は、マグノリアは近くに居なかったから、死んだか遠くに行ったかしてたんでしょう。キアンは何も語らなかったし、私は始終檻の中だったから、詳しくは知らないけれど。キアンは私なら、フリージアを救う術を知っているんじゃないかって期待してたけど、生憎と知らなかったし」
「ん〜と……何だか衝撃的な話だったけど、伝説ってつまり、ただの愛憎劇だった……ってことで合ってる?」
素かわざとか、ハルモニアが明るく言う。
「そう。簡単に言えば」
「――くだらない…」
ふと、アーバインが言って、皆の視線がアーバインに集まった。
「つまり我々は、ウェスペルと暁の女神のせいで起きたことの、尻拭いの為に集まったのか?」
誰も答えないが、考えていることは、大体アーバインと同じだというのが、空気から伝わってくる。
「……尻拭いだろうがなんだろうが、倒すことが可能なら、倒すべきではないでしょうか。私はずっと封印を見守ってきたので分かります。これを解き放つわけにはいかない……。クローディアが語った通りなら、敵はフリージアだけではなく、フリージアの魔力に惹かれて集まる魔物達も含まれる……私は領主として、領民を危険に晒す真似は出来ません」
ラウレンスが力強く言って、アーバインはそれに同意するように頷いた。そして、
「そうだな。私もそう思う。もちろん、倒す為に全力を尽くそう。……まったく……ウェスペル家はろくでもないと思っていたが、やはり噂通りだったな。災厄の原因とは…」と、アダムを睨むようにする。
「ちょっと、ラクリスさん!アダムくんは悪くないでしょ!」
ハルモニアが食ってかかり、カイルがそれを押さえつつも、「確かにリュト殿の言う通りです」と賛同した。
アダムの使い魔達も殺気立ったが、それはアダムが制止した。
「ラクリスさん。ウェスペル家に思うところがお有りのご様子ですが、今は内輪揉めをしている場合ではありません。ここは一つ、ご協力願えませんか?」
ラウレンスも加えて言うと、「余計なことを言ったな。申し訳ない」とアーバインは軽く頭を下げた。
(全然、申し訳ないって顔してない…)
シュティレはそう思って悲しくなる。ミアのことがあったからこその態度なのかもしれないと分かってはいるが、自分の大切な人が嫌われている様子を見るのは、辛かった。
「俺は気にしていませんから、大丈夫です。このフリージアさえ葬ってしまえば、古の魔法使いの五家などと言ってつるむ必要は無くなるわけですから」
当のアダムはさらりと言っては、クロに目を向けた。
「勝算があるという言葉、信じていいな?」
「勿論です。ご主人様に、嘘は申しません。五家の力と、私達使い魔の力を合わせれば、勝てます」
クロは一瞬、シュティレに目線を向けてから、またアダムに戻した。
(なるほど……シュティレが"暁の女神"というわけだな)
伝説を聞くからには、マグノリアも初代ウェスペルのキアンも、情から、まともに戦えていなかった可能性がある。それがないだけ、確かに勝機はありそうだ。
「僭越ながら、私が作戦を提案しても宜しいでしょうか?」
クロが皆を見渡すと、皆同意するように頷いた。
クロが考えた作戦はこうだ。
まず、シュティレ、アーバイン、クロの三名でこの山に結界を張り、フリージアの逃げ場を塞ぎつつ、付近への被害を最小限に抑える。
カイルの召喚魔法で、魔法が込められた武器を取り寄せ(魔法が込められた武器は、魔法を破ることも出来る)、それを用いたり、フォクスの自然を操る魔法や、シロの風で、フリージアにダメージを与える。
アダムは使役の鎖を駆使してフリージアの動きを鈍らせ、ハルモニアは歌の魔法でフリージアを撹乱、または付近の精霊に呼び掛け、力を借りる。
「結界が機能していれば、フリージアは魔物を呼び集めることも出来ないでしょうから」
「なるほど……しかし、念には念を押したほうが良いですね。私は、家の者に連絡して、付近の警備を強化しておきます」
ラウレンスは胸ポケットから手帳を取り出して、何かを素早く書き付ける。それから手帳のページを切り取ると、空へ放った。放られたページは鳥のような形に変化して、フォクスの屋敷の方へと飛んでいく。
「クローディアの能力が申し分ないのは理解出来るが、その、シュティレとやらは、どんな魔物なんだ?正確な力が分かっていないと、背中を預けられんな」
アーバインがそう言ってシュティレを睨むようにする。それでシュティレは竦み上がった。
そんなシュティレを後ろに庇いながら、アダムはアーバインに目を向けた。
「シュティレは幅広い魔法を扱えます。どんな魔物かというのは、俺にも分かりかねますが、非常に優秀だとだけ、言っておきましょう。気性も穏やかで人に友好的ですから、ご心配なく」
「本当だろうな?」
「何を心配なさっているのか分かりませんが、今はフリージアを倒すのが先決です。余計なことを画策している暇はないでしょう。それに、俺にはラクリス殿に何か因縁があるわけではありませんし、敵にはなり得ないかと」
どこまでも淡々と語るアダムに、アーバインは眉を上げた。
(……気色の悪い男だ)
表情や言動から、心が読み解けない。その空気のような掴みどころの無さが、どこか現実離れしていて、アーバインの気に障る。こんな男を、娘や娘婿は友人と呼んでいるのかと、理解に苦しんだ。だが、確かに今は私情を挟んでいる場合ではない。
「分かった。ならば、問題ない」
「あの、私からも一つ宜しいでしょうか?」
今度はカイルが手を挙げた。皆が許可するように頷くと、カイルはクロに目を向けた。
「君は直接フリージアを見たことはないようだが、それでも倒せると自信を持つのは何故だろう?先程の話から、フリージアへの情のせいで倒せなかったと言っていたが、そもそも倒すのが難しかった可能性も捨てきれないのではないか?」
「根拠は、私のご主人様が、歴代の中で一番魔力の高い魔法使いだからです。その力は、初代よりも上です。それに、フリージアがいくら無限の魔力を持っていたウィス・フォンスであろうと、必ず限界値はあります。当時は魔力を暴走させて暴れていたのですから、体力、魔力共にかなり消耗していたはず……更に、その状態で封印されていたわけですから、今復活しても、万全な魔力では無いはずです」
「そうか……確かにそれなら、問題ないかもしれないな」
「……」
カイルが納得し、他の者たちがフリージア討伐に期待感が高まる中、アダムだけは今のクロの発言に微かな違和感を覚えていた。特に、アダムが初代より格上だという点に。
――『クロ。おまえ、嘘は吐いていないか?』
それでアダムが念話で訊けば、クロはアダムに目を向けて、にっこり微笑む。
――『いいえ。嘘ではありません。アダム様は、
歴代一は言い過ぎましたが、優秀ですよ』
――『なら、俺に話していないことはないか?』
――『……』
(やはりな…)
言葉に詰まるということは、何かあるのだ。
そう思った時、ふと、この地に来た時の会話を思い出した。
クロはあの時、"ドラゴンを見てみたかった"と言っていなかったか?その為に、五百年も待ったと……。
――『正直に話せ。おまえの狙いはなんだ?』
――『実はずっと、フリージアの魔力に興味が
あったのです。倒されたあかつきには、
私が魔力を吸収しようと思っていたぐらい
でした。
倒す方法なら、私もいくつか候補を知って
いましたから……でも、キアンはとうとう
私の作戦には乗って来なかった……。
余程フリージアを愛していたのでしょうね。
でも、今ならそんなキアンも居ませんから、
いいかと思ったのです。
それに、五百年もウェスペルに仕えたんです
から、これくらいのご褒美はあっても良いと
思いませんか?』
――『これほどまでの魔力を吸収などしたら、
俺はおまえを縛れない……』
――『大丈夫ですよ。
私はあなたを裏切ったりしません。
結構気に入ってるんですよ。あなた達との
暮らし』
――『そうか……分かった。なら、信じよう』
――『信じて……下さるのですか?』
――『なんだ。おまえが裏切らないと言ったん
じゃないか。おまえは俺にとって、友か
姉の様なものだからな。信じる』
クロはアダムが"信じる"と口にすることに驚いていた。何も信じずに一線を引いていた頃が嘘のようだ。
(友か姉……か。可愛いことを言ってくれるじゃない――アダム様はまた一つ、成長されたのかもしれないわね……面白い)
驚いた反面、真っ直ぐに信じてもらえることが、とても嬉しく感じていた。
――『ありがとうございます。ご主人様』
アダムは答えなかったが、代わりにクロに向けて微笑んだ。
「じゃあ、話も纏まったみたいだし、さっさとやっちゃおう!」
ハルモニアが声を上げると、皆も真剣な様子で頷いた。
「では、先に結界を張りましょう。多少の広さは欲しいですから、四点で正方形にしましょう。ご主人様が許可を下されば、私の本来の力を少しばかり解放し、私が二点分結界を張りたいと思いますが……」
「わかった。許可する」
「ありがとうございます」
クロ、シュティレ、アーバインは、数メートル離れた所から、封印の四方を囲む様に魔力を流した。四方向から流れた魔力は混ざり、やがて大きなガラスの様な壁を形成し、繋がって空まで伸びて綴じ、正方形の箱の様になった。
「これから私達は、基本的にはこの位置から動けません。封印が解けたら、後は頼みますよ」
クロの声掛けに、残りの面々は思い思いの返事をした。
封印の解除は、岩の上に描かれた魔法陣を破壊すること。ただし、それなりの魔力が無ければ壊すのは難しい。
「では、私が封印を破ります」
ラウレンスは緊張気味に言いながら、自分の魔法の杖を召喚した。目を閉じて深呼吸すると、早口に呪文を唱えた。
ズドォーーン!!
すると、派手な音を立てて、魔法陣含む岩が砕けた。
「……」
皆、固唾を飲んで見守る中、岩は砕けた箇所からパラパラと細かな破片を落とし、やがて岩全体が、地震が起きたかの如くに揺れ始めた。揺れ動く度に岩が崩れて行く。
ドカン!!!
やがて、中のものが破裂したかの勢いで岩が弾け飛ぶ。
「危ないっ!!」
瞬時にシロが風を起こし、飛び散る岩から皆を守った。
「助かった。シロ」
アダムが声を掛けると、「どういたしまして♪」とシロは嬉しそうに言ったが、それと同時に、岩のあった所から大量の魔力が放出され、シロは全身の毛を逆立てて体を震わせながら、アダムの背後に隠れた。
「これが……フリージア…」
アダムも冷や汗を流しながら呟く。
土煙の中から現れたフリージアの姿は、岩山からすると随分小さい。ドラゴンと聞いてイメージする巨躯とは程度遠く、人間の大人程のサイズだ。しかし、その姿は人間のようで、人間ではなかった。
ボロボロの、元は淡い紫であったであろうロングドレスを着ていて、右肩から手の甲までに掛けて、赤い角のような物が棘々と複数生えている。瞳は真紅に輝いて、顔の右半分はオークのように、左半分は怒りをたたえた女性の顔をしていた。長い髪を振り乱し、低い唸り声を上げて、皆を睨みつけた。
「先手必勝っ!」
カイルが言いながら空に右手を翳すと、複数の魔法陣が空に展開され、その魔法陣から剣や槍などが召喚されては、フリージアに向かって行く。
フリージアは封印が解けたばかりだからか反応が鈍く、剣が数本体に刺さってから雄叫びを上げて暴れ始めた。降ってくる武器を叩いて弾いたり、体を大きく捩って風を起こして吹き飛ばしていた。
「完全に復活する前に、叩きましょう!」
言いながら、ラウレンスは杖をフリージアに向けた。杖の先からは炎がほとばしり、フリージアを焼いた。
「ギャァァァ!!」
フリージアは悲鳴を上げながら天を仰ぐ。すると体が水を纏い、炎を鎮火した。
「それなら…」
今度はアダムが呪文を唱え、フリージアに右手を向けると、フリージアの体に稲妻が走る。フリージアの纏った水に沿うように全身にダメージが入った。水を通した分、ダメージも大きいようだ。
それで、またしてもフリージアは悲鳴を上げてのた打ち回ったが、今度は地面から木の根が飛び出して来ては皆に襲い掛かる。木の根は地表に出た瞬間に太さを増していたので、中心に居るフリージアの姿が木の根で隠れてしまった。
木の根は触手のように縦横無尽に動き回る。一本一本が両腕を広げた大人三人が横並びになった幅に等しい程の太さがあり、皆は木の根に叩かれないように逃げるので必死になっていた。
シロは辺りを駆け回り木の根を斬って行ったが、斬られた傍から新しく生えてくるので、なかなか数を減らすことが出来なかった。
「木ならば、燃やすほうがいいか…」とカイルが呟き、「なら、皆で一斉に炎の呪文を唱えましょう。シロの風を使い、威力を足して、方角をコントロールするのがいいかと」とアダム。
「了解しました!」「わかった!」とラウレンスとハルモニアも同意する。
襲い来る木の根をなんとか躱しながら、皆は炎の呪文を唱えた。
「シロ!」
アダムが呼ぶと、シロは瞬時に意図を理解し、皆が放った炎に風を送って火力を上げた。辺りは一気に火の海と化す。燃えて動きが鈍くなった木の根の間から、フリージアの姿が見え隠れする。
「よし…今なら――♪〜♪〜」
ハルモニアが静かで伸びやかな声で歌い出し、それに呼応するように、地面に転がっていた、先程カイルが召喚した武器が浮かび上がり、フリージアに向かって行った。
フリージアは再び水を召喚する。しかし今度は量が多く、滝のような勢いであった。大きな蛇がうねる様に結界の中一杯に広がり、炎を消し、武器の威力を削いだ。
水は召喚され続け、結界の中は水槽状態になる。あっという間に、皆は腰まで水に浸かって、小柄なハルモニアは、既に胸まで水に浸かっていた。
「こ、これじゃあ、溺れ、ちゃう〜!」
ハルモニアが叫び、「やむを得ない。一旦、結界を解除しよう」とアーバインが言うのに、シュティレとクロは頷いて、集中を解いた。途端に結界は消失し、水は流れ去った。水流に巻き込まれて流されそうになる皆を、シロの風が捕まえて集める。
「シロの風は便利ね!」と、ハルモニアはシロに笑いかけた。シロは嬉しそうに口角を上げる。
「さて。結界のない今、より気を引き締めねばならないが……」とフリージアを警戒しつつアーバインが口を濁す。皆もアーバインが言いかけた言葉に心当たりがあるようで、一様に表情を曇らせた。
――倒せる気がしない。
けして押し負けている訳では無いが、フリージアのほうが魔力量も消費量も多いために、一つ一つの魔法が極大で、皆はそれを凌ぐので精一杯という印象を受ける。とてもクロが提案するように簡単にはいかないようだと、皆思っていた。
その空気を察してか、クロは自分の主人を見上げる。
「ご主人様。出番です。シュティレの魔力も使いながら、フリージアを縛って下さい。その間に総力で叩きます」
「……分かった。やってみる」
アダムが返事をすると、シュティレはサッとアダムの隣に立ち、手を繋いだ。アダムはシュティレと目配せすると、集中して、右手をフリージアへと向ける。すると、金色をした鎖が現れ、フリージアの四肢と胴と首に巻き付いた。シュティレの魔力も流され、鎖は一回り太くなる。
「今です!」
クロの号令で、残りの皆は一斉に魔法を放つ。
炎、水、雷……ひいては大地に転がる石ころまで。
それらは確実にフリージアに命中し、その度にフリージアは苦悶の表情を浮かべた。そして、まるで最期の悪足掻きかのように滅茶苦茶に体を動かして、使役の鎖から逃れようとしていた。
「っく…!!」
そんなフリージアを留め置くアダムも、脂汗を流しながら耐える。
「ご主人様!」
シュティレもアダムの体にしがみついて支え、更にアダムに魔力を送った。アダムはその魔力を使い、鎖を変化させる。棘を生やし、フリージアに突き刺した。
「ギャッ!!……!?」
フリージアは痛みに声を上げながらも、急にピタリと動きを止めた。ずっと正面を――アダムの方を、見ている。
「ん?……なんだ?」
その間にも、シロやクロ、四家の皆が攻撃を続けており、確実にフリージアにダメージを負わせていた。フリージアの体には傷が数多生まれ、血も流れているが、それでも、アダムから目を逸らさない。
「――き……あ、ん……?」
フリージアの口が動き、そう呟いた瞬間、フリージアから溢れ出る魔力が一気に増量し、使役の鎖が弾け飛んだ。
お読み頂き、ありがとうございました。
まさかの伝説の真相に、作者の私も驚いています。
プロットを考えている時は確かにドラゴンだったのに、いざ書き始めたら、急にクロが真相を語り出しました。
彼女の行動や言動はいつも底が見えなくて、完全に信用していいのか不安にさせます。流石は悪魔といったところでしょうか?
さて、思った以上に手強そうなフリージアですが、倒す事は出来るのでしょうか?次回にご期待下さい。




