第三十五話 「作戦」
「実は僕も今日のために、作戦を考えたり、助っ人を呼んだりと準備してきたんだ。今の初菜ちゃんと鉄也君の強さなら、引き際さえ見誤らなければ、アバターを破壊されることはないと思う。駄目でもともとぐらいの気持ちでやってみない?」
「助っ人? おっさん、やるじゃねえか。で、誰が来てくれるんだ?」
俺は初菜の返事を待たない。話を進めてしまえ。あとは勢いで押し切る。
「流架君だよ。彼、今や名の知れたガンナー戦闘医だからね。あと、レガルのチームにも頼んだんだけど、無理って言われた。世界最高のチームは忙しいし、予約制だから。僕たちだけ特別扱いは許されないって」
「正論だな。でも、流架がいれば何とかなるだろう。おっさん、作戦も考えたって言ってたけど?」
「説明するよ。白血病魔には回復機能がある。だから無闇に攻撃しても意味がない。では、どうすればいいか? 核を狙うんだ。核さえつ――」
「先生、待ってください。勝手に話を進めないで」
初菜がおっさんを睨む。おっさんは「ひい」と女みたいな声を出した。
「まだ何か文句があるのか?」
初菜は視線をおっさんから俺へと移した。敵を見るような目つきだ。
「私にだって作戦があるわ」
「え?」
反対されるとばかり思っていたから、素っ頓狂な声が出た。
「だから、私は私でどうやって倒すか、ずっと考えてきたの。まず私の作戦を聞きなさい。それから、丸井先生の作戦に私の作戦を組み込む方向でいきましょう」
「じゃあ、つまり」
「仕方ないでしょ。もう私が折れるしかないじゃない。あなた、私が思っている以上に馬鹿だったんだから。ここまで話が通じないとは思ってなかった」
「話が通じないのはお前の方だろうが」
初菜と俺は例のごとく睨み合う。おっさんが咳払いをして、初菜に作戦の説明を促した。
「作戦と言っても、単純なものよ。要は、白血病魔の核を数珠丸恒次で斬るだけ。これで確実に殺せる」
「どうして数珠丸を使うんだ?」
「核自体にも再生機能があるんだ」
俺が殴って破壊しても、核は再生するから無意味というわけか。ならば、とどめは初菜任せになる。
「じゃあ、俺は初菜が一太刀浴びせるだけの隙を作ればいいのか」
「そうだね。二人の援護は流架君が担当する。陣形は、後衛が流架君、前衛が鉄也君と初菜ちゃんだ。さて、ここから僕の作戦を付け足す。白血病魔の核は、輪郭以外が無色透明で見えずらいんだ。だから、初めに染色液でマーキングする」
「どうやって?」
「流架君にやってもらう。染色液入りの弾丸を核に打ち込む」
マーキング弾というらしい。
「それだけ?」
「それだけ」
俺たちは顔を見合わせる。作戦、しょぼくねえかな。俺は首を振り、頬を叩く。
「よし。行くぞ」
不安を感じている場合じゃない。どうせ予想外のことがいくらでも起こるに決まっているのだ。ならば、作戦がしょぼくても、むしろ問題ない。
俺と初菜はその場でヘルメットを装着した。電脳空間に行くと、緑の草原に流架が立っていた。上着はミリタリージャケット、下はやけにポケットの多いズボンだ。
初菜はいつも通り着物だ。白を基調としたもので、柄は朝顔。俺は前ボタンを外した状態で学ランを着ている。こんな姿をした三人が集まって話をするなど、現実ではあり得ないだろう。
流架に作戦の変更点、ラスト、初菜が数珠丸でとどめを刺すことだけ伝える。
「僕のすべきことは変わりませんね」
「ああ。核の染色と援護射撃よろしく頼む」
「二人とも分かってると思うけど、私が命じたら、即時離脱すること。いいわね」
実際、デザートするかはその場になってみないと分からないが、今はうなずいておく。
「じゃあ、白血病魔を輸送するよ」
現実世界からおっさんの声がした。
前方二十メートル先に黒い穴が現れ、中からアメーバが出てきた。大きさは人間一人分ぐらい。流架が後方へ下がる。俺と初菜は武器を装備し、左右から攻める。




