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幼児から始めるゆるゆる無双学園生活  作者: 夜凪レン
第3章 アステル魔術学園編

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第39話 模擬戦評価演習――火のエリートと、空間干渉者

 模擬戦評価演習の当日。特待クラス専用の演習場は、観客席付きの円形闘技場だった。結界は三重、おまけに空間歪曲対策の補助陣まで敷かれている。


(……完全に俺対策じゃないか、これ)


「結界えぐ……」とティオ。「本気の設備……」とミーナ。「ユウト、がんばって!」とルカが手を振り、シオンが「……逃げ場がない構造だ」と縁起の悪いことを言う。


(シオン、頼むから今それ言うな)


 観客席には特待クラス生、教官、研究生たち。エリスも記録端末を持って座っていて、すれ違いざまに小声で言った。


「いい? ユウト。今日は“勝つ”必要はない。制御・判断・被害最小化。それだけ見せなさい」


(……なるほど。力比べじゃなくて、段取りを見せる場ってことか)


 視線の先では、カイルが腕を組んで待っている。「怖気づいたか?」。


「いや。今日は“壊さない”って決めてるだけだ」


「随分、余裕だな」と、カイルは鼻で笑った。


***


「――開始!」


 アストレア教官の合図と同時に、カイルの魔力が爆発的に膨れ上がった。炎が地面を這い、闘技場全体が赤く染まる。


「逃げ場はないぞ!」


(真正面から来るタイプか……)


 俺は動かない。観客席のリリアが「ユウト……?」と不安げな声を漏らし、エリスが「……待ってる。彼、先に“場”を読ませるつもりよ」と返すのが聞こえた。


「《火陣・爆裂衝》!」


 炎の塊が一直線に迫る。


(速い。でも――)


 俺は、炎そのものを見なかった。その進路を見た。ここから、ここへ流れる。その“線”の結び目を、ほんの少しだけ横にずらす。


 次の瞬間、炎は俺の横をすり抜け、何もない空間で爆ぜた。


「……なに?」とカイルが目を瞠る。観客席がどよめいた。「避けた?」「いや、軌道が……」「曲がったぞ……?」。俺は一歩も動いていない。


(……いける)


***


「小細工だな……!」


 カイルは両手を広げ、魔力を一気に高めた。


「《火域展開》!」


 闘技場の一部が、灼熱の領域に変わる。


(範囲攻撃か。これは避けようがない)


「どうする!? また軌道を曲げるか!」


(……いや)


 俺は、炎ではなく、“領域”そのものに触れた。場所を、ずらす。次の瞬間、灼熱だったはずの床が、一拍遅れて――何も起こらなかった。炎は、確かにそこにあるのに、俺の立つ場所には“無い”。


「は……?」


「……領域の座標を、ほんの数センチ移動させた……」とエリスが呟き、アストレア教官が「破壊ゼロ。制御、完璧だ」と続けた。


(よし……!)


 カイルは歯を食いしばった。「……化け物め」。


「俺は、お前を倒したいわけじゃない」と、俺は一歩前へ出た。「“制御できない力”だって言ったな。――今のを見て、どう思う?」


 沈黙。やがて、カイルの拳から火が消えた。


「――そこまで! 勝敗は、ミナト・ユウトの判定勝ちだ」


 観客席がどよめく。「勝った……?」「一歩も動いてない」「火が、当たってない……」。


 リリアは胸を押さえながら微笑んで、小さく呟いた。


「……よかった」


 その横顔が、ただ嬉しいというより、なにか張りつめていたものが解けたような顔をしていたのが、少しだけ気になった。


 エリスは静かに記録を閉じる。


「これで確定ね。彼は“災厄”じゃない。――制御された異常よ」


(それも、褒め言葉なのか微妙なんだよなあ……)


***


 カイルはしばらく黙っていたが、やがて頭を下げた。


「……俺の負けだ。制御できないと思ってた。訂正する」


「……ありがとう」


 彼は悔しそうに、それでも真っ直ぐ言った。


「次は、正面から越える」


(あ、これライバル枠に昇格したやつだ)


 演習後、リリアが駆け寄ってきた。「ユウト、すごかった!」。


「……怖かったけどな」


 エリスも来て、珍しく柔らかい声で言った。「今日は合格。“扱える力”だと、ちゃんと証明した」。


(よし……)


 胸の奥で、欠片は静かだった。クリスタルを振り切れさせて“測れないやつ”と言われた、あの測定の日から、ずいぶん遠くまで来た。力の大きさじゃない。どう御すか。今日はそれを、自分の手で示せた気がした。


お読みいただきありがとうございました。次回、勝利の余波と、リリアが抱えていたもの。

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