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第十一話 戦争の下準備

 魔法帝国との戦争の前夜、ハルは夜の森を歩いていた。戦争開始まで後十二時間に迫っていた。


「さてさて、仕込みをしますかね。くっくっくっ……魔法帝国の奴ら、俺を敵に回したことを後悔するがいい、くっくっくっ……」


 俺は戦争時に戦場のなる予定の夜の森を歩きながら一人で薄ら笑いを浮かべた。正直な所、この戦争あのフォーザ・アマルアとかいう看守のおっさんは不利だの負ける確率の方が高いだの言っていたが、俺からすれば笑止! 負ける未来が全く見えん。そもそも、俺とリンの二人いれば大体のことは何とかなる。まあ、正直楽勝としか思えない。


 俺が楽観的にそんなことを考えていたら俺の数歩後ろの方からおどおどした声がこちらに問い掛けてきていた。


「あの……ハルさん、これは一体何をしているのでしょうか……?」


 俺は仕掛けをしながら返事をした。


「これはな、まあちょっとした花火というかまあ火遊びというかまあ嫌がらせというやつだな。連中せいぜい驚き慄くがいい……それより――」


 俺は振り返り声の主の方を向いた。


「お前は寝なくていいのか、ジャム?」


 俺に付いてきたジャムは全身を覆うローブを羽織っておりフード部分を深く被っている。


「僕は大丈夫です。普段からそんなに寝ないので」


「……お前さ、本当に女?」


 俺はジャムに一歩近づいてフードの中を覗き込もうとした。が、顔の方は良く見えない。


「な、なんですか急に! 僕は女です。そりゃ、顔は可愛くありませんし、胸は小さいですけど女ですよ」


「へええ、もう一回顔を見せてみろよ」


 俺はジャムのフードに手を掛け、脱がした。


 中から、中性的な整った顔が現れた。よく見れば紅潮していて、なにやら恥ずかしがっているようだ。よく見れば、確かに女っぽい顔つきというか柔らかさがあるようにも思う。ジャムがあと五年早く生まれてれば……。


「ふむ……守備範囲外だな」


「なんですかその”シュビハンイガイ”って言うのは……」


「気にするな。お前はまだまだチビということだ」


「なんか馬鹿にされてるのだけは分かります……」


 ジャムはむっとしてまた再びフードを被ってしまい、またしても顔が見えなくなった。仕方ないので、仕込みを再開することにした。


 俺はそこら中に穴を掘っては錬金術の視覚を施していく。大抵は特殊な液体を紙に湿らせ、土の中に埋めていく作業だ。これでほぼ地雷の完成。効果内容はまあ実際に起爆してからのお楽しみにしてほしい。そして、そういった作業を一時間は繰り返していた。結構な範囲に仕掛けを施してある。もう少し仕掛ければこちらは十分だろう。こちらはな。また別エリアは俺の師匠が仕掛けてくれているだろう。あっちはまた別種の仕掛けだが、まあそれも後々説明しよう。


 そしてほぼほぼ仕掛けが終わり、ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「なあ、ジャム」


「なんでしょうか?」


「フォーザの言ってたオクトオリジンってなんのことだ? お前のことなんだろ?」


 そう聞くと、ジャムは一瞬言葉に詰まったのが分かった。口は見えないが。しかし、すぐに説明を始めた。


原点の魔法使い(オクト・オリジン)、まあ私の肩書きです。世界に八人いる魔法の始祖の血筋を持つ人のことです」


 は? ん? 意味分からん。


「日本語でおーけー」


「”ニホンゴ”というの分かりませんが説明を続けます」


 ジャムは俺に一歩近づいてきた。


「この世界の魔法というのは遥か昔、発生は今から千年前と言われています。その時、八人の魔法使いが魔法を生み出したと言われ、そこから時間と共に世界に魔法が普及していきました。さらに魔法は補助系魔法と攻撃系魔法の二種に大別でき、人は必ずどちらかに才能を持っていて、両方を扱うことは出来ません」


「そしてその八人の魔法使いの血を受け継いでいるのが私達、原点の魔法使い(オクト・オリジン)なのです」


 更にもう一歩近づく。近い近い。


「そして、魔法使いの始祖の血を受け継いでいる原点の魔法使い(わたしたち)はこの世に存在するありとあらゆる魔法を使える素質を持っています。補助系魔法も、攻撃系魔法も全てです」


 俺はジャムの説明に一つ違和感を覚えた。いや、正確には全部で二つ……いや三つだった。とにかく、一つ一つ聞いていくことにする。


「聞きたいことが三つあるんだがいいか?」


「なんでしょう?」


 ジャムはすんなりと聞き返してくれた。


「まずお前、俺と戦った時に補助系魔法は苦手って言ってなかったか?」


 先日の演習を思い返していた。あの時は間違いなく、補助系魔法は苦手と言っていたはずだ。もしかして嘘だったのか? ならばおれは騙されたということになる。こいつめ……。


「苦手ですね。あくまで私の中で攻撃(・・・・・・)系魔法よりかは(・・・・・・・)ですけど。一般的な補助系魔法使いよりかは遥かに使い手であると自負はしています。はいそういうことです」


「物は言いようだな……」


 俺は深く溜め息をついた。この少女は意外に策士なのかもしれないな。これは策士というほどのもんでもないとは思うが。気持ちを切り替えて質問を続けることにする。


「さっき、原点の魔法使い(オクト・オリジン)は補助系も攻撃系も全ての魔法が使える”素質がある”って言ったな? なんで素直に”使える”と言わないで素質があるなんて言い回しをしているんだ?」


「それはですね。あくまで才能の上では全ての魔法を使えます。ですが必ずしも全ての魔法を使えるわけではないのです。原点の魔法使い(オクト・オリジン)というのは特別才能が人よりあるのみで実際は完璧超人というわけではないのです。普通の人と同じように修行などをしないと魔法なんて使いこなせるようにはなりません。単純にそれだけの話です」


「なるほどな。で、お前はどれくらい使えるんだ?」


「現段階でもおおよそ九割以上は扱えるかと一部の上級な魔法はまだこれから覚えるといった段階です。それらはこの世界でも扱える人の殆どいない上級な魔法ですので……中々習得まで行かないのが現状です」


「それだけ高性能なのに俺との演習ではあっさり負けたよな」


 俺は敢えてジャムの顔を覗き込むようにして挑発してみた。だが、ジャムは身動き一つ変えずに答えてきた。フードの中から真っ直ぐ見つめられているような感覚になった。


「錬金術というものがどういったものなのか理解していませんでしたので。初見の対応が苦手なのが私の弱点でもあります。ですが、一度見ました(・・・・・・)。もう負けません。ですが、いまだに不思議ですね」


「何がだ?」


 俺はよく分からず素直に聞き返す。


「ハルさんやリンさんの扱うその”錬金術”というものがです。魔法とは明らかに性質が似ている……はず。ですが、構造がまるで分らない。本来、ありとあらゆる魔法が扱える原点の魔法使い(オクト・オリジン)の私ですら錬金術というものを扱えるようになるとは思えないのが実際のところです。錬金術などというものは過去この世界の歴史では記録に残る限り一度も確認されたことはありません」


「演習の時に言いましたよね? 『お兄さんは少し違う』って。正直、ハルさんやリンさんには違和感がありました。ここ何日か考えていたのですが、結論が出ませんので質問させてください」


 ジャムはフードを再び脱ぎ、顔を露わにしてから俺にぐいと近づき背を伸ばして俺の顔を合わせてきた。まあ、聞いてくる内容はおおよそ察しが付くが俺は敢えて平静を装うために質問を促した。


「な、なんだよ?」


 声がうわずったが気にしない。ジャムの鋭い目付きが怖い整った顔付きから飛んできて怖い……。


「あなた達、この世界とは別の世界の人ですね?」


「なんのこっちゃ」


 俺はとぼけた。まあほとんど意味はないだろうが悪あがきくらいはさせてくれ。


「あなた達は異世界から何かしらの方法を使ってこの世界にやってきましたね? 錬金術もその世界での技術でしょう? 違いますか?」


 うっ……。まあ隠しておかなきゃいけないような内容でもない。かといってぺらぺら喋っていい内容でもないのだが、こう追及されてははぐらかしても意味はないだろう。汗を掻きながら、視線を二転三転させてから溜息を付き、ジャムの顔を見た。


「ああそうだよ。俺とリンはこの世界の人間じゃない。錬金術も元居た世界の技術だ。だが生憎とこの世界に来たくて来たわけじゃない。突発的な謎の事故で偶然この世界に辿り着いた。原因もはっきりしてないし方法も分からないから帰り方も分からない状態だ」


「そうですか…………」


 ジャムが沈黙する。そして、俺に背を向けて歩き出していった。途中、フードを被りながら俺に言葉を投げた。


「分かりました。このことは内緒にしておきましょう。しばらくは心の中に留めておくことにします。その方がハルさん達も都合がいいんじゃないですか?」


「まあ、黙っててくれるならありがたいが何故だ? アルマ・クリートには報告したりとかしないのか? 自分で言うのはなんだが俺らものすごい身元不明の不審者だぞ?」


 俺は後ろから距離を一定に保ちながらジャムの後ろについてく。


「別にしません。あなた方が異世界人かどうかはこの戦争に対してさして問題ではありませんし、相手方ではないのならそれで構わないでしょう。それに異世界の事は少なくとも私は興味はありませんので。ですのでこのことは言及しません。ところで?」


「ん? なんだ?」


「その仕掛けというのはいいのですか? 私についてきていますが。私はもう明日に備えて寝ますので城に向かうところですよ? 私は明日大忙しとなると思いますので」


「ああ、それは問題ない。もうあらかた準備を終えた。俺も寝たいから寝るわ。一緒に戻ろうぜ」


 俺は一つ大きな欠伸をしながら小走りでジャムの隣に歩き並ぶ。


「ちょっと、距離取ってくれませんか? 演習の時みたいにセクハラされたら敵いません。今は夜ですし」


 このガキは何を言っているんだ。あれは事故だしそもそも守備範囲外だっての、このお子様め。


「お前みたいなガキは守備範囲外だ」


 そう言ってやると、今度はジャムの方が必死に抗議してきた。……ような気がする。


「あ! またその”シュビハンイガイ”ですか! なんとなく意味が分かってきました! 全く、酷いこと言わないでください! 僕だって後二年もすれば立派な女性になる予定なんです!」


「けっけっけっ、それならまずは一人称から変えるんだな。今の時代、僕っ子は流行らねえぞ?」


 俺はにやりと笑い、煽るようにジャムの顔を見る。フードに隠れて顔は見えないが。


「本当に酷いです! これは生まれた時からこうなんです! 別に取ってつけたわけじゃないんです! もう知りません!」


 ジャムの歩く速度が上がった。それに合わせて俺も歩く速度を上げる。彼女は必死に早く歩いているようだが、さすがにまだまだ子供だ、俺はゆったりと付いていける。


 結局、煽りあいをしながら歩いて城まで帰っていった。その間、二人の土を踏み抜く音だけが誰にも聞かれることなく静かにこだましていた。

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