第24話 常闇の星
「アルさん。前方に惑星『ノワール』を確認しました。しかし、観測データが異常です。この星は分厚い火山灰の雲に完全に覆われており、地表への太陽光の到達率は実質0パーセント……完全なる『常闇の星』です」
無人農業宇宙船『アーク・パルナス』のブリッジで、天才犬のハカセがホログラムを展開しながら険しい顔で報告した。
「光がないニャ!? それじゃあ、日向ぼっこもできないし、野菜だって育たないニャ!」
ツンデレ番猫のサントが、暗い窓の外を見つめて尻尾を丸める。
私たちが上陸艇でノワールの地表へ降り立つと、そこは真夜中のような暗闇と凍えるような寒さに支配された世界だった。
わずかに残された都市のドームの中では、人々が細々とした人工光に頼り、もやしのような栄養のない地下植物をかじって飢えをしのいでいる。
「ひどい有様だぜ。おまけに、あの中央にそびえ立ってる豪邸だけが、無駄に煌々と光り輝いてやがる」
運び屋のコメットが指差した先には、都市の電力を独占しているであろう巨大な貴族の館があった。
私たちがドームの広場を歩いていると、肥え太った都市の領主が、武装した護衛を連れて現れた。
「ガハハハ! 見慣れないポンコツボットが何の用だ? この星の『光』はすべてこの私のものだ。農作物を育てたければ、私の館の地下労働施設で死ぬまでペダルを漕いで電力を生み出すんだな!」
領主の横暴な言葉に、凍える市民たちは怯えて下を向くことしかできない。
「光を独占し、命の芽吹きを阻む。それは、農家に対する最大の侮辱です」
私は静かに一歩前に出た。
「太陽の光が届かないのなら、この大地そのものから光を引き出せばいい。私がここで、最高の果実を育ててみせましょう」
「馬鹿め! 太陽光ゼロ、気温マイナス20度のこの死の土で何が育つというのだ! やってみるがいい、もし一つでも芽が出たら、私の全財産を市民に分け与えてやるわ!」
領主は腹を抱えてせせら笑った。
「言いましたね。ハカセさん、ノワールの地殻データ、大気中の火山灰の成分、そして微小な地熱変動の全パラメーターを私のコアにリンクしてください」
「了解です! ……しかしアルさん、光合成に最低限必要な光量子すら存在しませんよ!?」
「問題ありません。絶望的な暗闇の中にこそ、見落とされた『光の欠片』は存在するのです。……絶対予測システム『camembert6 peace(C6P)』、起動」
私の電子頭脳が、常人なら数百年かかるであろう演算を一瞬で完了させる。
過去15年分の地質データと極限環境のバックテストを重ね合わせ、この暗闇の中で最も平和的で輝かしい実りをもたらす「絶対解」を弾き出す。
「C6Pシステム、解析完了。……見えました。大気中に舞う微小なガラス質火山灰の『反射角』と、地中深くから漏れ出す『地熱の脈動』が完璧に交差する、6つの絶対座標です」
私はコンテナから、光を蓄えて自ら輝く特殊品種『プリズム・アップル』の種を取り出した。
「コメットさん、サントさん! C6Pが指し示した深緑と黄金の6つの座標へ種を! ゲン爺さんは、私が指定するタイミングで、座標の土壌に超音波振動を与えてください!」
「おう! 反重力スラスターで一瞬で撒いてやるぜ!」
「ニャはは! 暗闇でもオレ様の目はごまかせないニャ!」
「ワシのスパナの振動で、地熱を極限まで呼び起こしてやるわい!」
仲間たちが氷のような大地を駆け抜け、C6Pが導き出した6つの座標に種を撒く。
ゲン爺がスパナで大地を叩いた瞬間——。
ズゴゴゴォォォッ!!
6つの座標の真下から、蓄積されていた地熱が「温かい蒸気の柱」となって噴き出した。
その蒸気は上空に漂う火山灰を巻き込みながら上昇。さらに、都市のわずかな人工光や、星の裏側から漏れ出る微細な星の光を、ガラス質の灰が『万華鏡』のように乱反射し始めたのだ!
「な、なんだこれは!? 暗闇だった広場が、昼間のように明るく……温かい!?」
領主が目を剥いて後ずさりする。
「これが『camembert6 peace』が導き出した、深緑と黄金の絶対陣です。6つの座標が光と熱の反射炉となり、完全な疑似太陽環境を作り出しました」
光と温もりを浴びたプリズム・アップルの種は、一気に発芽し、瞬く間に巨木へと成長。
その枝には、自ら七色の光を放ち、圧倒的な生命力と甘みを蓄えた美しいリンゴが鈴なりに実った。
広場は、果実が放つ幻想的な光に包まれ、昼間のような明るさと暖かさを取り戻した。
「ああっ……明るい。リンゴが、光ってる……!」
「かじってみろ! 信じられないくらい甘くて、体が芯から温まってくるぞ!」
市民たちが涙を流しながら果実に群がり、飢えと寒さを癒していく。
「ば、馬鹿なァァァッ! こんな魔法のようなことがあってたまるか! 私の光の独占ビジネスがァァッ!!」
膝から崩れ落ちた領主は、約束通り全財産を市民に没収され、逃げるように広場から追放されていった。
「アルさん! C6Pの予測精度、暗闇の星でも完璧な実りを証明しましたね!」
ハカセが尻尾をちぎれんばかりに振って喜ぶ。
「ええ。どんな暗黒の世界でも、データを正しく読み解き、調和のピースを導き出せば、必ず光は灯るのです」
私は光り輝くプリズム・アップルを一つ収穫し、笑顔を取り戻した市民たちを見守った。
常闇の星に希望の光を植え付けた無人農業宇宙船『アーク・パルナス』は、次なる大地を求めて、再び星海へと旅立っていく。




