聖フルール学園にて 〜現代版状況説明〜
活動報告より。書籍発売記念リクエスト。
もしも『状況説明〜』の舞台が現代だったら……?
「ロータス様、かっこいいねぇ」
「あらぁ、私はベリス様だなぁ」
「いやいや、カルタム様も忘れちゃダメよ」
「「「「「でも、なんて言ってもサーシス様が一番でしょ!」」」」」
一年A組の教室の窓から外を見ていた女子生徒から『きゃー』と黄色い叫び声があがります。
グラウンドでは次の体育の時間に備えて三年生の男子生徒が姿を現しているのです。今ごろ学年問わずどのクラスでも同じような光景が繰り広げられているでしょう。
窓の外の光景に興味のない私には関係ない話ですけどね。つか、同じ高校生に『様』付けはないでしょ。まったく。
ここは聖フルール学園高等部。程度も高けりゃ学費も高くて有名な超金持ちエリート校です。
この学園には今、アイドルもびっくりな男子生徒が四人もいるのですよ。
まずはロータス先輩。生徒会長をしている文武両道な紳士で有名。ザ・インテリ眼鏡です。
ベリス先輩は同じく生徒会で体育会統括部長(まあ要するに運動部の部長を束ねる人ね)。カルタム先輩は文化会統括部長(同じく文化会を束ねる人)。三人ともに三年生。
そして最も有名人なのが、二年生のサーシス先輩。
学園創始者の一族かなんかで、超お金持ち。もちろん頭脳明晰・運動神経抜群おまけに眉目秀麗ときたらモテないわけがない。美辞麗句のオンパレードなこのお方、通称『学園の王子様』。そこに"いる"だけで女子の人だかりができるという。ちなみに次期生徒会会長が決まってるとか。
興味ないわりによく知ってるなって? そりゃあ教室にいれば嫌でもあの人たちの情報が耳に入ってきますからね! 毎日聞いてりゃさすがに刷りこまれるっての。
「ヴィーは誰がいい?」
窓の外を見ていたアイリスが私に聞いてきましたが、そんなの、私にとっちゃ誰でも同じこと。
「ええ〜? 興味ない」
私は参考書とにらめっこしたまま答えます。次の時間の予習に忙しいんですよ。
「ヴィー……もっと青春を謳歌しようよ」
「私はアイちゃんと違って勉強しないといけないから、そっちに構ってる暇ないんですぅ」
「もう、ヴィーったら」
アイちゃんが可哀想な子を見る目で私を見てきますが、私はそんな色恋に構ってる暇はないんです! うちはアイちゃんや他の皆さんと違ってごく普通のサラリーマン家庭ですからね、ここのお高い学費を払うのがしんどいのですよ。ちなみにアイちゃん家も、かなり有名なお金持ちです。
じゃあなんでお前はこんな分不相応な学校来てるんだって?
それは『優等生は学費免除☆』っていう謳い文句に釣られたからに他なりません!
学年のトップ10に入っていれば学費免除になるというこの素敵システム、食いつかないなんてもったいない!
幸い私は勉強できる方だったので迷わずフルール学園を選んだんですがねぇ……なんかいろいろ失敗したわ。私みたいな超庶民に、こんなセレブ校は合わなかった!!
でも入ってしまったものは仕方ない。こうなりゃ三年間地味〜に隅っこ暮らしで凌ごうって思ってます。あ、ちゃんと成績は取らないといけませんよ? でもトップ3に入ってしまうと成績張り出しとかで目立っちゃうので(各学年トップ3だけ開示、あとはプライバシーに配慮……してるのか??)、これまた地味〜な10〜8位あたりを狙います!
お金もあって頭脳もある恵まれた人たちを押しのけトップ10入りしないといけないので、今日も必死に勉強です。
「ヴィーったら、サーシス先輩の顔すら知らなさそう」
「ん? 知らないよ?」
「やっぱり」
「さすがにロータス先輩たちは知ってるよ」
「そりゃ生徒会だもん、みんなの前に立つ機会が多いからね。ああ、ダメだこりゃ。まだ十六の乙女がなんたる枯れっぷり!!」
アイちゃんが大げさに嘆きますが、そんなの知ったこっちゃないです。別にサーシス先輩の顔を知らなくてもテストに影響ないもんね!
そんな学園生活にも慣れて、そろそろ夏休みに入ろうかという頃。
私は特別教室に行こうと渡り廊下を急いでいました。筆箱を忘れたので教室に取りに戻っていたのです。
『ぎゃ。ふでばこ教室に忘れた〜!』
『ありゃ。私のを貸そうか?』
『まだ時間あるし、取りに戻ってくる。アイちゃんたちは先に行ってて』
『りょーかーい』
私のせいで遅刻したら悪いので、アイちゃんたちには先に行ってもらいました。
「遅れる、急げ〜!」
教室に戻ってふでばこを取り、再び特別教室に向かいます。さすがにもう時間がありません。走りたいのは山々、でも廊下を走ったら先生や風紀委員さんに怒られるので、全速力で早歩きします。
そして渡りきったところで、
どんっ!
死角から現れた人とぶつかってしまいました。
「きゃっ!」
「わっ!」
渡り廊下に響く声。
あっ、こける。
跳ね飛ばされてそのまま転びそうになったところを間一髪、その人に抱きとめられました。抱きとめられた感触から察するに男の人だったのですね! よかった……って、違くて!
「すみません! 急いでいて気がつきませんでした! お怪我はないですか? どこか痛むところは?」
ハッとなって相手に矢継ぎ早に確認したのですが、私を抱きとめてくれていた人は一瞬キョトンとしたのですが、
「全然大丈夫。君こそどこも怪我してない?」
ニコッと爽やかに微笑まれてしまいました。
ナニコノイケメン!!
濃茶のサラサラの髪、濃茶の涼しげな目、スラリとした体躯……っ!
超美形の、キラッキラの笑顔を超至近距離で見せつけられましたよ! 目が、目がぁ〜!!
……って、そんなおふざけしている場合じゃないですね。ほんとに授業に遅れちゃいます!
「私は大丈夫です、本当にすみませんでした! では、授業に遅れてしまいますので」
私は丁寧に謝ってその場を立ち去ろうとしたのですが、
「ああ、待って。君、僕のこと知らない?」
不思議そうな顔で聞いてくる相手さん。え? あなた有名人か何かですか? うちの学校にアイドルばりのイケメンたちはいますが、本物の芸能人はいないはず……多分。
「すみません。私まだ一年生で、学校のことは知らないことが多いもので……」
あんたなんてしらねーよ。とは言えませんからね。
ちょっと語尾を濁しておきました。
すると真面目に私の顔を覗き込んできたイケメンさん。
「ふむ、君、面白いね」
「どこがですか」
周り見てなくてあなたにぶつかったからですか?
いきなり『面白い』と言われてムッとしていい返す私に、
「いやいや、じゃなくて。僕のこと知りもしないし興味もないってところが」
おかしそうにクスッと笑っていうイケメン。何が面白いかさっぱりわかんね〜。
「ソウデスカ」
ああもう、訳のわからん話してる間にも時間は過ぎてくの! 授業に遅れちゃうの!
私は教室に行こうとイケメンの腕の中から脱出を試みたんですが、何を思ったか私に回す腕の力をさらに強くしやがりました。
おいちょっと何すんだと文句を言おうとその綺麗なお顔を睨んだら。
「君、気に入ったよ。どう、僕の彼女のフリしてくれない?」
『今日も天気いいね』くらいのノリでそんなことを言われてしまいました。
「はい?」
「本命の彼女がいないと周りがうるさいんだよ。告ってくるのをいちいち断るのも面倒だし。君なら僕に興味がないから、うるさくつきまとわなさそうでうってつけだ」
「はい?」
今この人何つった?
私に偽カノやれと? どこの誰とも知らないのに……馬鹿じゃね? つ〜か、あんた何様よ?
相変わらずキラキラスマイルでこっちを見てくる超イケメン。ちょ、マジ逃げたいんですけど……。
訳の分からない状況に嫌な汗がだらだら出てきます。もうこれ嫌な予感しかしない。
どうしたもんかと考えていると、
「きゃぁ! サーシス様!! 何してるんですか!?」
という声とともに複数の足音がドカドカドカっとこっちに迫ってくるのがわかりました……って、こいつが噂の『サーシス先輩』かっ!!
どう考えてもマズイよ、この状況。
「うん? 彼女とラブラブしてるだけだよ」
って、ニコって笑って言ってますよこの人。
そういえば私、サーシス先輩に抱きとめられたままでした。つまり傍目からみると抱きしめられてるような状況で。
終わった。何かいろいろ終わった。
またしても響く叫び声。今度は断末魔でしたけど。
この後フェイク彼女だったはずがいつの間にかマジでサーシス先輩に気に入られてしまって、気がつけば外堀埋められていたとか、気がつけば生徒会メンバーにされてたとか、いつの間にかカレンデュラ先輩というお色気ムンムンな美人さん(サーシス先輩の元カノ? 今カノ? ヨクワカリマセン)とサーシス先輩が修羅場ったり、いつの間にか婚約者にされてて卒業と同時に婚姻届出されてたとかいうのはちょっと未来なお話。
『サーシス先輩だけでなく、生徒会メンバーにも溺愛されてるよね、ヴィーは』とはアイちゃんの言。
サーシス先輩はことあるごとに私の教室まで会いに来るし、ロータス先輩や他の諸先輩方も廊下で会うたびに声をかけてくる。庶民の心臓に悪いです。
そんなんだから、夏休み明けには全校生徒で私を知らない人はいなくなってた。(私を知らない生徒はモグリだとまで言われてるという)
「ヴィー! お昼だよ、一緒に食べよう」
「…………はい」
今日も満面の笑みで私の教室まで迎えに来るサーシス先輩。会うたびハグしてチューするのはやめていただきたい!! みんな見てるし!!
隅っこ暮らしするはずだった高校生活、どうしてこうなったし。
誰かこの状況を説明してください!
ありがとうございました(*^ー^*)




