第37話 隔離訓練区画――“欠片制御”の第一歩
翌朝。
俺は、通常の講義棟とは真逆の方向へ向かっていた。
石畳の道。
人影はなく、
周囲には結界が幾重にも張られている。
(……どう見ても“普通の学生が行く場所”じゃない)
隣を歩くのは、
相変わらず無表情なエリス。
エリス「ここは“隔離訓練区画”。
万が一、あなたが暴走しても、
被害が外に出ないよう設計されている」
俺「さらっと物騒なこと言うな……」
エリス「事実よ」
(否定できないのが辛い)
少し後ろを、
リリアとアストレア教官が歩いている。
リリアは俺を見て、にこっと笑った。
「大丈夫。
今日は“壊す”訓練じゃないから」
俺「壊す前提なの!?」
アストレア教官「安心しろ。
今日は“触れる”だけだ」
(それも十分怖い)
■ 隔離訓練区画・第一室
巨大な円形空間。
床も壁も天井も、
魔力吸収素材で構成されている。
中央には、
何もない“空白”だけがあった。
エリス「ここでは、
あなたの欠片が“どこに触れようとするか”を観測する」
俺「……触れようとする?」
エリス「ええ。
あなたの力は“発動”ではない。
干渉よ」
アストレア教官が補足する。
「普通の魔術は、
魔力を使って“現象を起こす”。
だが君の欠片は――」
「“現象が起こる前の構造”に触れている」
(……夢で見た“糸”の話か)
俺は深呼吸して、
円の中心に立った。
エリス「ではユウト。
何も考えなくていい。
ただ――“ここにある”と感じなさい」
俺「ここに……ある……?」
目を閉じる。
すると――
世界が、少し“薄く”なった。
音が遠ざかり、
代わりに、
見えない“線”の存在感が強くなる。
(……また、あれだ)
夢で見た、
無数の糸。
だが今回は、
“ほどこう”とした瞬間――
「――止めて」
リリアの声が、
はっきり届いた。
「壊さなくていい。
ただ“触る”だけ」
(……そうか)
俺は、
一本の“線”に、
指先を伸ばすイメージをした。
その瞬間――
《……》
空間が、
ほんの一瞬だけ“揺れた”。
床に刻まれた魔法陣が淡く光る。
エリス「……反応、最小限。
成功よ」
俺「……え?」
アストレア教官も、目を見開いていた。
「初回で“揺らすだけ”に留めた……?
普通は裂ける」
(裂ける前提!?)
リリアは、
胸に手を当ててほっと息を吐いた。
「……できたね、ユウト」
俺は自分の手を見つめる。
(今の……
俺が“止めた”……?)
エリスが静かに言った。
「今のが、“制御”の第一歩。
欠片は……
あなたの意思を、初めて聞いた」
(俺の……意思……)
■ だが、訓練は一筋縄では終わらない
アストレア教官が、
一歩前に出た。
「では次だ。
今度は“対象”を与える」
床の魔法陣が展開し、
模擬魔導体が一体、現れる。
《固定型・無害》
エリス「これは壊しても問題ない。
ただし――
**“消さない”で”」
俺「……消さない?」
エリス「存在は残したまま、
位置だけを“ずらしなさい”」
(それ……難易度高すぎない?)
リリア「ユウトならできる。
さっき、“触る”ことはできた」
俺は、再び意識を集中した。
(壊さない……
ほどかない……
ただ――)
(場所を、変える)
糸の“結び目”を、
ほんの少しだけ――
横にずらすイメージ。
次の瞬間。
《……》
模擬魔導体は、
音もなく、三歩分横へ“移動”していた。
空間が裂けたわけでも、
衝撃があったわけでもない。
“最初からそこにあった”かのように。
一同、沈黙。
エリス「…………」
アストレア教官「…………」
リリア「…………」
俺「……え、できた?」
エリスは、
ゆっくりと息を吐いた。
「……記録を、更新する必要があるわ」
アストレア教官は、
はっきり言った。
「ミナト・ユウト。
君は――」
「空間魔術師ですらない。
“座標干渉者”だ」
(また新しい肩書き増えた……!!)
だが、
リリアは誇らしそうに笑った。
「すごいよ、ユウト。
ちゃんと……使えてる」
胸の奥で、
欠片が静かに、
穏やかに脈打っていた。
(……怖いけど)
(制御できるなら――
前に進める)




