第39話 模擬戦評価演習――火のエリートと、空間干渉者
模擬戦評価演習当日。
特待クラス専用の演習場は、
観客席付きの円形闘技場だった。
結界は三重。
空間歪曲対策の補助陣まで敷かれている。
(……完全に俺対策じゃないか)
ティオ「結界えぐ……」
ミーナ「本気の設備……」
ルカ「ユウト、がんばって……!」
シオン「……逃げ場がない構造だ」
(シオン、縁起悪い)
観客席には、
特待クラス生、教官、研究生たち。
エリスも、記録端末を持って座っていた。
エリス(小声)
「いい? ユウト。
今日は“勝つ”必要はない」
俺「え?」
「制御・判断・被害最小化。
それだけ見せなさい」
(……なるほど)
視線の先では、
カイルが腕を組んで待っている。
カイル「怖気づいたか?」
俺「いや。
今日は“壊さない”って決めてるだけだ」
カイルは鼻で笑った。
「随分、余裕だな」
■ 演習開始
アストレア教官の声が響く。
「――開始!」
瞬間。
カイルの魔力が爆発的に膨れ上がる。
《火属性・高密度展開》
炎が地面を這い、
闘技場全体が赤く染まる。
カイル「逃げ場はないぞ!」
(真正面から来るタイプか……)
俺は動かない。
リリア(観客席)
「ユウト……?」
エリス
「……待ってる。
彼、先に“場”を読ませるつもり」
カイルが拳を振る。
「《火陣・爆裂衝》!」
炎の塊が、
一直線に俺へ迫る。
(……速い。
でも――)
俺は、
“炎そのもの”を見なかった。
その進路を見た。
(ここから、ここへ流れる)
(なら――)
俺は、
その“線”の結び目を、
ほんの少しだけずらした。
次の瞬間。
《ゴォォン!!》
炎は俺の横をすり抜け、
何もない空間で爆ぜた。
カイル「……なに?」
観客席がざわつく。
「避けた……?」
「いや、軌道が……」
「曲がった……?」
俺は一歩も動いていない。
(……いける)
■ カイル、苛立つ
カイル「小細工だな……!」
両手を広げ、
魔力を一気に高める。
「《火域展開》!」
闘技場の一部が、
灼熱の領域に変わる。
(範囲攻撃……
避けられない)
カイル「どうする!?
また軌道を曲げるか!?」
(……いや)
俺は、
“炎”ではなく、
“領域”に触れた。
(場所を――)
(ずらす)
次の瞬間。
灼熱だったはずの床が、
一拍遅れて――
何も起こらなかった。
炎は、
“存在しているのに、そこに無い”。
カイル「は……?」
エリス
「……領域の“座標”を、
ほんの数センチ移動させた……」
アストレア教官
「破壊ゼロ……
制御、完璧だ」
(よし……!)
■ 勝敗は、もう見えていた
カイルは歯を食いしばる。
「……化け物め」
俺は、はっきり言った。
「俺は、
お前を倒したいわけじゃない」
一歩、前へ。
「“制御できない力”だって言ったな。
……今のを見て、どう思う?」
沈黙。
カイルの拳から、
火が消える。
アストレア教官が宣言した。
「――そこまで!」
「勝敗は、
ミナト・ユウトの判定勝ちだ」
観客席がどよめく。
「勝った……?」
「一歩も動いてない……」
「火が、当たってない……」
リリアは、
胸を押さえながら微笑んだ。
「……未来、変わった」
(未来?)
エリスは、
静かに記録を閉じた。
「これで確定ね。
彼は“災厄”じゃない」
「――制御された異常よ」
(それも褒め言葉なのか……?)
■ 対立の終わり
カイルは、
しばらく黙っていたが――
やがて、頭を下げた。
「……俺の負けだ」
周囲がざわつく。
カイル「制御できないと思ってた。
……訂正する」
俺「……ありがとう」
カイルは、
悔しそうに、でも真っ直ぐ言った。
「次は、
正面から越える」
(あ、これライバル枠だ)
アストレア教官が頷く。
「よろしい。
これにて評価演習は終了」
■ 演習後
リリアが駆け寄ってくる。
「ユウト……すごかった!」
俺「……怖かったけどな」
エリスも来て、
珍しく柔らかい声で言った。
「今日は合格。
“扱える力”だと証明した」
(よし……)
胸の奥で、
欠片は静かだった。
(……制御できる)
(なら――
この学園で、前に進める)




