背の高いストーカー
「だってあそこにいたんだって! ストーカー!」
叫ぶ友人に首をひねりつつ、その指の指す方を見る。生垣のむこう、隣の家の窓は少し遠く、流石にこの部屋を覗き込めるほどの距離ではない。
「ちがうって、絶対隣じゃない、だってそこの垣根の上から覗いてたんだ!」
「ちょっと、向こう見てくる」
怖がって悲鳴を上げている友人をその場に残し、僕は生け垣の向こう側に回ってみることにした。縁側にあったサンダルを借りて庭に下り、門をでて背の高い垣根沿いに歩いて隣の家との境まで。境界を覗き込もうとして、先ほど友人がいった言葉を思い出す。
「生け垣の上から覗いていた」
そんな馬鹿な。だってあり得るわけがない。
一応178センチある僕でも、頭が出ない高い生け垣。目算で2メートルを超えるその高さより「目線が上」だなんて、それこそバレーボール選手かバスケットボール選手くらいだろう。
でも、なにか台や脚立を使って覗いていたとも、考えにくい。
だってその生垣の向こうには、少し低いけれど隣の家のコンクリート塀が立っている。生け垣とコンクリート塀の間には、僕はもちろん、小柄な子どもだって入り込めそうにないくらい狭い狭い空間しかなかった。
「じゃあ、さっき感じたっていう視線は、いったいどこから……」
「小鳥遊! どうした、なにか見つかったか!」
周囲を見渡していると、不安そうな友人の声が聞こえてきた。
「いや! ……なんでもない」
僕はその声に、咄嗟に嘘をついた。
だって信じたくなかった。もし、友人がストーカーに付け狙われているとして。
――それが、あり得ない「高さ」からだなんて。
「多分、お前の悲鳴に驚いて逃げたんだと思う」
「そっか……なら、いいんだけど」
生垣の向こうの友人の声は、まだ不安そうだ。
でも僕は、自分に言い聞かせるしかなかった。
友人の感じたという視線は気の所為。でなければ、人間のストーカーが慌てて逃げていったのだ。
きっと、そうに違いない。
そう思おうとしたが、僕の首筋には奇妙な熱のような、チリリとした感覚が付き纏っていた。




