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ソルダート・ガイ  作者: 不病真人


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第2話 クロム・ガーデンの雨傘/Le parapluie de Chrome Garden

新たな任務は開始した。

クレジットの先払いを言えば良いはずだったが、なぜか言わなかった。

「今回だけだぞ」

女は少し不思議そうにこっちを見た。

それも察せないのか、業界ルールだぞ。

それは引き受けたぞといったこちら側からの合図だった。


しかし、先ほどのクレジット先払いの件だが....

決して簡単なものではないと言うことだ。

俺にとっても。

しかもわかったのが最初からだ。


ギリ

足場、足元が軋む音。

作戦の環境が悪すぎる、保護相手がいる場合としては至極。


ビルは、最初から死にかけていた。


 深夜の複合商業ビル。

 外から見れば、ガラスと金属で化粧された近代建築だ。

内部は素晴らしく。上層階は高級オフィス、下層階はデータセンター、さらに地下には冷却設備と補給導線が通っている。

だから閉店ガラガラだ。

見栄えを優先した結果、壁は薄く、偏った荷重、通路は複雑で、戦場にするには最悪だった。

いや複雑に入り組んだ通路は逃げる側にもアドバンスはあるか。

一人で逃げるだけならば。

隠れ家にはもっともと評価する、なかなかいいセンスだ。


しかしやつらもどこからでも入ることはできる。

 つまり、やはり、殺し屋にとっては最高だった。

例えば視界を塞ぐ煙でも投げて見ろ。

四方八方から来る敵は優位にそのアドバンスを利用できる。

ダーゲット対象を最初から観察して襲うことができる。

なのにこちらでは察知が遅れてしまう。煙のせいで。

ポン と言う音がした

何かを言えば、それはくるか。

俺の人生の経験則上そうだが、当たるたびにキレたくなる。

 煙が落ちる。ポンの音の正体だ。

 正確には、発煙弾を落としたのだ。


「来たか、照明オン!」


義眼のHUDが赤く瞬き、無数の警告が視界を埋める。《複数熱源接近》《構造崩壊カウントダウン》。

視覚の剥奪はいくらなんでも避けないといけない。

しかしバッテリーの消耗がこれからの問題になるだろう。

行動を維持できるかが不安となる。

 通気口、壁の裂け目、床下の配管、爆ぜたスプリンクラー。

 複数の仕込みが同時に動き、白い靄が一気に建物の内部を満たしていく。

義眼を使わない限り視界は削られ、奥行きは死に、足音だけがやけに近い。

肉眼でのサポートは頼れないということ。

しかも、義体の知識も十分なようで、このビルの緊急灯まで起動させている。

赤い緊急灯が点滅し、壁も床も血の色に染まって見えた。

赤いHUDにしたことを後悔してしまう。

視界の剥奪がなんでもしたいようだ。どのようにしても回避不能を目指してか。

 けども、その中で、さほどは焦らなかった。


 女を庇うように半歩前へ出る。

 肩で前を塞ぎ、左手で彼女の肘をそっと支えた。強く掴まない。逃げ道を奪わない。だが、次にどちらへ動けばいいかだけは、確実に渡している。


 女の呼吸が乱れる。

 それを背中で受け感じた。


「……来る」


 短い声だった。

 警告ではない。確認だった。

彼女へ安心感をもたらすために


 次の瞬間、上から落ちてきた。


 三つ。いや、四つ。


 煙幕に乗って、影が降下してくる。梁を蹴って落ちる者、ワイヤーで滑り落ちる者、推進器で空中姿勢を制御する者。

全員がブレードを持っていた。

そこは統一されている。

 刃は統一されていない。

 短刃、片刃、折り畳み式、電熱を通した切断刀。だが、形が違うだけだった。

しかし実にいい切れ味が見える。

どの刃も、人を斬ることだけに最適化されている。

だとすると大体、身分は読めた。

 最初に着地した男は、金属マスクで顔の下半分を覆っていた。

 細い呼吸孔が左右対称に並び、昆虫の顎のように見える。

おそらくは、戦い方に誇りを持つタイプだ。

しかしそれよりも要なのがあった

黒い戦闘服の胸には、小さく白い紋章。

翼を持つ獣――グリフィン。

だがグリフィンといえど、あくまで装備による。

 その服装は、ただのスーツではない。白と黒を基調に、関節部にだけ薄い戦術アーマーを仕込んである。目立たない。

だが、動けば、動きを見れたが、わかる。

完全に“仕事用”だ。


 暗殺組織“行軍する翼獅子”


 金を払えば、どこからでも人を消せる。

 そんな連中の中で誰がきた。

 なんて考えてる場合ではないな。


 マスクの男が、来る、落下の勢いのままブレードを返す。

金属の反射から読むと狙いは女の喉か。

 

 引けば乱れる。

 代わりに女の身体を腕で持って回した。


 まるで踊るように。

 回転の中で刃は空を切り、こちらに向かうやつの手首の捻りが見える。

次の瞬間には当然に肘が男の肋へ入る。

 鈍い衝撃。

 骨の鳴る音。

 マスクの男の身体が折れたところへ、そのまま手首を返し、刃の握りを奪う。

奪うだけでは足りない。奪った勢いのまま、相手の肩を押して、背後から落ちてきた別の一人へぶつけた。


 二人が絡まり、足場を失う。


 その瞬間、床が弾けた。


 爆発ではない。

 あらかじめ仕込まれていた荷重点の破壊。

どうやら相当先にこの場を待ち伏せしては、何かをしたんだ。

おそらくはビルの弱い部分を狙って、何かを切り壊すように爆薬を仕込んだ。

だから匂うなどには気づかないわけだ。

地雷がないとばかり油断してしまった。

床板が沈み、鉄骨が軋み、粉塵が白く吹き上がる。

「っ!」

 


 ガイが崩れる床の端を蹴っていた、下向きに

 落ちるのではない。重量のままならば体勢を崩して不利に陥る。

しかし崩れる前に、崩れる場所を踏み越えるようにして跳躍、ジャンプすれば当然その勢いを利用して別の場所にいくことはできる。


 女を抱え上げるようにして、ガイは飛んだ、下の方へと。

 

 ガイの視界にない煙のさらの向こうで、別の男が上に立っていた。


 長いコート。

 裾に重りを仕込んであるのか、風もないのに静かに垂れている。

 髪は後ろで束ね、耳の上だけ刈り上げている。片目に赤い補正レンズ、それはガイを観測している。

 腕には投射器。刃を飛ばすタイプだ。

直接な破壊力がない、おそらくは知らぬ間に罠を設置する、例え戦いの中だとしても


 煙幕。

 崩落。

 視線誘導。

 上からのブレード降下。

 次はなんだ。


 「……下に何かあるな」


 ガイが呟く。


 男が、赤いレンズの奥でわずかに笑った。

耳にも何かの改造を施しいる。


「正解。撃てば終わる」


「何がだ、このビル」


 つまり、銃火器は使えない。

 下層に重要設備があり、弾丸が抜ければ全体が終わる。

 だから敵は刃を使う。

 刃なら狭い場所を選び、制御できる。

 撃てない場所で、撃てる相手だけを追い詰める。


 そこへ、床下から白煙が一気に噴き上がった。


濃煙。

 視界を潰すための追加手段か、違う。粉塵爆発?

ガイは考える

 そんな中次いで、煙の中から速い影が飛ぶ。


 超速度で飛来するそれは人の形をしている。


 白黒のスーツ。

 胸にはグリフィンの紋章。

 薄い戦術アーマーが関節を覆い、膝と肘に衝撃分散材、靴底には加速用の補助プレート。

 


 白髪を短く刈り、右目の周囲に人工皮膚を入れた若い男。

ガイはそんな相手の姿を観察して、どこが弱点か見つけようとする。

 

 

 その動きは軽い。

 だが足運びは軍隊式だった。

 足音を殺し、重心を低くし、いつでも次の踏み込みに移れる。

近接戦で来るか。


 ガイは、そこで初めて気づいた。


 ならば、こいつらはただの暗殺者じゃない。少なくとも、仕事を変えてから出会ったような、そんな単なる暗殺者ではない。

役割分担された小隊だ。

言うなら、彼がソルダード・ガイ部隊に所属している頃にとても似ている敵。

視線を奪う者、切り込む者、制圧する者、逃げ道を潰す者。


 統一された装備。

 役割分担された動き。

 


 


 女が小さく息を呑む。

「……何なの、こいつら」


「目が回ってないのか、三半規管に改造でも」


 ガイはそう言って、視線を上げる。

次の一撃が来る前に、相手の戦術を読む。

そこが彼の強みだった。

ソルダード・ガイでも役割は違う。

彼は観察を主体における存在だった。

そして気がつく、相手の突進具合に、それはまるで何か、上からの視界でもあるようなものだった。


「上か」

 上の梁の男は、その反応を見越して新たな路線を作る。

 マスクの男は立ち上がり上から近距離で位置を押さえ込む。

 ガイらの逃げる方向を限定するつもりだ。

「仕留める順番は決まったようだ。

 よく出来ていた。

 殺しのための連携として、無駄がない。


 だが、ガイはその“無駄のなさ”を逆手に取る。


「落とすぞ」


 女は一瞬体が硬直したが、すぐに落ち着いたように言葉をかえす。

「え」

しかしガイは聞くつもりもないようにすぐに動作に出た、瞬間、ガイは彼女の位置を使って自分の進路を切り替える。

ジャンプをするために、二人では狭かった空間を広めた。

ドン

足場を切り崩したパンチ、破片で視界をくらませる同時に、破片ごと拳を捩じ込ませる。

しかし、敵はそのままの速度でガイに突っ込んだ。

 超速度からすると、移動時の風圧や骨格に受ける衝撃から来る痛みで鈍らないよう、最初から神経伝達を鈍くしている。

故に回避しない、故に体勢を保ちつつ来る。

ガイは思った。

魚雷(トーピドーゥ)式の改造か。

一直線で回転不能、ならばすでに対抗策は。


 ガイがそう思った瞬間、梁の上から刃が飛んできた。


 投射器。

 上にいる赤レンズの男だ。


 

 刃は頬のすぐ横を掠め、壁へ突き刺さった。

 ガイの回避が間にあったおかげか。

しかしそう思うこともないままに後ろの壁が崩れた

「...どう言う設計だここ」

 黒髪の女が、彼がなぜここにあるか疑ったそんな背後の、崩れた壁から姿を見せる。

どうやら、先ほどのナイフには何かの信号装置があったみたいで緑色に蛍光していた。


「ターゲット、認識完了」

 彼女が撃つ、それは弾丸ではない。

 粘着式の制圧弾。

 床に着弾した瞬間、硬化フォームが広がってガイの足元を奪う。


 すぐに理解した。数が下回る場合はきれいに一人ずつ対応策を思っても意味はない

 

 


 ガイはそこで、相手の意図を読み切ることをやめた


 ならば、方法を変える。


 ガイは敵女の方に意識を向かない、次ぐ攻撃も、動けない足場も。

 すべて逆に回した。

粘着性の強そうな素材で殴れば壊れるだろうな。

ガイはそう思って周りを破壊するように弾丸を飛ばした。

二発、前後を崩した、長いけど細い子の足場を。

特殊な粘液を配合させてできたその弾頭は足場を破壊してさらに下に向かった。

ガイはそのまま、足場をくっつけたままに下に落ちた。

彼はすでに見取り図を一部手に入れていて、自分が詳しく知っている階層に向かおうとしている。


下の、目的に階層はそう遠くないはずだ、なぜ階層の間にこんな空間があるかは知らないが。とガイは思っている。


ガイは落下しながら、足に絡みつく硬化フォームの塊をなんとか利用しようとした

 空中で体を捻り、壁に残った残骸にフォームの端を叩きつける。

本来ならできないはずだが粘着弾のそれは粘着力が予想以上に強く、また拡散する特性があるようで、砕けだ残骸に一部絡まったまま。

そこで勢いが減り方向を大きく変えたと同時に周囲に減っては守る対象の女をかためたまるで蜘蛛の糸のような、そんなものができた。

「ッ!」

 銀髪の男がくる。

 高速突進。

空気を切り裂くほどの速度で、減速したガイの落下軌道を読み、真正面から突っ込んでくる。

アマチュアめとガイは思った。

対象を優先せずに、危険度の高い相手を先に取る。

あまりにも、それは保身的すぎている。ガイはそう思った。

 拡張の限界が来たかついには粘着弾でできた網が切れた、ガイはその後ろ向きに倒れて、来る相手の方に足を伸ばしては、足元に引っ付いている、もと足場をを盾にした。

 カカカカカッ!

 

 ドンッ!

 強烈なタックル。ガイの体が吹き飛ばされ、空中で回転しながらさらに下の階層へと落ちていく。

足場がクッションになって衝撃を和らげた同時に相手の男は大きな破片が胸部に刺さり、そのままに動かなくなった。

「直線だとそれが悪いよな、ましては空中だ」

「隊員を喪失。」

 黒髪の女の声が頭上から響く。

どうやら彼女も追ってきているらしい。壁を蹴りながら滑空するような動きで降下してくる。

ガイは少しそれを見ては体を捻り、下を向いた。

彼からすればもっと重要な存在はいた。

 

 女だった。

 気絶しているのか、身体に力が入っていない。  瓦礫と一緒に、真っ逆さまに落ちていく。

 しかもこのままだと━━。

 ガイは下を見る。

突き出した鉄骨。錆びている機械設備。

 あれに当たれば終わる。

「ちっ……!」

 考えるより先に、ガイは己の最適な着地方法を捨てた。

 腕を伸ばしては彼女を抱き抱えようと落下。

 風圧が顔を殴る。

 

 落下速度を合わせるだけじゃ足りない。  

下へ回り込まなければ、受け止めた瞬間に二人とも鉄骨へ叩きつけられる。

「……ッ!」

 ガイは歯を食いしばり、衝撃の加速のままに女身体を捻った。  

「うっ」

 女の真後ろ。

「おい!!」

 叫ぶが反応はない、ガイが彼女の後ろに回ろうとする時、無理な力の加わりで体に損傷を受けたのか。

だが二人分の体重をうまく空でコントロールするわけにもいかない。

 

 そのまま周囲を見回す。

 落下地点。手前の存在は何も協力できないときた。

 鉄骨地帯は駄目だ。  地面(コンクリート)直撃も論外。

 あれだ。ならば。

 崩れた搬送用ネット。  

資材落下防止用の古い安全網が、半壊したフレームの間に辛うじて残っていた。

 切れかけている。  

だが他よりマシだ。

杜撰で助かった。なぜ残っているか考える暇なんてない。


そこまでかからず、時間は、安全網が迫る。

安全網が切れたらどう、いやあった、建築時に余った資材。

煉瓦か何か瓦礫諸々、少なくとも鋼鉄、鉄骨や鉄筋に串刺しになるよりはマシだ


そもそもこの場所、この土地は工事の際にいくらでも人が事故でそのまま埋め込まれているんだ、クロム・ガーデンは。

 

「掴まれッ!!」

 動きのない女に叫んだ直後。

 二人まとめてネットへ突っ込んだ。

 バギィン!!

 ひしゃげる。  

網が限界まで沈み込み、何本も千切れ飛ぶ。

 それでも一瞬、勢いが殺された。

 ガイはその反動で女を抱えたまま横へ転がる。  直後、背中から瓦礫の山へ激突した。

「ぐッ……!」

 視界が白く染まる。

 だが。

 鉄骨に串刺しにはなっていない。

 ガイは荒い息を吐きながら、自分の上にいる女を見た。



 女は最初こそ怯えたが、ガイの動きに合わせるほどに、身体が理解していく。

 敵がまた来ると。

「何をすればいい、私には、テック」

 「静かにしろ、騒ぐな」

 

 女の射線を殺す。

 上の男の投射角を奪う。


 戦場は、ただの力比べじゃない。

 相手のやりたいことを先に壊した方が勝つ。


 それをガイは知っていた。

いきなりのタックや新スキルは致命的だ。

戦術に組み込んではいけない。ペースが乱れる。



「ジャ・リィオス(あばよ)」


 義腕の男だ、ソルダード・ガイ時期に知った情報ではまずそれが浮かぶ。

継承性で無数のメンバを控えている、翼獅子が持つ機動隊の一つ。全員外部には統一の称号でいる。

ン・ミュシュアルダス(雲の其)と

 

白黒スーツの上から半装甲プレートを付けている。

肩が異様に広く、左腕は丸ごと機械義肢。

手のひらが大きく、何かを握れば潰せるタイプの腕だった。

それが重苦しい地響きで迫った。

腕を地面に落としては引きずりながらに

おそらくは、衝撃か何かを止めるためか、あるいは威嚇。





 ガイはそこで、わざと一歩前へ出た。


 普通なら後退する場面だ。

 しかしガイは逆に踏み込む。


 義腕の男が、明らかに一瞬迷った。動くは止めてなくても一瞬考えたような視線の動かし方

 その一瞬で十分だった。


 


 その時、ビル全体が揺れた。


 上階が来る。


 別の爆破点。

 今度はもっと大きい。

 敵の二次部隊が、本格的に面制圧へ切り替えたのだ。


 こちらに近いたはずの黒髪の女が通信を飛ばす。


「上層、崩落準備。二班に移行」


 すぐに別の声が返る。そう信号が漏れている。

なぜだ、俺にはそんな義体は、まさか、護衛相手さんのこいつが言っていたテックか。


「了解。輸送ライン遮断、完了。逃がすな」


「うーおら!」

 会社の連中は、損失を前提にしていなかった。

 だからこそ、遠慮はなく、破壊など、周囲への被害も損傷も考慮していない。


 ガイはその通信の断片だけで察する。


 


 だから、彼は女の手を取り直す。


「次が来る」


「……まだ来るの?」


「会社は損をして終わらない、もっともここは一番安全だ、今ではな、爆破が終わるまでは」


ドゴォォッ!

大量の瓦礫と鉄骨片が真っ直ぐ落下し、頭上にいた黒髪の女を直撃した。

「ア」

女は小さく悲鳴を上げ、瓦礫の下敷きになりながら消えた。

「仕掛けがあるな、やはり

当然、それを止めていたのは小さく細い透明ワイヤ、またはジップラインと呼ぶべきもの。

それは主の落下により揺れる。

バン

ガイが射撃する。

「残弾は残り...四つだ、聞いたか。あとで弾を補充する」

もとより交戦は考えてはいなかった。

ゴッ!

義手の男が近づいた、すぐそこだ。

ならばこの音はやつがガイを殴り潰した音か。

違う、ガイがワイヤーを揺らして、その固定もとになっている場所を引き壊した。

 頑丈だな、金かけてんなとガイは、ワイヤーの材質について思った

 


 その時、上で赤レンズの男が静かに言った。


「いい読みだ」


「でも、読みすぎると死ぬ、おまえは無駄に首を突っ込んでいる、何を読み解こうか知らないが、この街は知識もせい


「それはお前らの方だ、消えろ、俺から情報はないし。交渉しようとするわけにもないのに話しかけるな。クズめ」


 ガイが答える。


 赤レンズの男は、わずかに目を細めた。

 その表情には、怒りよりも計算があった。

 この男は、最初から勝ちに来ていない。

まるで “どこまで危険か”を量り、上へ報告するために来ている。

 それが分かった時、ガイはふっと息を吐いた。


 面倒だ。

義手の男もおそらくはしばらくすれば瓦礫から出てくる。

 だが、壊せる。

「雨がやまない場所ってここだろ、よくも上を壊したな。」

 彼は足元の水たまりを見た。

 落ちたスプリンクラーの水。

 配線。

 低層へ伸びる冷却管。水冷式。

 敵が絶対に壊したくない設備。


 ここだ。

少なくともその一部だ。

 彼は床へ突き刺さった、黒髪の女が持っていたブレードの破片を抜くと、設備へ叩き込む。

 火花。

 漏電。

 水が電流を運ぶ。

 白煙の中を青白い閃光が走った。


 「電磁系統をよく誘導する、それがお前たちの扱う煙幕。エンゲル製か。つまりお前たちは電気に弱いわけだ。市販の商品、義体よりも。」


 その時、上から巨大な音がした。


 完全なる崩落だ。

雨粒がよく降る


 第二波。と言うやつか。

「来るな!煙幕をよせ!」


 だが、もう遅い。

固有戦術は会社所属特有の弱点だ。


 

 全部がひとつの映画みたいに流れていく。

そうなるはず、ビリビリのせいでみんなカクカク動いてフレーム単位で動くあほみたいに。

ここの雨は、クソみたいな水はよく、電力を伝えてくれるからな。

ワイヤーでも落としてみろ、死ぬぞ。

 ジュン

ガイは歯を食いしばった。

 義手の指が痙攣するように震え、内部のサーボが嫌な音を立てる。

 「クソ……まだ動けよ」

 瓦礫の山から拾った分厚いゴムマット——おそらく旧式の床材——を盾代わりに足元に敷き、片膝をついた。

 雨水が流れ込む中でも、わずかに浮かせた体勢が功を奏した。

全身を流れる電流は、致命的なレベルまでは達していない。

それでもブレードを突き刺したせいで彼は女を肉の腕の中に抱きしめていくことしかできなかった。

 だが、敵はそうではなかった。

 降下してきた三人の兵装者たちが、着地と同時にビクンと跳ね上がった。

 彼らのスーツが、導電体と化している。

加速用途で行っているエンゲル製の特殊コーティングが、逆に水と電流を閉じ込める檻になっていた。

濡れているのに水たまりに行けば当たり前か。


それは加速に適した。急降下用のスーツ、ガイが敵にしたことはあるが、電気に弱すぎて、並大抵の部隊じゃもう使わないものだった。

 「がっ……!?」

 「システム……ショート……」

 一人が膝をついた瞬間、ヘルメットのバイザーが内側から青白く瞬き、即座に暗転した。

 もう一人は首をガクンと後ろに反らし、背中の電源ユニットから火花を撒き散らしながら崩れ落ちる。

もう一人は、叩き飛ばされた。

それは義手の男によるもの。

 義手の男——埋もれていたはずの彼だけが、なんとか耐えていた。

 彼の義体どうやらその仲間よりも高性能らしく、反応からして絶縁処理が施されているように見える。

だが、それでも左腕をだらりと垂らし、片目をつむって歯を剥いていた。

 「てめえ……よくも……」

 ガイは低く跳んだ。

 ゴムマットを蹴り飛ばし、その懐へ滑り込む。

 義手の掌底が、その胸骨の真下に叩き込まれた。

 まだ残っていた電流が、接触した瞬間にそれの体内へ流れ込む。

 「——っ!?」

 男体が硬直し、目を見開いたまま後ろへ吹き飛んだ。

そしてその衝撃で上から崩落したコンクリートの塊に叩きつけられ、動かなくなる。

 雨はまだ降り続けている。

 天井の穴から落ちる水は、まるでこの施設が泣いているかのようだった。

しかし俺は笑ってこの雨の中を、むしろ歌いたいもの。

 そう考えてもガイはゆっくりと息を吐き、義手の指を握ったり開いたりした。

流石にさっきの考えには彼も呆れていた。

 キシキシという音が、少しだけ小さくなった。

落ち着くものさ。

 ……第二波、まだくるだろうが。笑わせるな

 彼は破片の山から、女が落としたブレードの残骸をもう一つ拾い上げた。

 先端が溶けたような不気味な形状をしている。

 これもエンゲル製だ。

電力誘導に特化しすぎた、愚かな武器。

おそらくは敵の義体の電気の伝達を崩したショートを狙うものだ。

 ガイはそれを握り、ゆっくりと横向きに歩いた、目的は上から降るワイヤーを避けながらに歩く、たまにはスキップしたり。

 上層から、さらに足音が近づいてくる。

 今度はもっと重い音。振動も強い、重装備の連中か。

 ならば水責めではきついだろうな

「次は雨傘でも持ってくるんだな。」


 そして、闇の向こうから新しい足音が鳴る。

 重い。

 落ちる。落ちてくる

そう降下なんて軽い音ではない。

何か重たいもの

 今度はブレードの音じゃない。


重装甲か、作戦を変えたか、あるいは最初から、いろんな予備隊を用意するようにか。

 戦術アーマー。

 重装班。

 そこら辺だろうな。

 

「ガイ」

「気安い呼び方だな、行くぞ」

煙を突き抜けるように、ガイら二人はビルのエントランスへと滑り込んだ。

ガイは動かない義手を女に支えてもらいならがに聞く。

「おい女、名は、すぐに呼べるようにしたい、敵が多すぎる。」

「ミラージュ、もう忘れたかしら。」

あっ、まただ、物忘れが酷いな。

 ミラージュ...か、ミラージュ、ミラージュに呆れたような顔で見られた。

呆れ顔か?

女はわずかに眉を寄せている。


 にしても、随分と変な皮膚だ、歓楽道の藝者どもでは見ないタイプの改造で珍しいな

銀色の短い髪が雨に濡れ、頰や首筋に生々しく貼りついているし、その冷たい光沢は、まるで液体の金属を流したかのようだった。

しかも、生身の部分結構多い。


「見惚れている場合じゃないわ」

見惚れる、そんなわけではない。

と言うと嘘か流石に。

ミラージュの顔立ちは、冷たくシャープで精密に削り出されたような印象だった。

 

鼻筋は細く高く通っており、わずかに上品な角度で顔の中心を美しく分けている、うん、そうだな、鼻先は小さくすっきりとして、全体に洗練された印象だし、唇は薄めで形が良く、柔らかい曲線を描きながらも今はきつく結ばれ、気は強そうだけど、いや。

なんだって唇の色は血の気が薄く、淡いピンクがかった冷たいトーンで、雨粒が一筋伝うと艶を帯びて光るし、優しさか慎ましさというものがなんとなくある感じだ。

目つきも少し硬いが、切れ長の薄氷灰色の瞳は、感情をあまり表に出さず、醒めた鋭い視線を放っているから、そこまでは悪い印象はしない。

「ガイ!ガイ!」

「ッッ!義眼が今」

義眼の視線が乱れた

「言ったでしょ私にはあるって、さっきのは?」


 「そうか。」

またか、俺はよくこうやって過剰に観察してしまう。

ソルダード・ガイが受ける義体強化のベースとしての、あの基礎の神経系統への改造のせいだろうか。


「悪いな、そうだな、ここじゃ外に見られるだろうし。」


 ガラス壁が外の闇を映している。だが、そこは安息の地ではなかった。

ドシン、と地響きが鳴った。

これまでの暗殺者たちの足音とは明らかに違う。重く、重く、重く、重たい。金属音。

バリーン

正面のガラス壁が、内側からの圧力ではなく、外からの圧力でもなく。

バーン

それは遥か遠く圧倒的な質量によって爆散した。

暗闇を割ってエントランスに侵入してきたのは、まずは数条の赤い光学照準レーザー、外部の観察部隊か。

そして、重い音の由来も、あとを追うようにくる。

それは左右に備え付けられた多銃身機関砲を低く唸らせる、多脚型の重歩行戦車だった。

「エンゲルの蜘蛛か、気持ち悪い。三流会社のくそ企業」

厚い複合装甲に覆われたその巨体は、ビルの頑強な壁をまるで紙細工のように押し潰しながら、じりじりと前進してくる。

その背後には、全身を漆黒の戦術重アーマーで固めものらが、一糸乱れぬ隊列で銃口を構えていた。


 「前払いを今から頼めないかミラージュ。」

「あなた..いいえ、片つけて、危険をまず」

 「20万だ、別企業が来れば、もっとだ」

絶対来るだろうけどな。

シーン!

重歩行戦車のセンサーライトがガイと女を強烈に照らし出し、機関砲の砲身が高速で回転を始める。

ここにはもう、撃ってはならない重要設備などない。

そもそもこの重装甲に効くものなどない。

とても思ったいるはずだ。

「いいよな。そういうのあると気は確かに大きくなる。

標的を肉片へと変えるための絶対的な火力が用意されていた。

女はガイの腕を握り締め、その圧倒的な鉄の塊を見上げる。

 「勝てる?」

「勝つさ、首を取るのは俺だ」

 「そうね」


 「おい!俺は俺は女とつるむスケコマシ、すっごく嫌い痛めつけてやる!と、ミラージュ、若いお嬢さん随分と綺麗に、前回より長くが。ここは何なりと、ご要望こそ安らかな死を。」

歩行戦車がハッチを開いている。どうやらそのところの変な言葉はこの男がさっきの言葉を話したようだった。

バン!


 「お金には困ってないわ、だからここよ、ここで片つけてガイ。」


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