第55話(最終話) 余白――それでも、人は選び続ける
数年後。
季節は、
はっきりとは覚えていない。
ただ、
風がやわらかかった。
■ 変わらなかった世界
世界は、
相変わらずだった。
争いはある。
理不尽もある。
選択を間違えて、
誰かが泣くこともある。
欠片が消えたからといって、
世界が良くなったわけじゃない。
でも――
悪くなったわけでもなかった。
(……当たり前だ)
世界は、
最初からそういうものだった。
■ 普通の朝
小さな街の外れ。
ユウトは、
簡素な家の扉を開ける。
特別な魔力も、
世界を揺らす力もない。
ただ、
少し体力があって、
少し要領がいいだけの青年だ。
「……行ってくる」
背後から、
声が返る。
「気をつけて」
リリアだった。
未来は、
見えない。
でも――
今が、ちゃんと見えている。
■ 選択の重さ
道の途中。
困っている旅人に、
声をかけるかどうか。
昔なら、
迷わなかった。
力があったから。
守れたから。
今は――
違う。
(……怪我してるな)
助ければ、
時間を取られる。
仕事に遅れるかもしれない。
損をするかもしれない。
(……それでも)
ユウトは、
足を止めた。
「……大丈夫ですか?」
旅人は、
驚いた顔で笑った。
「助かります」
それだけ。
何も起きない。
奇跡もない。
でも――
確かに、選んだ。
■ リリアの視線
少し離れた場所。
リリアは、
市場で品物を選んでいた。
未来視はない。
分岐も見えない。
だからこそ――
悩む。
(……どっちにしよう)
安いけど、すぐ壊れそうなもの。
高いけど、長く使えそうなもの。
小さな選択。
彼女は、
後者を取った。
(……失敗するかもしれないけど)
それでも、
自分で決めた。
■ すれ違い、合流
夕方。
二人は、
いつもの場所で合流する。
「遅かったね」
「……ちょっと寄り道」
理由は、
細かく言わない。
聞かない。
それでいい。
■ 何もない夜
家に戻り、
灯りをつける。
簡単な食事。
たわいない会話。
危機も、
使命も、
もうない。
「……ね」
リリアが、
ふと思い出したように言う。
「もし、
あの時……」
ユウトは、
首を振った。
「……いい」
「もう、
選んだ」
それだけで、
十分だった。
■ 余白
夜。
窓の外に、
星が見える。
昔のように、
世界の構造は見えない。
未来も、
読めない。
でも――
その“見えなさ”が、
不思議と安心だった。
「……世界はさ」
ユウトが言う。
「相変わらず、
不完全だな」
リリアは、
小さく笑う。
「うん。
だから――
選ぶ意味がある」
二人は、
並んで星を見る。
何かが起きるわけじゃない。
物語的な奇跡もない。
ただ、
次の一歩を――
自分で選ぶ。
■ エピローグ
世界は、
今日も揺れている。
誰かが迷い、
誰かが選び、
誰かが後悔する。
それでも。
不完全だからこそ、
物語は終わらない。
そして――
選ぶことは、
生きることだった。
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