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頬削ぎ亭

それから慌ただしく準備が始まった。

 隠しドックの近辺に潜伏していた徹甲団メンバーを合流させて、食料や物資等を詰め込み出港準備を進めていた。


───


 隠しドックからほど近い町アンギル。砂ぼこりに覆われた街には数多のトレーラーが行き交う交易拠点としての機能があり、多くの人間が出入りしていた。


 買い出しに出て来た俺とユーダンは目についた飯屋に入る。

 大通りはガラガラ、人の居ない店内、交易拠点として栄えてるのは街の西側ばかりで東側は寂れていた。


 入ってみた飯屋もしばらく客が来てないのか、料理人が奥でスマホを読みながらタバコふかしていた。


「しかしバルガよぉ、あのお嬢さんをオリンポスシティに連れて行ってどうにかなるもんかな?」


「ユーダン、十中八九エラーインに捕まってるミタを助けるのに他に手がかりがねぇんだよ。それに徹甲団に掛けられた濡れ衣がある。ちきしょう、あの時、俺達が逃げ出した時にはとっくに戦線は崩壊してたってのによ。」


「それよ、噂なんだがあの大量の巨獣は何かから逃げて来たって話があるんだよ。リーダーらしき個体が居なかったろ?」


 ユーダンの言ったその事には俺も引っかかっていた。多数の死人怪我人を出した大戦闘にも関わらず、一体一体はデカい野生動物だ。普通にやってればあそこまでの狂乱に陥る前に分が悪いと判断したら逃げ出すハズで、それをしなかったという事は“別のもっと恐ろしいナニか”から逃げて来た可能性がある。察しの良い奴は何か違和感を感じてるだろうよ。


「まぁ、辛気臭い話はそろそろヤメにして美味い飯にありつこうぜ!ここの飯は美味いって評判なんだよ。おっちゃん!ここのランチを2人前!」


 ユーダンの言葉にチラリとこっちを見ると面倒くさそうにスマホを置いてダルそうに料理を始める。………大丈夫か?


「何やってんだオトン!お客さん来たらアタシに言ってねって言っといたでしょ!!さぁさお客さんどっから来たの?頬削ぎ亭の名物は砂牛の煮込みだよ。ほっぺたが削げるぐらいうめぇんだ!煮込み定食で良いね?じゃあ今から作るからちょっと待っててよね!」


 12〜3歳ぐらいの少女が飛び出して来てパコォン!とダルそうなおっちゃんをシバくと厨房で料理を始めた。おっちゃんは娘にシバかれた頭をさすりつつ料理の様子を呆然と眺めている。


「なぁ……おっちゃん。余計な御世話かもしれねぇが、アンタどっか調子悪いのか?顔色悪いし一言も喋らねぇし。なんかあったのかよ?」


「アリア、もういい。中に入ってろ。お前らはふらっと入って来た旅人でドルススの手下じゃない。そうだな?」


 いつの間にかカウンターの下からリボルバー銃を取り出して手に握っているおっちゃん。

 その佇まいは料理人というより荒野のガンマンの様で銃を持つ事が当たり前の様だった。


「アンタ達、徹甲団のバルガとユーダン……だな?アンタ達に一つ頼みがある。こんな“エモノ”を下げて交渉だなんてナメてるのかと思うだろうが、こっちも余裕が無いんだカンベンしてくれ。」


 銃を手の中でガンスピンさせつつ左手でスマホの画面を操作する。

 何やら連絡している?だが相手は銃持ってやがる。こっちも持っちゃいるが、懐に手を伸ばした時点でズドンだなこりゃ


「アンタら徹甲団は猟兵団なんだろ?向こう側の影響でおかしくなったケモノをマトにかけてるトラクター乗り。アンタらに依頼がある。この街の支配者、ドルススが飼ってる魔獣バゾラを退治してくれ。金はねぇがお前らは下衆じゃ無さそうだしアリアを連れてってくれて構わねぇ。どうだ?」


「どうだ?………ってったってな、おっちゃん自分が何言ってるか分かってんのか?自分の娘を今見かけただけのゴロツキに売ろうってのか?徹甲団は託児所じゃねぇんだぞ!」



 ガハハ、と始めておっちゃんは笑った。


「ジャックだ。なおさらテメェらに娘を預ける。この街はクソだし、仕切ってるドルススはクズだ。俺の妻も街を歩いてた所を見かけたドルススが強引に奪って行った。そして逆らった奴はペットのバゾラの腹の中。どうだ、最高だろ?依頼の理由より、魔獣の事より娘の心配を先にしてきたお人好しのガキだがアイツらにくらべたら百倍“マシ”だからな。なんなら娘だけ連れて逃げてくれ」


「オトンのアホ!アタシまで居なくなったらオトン一人でどうするつもりなのさ!」


 物陰から飛び出てきたアリアがジャックの足にしがみつく。今にも泣きそうな顔をしながら。

 ジャックはアリアの質問には答えずにガンスピンをクルクルと続けていた。


「なぁ、あの船にコックって居たっけ?」


「カワサキはまだ合流してない。アイツは湿地帯の方に逃げたらしいからな。」


「よし、ジャックさんガキ泣かしてまで大人のつまらん意地を張っても仕方ないだろ。娘?報酬?ンなもん無くてもやってやるよ。どうせおたずねものだ。」


「なんならエラーインとのやりとりとか見つかればアイツを失脚させる材料になるかもだしな」


「そりゃ良いや!じゃあ腹ごしらえしたら早速行ってくるよ。」


 既に出来ていたスープを受け取り呆気に取られてる2人を尻目にガツガツと頂いた。

 

 


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