1話 脱走
「なにやってんだよミタァ!!」
俺を庇う様にして目の前に立ち尽くす、もう元の形が分からない程にズタズタにされたトラクター。
コクピットを貫く巨獣の爪が赤く染まる。
「バルガ………次は何をすれば良い……?」
「もういい!喋るな!すぐに病院に連れて行ってやる!あんな奴らの為に死ぬ事なんてねぇんだ!」
ギシリ、と軋むトラクターのペダルを蹴り込むとミタのトラクターを引き裂いたクマの巨獣の脳天に斧を突き立てる。だがすぐに2体目3体目とクマやイノシシの巨獣が大挙して俺達を押し流そうと押し寄せる。
通信機からはひっきりなしに怒声と悲鳴が鳴り響き、ついカッとなって叩き壊してしまった。
いつかこうなるから早めに手を打とうと何度も何度もアイツらに打診したのにいつまで経っても目先の利益の為に取り合わないせいで、ついに起きてしまった大惨事。
誰が責任を取るのか!って叫んでたアイツ、お前が責任者じゃねぇのか!と怒鳴り込んで行きたい気持ちをグッと堪えてミタのトラクターからミタを取り出す。
致命傷は避けられたが、脇腹がゴッソリ抉れていた。
「なんだ、大した事ねぇじゃねぇか。こんな傷すぐ治る。ズラかるぞ」
「ダメだよバルガ。こんなに巨獣がいる。僕らが退治しなきゃ……」
「ンなもんたまにはEXPの連中にやらせろよ。俺達は十分巨獣をブチ殺した。今までゲートの向こう側が「美味しい」からって自分達の足元を見てなかった連中だ。たまには自分の尻を拭かせりゃ良いんだ」
出来るだけ傷を意識しない様に軽口を叩きながら俺のトラクターのサブシートにミカを固定する。
「アイツらの中を駆け抜ける。ちょっと揺れるぞ!」
もうここを抜けられるならブッ壊れても良い!だからありったけのエネルギーを足に回す!
足の裏のホイールが唸りをあげてトラクターを前に前に押し出す。
間に合え!
間に合え……!
間に合え……ッ!
前から土煙を上げながらクレーン車が走って来る。
「乗れ!通信機ぶっ壊したバカに死にかけのバカ!」
「ユーダン!」
「他にも何人かがコッチに来てる。一番やべぇ所をお前達2人に押し付けてたんだ。他の奴らが物足りないって騒いでてな!良いから乗れ!」
装甲武装クレーン車に飛び乗り、近寄って来る巨獣をシバきながら逃走をした。
─────
「敵前逃亡ゥ?!エラーイン県知事さんよ、いつから俺達は軍隊になったんだよ!」
「作戦に同意した時点で君たち徹甲団は我々の指揮下にあったハズだ。それを独断で持ち場から離れ、和を乱し、多数の死傷者を出した。申し開きはあるか?」
「なんだと?アンタ達の指揮下に入った覚えは無いし、俺達が突っ込んだのはその指揮が総崩れになってからだぞ!あそこで俺達が踏ん張らなきゃあもっと死んでいた!」
「集団行動の出来ない山猿どもが。政治というものを分かって無い様だな」
嵌めたな…ッ?
自分のメンツを守る為に、俺達に濡れ衣を着せるつもりか?
心底軽蔑した様な目で俺を見下ろすエラーイン県知事。コレで下卑た顔でニタニタしてたらまだ分かりやすいんだが、コイツ本気で俺達が余計な事をしたと思ってやがる!
元はといえば「向こう側」しか知らないEXPどもに魔法の使えないこっちの戦い方をちゃんと仕込んでおかなかったお前達の不手際だろ!!!
EXPども!アイツらもアイツらだ。ロボに乗って魔法が使える上に動画配信で人気者になれると舞い上がって、楽しい部分だけを享受しようとしやがる。ムシが良いとは思わねぇのかよ!
「捕らえろ!」
「離せ!俺はお前らに手錠を掛けられる様な事は何もしちゃ居ない!」
「お前らのせいで何人も死んだんだぞ!」
「こっち側にいる間は魔法を使えない様にするセーフティ、それを解除すりゃ良かったじゃねぇか!流れ弾の責任取るのが怖くて若者を死なせてりゃあ世話ないぜ!」
「貴様ァ!」
「バルガ!仲間達が次々と県警どもに追い回されてる!クマやイノシシにはいくら言っても手を貸さなかったクセに!!一端逃げるぞ!」
会議室に響く拡声器の声、俺は窓を突き破りユーダンのクレーン車のクレーンに掴まる。
「荷台にお前のトラクターがある。乗れ!」
クレーン車がバリケードを突き破り警察仕様のトラクター、パトラクターをなぎ倒す。俺も荷台から斧を振り回してクレーン車が突破出来る様にする。
「おのれ労働者だと思ってつけあがりやがって!往生せいやぁぁ!」
マジかあのパトラクター!ハンドカノン撃って来やがった!
「掴まってろ!スモーク焚くぞ!」
俺とユーダンはパトラクターでものものしくなっている県庁から脱出を図った。
ここから逃亡者として終わるつもりは無い……必ず俺達を嵌めようとしたツケを払わせてやる!!




