第38話 特待クラスに走る噂――恐怖と嫉妬、その先に
隔離区画での訓練から二日後。特待クラス棟の廊下は、どこか落ち着かない空気に包まれていた。ひそひそ、ざわざわ――明らかに、俺を中心にした視線と声だ。
(……来たな)
「ユウト、なんか周りの目、おかしくね?」とティオ。「う、噂……広がってるみたい」とミーナ。「昨日、他のクラスの人にも見られたよ?」とルカ。シオンが「……隔離区画の結界、完全じゃなかったんだ」と締めた。
(やっぱり漏れたか……)
休憩時間、少し離れた場所から、はっきり聞こえてくる。「聞いた? 特待のミナトってやつ」「空間を“動かした”らしいぞ」「魔法じゃないって……」「危険物扱いって本当か?」。
別の声が続く。「でも、アークライト家のリリアが肩入れしてるんだろ?」「じゃあ本物だ……」「いや、あれは“化け物”だ」。
――化け物。胸が、少しだけチクリとした。
(……仕方ないか。俺自身、まだよく分かってない力だしな)
「……随分、好き勝手言ってくれるな」
低く、刺すような声が割り込んだ。
***
振り返ると、銀髪短髪に鋭い目つきの少年が立っていた。腕には魔導刻印。見るからに実戦慣れしている。
「お前が、ミナト・ユウトか。俺はカイル・グレン。火属性特待、貴族連合の推薦枠だ」
(推薦枠……つまりエリート中のエリートか)
「学園は、力ある者の場所だ。だがな」と、カイルは一歩距離を詰めてくる。「制御できない力は、“力”じゃない。“災厄”だ」
空気が張りつめた。「おい、喧嘩売ってんのか?」とティオが前に出かけ、ミーナが「や、やめて……」と袖を引く。「感じ悪い」とルカが頬を膨らませ、シオンが「……典型的な火属性思考」とぼそりと言った。
(お前はさらっと毒を吐くな)
カイルは俺だけを見て続けた。
「噂じゃ、お前は隔離されてるそうだな。危険だから、だろう」
「……訓練を受けてるだけだ」
「同じことだ」
彼の指先で、火花がぱちりと弾けた。こいつは、生まれてからずっと「測られた数字」で勝ち上がってきたのだろう、と俺は思った。属性、魔力量、家格――すべてが値で示され、その値が彼の誇りそのものだ。だからこそ、測ることすらできない俺が、許せない。
「だったら証明しろよ。お前の力が、ちゃんと“制御された力”だってことを」
(来たな……決闘フラグだ)
***
「――その必要はないわ」
凛とした声とともに、リリアが一歩前に出た。
「ユウトは学園と教官の管理下にある。あなたが試す理由はない」
「光のアークライトか。……なるほどな」と、カイルは目を細める。「だが、“守られてる”時点で、答えは出てるだろう」
その言い方に、俺は前に出た。
「カイル。俺は、証明したいなんて思ってない」
「は?」
「でも――“災厄”って言われっぱなしも、正直、気分はよくない。だから、やるなら公式の場でやろう」
「公式?」
「いい提案だね」
ちょうど背後から、声がした。振り返ると、アストレア教官が腕を組んで立っている。
「ちょうどいい。来週、特待クラス合同の模擬戦評価演習がある。そこでミナトとグレン、同じ区画に入ってもらおう」
生徒たちがざわめく。カイルは口角を上げた。
「……いいだろう。そこで白黒つけよう」
(白黒って……俺、そんな大層な覚悟を決める場面だったっけ……?)
だが、逃げる選択肢はもうなかった。リリアが小さく囁く。「ユウト、無理しないで」。俺は頷いた。
「大丈夫。……制御してみせる」
胸の奥で、欠片が静かに応えた気がした。試すんじゃない。証明するんだ。俺が、“俺の力を使える”ということを――それは数字で測られるためじゃなく、自分で確かめるために。
お読みいただきありがとうございました。次回、模擬戦。ユウトは“動かずに”勝てるか。




