日常
家に帰りついて、作りおいていた総菜を温めて、義兄の要望で作った卵焼きと一緒に簡単な夕食を済ませた後。
僕は自室でパソコンの前に座っていた。
今回の出来事を書こうとして、キーボードをたたいては手が止まり、また叩いては手が止まり。
結局、テキストタイトルすら決められないまま、パソコンをスリープモードにする。
どう書けばいいのか、何を書けばいいのか、それは書いていいのか。計りかねる問題は、どうしても解決できないまま。僕はため息をついて、そのままベッドに横になった。
ふと枕元を見れば、スマホが着信を告げている。覗き込むと、端田からのメッセージだった。
「今回のことは本当にごめん」
「無事に家に帰れたか?」
僕は当り障りのない文章を返し、そのままスマホの画面をシーツに伏せる。彼には悪いが、以前のように仲良く食事や飲みに行ける関係には、もう戻れそうもなかった。
「……そうだ。明日買い物に行かなくちゃ」
ふと、そんな言葉が口をついて出た。
義兄が好きなジュースを買って、ああそうだ、卵も切れてた、牛乳も。
あとは……そうだ、義兄がよく使うジャム。あれももうすぐ切れるんだっけ。
なんだかおかしくなった。僕の日常はどうやら、義兄のお世話で回っているようだ。
ばたばたばた、と階段を駆け上がってくる義兄の足音がして、僕はベッドから起き上がる。座って待っていると、そのままドアが開いて、バスタオルで髪をぐしゃぐしゃにしながら義兄が姿を現した。
「ねえはるちゃん、シャンプー知らない? 今日の分使ったら切れちゃってたみたいでさあ」
ノックもなしに部屋に入ってくるのはもう慣れっこだ。
「先日も言いましたけど、シャンプーとコンディショナーは脱衣所左の棚ですよ。でも大丈夫です、僕がやっておきますから」
「いいよそのくらい、俺にだってできるでしょ」
そう言い返してくる義兄だが、僕のコンディショナーと自分のシャンプーのボトルを間違えて詰めたのはまだ記憶に新しい。
「あっそうだ、明日そば食べに行こうよ。テレビで紹介してた店、山陰じゃなくて東京だった」
とんでもない勘違いだ。
「お店の名前教えてください、後でルート探しておきますから」
軽い返事と一緒にうろ覚えの店の名前が三つほど羅列される。僕は苦笑して、それから応えた。
「義兄さん、それ全部全国チェーンのうどん屋さんです」
「あれ、そうだっけ?」
義兄は首をかしげて笑っている。
もしかして同じ名前の店があるのかと思い、僕は一度その店名を検索しようとしてスマホをとり上げ――
――ふと、義兄の気配を確かめるように顔を上げてから、再び検索に入った。




